上級職人街を進みながら軽く耳を澄ませてみると、鉄を打つ槌の音が遠くから聞こえる
「刀剣を打つ音でしょうか? 遠くから聞こえますね」
「カヅキ殿は凄いですね、私にはサッパリです」
「俺にもサッパリだ、カヅキ 何処から聞こえる?」
「そうですね・・・進行方向を12時として3時方向ですね」
「ほう、カヅキ殿 正解です そちらには刀匠がおります」
私の呟きに反応した
「興味ありそうだな? 叔父上、お願いします」
「はい、承知致しました」
私が刀匠に興味を持っている事をナズナに察しられたらしく、蓮へお願いすると、蓮はすぐさま刀匠の方へ進行方向を修正する
「ありがとうございます、貴方様 蓮様」
「構わないさ、俺も
「私としても、カヅキ殿とナズナ殿下には少しでも吾妻の事を知り、良い関係を築いて行きたいのです、それに刀剣類は実用性も そうですが 美術品としても価値が有りますから」
先導する蓮とワガママを許してくれるナズナへ お礼を言うと、蓮は あくまでも打算の元の行動と言い、ナズナも自己都合もある旨を伝えてくる
やはり私の婚約者はイケメンなのではないだろうか? あと蓮はイケおじ
そんな訳で進んで行くと槌を振るう音が大きくなり
「コチラが我が吾妻でも5本の指に入る程の名工
「これは・・・鬼気迫る迫力を感じますね」
「分かるのですか?」
「えぇ、鍛冶場の匂いも そうですが、鋼を打つ音も振るう際の気迫も意思も相当のモノです・・・物美優山の軽い気持ちで入ろうモノなら、間違いなく怪我では済まないでしょうね」
「やはり俺には分からないな・・・」
刀匠の工房前までは来れたが、下手な事をすれば何が起こるか分からない雰囲気というか、殺気に似たナニカを感じ 蓮に言い 刀剣類が購入出来る店へと案内してもらう
ひとまず、ナマの鍛冶場の匂いと気配を肌で感じれた事を喜ぶとしよう、いつか機会が有れば相応の覚悟を持って再度 訪れる事にしよう、その時まで我慢だ
「こちらがカヅキ殿が御所望した刀を扱う店です、実用性・鑑賞性 共に最高と自信を持ってオススメ出来ます」
「ありがとうございます、蓮様」
蓮の案内で刀剣を扱う店に到着し、私はお礼を言って入店すると ガラスケースの棚に 幾つかの刀剣が飾られている
「これは
「いやいや店主殿 出迎え感謝致す、実は隣国に嫁いだ姉の息子であるナズナ殿下と婚約者であるカヅキ殿が刀に興味が有るそうで、来店したのです」
「それはそれは ありがとうございます、ごゆっくりとご覧になって頂けると幸いです」
「はい、しばし失礼致します」
座敷席の様な場所に座っていた初老の男性が蓮を見て すぐに寄ってきて会話をし、蓮はナズナと私の紹介をしてくれる
それから私はブリジットを伴って店内を見て回る、抜き身の刀は美しい
「綺麗ですね」
「えぇとても」
様々な日本刀が並んでいる中、脇差の様な短刀もあり どれも美術品としても価値がある物ばかりだ
「これは・・・懐刀ですね」
「鍔が無いですね?」
「それは合口という拵えですね、懐刀は文字通り懐に潜ませる護身用ですから鍔が有ると引っかかるでしょう?」
「なるほど、カヅキさんは博識ですね」
「たまたまですよ」
私は懐刀、いわゆる守り刀と呼ばれる護身用の短刀を見つけ眺めていると、ブリジットが不思議そうに呟いたので説明してあげる
合口とは鞘と柄がピッタリと合う仕様の事で、ルパン3世の五右衛門が使う斬鉄剣や任侠作品に出てくるドスとか、鍔の無い刀剣のアレだ
「お
「そうですね、丁度良いかも知れないです」
「確か短剣術にも心得が有ったはずですしね」
「ターニャさん、何者なんです?」
「私の頼れる お義母様ですよ」
侯爵家夫人となるセンセイへ お土産の守り刀として購入を決め、どれを贈るか念入りに厳選する
守り刀と言うのは護身用であると同時に、女性としての尊厳を守る為の最終手段へ使用する物らしい
まぁ文字通り お守り の意味合いも有るのだけどね
「この漆で拵えてある懐刀にしましょう、私は こちらの・・・
「シンプルで良いですね」
「こう言うのは、シンプルだからこそ美しいですからね」
「確かに」
私は吟味に吟味を重ねてセンセイへの お土産と自分用の懐刀を見つけ、購入を決意する
私に子供が出来て、その子が娘なら嫁入りの時に渡す事も出来るし 足らなければ また此処に来て選べば良い
にしても、見ているだけで楽しいな 此処は、時間を忘れてしまいそうになる
やっぱり私が見様見真似で作った直刀よりプロの刀匠の物の方が質もレベルも段違いに高い
普段使いに、1振り買って行くのもアリだな