俺のWEB小説の感想欄に粘着してる荒らしが清楚な文学少女のはずない   作:クサバノカゲ

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【八】荒らしの正体は文学少女だった

 ──壊崩(えくす) 狩刃(かりば)

 

 こんなことになるなら、もう少し普通の名前にしておくべきだったと思う。

 あまりの恥ずかしさで意識が飛びそうだ。耳の先まで真っ赤になっていることを自覚しながら、かろうじて首を縦に振る。

 

「どう……どうしよう……ごめんなさい、わたし、ほんとに酷いことたくさん書いて……」

「いいんです、教えてもらったこと全部、すごく勉強になって、文章もマシになったと思うし。おかげでブクマも増えて……」

 

 顔を伏せて話す彼女の声は、震えていた。小声でしかフォローできないのがもどかしい。

 

「わたし……自分の書いたものがぜんぜん読んでもらえなくて……。いろいろ、どうすれば読まれるのか勉強して、流行ってるものの真似もしようとしたけど、上手くできなくて。それでときどき、ひと様の小説に八つ当たりみたいにあんなこと書いて……」

 

 華奢な肩も震えていた。抱きしめたい、と思ってしまう自分に脳内で腹パンを喰らわせる。

 

「でも、きみがわたしの書いたこと、ちゃんと受け止めて実行して、作品がどんどん良くなってくの見てたら、なんだか眩しくて……」

 

 ときどき言葉に詰まり、声を震わせながら、彼女は話してくれた。

 

「『あわゆき姫』も、見付けにくい本なのに、探して真剣に読んでくれたのがわかったから……本当にすごく嬉しくて、きみの感想を何回も読み直して……それで、やっと自分が馬鹿なことしてるって気付いて、もうやめようって」

 

 ゆっくりと顔を上げる。頬に、光る涙の筋が残っていた。ricebirdと同じように「きみ」と呼んでくれたことが、とてつもなく嬉しかった。

 

「あの……俺、すごく好きです……」

「……!?」

 

 あっ、違うそうじゃない! いや好きなのは確かだけど、順序が違う。驚いて目を見開く彼女に、俺は慌てて訂正する。

 

「あっ、ええと、その、言羽さんの書いた小説が好きで……」

「……あ、ごめんなさい……そっか、読んでくださったんですね……ありがとう……」

「ぜんぜん読まれてないの、もったいないと思った。すごく綺麗で……」

「もしかして、評価つけてくれたの……」

「あ、はい俺です」

 

 彼女は、カバンから取り出した自分のスマホを少し操作して、画面をこちらに見せてきた。

 

「あの、これは見ました……?」

 

 ……ん……? それは昨日の夜も見た、彼女の小説の情報画面だった。

 

 

 ブックマーク11件

 評価ポイント58pt

 総合評価80pt

 

 

 一晩で、俺のポイントをダブルスコアで超えていた。

 そのあと彼女は再びスマホを操作して、別の画面を見せる。

 

 

 [日間] 純文学〔文芸〕ランキング - 短編 1

 

 

 ランキングの一番上、燦然と輝く王冠マークの横に彼女の作品タイトルと、ricebirdの名前が並んでいる。

 純文学はハイファンタジーと比べると作品数が少ないぶんランキングのボーダーが低い。俺の入れた10ptで、今朝の段階で純文学ランキングでは10位以内にランクインできたらしい。

 そしてランキングから読んだ人たちがこぞって評価とブクマを付け、お昼には1位になっていたという。

 

 ──「伸びた」というわけだ。

 

 内容が伴っていたからこその結果だから、もちろん悔しさはない。大好きな作品が正当な評価を受ける。こんなに嬉しいことはない。

 ……きっと、物語も喜んでいるだろう。

 

「あの……お詫びと、お礼……わたしにできることなら、何でも……」

 

 それなのに彼女は、まだ涙の残る潤んだ上目づかいで、そんなことを言い出した。むくむくと首をもたげる邪心に、脳内で踵落としを五回喰らわせ黙らせる。

 

辛辣な感想(・・・・・)の件は、いろいろ教えてもらったからプラマイゼロ。それに、ランキングは言羽さんの実力だから俺はなにも」

 

 そもそも、評価によるポイントに対価を支払う/受け取ることはサイトの規約違反だ。それは言羽さんのためにも、よくないことだろう。

 

「でもそれじゃ、申しわけなくて……」

「なら、これからもいろいろ、小説のこと教えてくれますか? 俺、もっとちゃんと小説を書けるようになりたくて。読んでくれる人に、あと物語にも、喜んでもらえるように」

「……! もちろんです、わたしなんかで良ければ! あ……でも、わたしはタイトルとかあらすじ作るの苦手なので……きみは上手だから、逆に教えてほしい……です」

 

 意外な申し出だった。

 たしかに言われてみれば彼女の作品のタイトルやあらすじは簡潔な一言だけで、綺麗だけれど、伝わりにくいかも知れない。

 それはきっと、彼女の作品が埋もれてしまった一因なのだろう。

 

「俺なんかに教えられるかな……」

「ううん。ほら、あの連載のタイトルもすごく気になって、それで読んじゃったの。『転生したらカラス天狗だった俺がシマエナガ聖女様の……」

「ウッ、読み上げられるのは、ちょっと恥ずかし……」

「あっ、ごめんなさい……ふふっ……」

 

 そこでようやく彼女は、すこしだけ微笑んでくれた。憂いの表情も魅力的だけど、やっぱり笑顔はその百倍で、心臓がまた苦しくなった。

 

 ──だからこそ俺には、はっきりさせなきゃいけないことがある。

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