お嬢とのゲーセン遊びは熾烈を極めた。
「てぃっ!」
「20kgって……へなちょこ過ぎっスよ……」
パンチングマシンで遊んだり……
「ブルー免許の実力、見せてあげる」
「お嬢、免許持ってるんっスね」
「私、噂のペーパードライバー」
「本当に23歳っスか?」
カートレースゲームで遊んだり……
「お嬢! ストフリで2落ちはシャレにならないっスから! オレのムラサメで抑えとくんで下がって!」
「アニメだと無双してたのに……」
ロボ物の対戦ゲームで遊んだり……
「えいっ、やっ」
「パンツ見えてるっス」
「っ!?」
「ウソです」
「っ〜!!」
「痛い痛い! すんませんっ!」
ダンスゲームで遊んだり……
「狙って〜……ぽんっ! ……あっ」
「壁に当たって跳ね返った円盤が自分のゴールに入った……」
ホッケーゲームで遊んだり……
「は〜……いっぱい遊んだ」
「一生分、遊んだ気がするっス」
こんなに充実した気持ちになったのは、産まれて初めてかもしれない。
「んく……」
水のペットボトルをゴクゴクと飲んでいるお嬢を横目で見る。
……ほんとこの人、美人さんだよな。
メイクも自然な感じだし……肌、すっごく綺麗だし……髪もサラサラだし……っていうか、自信が無きゃ、デコ出してる髪型になんてしないよな。
「……どうしたの?」
「あっ……いや、お嬢ってゲーセン初めてなのに物怖じしないんだなって」
適当に話を振って、視線を誤魔化した。
……うん、人様をジロジロと見るモンじゃないな。
「もっとアングラな所に入り浸ってるから」
もっとアングラな……?
……意外だ、正統派なお嬢だと思っていただけに。
「……パチンコ屋とかっスか?」
「パチンコはやらないよ」
「……………………」
「……?」
目をパチクリさせて首を傾げるお嬢。
……うん、いいな、これ。
「ちょっと聞こえなかった。何を、しないんっス?」
「パチンコ」
「ぷぷっ」
「……?」
ダメだ、笑っちゃダメだ。
「もう一回、言って貰っていいっスか」
「……パチンコ」
「んっ、ふふ」
「……?」
純真なお嬢様から発せられる、思わぬ発言。
中学生のような幼い容姿も相まって……唆るところがある。
っていうか、単純に面白い。
「……! このっ!」
「いてっ!」
脛を思いっきり蹴られた。
「くそガキ! エロガキ!」
「いててっ! マジ蹴りはやめて! すんませんでした!!」
バレたみたいだ。
この人、察しがいいな。
「まったく……」
脛を摩っているオレを、見下すようにジト目で見ているお嬢。
……意外と容赦無い、もう怒らせないようにしよう。
「……そーいうの、好きなんだ?」
「えっ? いや、好きっていうより……」
面白いから、ってだけで。
っていうかお嬢とオレは同性だし。
そんな趣味はない、ましてや既婚者になんて。
「ダンスゲームしてた時も揶揄ってきたし」
「あれは本当にすみません」
「……いいよ」
「はい?」
いいよ? ……なにが?
「下着、見せてあげる」
「は? ……はぁ!?」
ちょっと待って、どうしてそうなる。
いや、オレが揶揄ったのが悪いけれど……
「……………………」
「ちょっ、お嬢!?」
お嬢がワンピースの裾を掴み、徐々に上へ持ち上げる。
普段から隠れている細長くて、色白な足が露わになっていく。
引き締まった足首、手入れの行き届いている脛、スッキリした膝回り、適度な筋肉のある腿……
「ダメっ!」
お嬢の手を掴み、裾から離させる。
バサッとスカートが下りて、普段の格好になる。
「ぷくくっ、焦ってる」
ケラケラと愉快そうに笑うお嬢。
何笑ってんだこの人、何しようとしてたか理解してるのか?
