昔から仲の良かった女の子と終わってる関係になる話   作:トマトは後ろから呼んでもトマト

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今回とっても大変でした。
登場人物同士の掛け合いってこんなに難しいんですね。
改めて創作者の方々には頭が下がる思いです。

二つ目の結末
九話目
読んでも不快にならない程度にはきちんと書けてると良いのですが。


9話

 

 

男の恋人は、固まっていた。

余りの衝撃に声が出ないようだ。

しかし、何も言わないのはまずいと思ったのか。

一言声を発した。

 

『あの…座ってもいいですか?』

 

シラが口元を抑えて笑う。

『ふふっ…えぇ、勿論。大丈夫ですよ』

『それに、敬語も大丈夫です。私の方が齢は下ですから』

 

 

二人の女性が、席に座り。

そして、秘密の話し合いが始まった。

 

 

 

 

 

シラは、目の前の女性が完全に混乱しているのを見て。

この話し合いが自分有利にスタートしたことを確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は思考する。

 

恋人さんが、お兄さんの浮気相手が私である事をほとんど知らない状態でいた。

という事を彼女の動揺具合を見て把握した。

 

…けれど、はっきり言ってこれでもまだ形勢は五分…いや、不利と言ったところだろうか。

 

そもそも私は一歩遅れているのだ。

一歩遅れた人間が挽回することは難しい。

恋愛に至っては、不可能と言ってもいいだろう。

 

だから、この話し合いで私は勝つことが出来ない。

どれだけ、傷口を浅く終えられるか。

そして、あわよくば。彼の事を諦めてもらえるように働きかける事しかできない。

 

取り敢えず、話せるようになるまでは落ち着かせてあげよう。

結構動揺しているみたいだし。この状態で話をしても、きっと場が混乱するだけだから。

 

暫く待つと、彼女が私が『シラ』かどうかの確認をしてきた。

勿論回答はイエス。そうじゃなかったらここに居ないでしょう?

 

 

また、目の前の女性は混乱しだしたけど。

辛抱強く待ってあげる。

これはコースメニューが届くまで待つ流れかな…。

 

そんなことを思いながら。

 

 

けれど、暫くすると。混乱から解放されたらしい恋人さんが私に話しかけてくる。

さて、ようやく話し合いが始まる。気を引き締めて臨まないと。

 

 

 

『えっと、名前はシラさんでいいのかな?』

 

『えぇ、それで大丈夫ですよ。本名は斎藤 檢です』

 

『そ、そうなんだ。…取り合えず、私の恋人とはどんな関係なのか教えてくれない?』

 

どんな関係…浮気相手って正直に言う?

それはなしだろう。さすがにそれはない。

 

あの人には悪いが、二股をしていることになってもらおう。

というか、私を振ってない時点で二股だから。

 

『あの人の恋人ですよ』

 

そう、言葉を返す。

すると、目の前の女性の顔が少し変わった。

 

どうやら、ようやく私の事を歌手の『RASI』から、浮気相手の『シラ』と認識したらしい。

 

『…そっか。ならさ。一応聞くけど、いつから恋人なの?』

『当然、早い方が真の恋人ってことになるんじゃない?』

 

恋人さんが、そう言ってくる。

 

…やっぱりそういう事を言ってくると思った。

私は、少し苛立ちながら目の前の女性に言葉を返す。

 

『それは違うと思いますよ。二股をかけられている恋人同士、二股をかけている本人がどちらをより深く愛しているかで決めるべきです』

 

女性の顔が歪む。少しムッとした表情になった。

けれど、はっきり言ってここで彼に連絡をされると私としても非常に困る。

 

きっとこの通りの行動をしても。お兄さんは選ばないだろう。というか選べないだろう。

最悪の場合、二人ともあの人との関係が断絶する可能性がある。

 

目の前の女性はどうなのか知らないが、私としてはそれだけは避けたかった。

 

