俺のWEB小説の感想欄に粘着してる荒らしが清楚な文学少女のはずない   作:クサバノカゲ

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【四】清楚な文学少女に崖から突き落とされた

 ──あわゆき姫と七羽の小鳥。

 

 あまりにもネットに情報がなくて、最初は架空のタイトルでからかわれたのかと思った。

 ただ、あの荒らし──ricebirdは、そういう不誠実なことはしない気がした。

 酷いことを言うヤツだけど、いつも筋は通っていたから。

 

 だからとにかく検索しまくって、それが十年以上前に絶版済みの児童書だと突き止めた。しかし電子書籍化されておらず、中古市場(マーケットプレイス)への出品もない。

 諦めかけたところで、図書館の蔵書検索サイトから隣の隣の市の公立図書館に存在する一冊にたどり着き──いまここに至る、というわけ。

 

「あ……変なこと聞いてごめんなさい。この本を知ってる人に、今まで会ったことなくて……」

「……ええと、俺はその、知り合いからおすすめされて……」

 

 大丈夫、嘘はついてない。

 白い清楚(せいふく)姿で恥ずかしそうに目を伏せた文学清楚(しょうじょ)に、俺はそう返答した。

 ……うん、どこか認識がおかしくなってる気がする。これが藤田くんいわく「致死量の清楚」の威力か……。

 

「えっ、ほんとですか! わたしも、きのう知り合いにおすすめしたら、自分でも読みたくなってしまって」

「へえ……そうなんですね……」

「すごい偶然。でも嬉しい、私の他にも『おすすめ』にするくらいこの本を好きなひとがいるんだ」

 

 頬をほんのり赤らめ、すこしテンション高めに話す彼女のきらきらした上目づかいに、俺は心臓を鷲づかみにされ、そのまま揉みくちゃにされる。そんな内面を悟られないよう、必要以上に冷静を装う。女子に免疫のない陰キャあるあるだ。

 

「そんなに、お好きなんですね」

「はい。とっっても、大好きなんです」

 

 図書館ゆえの小声で、囁くように鼓膜をくすぐる「大好き」という魔詞(ワード)

 小声(それ)を聞き取るための距離感の近さがまた、俺を崖の(はじ)にじわじわと追い詰める。だめだ、相手は「聖女様(セイジョサマ)」だぞ……この(こい)に落ちたら最後、行き着く先は奈落しかない……たすけて、シマエナガさん……!

 

 瀕死で宙を泳ぐ俺の視線は、彼女の肩掛けのスクールバックにぶらさがったちいさな小鳥のマスコットに行き着いた。……シ、シマエナガさん!? ……いや、これは文鳥さんか…… 添えられたプレートに書かれた綺麗な「言羽 KOTOHA」の文字は、彼女の名前だろうか。

 言羽(ことは)……文学少女の名前としてあんまりに完璧すぎて、俺はもう限界(ムリ)だった。

 

「……あ……ごめんなさい……わたしはいいので、ぜひ読んであげてください」

 

 俺の様子のおかしさにようやく気付いたのか、本棚から例の一冊を手に取ると、微笑みながら両手で差し出す言羽さん。その仕草の可愛さが俺を完全に崖下(こい)に突き落としたことなど、知りもせず。

 

「たくさんの人に読まれた方が、きっと物語も喜ぶから」

「……物語が……喜ぶ……」

 

 なんて素敵な理由だろう。本を受け取りながら気の利いた返しをしたかったけど、オウム返しを絞り出すのがやっとだった。

 

「……あ……また変なこと言って、ごめんなさい……それじゃ」

 

 彼女は再び恥ずかしそうに目を伏せると、後ろに一歩下がる。それから両手をお腹の前で重ねて、たぶん世界でいちばん綺麗な角度のお辞儀をした。

 

「もしよかったら、感想聞かせてください。わたし、よくここにいますから」

 

 顔を上げると、はにかんだ笑顔を浮かべながら、そんな言葉と微かな甘い香りだけ残して去っていく。

 彼女がくるりと背を向けたとき、背の半ばまで流れる黒髪と、すみれ色のスカートの裾が、連動するようにふわりと広がった。その映像を脳内でひたすらリピートしながら、俺は呆然と立ち尽くす。

 

 感想聞かせて、と向こうから言ってくれたのだから、またお話する口実はある。

 けど、こちらから声をかけるハードルは超高層だし、そもそも冷静に考えたら、「聖女様」の記憶から俺のことなんか、明日の朝には忘れ去られているんじゃないか……。

 

 ようやく、我に返る。俺は胸にきつく抱きかかえてていたその本──「あわゆき姫と七羽の小鳥」を持って受付カウンターに向かった。

 

()()()()()()()()

 

 藤田くんの言葉を思い出す。目的の本は手に入れたけど、彼の警告もむなしく、俺は聖女様(かのじょ)にまんまと()()()()()()()しまったのだった……。

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