俺のWEB小説の感想欄に粘着してる荒らしが清楚な文学少女のはずない   作:クサバノカゲ

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【九】それでも俺は文学少女に告白した

「あの、それで。ここからは、お礼とかお詫びとか、そういうのぜんぶリセットして聞いてほしくて……」

「はい……?」

 

 覚悟を決めた俺の言葉に、きょとんとして微かに首を傾げる。

 姫カットの黒髪が、さらりと肩を流れた。

 ダメだ、あいかわらず仕草のひとつひとつが致命傷級にぶっ刺さり、いっこうに見慣れる気配がない。

 

「今日、感想で褒めてくれたことなんだけど」

「……あ……うん、ほんとにすごく素敵でした。主人公の一途な想いが、聖女様に届いてほしいなって本気で思っちゃった……」

「実は俺、現実(ほんとう)に、好きだけど手の届かないひとがいて。その気持ちを、そのまま文章にして書いたんです。だから、上手く書けたのかも」

 

 聞いた彼女は小さく「え」と漏らして、目を伏せた。

 これは、いったいどういう反応(リアクション)? まるでショックを受けたように見えたけど、それほどまでに同情してくれたのだろうか……?

 

「……そう……そうなんだ。……いいな、あの聖女様みたいに想ってもらえるひと、うらやましい。……きみの気持ちが、そのひとに届くといいですね」

 

 わかってる。「いいな」も「うらやましい」もぜんぶお世辞だってことぐらい、理解できている。それでも俺は前に進むため、核心に手を伸ばす。

 

「そのひと……俺にとっての聖女様は……」

 

 喉がカラカラだ。このまま逃げ出したい。そしてシマエナガさんに慰めてもらおう。

 

 ──それじゃダメだ。進め、前に。

 

「言羽さんです」

 

 彼女が息を呑む音が聞こえた。レンズの向こうで目をいっぱいに見開いて、口元を右手のひらで覆いながら、俺の顔をまじまじと見詰めている。

 五秒、十秒、時が止まったように彼女はそのまま動かない。

 

「でっ……でも、そういうの迷惑ですよね?」

 

 沈黙に耐え切れず、俺はそう問いかけた。それから更にどれだけの時間、死刑宣告を待っていただろう。

 彼女は両手のひらを胸の上に移動させ、そっと重ねて深呼吸した。

 

「……はい。迷惑です」

 

 予想通りの、なんの驚きもない返答だった。

 

「とても、困るんです。うちの学校、男女交際は校則で禁止なんです。ばれたら停学処分……」

 

 ああ、そうか……。それは、とても完璧な理由だった。

 校則のせいということにすれば、俺もあまり傷つかずに済む。沈黙の間に、そこまで深く考えてくれたのだろう。

 まさしく聖女のような優しさと聡明さに、ますます惹かれてしまう。けれど、頑張って切り替えよう。

 

「……ですよね。そうだよな。当たり前だ。ほんとごめんなさい、無理なこと言って困らせてしまって」

 

 いいんだ。分かり切っていた結果だ。小説を通して繋がっていられれば充分なんだ。

 これで前に進める。この失恋も糧にして、俺はもっともっと面白い小説を書くんだ。

 

「はい。だから──」

 

 彼女は眼鏡のレンズ越しに、潤んだ瞳で俺の目をまっすぐ見詰めてくる。

 

「だから……?」

 

 そして心底から申し訳なさそうに、こう付け加えた。

 

「──卒業まで、待っていてくれますか?」

 

 …………!?

 

 え!? それは……まさか……そんなことある!?

 

「待ちますっ、ぜんぜん待ちます!」

 

 思わず小声を忘れた俺の声が、館内に響いてしまう。

 どこかで咳払いが聞こえ、慌てた言羽さんが「しぃー」っと人差し指を立てて俺の口元に近付けた。

 

 はじめて会ったときと同じ柔らかさの指先が、一瞬だけ唇に触れて、すぐ離れていく。羽毛が撫でていったみたいに。

 

「図書館では、お静かに」

 

 いたずらっぽく囁いた彼女は、立てたままの人差し指を──俺の唇に触れたばかりのそれを、自分の唇にそっと押し当てた。




読了ありがとうございます。
これにて二人の物語はいったん幕となります。
よろしければぜひ評価点を付けてやってくださいませ。

後日談は構想中ですので、もし気に入っていただけましたら、のんびりお待ちいただけますと幸いです……!
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