私達の間に沈黙が流れる。

お互いに何も言わずに、時間だけが流れていく。

 

さて、どうしようかと思っていたころ。

個室の扉が叩かれる。

どうやら、コース料理が届いたらしい。

 

ちょうどよかった、いったん休憩にしよう。

店員さんを中に呼んで、料理を配膳してもらう。

 

『せっかくですし一緒に食べましょう?』

『食べないというのももったいないですから』

 

そんな言葉を目の前の女性に投げかける。

彼女もそれに同意してくれた。

 

そうして、私達は二人で食事をとり始めた。

 

 

 

 

一緒に食事をとっていると、考え方も少し変わってくるものだ。

雰囲気が、じんわりと和らいでいくのを感じる。

 

すると。

食事中に、目の前の女性がこんなことを言ってきた。

 

『あのさ。一応聞きたいんだけど、なんであの人の事好きになったの?』

『あと、どうしてあの人と関係を持ったのかも一緒に教えてほしいな』

 

『あぁ、いや。誤解しないで。純粋に気になっただけ。私。貴方の大ファンだから』

『どうしてあんな男と関係を持ったのか、気になっただけで』

 

一瞬、何か狙いがあるのかと身構えるが、どうやら純粋に興味で聞いてるみたい。

 

というか…自分の恋人を『あんな男』呼ばわり…。

 

…いや、世間的に見れば妥当な評価か。うん。私が言えた事ではないけど。

 

…きっと、この人も悪い人ではないのだろう。

だって、私に対してこの状況を逆手にとって脅しをかけてくるとかもしなかったし。きっと私を推すその気持ちは本心なのだ。

 

…まぁ、教えてあげてもいいか。

そう思って、私はあの人を好きになったきっかけ、そしてこうなった経緯を彼女に話し始めた。

 

食事を口に運びながら、一つ一つの出来事を語っていく。

 

彼と共に歩んだ道のり、恋を自覚した瞬間、彼に仕掛けた様々なアプローチ。

そして、私が彼に裏切られたと感じた事。まぁ、一方的な物だったけど。

 

耐えきれずに、手を出した事。

 

あの悍ましい関係の出発点を、語っていく。

 

本当はこんな事をペラペラと喋らないほうが良いことは理解している。

けれど、なぜか目の前の女性には言っても問題ないような気がして、すごく自然と喋ってしまった。

 

 

 

目の前の女性の顔がどんどんと微妙な表情になっていく。

まぁ、はっきり言って。私もこれを聞かされたらこんな顔になるとは思う。もしかしたらもっと酷い顔になるかも。

 

そうして、語り終わった後。彼女の顔は若干引きつっていた。

笑おうとしているけど、笑えていなかった。

 

…貴方が聞きたいと言い出したくせに、その対応はどうなのだろう。

当然の反応だが、癪に障る。

 

まぁいい、こちらが洗いざらい話したのだ。こちらからも一つ質問をさせてもらおう。

口を開いて、私は言葉を紡ぎ始める。

 

『あの、それじゃあ私も一つ質問いいですか?』

『その…今の今まで二股を咎めなかったのはなぜなんです?』

 

『きっと。だいぶ前からあの人の二股に気づいてましたよね』

 

ずっと気になってたことを聞く。

改めてこの人と会って確信した。

この人、別に鈍くない。むしろ結構聡い方だと思う。

絶対にあの人の浮気に気づいていたはず。

 

なら、何故今の今まで放置していたのか。

それを私は聞きたかった。回答によっては、私にとって嬉しい結果になるだろうから。

 

少し躊躇うようなそぶりを見せた後、目の前の女性が話し始める。

彼女の口から、彼の浮気を傍観していた理由が語られる。

 

私は、それを聞いて。

 

 

はっきり言って、ドン引きした。

 

 

…えぇ?

そんな、人の苦しむ姿に興奮するって…えぇ?

