昔から仲の良かった女の子と終わってる関係になる話   作:トマトは後ろから呼んでもトマト

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第2話

首を掴まれながら、思いっきり押し倒される。

背中を強く打ち、男は痛みに悶える。

目の前の女性はなぜ自分を押し倒したのだろう?

それを問い詰めようと、彼女の顔を見て。

男は言葉を失った。

そこには、先ほどまでのにこやかなで端正な顔とは違う、能面の様な、感情が抜け落ちた顔があった。

その顔があまりに恐ろしくて、余りにも冷ややかだったから。

男は動けなくなってしまった。

シラが、男の両手を抑え込む。上に覆いかぶさるような体勢になり、体にのしかかる。

そうして、口を開き、言葉をつむぎ始める。

『…あのさ。ほんとは、こんなことするつもりなかったんだよね』

『ゆっくり、時間をかけて…取り戻せばいいや、そう思ってた』

『でもさぁ…』

『ありえない。私がいるのに、恋人の話する?』

『それもさぁ…なんで私を絡ませたエピソードなのさ…』

彼女が男の手首をギリギリと掴みながら、ぶつぶつと呟いている。

後半の方は良く聞き取れなかった。

ふと、我に返った男がシラに言う。

そこをどいてくれと、何に怒ってるのか分からないし、何よりこの体勢はおかしいと。

一回面と向かって話し合おうと。

そう言ったのだが…

『面と向かって話し合ってると思うけど…。あ、じゃあさ、蹴り飛ばすなり殴るなりすれば?私、貴方よりも一回り小さいし、なんなら腕力でも勝てないし』

『そしたら、どいてあげるよ。いや、どかされるの方が正しいか…はは』

虚ろな目の彼女からはそんな答えしか返ってこなかった。

殴れるわけないだろ、男はそう思った。

シラは昔からの付き合いな上に、今現在トップスターへの階段を駆け上がっている。

今が最も伸びしろのある時期なのだ。そんな時に彼女が怪我をして休養…。

その傷を自分が付けたってことがバレたら…。

背筋が凍る。

それは駄目だ。恋人と別れるどころか自分が社会とお別れしないといけなくなってしまう。

なんとか、彼女を宥めなければ。暴力以外の方法で彼女にどいてもらわないと。

男は、そう思い…。

軽率に言葉を吐いた。

シラが言葉を反復する。

『へぇ…。俺に出来る事なら何でもするから一回落ち着け…ねぇ?』

『お兄さんさぁ…。何で私がこんなに荒ぶってるかな~んにも分かってないでしょ?』

男はそれに対して肯定した。

俺は確かに何もわかってない。けど、お前とはそれなりに長い付き合いだから力になってやれる。そんなことを彼は言った。

なるべく、はっきりと。彼女の目を見て。

正直、緊張で手がぶるぶる震えていたが、それでも誠実であろうとした。

男は、本気で目の前の女性の力になろうとしたのだ。

 

その思いがシラに通じたのだろうか。彼女は少しだけため息をつくと、こういった。

『なら、私の寂しさを取り除いてよ』

「『何でも』してくれるんでしょ?」

『約束してくれるんだったら、どいてあげてもいいよ。うん』

男は即断する。シラの言う寂しさを取り除く方法が、何なのか深く理解しないまま。

それを聞くと、彼女はのしかかったまま、男を見下ろしつつ言葉を放つ。

『ならさ。ゴムはない?さすがにまだ妊娠はしたくないから』

男は思わず、はぁ?と口から言ってしまう。

『え?ないの?恋人いるんだから持ってるよね?』

いや、そう言うことではない。そう言う話ではないのだ。

言っていなかったが、彼女はそれなりに見てくれがいい。ガチ恋、と言うやつが男の友人にも何人かいた。実際、アイドルだってやれるのでは?と言うくらいの見てくれの良さだ。

昔の彼女は健康的美少女、と言った感じだったが、今の彼女は少し陰のある正統派美女。

そんな感じだろうか。

それが、自分と? 男は困惑した。いや、と言うより何でそうなる?

