事件からの復帰ライブが無事に終わり、それからしばらくの間はアイのレッスンを見守りつつ事務や雑用をこなしていく変わりのない日々を過ごしていた。しかし、そんなある日、ブロリーはミヤコから呼び出しを受けて残るように指示された。
ミヤコ「ブロリー君、話したいことがあるから今日の業務終わり残ってくれるかしら?」
ブロリー「はい・・」
ブロリーは呼び出されるようなことをした覚えはないので怪訝な顔をしたがとりあえず業務に戻った。ブロリーの姿が見えなくなったあと、壱護が気になったのかミヤコに聞いていた。
壱護「ミヤコ、話したいことって何を話すつもりだ?あいつは特に問題になることもしてないぞ。」
ミヤコ「そんなこと知ってるわよ。業務には関係ないことよ。アイとの関係が全然進展しないから少し手を貸すのよ。」
壱護「!何言ってんだ!交際なんて認めるわけないだろ。バレたら炎上確定で社会的死亡待ったなしだぞ。」
ミヤコ「もう四つになる子供もいるのに今更じゃないかしら?それに今までうまくやってたじゃないの。」
壱護「ドームライブの直前でアイが殺されそうになっただろ!それはつまりほんの一部の奴らにバレてるってことだ!只でさえガキがいるのとバレかけてる事実に悩まされてるのにこれ以上リスクを増やしてどうすんだ!」
ミヤコ「私から見るとむしろあの二人が結ばれることは好都合だと思ってるわ。」
壱護「どこがだ!」
ミヤコ「だって、よりアイのことを守りやすくなるのよ。それにアイドルは恋愛をしてはいけないなんて決まり、うちにあったかしら?」
壱護「ねぇけど業界内の暗黙のルールだろ!それで極秘恋愛がバレて損失を被った事務所は数えきれないほどあるぞ。」
ミヤコ「そうね、確かに。でもうちももうすぐ延期してたドームライブを行うわ。それまでの短い期間耐えればなんとかなるわよ。」
壱護「・・・・」
ミヤコ「壱護も本当はあの二人が付き合うことに反対ではないんでしょ?」
壱護「・・そうだ。アイには幸せになってほしいからな。それにブロリーなら安心してアイを任せられる。身持ちが固いうえにナイフを素手で弾ける凄まじい力を持っていてもそれで驕らずにアクアとルビーにも合わせられる。安心できない要素がない。」
ミヤコ「でも彼には致命的な欠点があるわ。」
壱護「?一般常識が少し欠けてる所か?それなら補えていけるし大した問題でもないだろ。」
ミヤコ「そこじゃないわよ。アイがあんなに好意を伝えてるのに、ブロリー君が未だにそれをわかっていないことよ。流石にあそこまで誰にもわかるほど"好きです"アピールをしていたら普通はわかるものだと思うんだけど・・」
壱護「・・確かにな。見ているこっちが"お前ら早く付き合え"って突っ込みたいくらいにはあからさまにわかるアピールをしてるな、アイは。」
ミヤコ「でもあの様子だと恐らくブロリー君は理解してない。だからこの後話し合うつもりよ。」
壱護「・・そうか。やるならうまくやれよ?」
ミヤコ「ええ勿論。」
それだけを言うと壱護は去っていった。
この日の業務を無事に終えて約束通りブロリーはミヤコが待っている待合室へと来ていた。
ブロリー「来たぞ。話ってなんだ?」
ミヤコ「いらっしゃいブロリー君。じっくりと話したいからかけてくれるかしら?」
ブロリー「かけるってなんだ?」
ミヤコ「・・座ってという意味よ。」
ブロリー「わかった。」
指示通りにブロリーがソファーに座るとミヤコが前のめりになって早速本題を切り出した。
ミヤコ「ブロリー君、単刀直入に聞くわ。アイのことどう思ってるのかしら?」
ブロリー「・・は?」
仕事のことで呼び出されてると思っていたブロリーは、ミヤコからの想定外の質問にすっとんきょうな声を出すことしかできなかった。
ブロリー「仕事の話じゃないのか?というより何故いきなりアイなんだぁ?」
ミヤコ「仕事に関しては問題ないわよ。貴方はよく働いてくれてるもの、もはや貴方なしではやっていけないわ。」