いや、こわ…。

 

なんだか、自分には理解できない深淵に触れた気がした。

苦しむ姿に愉悦を感じるってどんな趣味してるんだこの人…。

 

…というか、だからこの人浮気を傍観してたわけ?

凄いドSだ…。人を弄んでいる…。

随分な趣味をお持ちなようで…。

 

私の視線は自然と冷たいものになっていたようで。

目の前の女性が弁明する。

 

『いや、あの人にしかこんな感情抱かないから』

 

…そういう問題じゃないのでは?

いや、それでも。

浮気されたのに彼への愛は消えてないのか。

なら…まぁ。それもまた一つの愛のカタチ…なのかな。

私にはわかんないけど。

 

この人も大概拗らせてる…私より酷いんじゃない?

 

まぁ、いいや。

取り敢えず、この人の話を聞いて一つ納得したことがある。

恋人さんから感じた私と近しい気配は、私と形は違えども。

お兄さんに執着していたからだったのだ。

 

表面化したものは違えど、本質は似た様なものなのだろう。

一人の人間に固執して絶対に離そうとしない。

そこだけは同じなのだ。

 

 

…けれど、そうなってくると難しい。

彼女が私と似たタイプ、それはつまり。

自分からお兄さんを手放すことはないだろう。

そうなってくると、別れるように働きかけは出来ない。

 

 

…彼に選択を迫るしかないか…?

…いや、絶対ダメ。それはダメだ。

 

あの人にまだそこまでの決断力はない。

決断を迫ったら、多分私は振られてしまう。

 

ならば、どうすればいいのだろう?

私は、押し黙ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点は変わって恋人側。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は混乱していた。

いや…そりゃ、だって。

恋人の浮気相手が…大好きな歌手なんて思わないじゃん?

 

会えて嬉しいんだけど、こんな形で会いたくなかった。

 

え?いや、というか。

あいつに送られてたあの粘着質なメッセージRASIの物だったの?

マジで?こんなかわいい顔してるのに、怖。

 

頭の中で様々な考えがぐしゃぐしゃに回り始める。

全然考えがまとまらない。

 

いや、落ち着け私。もしかしたら何かの間違いかもしれない。

目の前で笑ってるこの子に聞いてみないと。

 

『あの…一応聞きたいんですけど。このアカウント、貴方の物で間違いない…?』

そう言って、私は『シラ』のアカウントを目の前の女の子に見せる。

もしかしたら、違うって返事が来ることに一抹の望みをかけて…。

 

『えぇ、そうですよ』

 

あぁ、デスヨネー。

目の前の少女は笑みを崩さずにそう答えた。

 

私は思わず頭を抱えそうになる。

凄い最悪。いったい何がどうなったら、恋人がメジャー歌手と浮気してるなんてことになるのだろう?

だいたい、あの人にそんな素振り何処にも…。

 

そんな素振り…あ。

 

その時、私の頭の中で様々な出来事が繋がった。

 

あ…あぁ。分かった!

 

つい最近のコンサートで彼がずっと気分悪そうだったのは、病気だった訳じゃなくて。

彼が、最近RASIの歌を聞かなくなったのは趣味が変わったわけじゃなくて。

あのコンサートで普段だったらやらないようなファンサービスを、RASIが彼に対して行ったのも。

『彼だから』やったことなのか。

 

そして、極めつけに。

最近RASIが出した新曲を彼が聞いた時に、いまにも吐きそうな反応だったのは。

新曲に出てる男性のモチーフが彼だったからなのか!

 

私はそのことに気づいたと同時に、もう一つあることに気づく。

 

え?ていうか。それだったらあの新曲って、自分の経験そのまま歌詞にしてたってこと?

あのどろどろとして、悍ましい歌詞。

自分自身が元になってるってこと?

