アイのままに、ワガママに~名探偵は一家団欒を望む~   作:サニキ リオ

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第43話 黄泉の境界地点

 特別禁止区域。

 かつて貧民街だったその場所は、現在一般人が立ち入りを禁止されている場所だ。

 そんな誰も寄りつかない場所の近くまで俺とディアナはやってきていた。

 

「警察手帳と拳銃、手錠は置いてきたか?」

「言われたとおり今日は丸腰よ」

 

 ディアナは両手を上げて自分が武装をしていないアピールをしてくる。

 一見頭が固そう見えて意外と柔軟なディアナのことだ。確認せずとも言いつけはきちんと守ってくれているだろう。

 

「いいか、俺達がこれから行く場所は後ろ暗い経歴を持つ連中の巣窟だ。相手のことは詮索せずに、自分達のことも話さない。これは絶対に守れ」

「ええ、わかったわ」

 

 ディアナは緊張した様子で頷いた。

 正直なところ、ディアナと出会ったときはまさかこんなことになるとは思ってもみなかった。

 怪盗ベオウルフの正体を知っていた俺としては、彼女の依頼は厄介の種でしかなかった。

 

 アイの手前、依頼を引き受けたはいいが、どうディアナに諦めてもらうかばかりを考えていたのだ。

 それが因縁のある犯罪組織の調査まで発展してしまった。まったく頭が痛い話だ。

 

「それで、これからどこへ行くの?」

「この辺に古びた質屋がある。そこの店主が繋ぎ役だ」

「その質屋の地下に秘密のトンネルがあったりしない?」

「赤毛連盟かよ」

「よくわかったわね。何かライアン見てると思い浮かぶのよね」

 

 ディアナは有名な推理小説に出てくるストーリーを口にする。前から思っていたが、こいつかなりのミステリー小説好きなのではないだろうか。

 

「でも、ほとんど正解だ」

「え?」

「俺達が行く場所は文字通りのアンダーグラウンドだからな」

 

 裏社会に住まう者達の巣窟。そこはまさに表の手が届くことはない犯罪者達のテーマパークのような場所だ。

 その入り口の一つがこの寂れた質屋〝サーベラス〟だ。

 

「これから店に入る。そのときにこの仮面を着けろ」

 

 俺はディアナにあらかじめ用意しておいた仮面を渡して続ける。

 

「それからこの先本名で呼ぶのはご法度だ。俺は〝ドライ〟って名前で通ってる。ディアナも偽名を名乗ってくれ」

「偽名ってどういうのがいいのかしら?」

「〝ブレッド〟とかいいんじゃないか。ピッタリだと思うぞ」

 

 正直、偽名なんて何でもいい。ただ呼ぶときに呼びやすい名前の方が俺も楽だ。

 

「ブレッドって弾丸よね。どうしてあたしにピッタリなの?」

「お前はベオウルフ絡みだと弾丸みたいに真っ直ぐ飛んでいくからな」

「……それって褒めてる?」

「さてな」

 

 はぐらかすように俺は肩をすくめた。

 ディアナは少し不服そうな顔をしたが、すぐに気を取り直して俺の指示に従った。

 そして、俺達はサーベラスに入るとカウンターにいた店員に声をかけた。

 客がいないことを確認してから、カウンターにいる男に向かって声をかける。

 

「いらっしゃいませ」

「この店にお菓子はあるか?」

「申し訳ございません。当店では扱っておりません」

 

 このやり取りも何度目になるだろうか。

 

「もう一度聞く。本当にないのか?」

「ええ、ございません。その代わりと言っては何ですが、ランタンはいかがでしょうか?」

「ああ、ちょうど欲しかったんだ」

 

 俺の言葉を聞いた店員は目を細めると、無言で店の奥に続く扉へ向かう。

 俺もその後へと続く。

 

「では、ごゆっくり」

 

 俺とディアナが扉を潜ると、店主は静かにそう告げて扉を閉めた。

 

「さっきのやり取りは何なの?」

「特に意味はない。ただの合言葉だ」

 

 ディアナと話しながら階段を下りる。

 足下に気をつけながらも長い階段を下りると、しっかりとした装飾が施された扉が見えてきた。

 

「ここから先は仮面の着用が必須だ。外れないようにしっかり付けておけよ」

「わかったわ」

 

 俺達は仮面を着けると、ゆっくりと扉を開いた。

 

「地下にこんな場所が……」

 

 扉の先の景色を見たことでディアナは息を呑む。

 俺達の目の前には、ネオンが輝く歓楽街が広がっていた。

 

「ここは特別禁止区域の地下に存在する〝黄泉の境界地点(セファ・シェオル)〟。法の手が届かない犯罪者の巣窟だ」

 

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