「あのですね、お嬢……あんまり人目が無いからって……」
「下にペチパンツ履いてるよ」
「は?」
ペチパンツ。
確か、下着の上から着用するインナー。
スカートの透けや下着のラインを隠す為に履くもので……
「……は〜、心配して損した」
「心配してくれたんだ」
「当たり前でしょ!」
「……確認してみる?」
「しませんっ!」
ドッと疲れた……遊んでる時より疲れた気がする……。
「だいぶ時間経ったね」
お嬢が銀色の腕時計を見ながらそう言った。
時刻は5時を回っている。
下校時間はとっくに過ぎているからか、店内に学生服の姿をした客が増えてきた。
「ですね。そろそろ帰るっスか?」
「うん。でもその前に、最後に1つだけ」
お嬢はそう言って遠くを指差した。
指の先にあるのは……プリクラ。
「せっかくだし、一緒に撮ろう」
「まあ、はい」
プリクラか……そういえば今までやった事なかったな。
そもそも誰かとゲーセンに来るのが初めてなのだが。
お金を投入し、タッチペンで画面を操作しているお嬢を横目で窺う。
色々なデコレーションがあって、どれを選ぼうか迷っているみたいだ。
「どれがいいと思う?」
「一番シンプルなのでいいんじゃないっスか。こーいうのはシンプル・イズ・ベスト」
きっとお嬢ならどれでも映える。
素材がいいからね。
「確かに、一理ある」
コクンと頷き、何も装飾のないフレームと背景を選択。
準備が完了したようで、画面が撮影モードに切り替わる。
「……意外と撮影範囲、狭いっスね」
「だね。……ほら、もっとこっちに寄って」
肩同士が触れ合いそうになるぐらい、物理的に距離が近い。
……それに比例してか、今日一日で精神的な距離も近くなった……ような気がした。
お嬢は、どう思ってるんだろうか。
パシャリ
小さな密室にシャッター音が響き渡る。
そして、画面にオレとお嬢の姿が映し出される。
「少女、証明写真みたい」
「お嬢は写真、撮られるの慣れてる感じっスね」
「SNS狂いの友達がいるから」
「ああ……」
何気無い雑談をしながら、プリクラに落書きをしていくお嬢。
『チャリで来た』
「いやいや、徒歩っスから。それにネタが古い」
「むぅ」
落書きを消して、そのままプリントアウト。
証明写真のような表情のオレと、ニコッと柔らかい微笑みを浮かべているお嬢のプリクラだ。
「うん、よく撮れてる」
「もっとガビガビな画質かと思ってたっス」
手渡されたプリクラをひとしきり眺めた後、財布の中にしまう。
……どこに貼ろうかな。
「よしっ、帰ろうか」
「ですね」
流石に人気が多くなってきたからか、お嬢は手を差し出しては来なかった。
……少しだけ、寂しい気持ちになった気がした。
気がしただけ……きっと、気のせいだ。
「お昼ご飯も食べずに遊びまくってたから、お腹空いちゃったね」
「そっスね。別に構わないですけど」
「連れ回した私が言うのもなんだけど、ちゃんと食べないと大きくなれないよ?」
「説得力皆無」
「ていっ!」
「いてっ」
ゲーセンを出て、薄暗くなった街中を並んで歩く。
チョップされた脳天を軽く撫でつつ、隣に目を向ける。
闇色の瞳が、オレの瞳に突き刺さるような感覚を覚えた。
「私の家でご飯食べてく?」
「えっ」
思いも寄らぬ提案に、呆気にとられた。
「門限とかあるなら、無理強いはしないけど」
「あっ、うちに帰っても誰も居ないんでそこは大丈夫っス」
「……そうなんだ? 一人暮らし?」
「みたいなモンっス。親は仕事で殆ど帰って来ませんから」
「そっか」
心なしか、お嬢の表情に陰りが差し込んだように見えた。
「ですんで、お嬢が良ければ構わないっス」
「んっ……分かった」
いつもの無表情フェイスに戻り、並んで帰路につく。
まさか、こんな展開になるとは……まあ、なるようになれだ。
そうこうして、古めの……家賃安そうなアパートの前にやってきた。
……こんな所にお嬢、住んでるのか?
なんて疑問を抱えながら、お嬢の後ろに付いて階段を上がっていく。
お嬢が立ち止まった場所は2階の奥端……いわゆる角部屋というヤツだ。
そして、その部屋の呼び鈴を押す。
……何故?
