"星野アイ"その人物はB小町というアイドルグループの不動のセンターを勤めるグループの絶対的エースである。アイドル界に彗星の如く現れた新星で、地下アイドルからテレビ中継される程の知名度に一気に駆け上がってきたのである。アイドルとして自分の魅せ方について常に研究し、カリスマ性を発揮することで周囲を惹き付ける人気のアイドルとなっていた。そんな星野アイは、現在隣人となっているブロリーの片手を繋いで引き止めている状態である。
ブロリー「?」
ブロリーは突然手を繋がれたことに驚いて振り返るも、そのままなにもせずに自分を見つめてくるアイにクエスチョンマークを頭の上に浮かべていた。そしてアイ本人がブロリーをひき止めているもなにも言わない理由、それは
アイ(助けてくれた感謝とお礼がしたい。)(この人を行かせたくない・・逃がしたくない・・絶対にニガサナイ・・)
建前と本音が駆け離れすぎて自分でも整理がついていないからである。何故このような思想に至ったのかは少し前に遡る。
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ストーカーであるリョウスケに襲われる少し前、アイは本日行われる東京ドームのライブに向けて準備していた。今は双子の子供にも恵まれ、アイドルと母親の両立という大変ながらも充実した毎日を送れるようになっていた。しかし、彼女の人生そのものを見てみると、それはお世辞にも幸福とも普通とも言えない過酷なものだった。
―――――幼少期、彼女の母親は男遊びが激しく、家に知らない男性がいることなど日常茶飯事だった。子供にとって知らない人が家にいるということが、平気な人と苦手な人と個人差がある。前者にとっては全く問題ないのだが、後者にとっては場合によってはものすごいストレスになったりするのだ。アイは人見知りしない性格なので、それが自身にとって救いだったのもある。それでも、知らない男性が家にいることはアイにとって自分の居場所を我が物顔で占領されていることを意味するので、あまり心地良いものではなかった。しかし、男性が家に居らずに母親と二人きりの時はまさしく彼女にとっての地獄だった。まず暴言や罵声を浴びせることは当たり前、男とうまく行かずに八つ当たりの如くアイに暴力を振るうこともしょっちゅうだった。非が無いのに毎日のように痛い思いをする彼女は、怯えながら母親の機嫌を伺わなくてはならなかったのだ。それでも最初の方はアイの為のご飯を用意してくれたりしていた。しかし、母親の男遊びが激化するとアイへの仕打ちも更に酷いものになっていった。ご飯も用意される事はなくなり、彼女はコンビニ弁当を温めたり、母親が自分の為に作った食事の残り物等を食べて飢えをしのぐようになった。遂には
"「お前なんかいらない!」"
"「産まなければ良かった!」"
このように存在すら否定されてしまうようなことさえ言われたのだ。それでもアイは"血の繋がった実の家族はお母さん以外にいない、心のどこかでは自分の事を愛してくれてるんじゃ"という事を期待していた。どれだけ怖くて叩かれることに恐怖を覚えていても、彼女にとっては唯一無二の母親だったのだ。そんなある時、事件は起こる。母親が窃盗で警察に逮捕されたのだ。身寄りがなくなったアイは施設へと入れられた。施設には自分と同じで身寄りがいない境遇の子供達が多く、暴言や暴力に怯えること無く新鮮な食事も出てくる。アイにとって間違いなく快適に過ごせる場所であった。しかし、アイはそれでも唯一無二の母親に愛されていると信じていた。刑期が終われば母親が自分を迎えに来てくれると期待していた。だが、現実は非情で、刑期が終わってもアイの母親は迎えに来なかった。そのまま捨てられてしまったのだ。その時のアイの心境は、絶望そのものだった。それからアイは明るい笑顔の鉄仮面を顔に貼りつけるようになった。自分の本当の気持ちにも、当時気遣ってくれた施設の職員にも"大丈夫!"と笑顔で嘘をついた。
