ベルファさんの寛大な器に尊敬の念を抱き、感謝と感動を胸に抱きつつ契約書本体と写しにサインをして、ベルファさんへ契約書本体を渡すと
「おやカヅキ、貴女は東国の出身でしたか。なるほど、我が国で珍しい黒髪である理由も納得出来ますね」
「は、はぁ・・・東国? あ・・・」
「ふふ、癖は容易には治らない物です。貴女の過去を詮索するつもりは有りませんが、仮に隠すなら気をつけると良いでしょう」
「はい、ご指摘 及び ご配慮ありがとうございます」
俺はヴェスタへ申請したチカラ・・・ギフトと呼称するとして、ギフトの中に異世界語の習得が有って読み書きも含めて不自由なく出来る
そう出来るのだが、会話は意識しなくても異世界語を喋っているみたいだが、文字は意識しないで書くと日本語で書いてしまうみたいだ
いや、正しくは自分の名前を無意識に いつもの癖で日本語で書いてしまった訳だ、うっかりが過ぎる
ベルファさんが詮索する人だったら、俺は色々と不味い事になっていた筈だ、何せベルファさんは領主で最低限は俺の素性を知らないといけないからだ
国内ならともかく、隣国の人間の可能性があるなら、根掘り葉掘り問い正されても仕方ない事なんだ、うん
こりゃ後でセンセイに迂闊過ぎるって叱られそうだなぁ
「旦那様、契約も済みましたので我々は失礼いたします」
「はい、お疲れ様でした。この後もお願いしますね」
「かしこまりました」
「失礼します、ベルファ様」
タイミングを見計らっていた様子のセンセイがベストタイミングで退室を告げて、俺も便乗し執務室を後にする
確かに広大な器の持ち主だとは思うが、何というか見透かされている様な眼を向けてきたりして、計り知れない人だなベルファさんは
「行きますよカヅキ」
「はい」
軽く背中をタップされ促されたのでセンセイの2歩後ろに付き、歩き出す
「先程は迂闊でしたねカヅキ? 旦那様が無頓着な方で無ければ場合によっては雇用も白紙の可能性も有りましたが、まぁ今回は良いでしょう」
「ほんとすみません」
「以後気をつけなさい、今回はこれ以上私は何も言うつもりはありません」
「はい、センセイ」
案の定軽く叱られてしまったので、素直に反省するとセンセイは そう言うと俺の頭を撫でる
「話は変わりますが、貴女は昔からポーカーフェイスが得意でしたが、耳や尻尾は随分と素直に感情表現をするのですね?」
「はい? 何を言っているんですか?」
「無意識ですか・・・私個人としては、とても可愛らしいので良いと思いますが、使用人としては ある程度は制御出来る様になった方が良いでしょうね?」
「あ、はい」
センセイの指摘を数秒間理解出来ていなかったが、
やっぱり今まで無かった器官だからか? 多分そうだ、そうに違いない
「手触りが良過ぎて病みつきになりそうなので、この辺りで止めるとして・・・カヅキ、貴女に最初の仕事を与えます」
「はい」
センセイは 少し名残惜しそうにしながら俺を撫でるのを止めて言うので、気持ちを切り替え返事をする
「今からテスタロッサ家邸内を案内しながら仕事の振り分けについて説明します、分からなければ都度遠慮せずに聞いて下さい」
「分かりました、センセイ」
「先程出てきたのが当家領主のベルファ様の執務室です、私の右腕となる貴女は自ずと入室する機会が増えると思うので、道を覚えておきなさい」
「はい」
センセイの説明を聞きつつ至る所に目線を向け、建物の構造を把握して頭の中で見取り図(仮)を作成していく、やはりギフトのチカラは偉大だ、前世で特別賢く無かった俺でもセンセイの説明を聴きながらでも見取り図を作成出来ている
「それと合わせて基本的に立ち入り禁止の場所や部屋があります、まず旦那様の研究室です」
「研究室、ですか?」
「えぇ、テスタロッサ家は代々研究者の家系で、今は主に生活を豊かにする魔道具の研究と作成・販売をしています」
「ユニットバスやドライヤーがあったのは、その為ですか?」
「その通りです、旦那様へ少し前世でありふれていた便利な道具等の話をしたらアッと言う間に完成させ、量産の目処までつけていました」
「なるほど」
俺が感じていたチグハグさの正体の元凶はセンセイだった様だ、いやまぁ・・・口頭で説明されただけで再現して量産まで出来るベルファさんも大概だとは思うけど、うん
有って困る物ではないから、かなり助かったけどね?
「次の立ち入り禁止は勾留室です、そもそも我々メイドが出向く事は殆どないですがね?」
「まぁメイドの仕事は盗賊や犯罪者の取り締まりじゃ無いですもんね」
「そう言う事です、あとはまぁ仮に勾留中の犯罪者が身内だと露見すると どうしても手心を加えたくなりますから」
「なるほど」
せっかく牢に入れても逃げてしまったら意味が無いので、そのリスクを可能な限りは減らしたいのだろう
まぁ俺にはあまり意味が無いルールではあるかな? うん