自分の家なら呼び鈴なんて押す必要ないのに。
今日は旦那さんがいるのか?
……いやいや、それでも呼び鈴は押さないだろ。
ガチャリ、と解錠する音が聞こえた。
そしてゆっくりと玄関に扉が開き……
「不良生徒を1名、連れて参りました」
「……いきなりなんですか、お姉様」
ジト目でお嬢を窺う、白雪センセーが顔を出した。
「……どうしてこうなった」
「どうしてだろうね?」
助手席でケラケラと嘲笑うようにそう言い放つお嬢。
今の状況を説明すると……白雪センセーの車に、オレとお嬢が乗って道路を走っている。
お嬢が助手席で、オレは後部座席。
「ってか雪ちゃん、お嬢と知り合いだったんっスね」
「まあ、そうだね」
歯切れの悪い返事をする白雪センセー。
「いきなり、しかもウチの生徒を連れて家に来るとか相変わらずの行動力ですね、お姉様」
白雪センセーの言葉とは裏腹に、邪険に扱う気が感じられないあたり……付き合いが長いんだろうなと感じ取れる。
「お嬢が前に言ってた幼馴染って、雪ちゃんの事っス?」
「そうだよ。……それにしても雪ちゃんだって」
プークスクスと笑うお嬢。
この人、ほんといい性格してるよな。
「学校外だからいいけれど、学校では先生って呼びなさいよ?」
「うっス」
「ねえ、雪ちゃん」
「お姉様っ!」
それにしても、お嬢を『お姉様』と呼ぶ白雪センセー……変わった呼び方だな。
お嬢が23歳で、白雪センセーは新卒……つまり22歳。
……年下だから、単にそう呼んでるってだけか?
「冗談だよ。……最近、花澄と一緒にお出かけしてなかったから」
「新任教師って忙しいんですよ。研修とか、担当のクラスとか、部活の顧問とか……」
「サボり生徒がいると、なおさら?」
ギクッと肩と背中が跳ね上がった。
「その子は私の担当クラスじゃないから、仕事量には関係ないですね」
……なら良かった。
いや、良くないんだけど。
「まあでも、学校にはほんとに行った方がいいよ、少女」
「お姉様がそれ、言いますか」
白雪センセーがため息混じりで冷たく言った。
……どういう事だ?
「キミ、お姉様……じゃなくて、えっと……」
「今の私は《お嬢》です」
「……お姉様もこの子の事を《少女》なんて呼んで、どうしたんですか?」
「だって私たち、お互いに名乗ってないもの」
「はぁっ!?」
驚いた様子で大声をあげる白雪センセー。
当然の反応だ。
1日中、ゲーセンで一緒に遊んでおいて……互いに名前も知らないなんて普通は思わない。
「……普通に名乗ればいいじゃないですか」
「イヤだ」
断固拒否に姿勢を露わにするお嬢。
こういう人は、テコでも動かない。
……何か名乗れない理由でもあるのか?
……ほんと、オレってこの人の事、何も知らないんだな。
「……ねえキミ」
「ん?」
ルームミラーに目を見遣ると、白雪センセーと視線がぶつかった。
「この人、どこかで見たことない?」
「ん〜……ないっス」
まったく記憶にございません。
「本当に? テレビとか雑誌で見たことない?」
「いや、全く……えっ、お嬢って有名人?」
「えぇ〜……」
「花澄が思ってるほど、私の知名度なんてないよ」
よく分からん。
「まあ、匿名希望って事で」
もうここまで来たなら、別に名前なんて知らなくてもいいやって思ってしまう。
言いたくないのなら、それでいい。
「あっ、このお店に」
「ここでいいんですね?」
お嬢が指差したお店の駐車場に停車する。
3人でご飯食べに行こうって事になって、やってきたのは……
「……居酒屋!? オレ、未成年なんっスけど!?」
「いいじゃんいいじゃん」
よくないだろ。
「お酒なんて飲ませないし、私と花澄も未成年の前でお酒飲むほど非常識じゃないよ」
それなら……いいのか?
……いいのかな?