ブロリー「そうですかぁ・・」
ミヤコ「話を戻すわ。何でいきなりこんな話をしたかというとね。アイがあれだけブロリー君にアピールしてるのに全然答えないからよ。」
ブロリー「どういうことだぁ?」
ミヤコ「貴方本当に気づいてないの?アイはブロリー君のことが好きなのよ。」
ブロリー「・・そういえば何度も"好き"ってアイから聞いたな。」
ミヤコ「気づいてたのね!だったらなんで何も答えないのよ!」
ブロリー「・・アイが言う俺への"好き"ってのは恋愛とやらの意味だろう?」
ミヤコ「そうよ、わかってるじゃない。なのにアイに自分の気持ちを何も伝えない理由でもあるの?」
ブロリー「俺はそれがよくわからん。アイに特別な思いを抱いているのは確かだが、これが好きなのかどうかがわからない。・・この感情はなんなんだ?」
ミヤコは思いを告げたブロリーの表情を見て"本気で戸惑っている"と察し、ブロリーに優しく導くように語りかけた。
ミヤコ「・・ブロリー君が抱いてるアイへの思いを言ってみて。感情がわからなくても言葉にすれば理解出来ることもあると思うから。あやふやで良いわ、どんな感じなの?」
その言葉を聞いて決意を固めたのか、ブロリーは自分の思いを打ち明け始めた。
ブロリー「さっきも言ったようにアイに何か特別な思いを抱いているのは事実だ、それがどういう感情なのかがわからないこともな。ただ、不快感はなくて不思議と心地良い。なんだ、中が温まるって感じか?そんな感じの思いだ。」
ミヤコ「そう。決して嫌な気持ちではないのね。他には?」
ブロリー「この思いはアイにしかない。壱護にもミヤコにも他のアイドルの連中にも親父にもクズ共にも抱いてない、アイにだけこんな思いになっている。」
ミヤコはそれを聞いて自分でも口角が上がっていくのを感じながら更に促した。
ミヤコ「なるほど、アイにだけなのね・・その中が温まる思いは具体的にどんなときに感じるの?」
ブロリー「・・アイのそばにいるときだ。特に隣人としてのアイにだ。」
ミヤコ「・・"もっと長くアイと一緒にいたい"って思いにはならないかしら?」
ブロリー「それはないな。」
ミヤコ「え・・即答・・?」
ブロリー「隣人だからいつでも会えるからな。ただ、アイに会えるのを楽しみにしている。それと"もっと"とは思わないが"出来るだけ長く"いたいとは思う。」
ミヤコ「!本当!?」
ブロリーの最初の即答に凍りついたが、その理由と"出来るだけ一緒にいたい"という思いをこちらも持っていたことを察したミヤコは満面の笑みを浮かべた。
ブロリー「・・で、俺が思っていることを言ったが何かわかったのか?」
ミヤコ「ええ!わかったわよ。はっきりとね。・・貴方達、相思相愛じゃないの。」
ブロリー「そうしそうあいってなんだ?」
ミヤコ「両思い。すなわち、アイも貴方もお互いが好きってことよ。」
ブロリー「・・俺がアイのことが好き?」
ミヤコ「そうよ。その中が温まる心地良い思いがあってアイのそばに出来るだけ長くいたいって思えるんでしょ?それに加えて、アイと離れるとどうしようもない虚無感になるんじゃないの?」
ブロリー「きょむかんってなんだ?」
ミヤコ「胸の中が空っぽになったような感じがしてボーッとするってことよ。」
ブロリー「・・確かに集中力が切れたような感覚になることはあるな。」
ミヤコ「それが虚無感よ。今はお隣さんだからあまり感じないかも知れないけど、もうアイがいない生活なんて考えられないんじゃないの?考えてみて、アイが誰かと結ばれたりしていなくなった未来を。」
ブロリーは想像した、今の充実している生活から何らかの拍子でアイがいなくなった日常を。そしてその未来に対して自分の中にドス黒い感情が募っていくのを感じた。
ブロリー(こんな未来お断りだぁ!アイは絶対に手放さぬぅ!どこのどいつだか知らんが許さん!粉々にすり潰してやる!)
