アイのままに、ワガママに~名探偵は一家団欒を望む~   作:サニキ リオ

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第39話 ただ正しい形に戻るだけ

 顔も良くて家庭的な公務員の女性として見れば、確かにディアナが嫁というのは羨ましいだろう。いや、嫁じゃないけど。

 

「アイちゃんが心配してたわよ」

「そいつは悪かったな。だが、今日は飲みたい気分なんだ。だから俺はまだ帰らない」

「子供じゃないんだからダダこねないでよ」

「だったら、こうしてはいかがですか?」

 

 俺達のやり取りを見かねたのか、エリィが提案を持ちかけてきた。

 

「二人でダーツ勝負をして、ライアンさんが勝ったらディアナさんが一杯付き合う。ディアナさんが勝ったらライアンさんは大人しく帰る。これでどうですか?」

「えっ、あたしダーツなんてやったことないわよ」

「よし! 乗った!」

 

 ディアナはダーツ未経験者だ。となれば、酔っていても俺が負けることはない。

 しかし、俺が声を上げた途端にエリィはニヤリと笑ってわざとらしく言った。

 

「あー、しまったー。ディアナさんは両手に火傷を負っていたんでしたー。これではフェアじゃありませんねー」

「おい、エリィ?」

「そうだー、代わりに私が投げればフェアじゃないですかー。これは名案ですねー」

「ちょ、それはズルイだろ!」

 

 嵌められたことに気づいた俺は抗議の声を上げるが、エリィは既にダーツ台にコインを入れてゲームを始めてしまった。

 

「えっ、何? エリィさん強いの?」

「まあまあ、ディアナさん。見れりゃわかるさ」

 

 周囲の飲み仲間がニヤニヤと笑いながら見守る中、エリィはダーツを構えて素早く投擲する。

 

「シッ……!」

 

 エリィの投擲したダーツは寸分の狂いもなく、三本とも二十点のトリプルの位置に突き刺さった。

 

「二十トリを三回とか、容赦なさ過ぎだろ!」

「ライアンさんはもっと家庭を大切にするべきです」

 

 悪戯っぽく笑うエリィの笑みから圧を感じる。

 どうやら俺がアイとディアナ放って飲み明かしていることに少し怒っていたようだ。

 

 結局、圧倒的な点差で俺はエリィに敗北して大人しく帰ることになってしまった。

 ディアナに肩を借りて階段を上り、事務所に入る。

 ソファーに腰掛けると、間髪入れずにディアナが水を持ってきてくれた。

 

「まったく、飲み過ぎよ」

「悪かったな……」

「お父さんのこと、やっぱりショックなの?」

 

 ディアナは言いづらそうに親父のことを聞いてくる。

 

「ショック? っは、あのクソ親父が根っからの悪党だってことは昔から知ってたさ。今更ショックなんて受けねぇよ」

 

 むしろ、懸念していたことが片付きそうで安堵していたくらいである。

 

「じゃあ、何で荒れてたのよ」

「それは……」

 

 これからのことを考えて憂鬱な気分になっていた。

 それを素直に告げるのも憚られたため、話を逸らす。

 

「お前はどうなんだよ。親父のファンだったんだろ?」

「ええ、ショックよ。でも、落ち込んでる暇はないわ」

 

 ディアナは先日の様子が嘘のように立ち直っていた。

 こんなメンタルしてるから、ベオウルフに逃げられっぱなしでも部署の移動を申し出たりしないのだろう。

 

「ディアナは強いな」

「そんなことないわよ」

 

 ディアナは苦笑すると、脱力したように俺の横に腰掛けた。

 

「あたしってホント無力よねー。刑事なのに、この街に蔓延る闇がどんだけ深いかなんてまるで知らなかった」

「それだけ犯罪者達が狡猾なのがこの街だ。ベテランの刑事でもない限り知らなくて当然だっての」

 

 ベテラン刑事のアレク警部でさえ、裏社会のことなどさわり程度にしか知らないはずだ。

 キャリア組で警察官になったディアナが、ほとんど何も知らないのも無理はない。

 

「ディアナ、お前これからどうするんだ?」

 

 ディアナは元々ベオウルフの正体を調べるために俺の元にやってきた。

 しかし、親父が消えた今、彼女が俺の元にいる必要はないだろう。

 

「何も考えてなかったわ。そろそろ有給も終わるし、いつもの刑事生活に戻ることにはなると思う」

「そうか。それじゃ、もう少ししたらお別れだな」

「難事件が起きたときくらいは協力してよね?」

「ああ、そのときはまた探偵事務所に来てくれ」

 

 これでディアナともお別れだ。

 アイは寂しがるだろうが、元々ディアナが家にいることがおかしかったのだ。

 

 ただ正しい形に戻るだけだというのに、俺はどこか寂しさを覚えていた。

 

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