「それに、最近の居酒屋はお子様ランチ的なメニューもあるから」
「……オレ、園児扱いっスか?」
解せぬ。
そうして、オレは2人の後ろに着いて行って
、如何にもな雰囲気の居酒屋に足を踏み入れる。
座席に案内され、靴を脱いで腰掛ける。
……大衆的な雰囲気のお店に、お嬢様というミスマッチな構図。
「お嬢ってこういうお店に行くんっスね」
「もっと小洒落たバーとかのイメージだった?」
「正直に言うと、まあ」
お嬢がテーブルの上に立て掛けてあるメニューを手に取り、それを開いてテーブルの上に置いた。
「そういうお店より、こういうお店やファミレスの方が好き」
意外と庶民派らしい。
「好きなの頼んでいいよ」
「んー」
と言っても、色々と見慣れな品名が並んでいて、どれにすればいいのやら。
「……キミ、油物はダメだったよね?」
「あっ、はい。そうっスね」
「そうなんだ」
白雪センセー、よく知ってるな。
……って、白雪センセーはオレの事情、知ってるからか。
「じゃあ焼き魚とかは?」
「それは平気っス」
「ホッケ、美味しいよ」
「じゃあそれにするっス。……あと和風サラダと出汁巻卵も」
「りょーかい」
お嬢が呼び出しボタンを押して、数秒後に店員さんがやって来た。
「ホッケ3つ、和風サラダと出汁巻卵、刺身の盛り合わせ、枝豆と鶏つくね。……花澄は?」
「牛すじ煮込みと揚げ出し豆腐。飲み物はどうします?」
「烏龍茶でいいよ」
「オレも」
「じゃあ烏龍茶も3つ」
「あっ、ご飯セットも3つ」
注文が終わり、復唱を終えて捌けていく店員さん。
手慣れてる感じがして、ちょっとカッコいいな……なんて思ったり思わなかったり。
「そういえば、あの話の続きは?」
「あの話?」
オレの言葉にお嬢が首を傾げる。
白雪センセーが呆れた表情で額に手を置く。
「この子のサボりを、お姉様がどうこう言うなって話です」
「ん……? なんで?」
「高校生の時、学校サボってみんなに大迷惑かけたじゃないですか」
「……あっ」
大きく目を見開き、口を半開きにするお嬢。
「あっ、って。……あの事、忘れてましたね?」
「いや、忘れてたと言うか……忘れたい過去と言うか……」
「忘れたら絶対に許しませんけど」
「本当にあの時はごめん! だから蒸し返さないで……!」
どうやら触れられたくない出来事のようだ。
……お嬢の謎が増えるばかり。
「まったく、あの人達に見放されなかったのが奇跡ですよ」
「それは、もう……おっしゃる通りです……」
しょんぼりと肩を落とすお嬢。
お嬢でもこうやって気落ちする事もあるんだな。
「あっ、飲み物来たっスよ」
店員さんが、烏龍茶の入ったグラスと小鉢を並べていく。
「あ……お通し、断ればよかったですか?」
「いいよ、ダメな時は私がもらうから」
お通し……小鉢の事か。
中に入っているのは……酢の物?