寂しいなら一緒に過ごすとか、そういう事では…

困惑する男を見て、シラは少し不気味な微笑をたたえながら男に話しかけた。

『…なぁに?もしかして、一緒に居れば寂しさがまぎれるとか』

『昔みたいに歌を歌えばいいとか』

『そういう事を思ってたわけじゃないよねぇ?』

そういう事だと思っていた男は、そうだと思ってました。と口に出してしまう。

するとシラが、

『はは…それじゃなぁに?私は抱けないかなぁ?結構見てくれいいし、プロポーションだって結構良い方だと思うんだけど』

と、少し誘うような顔で言う。

実際、彼女は顔もいいし、体つきもなかなか、その…良い方だと男は思っている。

きっと、ジムやフィットネスで鍛えているのだろう。健康的で、抱きしめたら多分最高なんだろう。そう言えば、男友達との猥談でも少し話題になったことがあった。

不愉快だったんですぐに辞めさせたが。

 

男はそれを見て、思わずどきりとしてしまうが、男はシラにきっぱりと告げる。

そう言う問題ではないと、自分には恋人がいるのだと。だから無理だと。

それを伝えると。

『…知ってるよ。そんなことよくわかってる…』

『…ねぇ、別にいいじゃん。バレなきゃいいし』

『私、初めては貴方がいい。そう思ってる。ずっと、ずっと前から』

『私の諦めがつくまででいいから。だから、私のこの失恋の埋め合わせをしてよ』

『私を狂わせた…その埋め合わせを…』

シラが馬乗りになった状態で彼の胸に顔を埋めながら、泣きそうな声で男に言う。そう言う彼女の姿があまりに艶めいていて、余りにも悲劇的だったから。

男は情に弱かった。妹のように大切に、一緒に育ってきた女性が、泣きそうな時、どんなことでも力になってあげたいとか思ってしまうタイプだった。

そのせいだろうか。さっきまで鋼の意思で否定していたのに。

つい、肯定してしまった。

だが、ただ肯定するのではない。それでは男としても立つ瀬がない。

きちんと条件を付けた。

『シラが満足するまで、気持ちの踏ん切りがつくまでの間だけ』

『もし、失恋が吹っ切れたら、それでこの関係は終わり』

そういう二つの条件を付けた。

それが彼にできる最大限の譲歩だった。

シラはそれを聞くと、顔を持ち上げ、ゆっくりと頬を伝う涙を拭い、そして笑った。

『ありがと…』

『じゃあ、私の気持ちに踏ん切りがつくまで…』

『よろしくね?』

頬に涙が伝ったからだろうか?起き上がったシラが男に見せた笑顔は、ひどく煽情的に見えた。

 

男は所詮1度や2度の関係だと思っていた。

彼女が想像以上に強い子だという事を男は知っていた。

あの子は強いから、1、2回やらせてあげれば、すぐに踏ん切りがつくだろう。

そう思っていた。

幾ばくもしないうちに、これが余りにも浅はかで、愚かな考えだったという事を彼は身をもって知ることになる。

 

 

 

 

 

斎藤 檢は、男を押し倒していた。

 