 

え、ヤバ。拗らせすぎでしょこの子。

目の前の少女の笑顔が、凄い不気味なものになったような気がした。

 

 

…ていうか。そういえばあの歌詞の中に…無理心中を仄めかす歌詞があったような気が…。

いや、やめよう。取り敢えず話をしよう。そうしないと何も始まらない。一旦そのことは忘れましょう。

 

深く呼吸をする。

よし、少し落ち着いた。

 

そう思って、私は話を切り出した。

 

『えっと、名前はシラさんでいいのかな?』

 

『えぇ、それで大丈夫ですよ。本名は斎藤 檢です』

 

『そうなんだ。…取り敢えず、私の恋人とはどんな関係なのか教えてくれない?』

 

『あの人の恋人ですよ』

 

目の前の女性は、当たり前のように言い切った。

…なるほど、引くつもりはないらしい。そりゃそうか、あんなに拗らせてるんだもんね。

そう簡単に諦めてくれるわけないよねぇ…

 

 

私も彼女も、同じ男を好きになったのだ。彼が二股を自分からできるほど肝が大きくないのは分かりきってる。

それでも、彼女が自分自身を恋人関係だと名乗ったのは、彼を譲る気はないという意思表示なのだろう。

 

『…そっか。ならさ。一応聞くけど、いつから恋人なの?』

『当然、早い方が真の恋人ってことになるんじゃない?』

 

まずは軽いジャブ。こんなんで折れるとは思えないけど。

言わないわけにはいかない。

 

目の前の女性の顔から笑顔が消える。

冷たい、敵意に満ちた顔になった。

 

『それは違うと思いますよ。二股をかけられている恋人同士、二股をかけている本人がどちらをより深く愛しているかで決めるべきです』

 

想像通りの答えが返ってくる。

 

…それをあいつに聞けたらどれほどいいものか…。

実際それをしようと思ったわけだが、今の彼の精神状態でそれをすると彼がそのまま終わってしまう可能性がある。

 

もし仮に死なないで、と言って保険をかけたとしても。きっとあの男は私達を両方とも振るだろう。

決断できないからと言って、全てを投げ出して逃げ出す人だ。絶対そうする。

 

目の前の彼女はどうか知らないが、私はそれを容認できない。

というより、多分彼女の方が私以上にそれを容認できないと思う。

この子、なんだか既にだいぶ壊れているように思えるから。

 

しかし、彼に電話をするのが話の流れ的にも、最も簡単で安直な解決策であることも事実。

 

次に話す言葉は少し考えたほうがいいかな…。

そう私は考えて、少し口を噤んだ。

 

私と彼女の間に沈黙が訪れる。

お互いに何も言わず、気まずい時間が流れていく。

 

さて、どうしようかと思っていたころ。

個室の扉が叩かれる。

どうやら、目の前の彼女が頼んだコース料理が届いたらしい。

 

目の前に居る女性が言う。

 

『せっかくですし一緒に食べましょう?』

『食べないというのももったいないですから』

 

…それもそうだね。

私は肯定の返事を返して、彼女と一緒に食事をとることにした。

 

食事をとっていると、不思議と先ほどまでの空気が落ち着いていくのを感じた。雰囲気が刺々しいものから和らいでいくのを感じる。

 

よし、今なら聞けるかもしれない。

そう思って、私はこの会談が始まってからずっと気になっていた事を口に出した。

 

『あのさ。一応聞きたいんだけど、なんであの人の事好きになったの?』

『あと、どうしてあの人と関係を持ったのかも一緒に教えてほしいな』

 

『あぁ、いや。誤解しないで。純粋に気になっただけ。私。貴方の大ファンだから』

『どうしてあんな男と関係を持ったのか、気になっただけで』

 

私はこの空気に乗じて気になっていた事を聞く。

ずっと気になっていたのだ。どうして私の大好きな歌手が、私の恋人とそういった関係になったのか。

どこで知り合ったのかも私には分からないし。

 

一瞬、彼女も警戒したようだけど。

この空気感のおかげか、ため息をついた後に。

ぽつりぽつりと、話し始めてくれた。

 

目の前の女性の口から。

昔の事とか、彼とそういった関係になった経緯が余すことなく吐き出される。

 

私はそれを聞いて。

 

 

 

正直、ドン引きした。

 

 

え、じゃあこの子10年以上片思いしている相手を、相手に恋人が出来ても尚、まだ諦めきれずに食らいついてるってこと?

