俺のWEB小説の感想欄に粘着してる荒らしが清楚な文学少女のはずない   作:クサバノカゲ

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【六】ひと晩寝かせて推敲してみた

『投稿前に一晩寝かせて、三回くらい音読してみると誤字やおかしな文に気付けると思う』

 

 脳内には、ricebirdの「一言」が浮かんでいた。完璧なものが書けた自信がある、だからこそヤツの言葉に従って、そして見返してやろう。俺はもう、以前の俺とは違うんだ。

 

 ──いつもより少し早めに寝たせいで、翌朝はだいぶ早めに目が覚めた。

 

 窓の外からスズメさんの鳴き声が聞こえるなか、ベッドから這い出してさっそく音読を試してみる。

 

「……そしてドラゴンの胸を斬り埼玉県は……その血を吸って……悪しき凶々しさを宿したかのように、輝いていたのである……」

 

 …………また埼玉県が、今度はドラゴンを……しかも、なんだかクドくて気持ち悪い文章……「あわゆき姫」を少しは見習え……。

 

「ドラゴンの胸を斬り裂いた魔剣は、その血を吸ってギラリと輝いた……うん、こっちのほうが伝わりそう……」

 

 長々と文章を書き連ねるより、簡潔でありつつ印象的な言葉選びをしたほうが読み手に伝わるし、響く。それは「あわゆき姫」を読んで気付けたことだった。

 気付いたからといって即実践できるものではないけど、意識していれば、少しずつでも近付けるかもしれない。

 

 他にも数か所の誤字やらおかしな文章を見つける。いったいどこから生えてきたの、と思ってしまう勢いだ。

 それらを片っ端から修正した最新話を投稿して、まだ少し時間があったので、なんとなく以前もらった感想をながめる。

 

 けっきょく、腹は立つけどヤツ──ricebirdの言うことはいつも正しかった。

 

 そして、そんなヤツの感想が途切れたことに、寂しさを覚えている自分に気付く。もう、飽きたんだろうか?

 そういえば書き込まれた感想の、相手の名前のリンクからユーザーページが見れるはず。

 深く考えずに、ricebirdのユーザーページを覗いてみる。

 

 もし作品を公開しているなら、ここから確認できるのだが、たいていの荒らしは作品を公開していないものだ。自作を公開しながら人に好き勝手言うのは勇気がいる。そんな勇気のある人間は、そもそも荒らしになんかならないだろう。

 

 しかしricebirdのユーザーページには、意外にも作品が公開されていた。短編小説が一作品だけ、タイムスタンプはもう三年前だ。

 試しに作品情報を確認してみる。

 

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 勝った、と思わずニヤけてしまう。

 ジャンルは純文学。なんとなく察するものがありつつ、作品を読んでみた。

 

 ……これは……。

 

 3000文字ほどの短い作品だった。

 勝手に「あわゆき姫」と似たものを想像していたけど、ぜんぜん違っていた。

 それは美しく流れる詩のような文章で紡がれた、とある兄弟の物語。切なくて、でも希望に満ちた結末まで、俺は息をするのも忘れていた気がする。

 

「……すごい……」

 

 大きく息を吸って吐いてから、思わずこぼれたのは賞賛の言葉だった。

 

 何も考えず画面を下に、ちょっとエッチな広告の下までスクロールさせて★★★★★(さいこうひょうか)を付け、それからいちばん上に戻ってブックマーク登録しようとしたところで、スマホのアラームが鳴動しはじめる。

 

 そろそろ朝ごはんを食べて、家を出る準備しないと。

 今日は放課後、図書館に「あわゆき姫」を返却しに行くつもりだった。

 期限は来週だけど、言羽さんも読みたがっていたわけだから、あまりお待たせしたくない。

 

 そしてもちろん、もしかしたら彼女に再会できて、感想を伝えられたりするんじゃないかという淡い期待もあった。

 

 正直に言えばそっちが九割だ。

 

 心ここにあらずのまま授業が終わって、図書館に向かう。「あわゆき姫」をカウンターに返却して、落ち着かない心臓をなだめながら、本棚の並ぶ奥へと進む。

 

 ──聖女(かのじょ)は、そこにいた。

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