それはほぼほぼ反射的な物で、余りにも耳障りな言葉を吐き続けるから。

我慢していたのに、よりによって最後の言葉が私に対する感謝だったから。

おもわず、押し倒していた。

衝動的に押し倒したせいで、思っていた言葉が直接口からあふれ出てくる。

ただ、それから数刻たって。

自分の下で呆けた顔でこちらを見ている男を見て。

やってしまったと、自分に失望する。最悪な手段をとってしまった。

嫌な考えが頭をよぎる。

このまま、彼を殺してしまおうか。二人一緒に、地獄に堕ちてしまおうか。

こんなことをした時点で、私は詰みなのだから。

しかし、すぐに思いなおす。まだ、全てが終わったと限ったわけではない。

それに、殺すというのも常識的に考えて無理がある。

私は女性で、鍛えているわけでもない。体つきをよくするためにフィットネスに通ってこそいるが、筋力自体は男性に劣る。

今、彼が驚いて動けないからこの状態を維持できているのであって。

そんなことをすれば、彼が正気に戻った瞬間それこそゲームオーバーではないか。

ならば、どうしようか。そんなことを思案していると、押し倒している彼が何か言ってきた。

おや?彼はこのまま話し続けるつもりらしい。

なら、それを利用させてもらおう。私は彼に言葉をぶつける。

はっきり言って、別に殴らなくても私をどかすことは出来る。

彼の体幹なら、このまま起き上がれるだろう。

その時点でこの交渉は私の完敗だ。だから、それに気づかないことを祈るしかない。

しなくてもいい交渉を彼にぶつける。彼は、実直だ。それを利用するしかない。

私は考える。彼からどうやって自分に都合のいい言葉を吐かせようか。

そう思っていると、彼が。

 

俺に出来る事ならなんでもするから落ち着いてくれ。

 

そう、言葉を吐いた。

…ふふ。アハッ。あはははは!!

思わず、反復してしまう。こんなにも、こんなにも都合よくいくなんて。

運命は私を弄んでいるが、見捨てたわけじゃないらしい。

あんまりにも都合がよすぎる言葉に、一瞬思考がスタックする。

高笑いしそうになる口を制御しながら、なるべく、ミステリアスを取り繕う。

思わず、彼に質問してしまう。

貴方は私がなんで荒ぶっているか何にも分かっていないと。

案の定、肯定の返事が返ってくる。

ただ、その後の言葉が。

けど、お前とはそれなりに長い付き合いだから力になってやれる

 

彼が、そう言った。

この言葉には、なんて返すべきか迷ったけど。

私がこうなったのは貴方のせいなのに。

貴方が私の想いに気づいてくれればもっと幸せになれたのに。

そんな言葉が、口から出そうになる。

けれど、彼が震えているのを見て、ほんの少しだけ正気に戻る。

そうだ。彼と恋人を別れさせようと思っていたけれど、それではだめなのだ。

そのやり方では、致命的な亀裂が生まれる。

恋人と別れさせようとしてきた人物を好きになるわけがないのだ。

そもそも、そんな願いが聞き入れられるはずもない。

仮に聞き入れられたとして?その後は?

その後、私がその後釜に座れるか? 答えはNo。

当たり前の事だった。なら、この混乱の中で押し通せるギリギリのラインを攻めないと。

考えて、考えた結果が不倫だった。

いや、不倫と言うよりは浮気かな。

どうにかして、この関係に持ち込むのだ。

最初はなるべく曖昧な言い方で肯定してもらって。

勘違いに気づいた彼が、不快感を抱かない程度に話を続ける。

次は、自分の体の話を持ち出す。

はっきり言って、私はビジュアルに自信がある。それなりに告白だってされてきたし、スキンケアは欠かしたことがない。

なにより、彼の傍にいた期間、彼が最も好きなタイプに近づく努力をしている。

今までは、恋愛対象じゃなかっただけで、なってしまえば、彼をすぐに意識させる自信がある。

ただ、それだけでは足りない。その程度では彼の倫理観を打ち崩せない。

だから、最後は、私の本心を持ち出す。

思いの丈を全力で伝える。

そうすれば、彼は断れない。

彼と歩んだ長い道のりは、彼の貞操観念をマヒさせるには十分なはずだから。

 

そうして、うまくいった。

彼が、あってもなくても変わらないような条件を持ち出してくる。

あぁ、なんて無意味なのだろう。

私が、諦めると。この気持ちに、踏ん切りがつくと本気で思っているのだろうか?

もし、踏ん切りがつくような思いだったなら。

こんなことになるわけがないのに。

彼には悪いが、踏ん切りをつけるのは彼の方だ。

彼が、恋人との関係を断つその瞬間まで、私は諦めないのだから。

 

そうして、終わってる関係がはじまった。

 




これR-18にしなくて大丈夫かな?
エッチな要素は散らす程度にしておいたけど…
何分初めてな物で、有識者の方がいれば教えてくださると嬉しいです。
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