…重すぎじゃない?重力の化身だったりする?

 

盲目的って言うか、もはや盲目だよそれ。アイツ以外何も見えてないじゃん。絶対あんなダメ人間よりもいい人いっぱいいるって。

 

それに、あの男もあの男だ。

いくら何でも鈍すぎるでしょ。

話を聞く分には、相当積極的にアプローチされてたのに…全スルーって…。

 

人の感情を読み取るのが下手だとは思っていたが、ここまで酷いと思わなかった。一周回って彼女に同情してしまう。あんたのせいで一人の才能あふれる女の子の人生がとんでもないことになってるけど。

 

というか、道理でなんか執着しているように感じるわけだ。

SNSメッセージの節々から感じられる偏執的な印象の原因がよーく理解できた。

 

ていうか、この子。アイツが終わったら一緒に終わるんじゃ…

いや、さすがにそこまでではないと思う。うん、思いたい。

 

 

大好きな歌手がこんな人間だったとは…。

だいぶ複雑な気持ちだ。

 

私が明かされた真実に辟易していると。

 

目の前の彼女も私にとある質問をしてきた。なんだか少し怒ってるように見える。

…思考が顔に出てたのかな…。

 

『あの、それじゃあ私も一つ質問いいですか?』

『その…今の今まで二股を咎めなかったのはなぜなんです?』

 

『きっと。だいぶ前からあの人の二股に気づいてましたよね』

 

ん…。まぁ、さすがにそう思うのも無理はないか。

同じ人を愛する者同士、あの人が隠し事が恐ろしく下手なことくらい理解しているだろう。

私が浮気に気付いていたと考えるのも無理はない。

 

…いや、これ言っていいのかな?自分でもだいぶ歪んでいると思うんだけど…。

 

…まぁ、こちらだけ言わないのも不公平か。あっちだって話したのだ。

大人しく、彼の浮気を傍観していた理由を洗いざらい話す事にした。

 

私は、彼が苦しむ姿に興奮したこと。

そして、それが原因で彼を追い詰めながら過ごす事が私にとって至高の時間になったことを包み隠さず話した。

 

…うわ、凄い微妙な顔してる。

まぁ、そんな顔になる気持ちは分かる。けどね?貴方も大概だからね?

人のこと言えないぞ?

 

正直、拗らせ具合でいったら君の方が上だよ?

 

…まぁ、私も人のことは言えないけどさ。

 

彼女と私は、少し似ているかもしれない。

 

表面化したものは違えど、本質は似た様なものなのだろう。

一人の人間に固執して絶対に離そうとしない。

ただ、そこだけは同じなのだ。

 

 

しかし、そうなると実に面倒くさい。

…少なくとも、この子が自分から彼を諦めることはないだろう。

となるともはや骨肉の争いしか残っていないように思える。

 

…けどなぁ…彼。そうなると私達の事両方とも振りそうなんだよね…。

三角関係で自分の終わりを考える男だし…。最悪の場合、止めたのに止まらない可能性すらある。

 

そこがネックなのだ。どちらかが諦めなければ、どちらも目的に届かない。けれど、どちらも執着しているから自分から彼を離すことはない。

 

 

さて、どうすればいいのだろう?

