二段階変身ってロマンだろ? えっ違う? 作:変身しながらの変身好き好き侍
こんな世界で夢を見続けるなんて、きっと楽な事じゃない。
かっちょいいヒーロー、かわいらしいヒロイン、将来はお金持ち……ってこれは俺の夢だな。
まあ、そんなもの大抵は叶わない。努力とか才能とかそんな話じゃない、若き日の荒唐無稽な夢は、そもそも現実離れし過ぎて地に足が着いていないからだ。それを時間と共にどうにかこうにか折り合いを付けて、夢と言う名の妥協の塊に仕立て上げる、そのプロセスこそが大人になるって事だ。
「……ねぇ、天乃ちゃん。何言ってるの?」
「ん、まあ、1人黄昏れてムード作るのはイントロダクションにはありがちだろ?」
夕暮れを望むブランコからは2人の影が伸びる。俺と、もう1人の女の子。側から見ればガールズトークだろうが、俺からすれば
ブランコを漕ぎ、すれ違いながら会話する俺たちは友人と呼ぶには深くないが、他人と呼ぶには浅い、そんな微妙な関係だった。
「いつもそうだけど、今日は一層分かんないね。
「行けるなら行ってみたいね、でも家業が忙しいからねえ。それに行った所で最近の子についていける気しないんだよ、おじさんには」
興味本位と言うよりは、忘れかけたありし日の思い出に帰りたい、そんな気分だった。あの頃に戻りたいなんて思いはなかったつもりだが、いつの間にか人は過去を美化してしまうらしい。老境の兆しなんてのは、こんな所で自覚させられるモンなんだなと理解してしまう。
また歳を取ったな童貞おじさん、本当なら目の前の女の子……中学生くらいの女が居てもおかしか無いんだぞ。そんな風に自分自身を詰りたくもなる。
「そのおじさんってのも、何? どう見ても天乃ちゃんは女の子でしょ?」
「そう見えるか? 随分と良く見てくれてるな。でもどれだけ外を取り繕っても、中身は変わらない」
「……中身は、変わらない。そうだけど、そうなれたら、素敵だと思うな、私は」
「おじさんも、そう思うね」
日が暮れる。とっくにカラスは鳴いている、子供は帰る時間だ。ブランコを飛び降り、俺はブランコを囲む柵に腰掛けた。
「親御さんに心配かけるんじゃない、とっとと帰りな」
「天乃ちゃんもでしょ?」
「おじさんなんかには居ないって」
「あ……ごめん」
いやいや、両方とも老衰してんだ。この上なく幸せな死に方だぞ、出来れば俺もそれに肖って平穏無事にくたばりたいモンだね。
なんて言ったら頭にハテナを浮かべる事は間違い無し。勘違いした彼女には悪いが、そのままで居てもらおう。
「で、でも、外は1人じゃ危ないから、天乃ちゃんは早く帰った方が良いよ」
「いやあ、お説教なんていつ振りかねえ。おじさん少年時代にタイムスリップした気分だよ」
「少年?」
「本当の所は若い男女関係なく使える言葉さ、今じゃ少年少女なんて言うけど」
「へぇ」
別に俺は子供に知識をひけらかしたい訳じゃない、衒学的になろうたって、俺みたいな中途半端じゃ遅れて来た厨二病なんて言われて肩を落とすだけだ。
俺が
それは彼女が──魔法少女だからだ。
所変わり市街地、街は夜の帷と透き通る静けさに包まれている。
──ガンッ!!
そんなムードをぶち壊す衝撃と音が、虚な空間を白熱の戦場に変えていく。
「っ、また現れたのね! ゲドー伯爵!」
「魔法少女め、あいも変わらず、毎晩毎晩ご苦労な事だ」
「貴方が現れるからでしょ!?」
空を睨む少女は、白とピンクのひらひらしたお姫様チックな服を着ていた。まるでアニメの中から飛び出したかの如き姿、長いツインテールも見事なまでにピンク色、静かな街に一滴の色彩が浮き出る様な存在感を放っている。
対するは青ざめた肌に吊り上がった赤い瞳の男。貴族趣味な服装に紫色をした裏は赤のマント、まるで吸血鬼だ。しかしながら奴は吸血鬼じゃない。それは俺も彼女もよく知る所だ。
で、今何が起こってるかと言えば単純明快、魔法少女と悪党の戦いだ。
魔法少女はここ最近深夜帯に現れるあの青肌の男、ゲドー伯爵と戦っている。しかしながら連日の深夜帯に及ぶ戦いと迫る期末試験の板挟みにより彼女は疲弊していると言うのが俺調べのデータだ。
何でそんな事を知っているのか、それは説明不要だろう。さっきまでブランコに乗って会話してた仲なんだからな。
さて、今も魔法少女とゲドー伯爵は市街地の上空で戦っているが、魔法少女は疲弊しながらも優勢に立ち回っている。ゲドー伯爵のひらりはらりとした体捌きに食らいつき、鋭い殴打を見舞っている最中だ。しかしながら、一発一発がソニックブームめいた物を発する拳とはなんだろうか、さっきから当たり前の様に10m以上もジャンプしてるのも、側から見ればこうも異様な光景に見えるのかと再認識させられる。