「酢の物、平気っスよ。むしろ好きなぐらいで」
「そう?」
いちいち、気を遣ってくれてるのが嬉しいやらむず痒いやら……。
「意外と大人な味覚だね。きっと将来は酒飲みだ」
「ははっ……そうっスね」
「……………………」
白雪センセーが目を伏せて視線を落とした。
オレは……それに気付かないフリをした。
将来……オレの将来、か。
そんなの、考えるだけ無駄なのに。
一通り注文したメニューが届き、各々の料理に手をつけていく。
「ん、このホッケ美味いっスね」
「でしょう?」
馴染みがあんまりなくて味の想像が出来なかったし、ちょっとグロデスクな見た目してるけど……これはいける。
脂っこくなくて淡白な、ほくほくとした味わい……オレ、これ好きかも。
「家で焼き魚を作るのって結構面倒なのよね」
「あー……そうっスよね、後片付けとか大変っスもんね」
「少女、いつも食事はどうしてるの?」
「自炊っスよ。まあ、あんまり凝った物は作れませんけど」
「ふ〜ん……偉いね。私なんて、料理……」
「出来ないんっスか?」
「みんなに『お前は料理するな』って止められてる」
「お姉様の料理、ゲキ不味だから」
それでいいのか既婚者。
っていうか飯マズなのか、お嬢……。
「じゃあ普段は買ったり外食だったり?」
「ウィダーで済ませてる」
「あの人に報告しておきますね」
「やめて花澄ッ! あの人のお説教、本当に怖いから!!」
携帯端末を取り出した白雪センセーを、必死で止めようとするお嬢。
ほんとこの2人、仲良いな。
……っていうか、お嬢……めっちゃ細いよな。
ロングワンピの上からでも腰が細いの分かるし……スカートを捲った時に見えた、足とか……すっごくスラッとしてたし……。
……いかんいかん、思い出すな。
あれは忘れろ、オレ。
「少女? どうかした?」
「……なんでもないっス」
人の気も知らないで、この人は。
……そう、心の中で独りごちって、覗き込んできたお嬢の顔から目を背けた。
「ごちそうさまでしたっス」
「どういたしまして」
居酒屋を後にして、白雪センセーに家まで送ってもらう事になった。
車内で雑談に花を咲かせているお嬢と白雪センセーの後ろ姿を、頬杖をつきながら眺める。
まるで姉妹のような距離感の2人。
……羨ましいな、オレにはそんな人が居ないから。
「あっ、そうだ。キミ」
白雪センセーと、ミラー越しに目が合った。
「クラスの担任が言ってたよ、早く進路希望出せって」
進路……高校3年生にとっては、大事な事だ。
人生の今後を左右する、一大事。
「出したっスよ」
「何も書かないで提出するのは、出したとは言わないの」
やはりダメか。
「少女、進路で迷ってるの」
「ええ、まあ」
ミラー越しにお嬢とも目が合う。
「やりたい事とか、ないの?」
「ないっス」
「即答とは」
だって、そうだ。
オレにやりたい事なんて、ない。
仮にあったとしても……出来ない。
「大学は出ておいた方がいいよ」
「……お嬢は、大学行ったんっスか?」
「行ってないよ。高校中退したから」
「えっ」
高校中退した?
……って事は、中卒!?
「え……えぇ……?」
「まあ、私はそれでもやっていける道があったから……っていうか、やりたい事が見つかったから学校辞めた訳だけど。……私はレアケースだろうからさ。やっぱ、大学は出ておくに越したことはないと思うんだ」
「……後悔してるんっスか?」
お嬢が目を背けた。
「してない……って言い切りたいけどね。ちょっとは……後悔してるかな。今の仕事だって、安定してるとはとても言えないから」
後悔……か。
……オレの人生、そのものを表す言葉。
「でも、私は私の道を、最後まで……歩き続ける。その覚悟はあるよ」
覚悟。
……そんなもんで、生きていけるものか。
覚悟があったって、オレは……。
「きっと、少女にも見つかるよ。自分の進みたいって思える道が」
オレの道は、最初から……存在なんてしない。
「今日はありがとうございました」
「また、一緒に遊ぼうね」
「うっス」
「明日はちゃんと学校に来るんだよ」
「……善処します」
2人と別れ、誰もいない真っ暗な自分の家に入る。
電気をつけて、リビングへ歩を進めている最中……《それ》は訪れた。
ドクン
「っ……!」
ドクン、ドクン
「かっ、あ……!」
胸を押さえ、死にものぐるいで鞄の中を漁る。
ドクン、ドクン、ドクン
「くっ、んく……!」
急いで小瓶を取り出し、中に入っている錠剤を掌の上に乱雑にぶちまける。
何錠か、床に零れ落ちたが……気にしている余裕なんて、無かった。
錠剤を口の中に放り込み、そのまま飲み込む。
苦い。
そして、苦しい。
「ふぅ、っ……は……!」
息を切らし、覚束ない足取りで自分の部屋に転がり込む。
ベッドまで、持たなかった。
ひんやりとした感覚が頬に伝わる。
オレの体は床に投げ出されたまま。
「っ……お、じょう……」
あの人の……柔らかくて、暖かい微笑みが脳裏をよぎる。
そしてオレの意思は、微睡みの中に溶けて沈んでいった。