私は悩むことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

二人の女性は、沈黙する。

静かに、食事を口に運ぶ音だけが個室に響いている。

 

お互いの隙を窺うように。

相手の考えを読み取ろうとする。

しかし、仮に相手の思考を完璧に読み切ったとしても。

目的が同一で走者が二人しかいない以上、抜け駆けが許される状況ではなかった。

 

 

二人は、それを深く理解していた。

 

 

 

それどころか、このままうだうだと奪い合いを続けていれば。目的の方がどこか遠くへ行ってしまう可能性があった。

シラはともかく、恋人の方はその危険性を認知していた。

 

男の恋人はため息をつく。

その眼には妥協の想いが浮かんでいた。

 

彼女はバッグからスマホを取り出し、操作し始めた。

 

『ね、これ見て』

彼女がシラにスマホで撮った写真を見せる。

 

『これは…なんですかこれ?』

 

それは男の検索履歴の写真だった。

 

『私の恋人の検索履歴。あの人、こんなことを考えるくらいには追い詰められています』

『私たち、追い詰め過ぎちゃったみたいだね?』

 

シラが驚きを隠さずに目の前の女性に言う。

 

『…まだ実行してないですよね?』

 

恋人は肩をすくませて言葉を返す。

 

『勿論。ちゃんと生きてると思うよ』

『でね?私が言いたいこと、分かる?』

『このままこんなことを続けていれば、きっと私たち二人とも彼とお別れです』

 

『それは嫌でしょ?』

 

シラが首を縦に振る。しかし、同時に口も開いた。

『…私は退くつもりはないですよ?』

 

分かってるよと言わんばかりに男の恋人は言葉を返す。

 

『でしょうね…貴方の執着具合はさっきの話から伝わったよ』

 

『けど、私だって諦めたくはない』

 

『だから…本当のことを言うなら、嫌で嫌でしょうがないけども…』

『あの人を失うくらいだったら、多少妥協してあげてもいい』

 

男の恋人は指を一本立てて、目の前のシラに言う。

 

『一つ提案』

 

『ふたりであの人を共有しない?』

 

『間違っても他の誰かに取られてしまわないように』

『彼が私たちの手から逃れないように』

 

『ふたりとも負けるくらいなら、一緒にゴールしちゃおうよ?』

 

男の恋人は視線をシラに向ける。

 

彼女の言葉を聞き、自分に向けられた視線を受け取ったシラは、少しの間思案を始めた。

そうして、たっぷり20秒もの時間を使ったあと。

 

ゆっくりと微笑んだ。

 

『えぇ、分かりました。…本音を言えば、私だって独占したいですけど』 

『失うくらいなら妥協します』

『その提案、喜んで受けましょう』

 

恋人はその発言を聞いて、安心したようなため息をつく。

『…ふぅ。交渉成立だね?』

『それじゃあ、これからよろしく』

 

男の恋人が、手をシラに差し出す。

 

『はい、これから一緒に頑張りましょう』

 

シラはそれを握り返した。

 

2人の女性が熱く握手をする。

それはさながら、映画のワンシーンのようだった。

 

二人が握手を解く。

 

『それじゃ、あの人をどうやって調理するかの会議を始めよー!』

『おー!』

 

そんな掛け合いから、2人の女性の話し合いが再度始まる。

この話し合いで、男の命運は大きく変わることになる。

 

一方その頃、肝心の男はというと。

 

 

ゾクリ

 

家で寒気を感じていた。

自分の知らないところで何かとんでもないことが起きている気がする。

何か、自分の運命を左右する何かが…

 

…まぁ気のせいだろう。多分疲れてるのだ。

そんな事を考えて、男は二杯目の缶ビールを開ける。

 

今日は珍しく恋人とシラの両方から連絡がないし、少しくらい贅沢してもいいかなー。

なんて思いながら。

 

そんな事を考えていると、ピコン!

と、スマホの通知が鳴る。

 

そこには、シラからの食事の誘いがあって。

男はとんでもなく嫌な予感がした。





はい。
安直な展開でごめんなさい。
私こういう展開大好きなんです。

次回、二つ目の結末
最終回
満足していただける事を願っております。
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