テスタロッサ家邸宅の案内をされ、1時間程で要所を回り終え
「以上が当家の要所です、質問は?」
「特には有りません」
「よろしい、次は我々使用人も利用する場所の案内に移りましょう」
「はい」
要所、つまり来客も使う区間の説明・案内の次は、主に俺達テスタロッサ家に属する人間が使う区間の説明・案内へと移る
「当家に限らず使用人には様々な役職・役割が存在します、まずはメイドですが複数の役割をこなす者は少なく、基本的には専門職ですね」
「え? そうなんですか?」
「えぇ、各々が各々の仕事に専念する為には必要な事ですから」
「知りませんでした」
センセイの説明に少し驚く、メイドは家事やらなんやら全てすると思っていたからだ
なるほど、朝礼の時に20人以上居たのも納得の理由だ
センセイの言い方的に、基本は専業で一部が兼業なのだろう
先程言っていた針子担当とか、接客担当とかは多分兼業だろう、毎日仕事があるかどうかは謎だし
「まずは厨房です、現在当家では旦那様のみが主人ですので、もっぱら我々の食事を作る場になりつつあります」
「併設されているのが食堂ですね」
「えぇ、そちらは使用人のモノになります。旦那様などの食堂はアチラの扉を抜けた先にあります」
「分かりました」
センセイの説明を聞きながら入口から中を覗くと、右端に食堂が少し見えていて、奥の左側に部屋に続く扉がある様らしい
「メイド長、その子が噂の?」
「そうですよ、ユージーン料理長」
「噂の?」
筋骨隆々過ぎてコックコートがパツパツのクマみたいな身長2m超の大男がヌッと現れて先生と親しげに会話を交わし、どうやら名前はユージーンと言うらしい
なんか俺の事が噂になっているらしいので、少し気になる
「あぁウチの領兵を単身で助けた強者がいて、メイド長がヘッドハンティングしたってな?」
「・・・側から見たら、そう見えるか、うん」
「ま、理由はなんでアレ、仲間を助けてくれた恩人だ、気軽に相談してくれ、飯の希望とかな」
「はい、ありがとうございます」
アレから一晩しか経っていないのに、恐るべきスピードで話が広まった様だ
まぁ広場にはアイザックさん達以外の領兵や使用人の姿も有ったし、俺自身が目立つのに人目が多い中で先生と立ち話してたら噂にもなるよな、うん
「仲良くなるのは喜ばしい事ですが、自己紹介ぐらいしたらどうでしょう?」
「おっとすまない 俺はユージーン、テスタロッサ家で料理長をしている、元はハンターだったんだが膝に矢を受けてしまって引退して今じゃコックだ」
センセイに軽く注意された料理長がスマンスマンと身振りをして自己紹介をする
ハンターが何か分からないが、テンプレだとギルドで依頼を受けてモンスターとか討伐して生計を立ててる人の事だろう、多分
膝に矢をって、そのままの意味だと怪我で引退したって事なんだろうけど、揶揄だと結婚を機に引退したって意味って聞いた記憶があるから、どっちだろう?
まぁどちらでも良いか、俺には関係ないし
「私はカヅキです、フラフラと放浪していたら運良く此方で雇って貰える事になりました、これからよろしくお願いします」
「おう、よろしくな」
料理長は気さくな人の様で何かフレンドリーな感じで右手を差し出してきたので、握手に応じると
「ほぉ、アンタはかなり強いな? 現役時代・・・いや、最盛期の俺の何十倍も強い、頼むから外道に落ちてくれるなよ? アンタを捕縛するのは骨が折れそうだ」
「安心して下さい、センセイに誓って外道になるつもりはありませんから」
「そうか、なら安心だな」
握手で何が分かったのかは知らないが、料理長はガハハと笑い言う、ホントに何が分かったのやら
「おや? アレは・・・」
「センセイ、どうかしましたか?」
「いえ、昨日貴女が助けたメイドが居たでしょう? 彼女が丁度食事に来ていた様で」
「え? あ、本当だ。居ますね」
「せっかくですし、挨拶しておきなさい」
「はい、センセイ」
センセイと料理長に軽く頭を下げて、昨日助けたメイドことプレセアの元へ近寄り
「こんにちは、食事中に失礼」
「あ、貴女は昨日の!? 昨日はありがとうございました」
「いえいえ、気にしないで? コレからは私が後輩としてお世話になる訳ですから」
「後輩?」
プレセアは俺の登場に凄く驚き、少し慌てた様子を見せお礼を言ってきたので、彼女を宥めつつ事の経緯を説明する
「なるほど、色々と理解したわ」
「それじゃ自己紹介を、私はカヅキ」
「プレセアよ、これからよろしくね?カヅキちゃん」
なんか気に入られた様で、ちゃん付けしてきたが、まぁ別に嫌でも無いので、好きに呼ばせる事にしよう
特別目くじらを立てて、この先の生活を犠牲にする必要もないしな、うん
と、そこまで考えて自分の思考の変容に気付く、前世の俺で有れば絶対に ちゃん付けをされたら、嫌だから次回からは呼び捨てで構わないと言っていた筈だ
だと言うのに、俺はプレセアに ちゃん付けされる事を容認して、何の違和感も感じていなかった
これも対価なんだろうが、少し不気味だ