「ぐっ、中々にやるな」
「早く終わらせないと……っ!」
身体能力を極限まで強化された魔法少女の一撃は、多少の疲弊じゃ翳らないと言う訳だ、魔法はどこへ行ったのか。深く考えてはならない話なんだろう。
『全く、弱っている魔法少女にやられているなんてゲドー伯爵とやらも名前の割に大した事はない』なんて思ってはいけない。魔法少女が優勢、それは当たり前だ、奴は手を抜いているのだから。
奴は威力偵察と相手の疲弊を狙う策士だ。彼女の力を見極めつつ、それと気付かれない様に接戦を演じ、夜明けギリギリまで相手をさせる。そうして限界まで体力を削った後に仕留める。そして倒れた彼女に口では言えない様な事をするのだろう……と、後半は俺の偏見が多分に含まれているが、予測出来るやり口としてはこうだ。通りで卑劣さが顔から滲み出してる訳だ。
その証拠に、彼女は気付いてなさそうだが、拳の速度が鈍り始めた。疲労が
「くっ、くくく!」
「何を、笑って──」
「くっハハハハッ!」
そこからは、完全にゲドー伯爵のテンポだ。
今までマントの下に隠していたレイピアを取り出し、足取り軽やかに魔法少女を削っていく。身体能力を強化された魔法少女たちも、人である以上疲労には勝てない。自然の摂理だ、不自然の極みみたいな存在だがな。
奴は自分の得物すら隠していた徹底ぶり、そこまで来たからには、ここで確実に仕留める腹積りだろう。
「こんな力を隠してたなんて……」
「我はゲドー流の正統後継者、我が血族の再興の礎となれ、魔法少女パステルミルキー!」
一閃一閃、ブロック崩しの様に引き剥がされる衣装。これ以上は流石に不味いな、色々と。俺も出るしかない。
俺は薄暗い路地裏で、懐からそっとある物を取り出した。小さな手のひらに握りしめたのは、古い何かしらの皮鞘に包まれた
短剣の鞘と柄をそれぞれ握り──引き抜く!
その瞬間、短剣から光が散らばり俺を呑み込んだ。
……俺の意識は、一瞬吹っ飛んで、気付けばまたあの路地裏にあった。
引き抜いた短剣は、一振りの長い剣となり、
引き抜いた剣の鏡面には、
いつもの事ながら、現実感が無い。何もかも、フィクションみたいに思えてならない。しかし、この足が踏みしめる感覚は嘘ではない。
視野が広がった気分だ、正確には視点が高くなった……元の視点に近付いたと言うべきか。
足に力を込め、飛び上がる。見えたのは、勝負を決めに全力の突きを繰り出さんとするゲドー伯爵と、満身創痍の彼女。
悪いとは思えても、それ以上心が痛むこともなかった。
──どう考えても、俺はヒーローにはなれないし、なっちゃいけない部類の人間だ、だが困った事に力だけは手元にある。そこら辺に捨てるにも始末が悪い不良債権だ。
そう、仕方ないから俺はやっている。最低限、力あるものの責任を果たす為に。
路地裏を飛び出し、今なお戦い続ける彼女の元へ、俺は飛び込んだ。
「これで終わり──ッ!」
奴の放った渾身の一撃。
「いっ!?」
それが彼女の胸を貫き、全てが終わる──
「……っ、あ、れ?」
──そんな事はない。それこそ夢物語だ。
何故ならば、俺の剣があったから。
僅かに弛緩した戦場の空気が、剣と剣の擦れ合う音で一気に引き戻される。
「な、何者だ貴様は……まさか、近頃になって現れ出した銀騎士とは、貴様の事か!」
至近距離で浴びる怪物の視線。一般人ならば恐怖してもおかしくはない。だが生憎一般人とは呼べない存在になってしまった俺からすると、どうも照れ臭い。目と目を合わせるなんて、誰であっても恥ずかしいだろう。
そんな照れ隠し混じりに、俺は無言を貫き剣先を押し返した。
「ぐぅっ!?」
また、どうやら俺の事は噂になっているらしい。奴らの世界、魔界ではどう呼ばれているのかと思えば何の捻りもなく銀騎士とは、逆に拍子抜けだ。侵略者のセンスとやらも、案外一般人と変わらないらしい。
「一体、どうなっている……!」
剣を両手に握りしめて、鳩尾のあたりで構える。すると、奴は逡巡した様子だった。大方継戦か撤退の勘定をしているのだろう。現に魔法少女はボロボロ、俺さえどうにかすればこれ以上の展開はない。
「くっ、ここは引くべきか!」
奴は撤退に天秤を傾けたらしい。だが、ここで仕留めた方が良いのはさっきの陰湿なやり口から把握している。
ここは1つ、賭けてみるか。
「……そうか、こんな素人の剣術に恐れをなして逃げるのがゲドー流か。名は体を表すとは、まさにこの事だな」
「なにぃっ?」
奴は、俺に目を向けた。殺意混じりに。