ミヤコ「―――君!ブロリー君!落ち着いて。もしもの話だから。」
どこの誰か知らない第三者にとてつもない殺気を放っていたが、ミヤコの必死の掛け声に我に帰る。現状を見ると、ミヤコが必死に呼び掛けていた。現実に戻ったブロリーの殺気は治まり、落ち着きを見せた。そしてブロリーの表情は変わって決意を固めたものに変わっていた。
ブロリー「ミヤコォ・・アイは絶対に守りきる!ボディーガードとしても好きな相手としてもだ。」
ミヤコ「!そう。ようやく自覚したのね。」
ブロリー「あぁ、今の俺にしっくりと来てスッキリーした。ミヤコ、感謝するぞ。」
ミヤコ「ふふふ、どういたしまして。」
ガタン
ブロリー「!なんだぁ?」
ブロリーがミヤコに礼を言ったその瞬間だった。扉から大きな音が鳴ってそこから駆け足で扉から走り去っていく足音がした。そして、この扉のガラスはぼんやりとながらシルエットははっきりと見えるものであった。そこに映っていたのは今話のないようになっていたアイだったのだ。
ブロリー「・・まさかアイか?」
ミヤコ「・・ふふふ、ブロリー君。どうやら聞かれちゃったみたいね。ここまで来たらもう逃げ道なんてないわよ。あとは二人でゆっくりと話し合いなさいね。じゃあお疲れ様、また明日。」
この時、ブロリーは人生で初めて"恥ずかしい"という言葉を理解したのだった。打ちのめされつつ帰り支度を終えて事務所の正面玄関に向かうと、扉の前にアイが顔を真っ赤にして俯きガチガチに固まりながら待っていた。一方のブロリーも、先ほどの話を終えた直後だったので無意識のうちに視線をアイから背けていた。
ブロリー・アイ「「・・・・」」
お互いに無言だったがさも当たり前のようにブロリーが玄関の扉を開けて外に出るとアイもそれに続いた。そして二人で並んで歩き出すとアイから口を開いた。
アイ「・・ねぇブロ君?」
ブロリー「・・さっきの話、聞いてたのお前か?」
アイ「!う、うん。聞いちゃった・・さっきの話、あれって本当?」
ブロリー「あぁ、本当だ。俺はお前が好きなのかもしれん。なんかしっくりとはまったんだ。それに少し考えたが、アイが隣に住んでない生活なんてもう想像できなかった。」
アイ「・・そっか、そうなんだね。私ももうブロ君がいない人生なんて耐えられない・・時々考えるんだ、ふとしたことがきっかけでブロ君がどこかに行っちゃうんじゃないかって思っちゃってすごく怖かった・・ 」
ブロリー「俺はどこにも行かんぞ。俺は今の家が気に入って住み始めたからな。引っ越しなどしない。」
アイ「そうなんだ・・良かった・・私達両思いだったんだね。」
ブロリー「そうみたいだな。俺はこの気持ちが本当に好きって思いなのかどうかはまだわからないが。俺がどこにも行かんようにお前もどこにも逃がすつもりはないからな。」
アイ「!嬉しい。私もどこにも行かないから。・・これからはずっと一緒だよ。」
ブロリー「あぁそうだな。特別に俺のそばに置いてやろう。」
ブロリーが高らかに言うと同時にアイがブロリーの手を取って握った。
ぎゅっ
ブロリー「!」
アイ「わー、私ブロ君に捕まっちゃった♪これはどこにも逃げられないな~♪」
ブロリー「フフフ、そう来なくちゃ面白くない。」
先ほどの気まずい空気は完全になくなり、いつも以上に上機嫌になった二人。ブロリーと手を繋いでいるこのときのアイの笑顔は、間違いなく人生で一番輝いていた。
最後、上機嫌で手をつないでますが、まだ二人は付き合ってません。