「流石は正統後継者だ、ゲドー流の教えが身に付いているらしい」
「……貴様、我を愚弄するか!」
あんなやり方しといて言うかそれを、なんて事は言わない。卑怯なのはお互い様だ。
あの戦いを見てゲドー伯爵はそれなり以上のプライドの持ち主だとは思っていたが、予想以上の食い付きだった。青い肌を怒りに燃やし、放たれた神速のレイピアを躱しつつ、俺はヘルメットの下で笑みを浮かべていた。
腕が立っても腹を立てたらお終いだ、お前に相応しい幕引きを与えてやろう。
俺は片手で剣を構えると見せかけて、そのまま殴りかかった。剣で打ち合おうとしていた奴の剣先は空を切り、クロスカウンター。
「何、ぐふぅっ?!」
ソードナックルとでも命名しよう。それを食らった奴は20〜30m程アスファルトを削りながら吹っ飛んで行った。
「かっ……貴様、なんと卑劣な」
別に剣と剣で立ち会うなんて一言も言ってない、俺は剣道なんてやってなかったからな。やってたとしても同じ事はしただろうが。第一、友達でも知り合いでもない、ましてや敵に払う誠意など俺にはビタ一文も無い。
無様に転がるゲドー伯爵に、俺はひとっ飛びで近付き続けて蹴りを見舞う。
タンブルウィードの様に転がった奴は、よろよろと立ち上がる。何かを言おうとしていたが、俺は構わず剣を鞘に仕舞い込む。すると、鞘の口から青白い光が漏れ出した。
「くそっ、覚えておけ! 貴様なぞかのお方の手に掛かれば……」
「そんな事、知らんな」
捨て台詞を吐き逃げようとする奴に、俺は鞘から剣を抜き放ち光を纏った飛ぶ斬撃を見舞ってやる。
「すぐにッ?!」
断末魔すらなく、奴を両断した。
泣き別れた上下は黒い光となって溶けて消える。
随分とあっさりした幕引きだったな。もし、奴がもっと早く撤退を選べたら話は変わっていたかも知れないが……費やした時間と労力がその判断を縛ってしまったのだろう。コンコルド効果ってのは魔界の住人にも適応出来るらしい、勉強になったな。
そこで、背中に刺さる視線に気付いた。振り返れば、膝を付いた彼女が俺を見上げている。あれだけボコボコにされても尚、泣かずに立ち上がろうとしていた。
「貴方は、誰なんですか?」
当然の疑問だろう。だがそれは俺自身、よく分かっちゃいない。この力は拾い物で、俺はヒーローになりたくてなった訳でもない。だからこう言うしかなかった。
「ただの、通りすがりだ」
俺はそう言って、夜空の果てへ飛んで行った。
とまあ、俺の日常風景はこんなもんだ。魔法少女や、他の連中が週間で世界の危機とやらと戦っていて、俺はそこに横から割り込む。第三勢力みたいな事をしてるが、ほぼ個人事業者だ。
人気の無い路地に戻ってきた俺は変身を解除する。鎧の姿は跡形もなくかき消え、赤髪の少女の姿へ。
さて、事務所にでも帰ろうかと道に出た時、顔を光が照らした。見上げればそこには──
「君、こんな夜に何をしてるんだ」
「……うげ」
──ライトを点けた自転車を引いて現れたお巡りさん。彼の目には間違いなく俺は赤く髪を染めて夜の街を出歩く非行少女に映っている事だろう。
捕まったら、不味い。
「あっ、君!?」
俺は脱兎のごとく逃げ出した。お巡りさんは、自転車に乗って走り出したが、その程度では俺の脚力には追いつけない。
距離を引き離し、俺は彼の視線を切る様に住宅街の曲がり角に飛び込んだ。
そして、
「──あ、すいません! 先程こちらへ女の子が走って行ったと思いますが、どちらへ行ったか分かりませんか?」
先程まで、俺を追っていた筈のお巡りさんは、俺を見ても何も気付かない。それどころか、俺に俺の行き先を聞く始末。
「……! あぁ、さっきの子? まっすぐ行ってあの十字路を右に曲がってったのを見たよ」
別に彼が無能なんじゃない、ただ俺が常識はずれなだけ。何せ今の俺は、赤髪の可愛い少女なんかじゃなく、無精髭の冴えないおじさんだからだ。
彼は軽く会釈して、その場を後にした。俺も一市民として会釈を返しておく。
コートの内ポケットの下で、古めかしい短剣と
「ほんっと、何でこうなったんだか」
ヒーローにヒロイン。成れるならどっちかしかあり得ないだろうに。俺はどんな運命の悪戯か、そうなってしまっている。
今の俺は
──本当の所は、
「夢があるようで、無い話だな」
これは。主人公になんてなれそうもない俺の、奇妙な戦いの物語である。
続きは未定。求める人が居れば、書いていくつもりではいます。居なくても、まあチマチマとやってくかもです。
と言いますか……他の人がもっと上質なものを書いてくれても良いんですよ? そっちの方が良いに決まってますから、はい。