アイの嘘はすらすらとまるで洗練されてたかのように自然に表れていた。そうして過ごしていくうちに見た目のルックスの良さと魅せるような演技に目をつけられたアイはアイドルへとスカウトされた。最初は断ろうとしたが、社長の"いつか嘘を本当にしよう"という言葉に惹かれ、アイは『B小町』のアイドルになった。アイドルの魅せ方について、アイは天才的な才能を発揮した。センターで歌って踊る姿は、同じアイドルグループに所属する他のメンバーの追随を許さずに一際輝いていた。それに魅了され、アイを愛して推すファンはどんどん増えていった。しかしいくらファンから愛されても、母親からあんな仕打ちを受けたアイは"人を好きになること、愛すること"を理解していなかった。本物の愛を知りたい彼女は母親になる選択をして、とある事務所に所属する男性俳優との子作りを行った。因みにその男性アイドルとの恋愛感情は一切無かった。そして星野アクアと星野ルビーの双子を出産すると、子供がいることを隠しながらアイドルと母親の二つを両立させるという前代未聞の生活が始まり、現在に至るのだ。
―――――そしてどういう訳か今日この日、熱狂的なアイのファンの一人のリョウスケに自宅の住所と子供の存在を突き止められ、殺害されそうになったのだ。
リョウスケ『ドームライブおめでとう。双子の子供は元気?』
アイ「ッ!」(!ああ・・これは罰なんだ・・皆を騙して裏切った・・私・・殺されるんだ・・でも・・アクアとルビーの成長を見守りたかったな・・死にたくないなぁ・・生きていたかった・・)
リョウスケの持つナイフが自分へと切り先を向けられたとき、アイは罪悪感を感じながら自身の死を悟って衝撃に備えて目を強く瞑ったのだ。しかし、その衝撃はいつまで経っても来なくて代わりにリョウスケが慌てふためく声が聞こえた。
リョウスケ『な、何だよお前は!邪魔すんな!!』
アイ『え・・』
アイが目を開けると、自分の腹部にナイフが刺さるまであと少しの所で、リョウスケの手首が横から伸びている長くて筋肉で盛り上がっている腕に掴まれて抑えられていた。そして切り先が自身から逸らされていたのだ。アイはその腕の主を見てみると、そこにはブロリーがリョウスケを睨み付けながらドスの利いた声で言った。
ブロリー『貴様・・家の前で面倒事はよしてもらおう・・!』
ブロリーがそう言った直後にアイと目があった。アイは突然現れたブロリーから目を離せないでいた。
アイ(大きい・・それにすごい筋肉・・)
アイは自身の命の危機なのにも関わらずそんな的外れな事を考えていた。アイよりも先にブロリーが視線を外して下を見た。アクアとルビーを認識したのである。直後にブロリーはリョウスケの腕を突き放すように離して、アイに背中を向けてリョウスケの前に立ち塞がった。
アイ(!背中もすごい・・私、生まれて初めて守られてる・・!守って貰うって・・こんなに安心するんだ・・)
ブロリー『おい小娘、お前の息子と娘ェを連れて中に引っ込んでいろ。』
アイ「で、でも・・」(それだと貴方が・・)
ブロリー『二度は言わんぞ、命が惜しかったらさっさとしろ。』
アイ「!・・うん。アクア、ルビー、こっち。」(!アクアとルビーの事を優先してくれてる・・それにこの人からはすごい自信を感じる・・でも、き・・気を付けて・・無事でいてね・・)
アイはブロリーの言葉通り、怯えるアクアとルビーを連れてリョウスケの持つ武器が届かないところまで下がった。そしてアイはブロリーの無事を心から祈った。丸腰のブロリーとナイフという凶悪な武器を持つリョウスケ、一般的に見ればどちらが有利かなど一目瞭然だ。しかし、ブロリーは宇宙の全ての生き物の中でもトップクラスの戦闘力を持つ伝説のスーパーサイヤ人である。地球人のしかも運動に長けていない人間がナイフを持ったくらいでブロリーを倒せるわけがなく、アイの心配は完全な杞憂なのである。リョウスケが叫ぶもブロリーは怯みもしない。尚もリョウスケが叫ぶ。
リョウスケ『お前に何がわかる!そいつはアイドルのくせに子供なんか作りやがって・・!散々好きだの愛してるだの言ってた癖に心の中では俺達ファンの事を見下してたんだぞ!』
アイ「ッ!」
アイはリョウスケの言葉に悲痛な顔をして思い詰めていた。しかし
ブロリー『下らん!どんな生活をしようが小娘の自由だ。お前なんかに縛られる筋合いはない。』
アイ「!」
ブロリーはリョウスケの話を最後まで聞かずに一蹴したのだ。それどころかアイの生き方を肯定するような物言いをしたのだ。それに激情したリョウスケだが、ブロリーが一瞬でナイフを素手で掴んでへし折るという圧倒ぶりを見せたのだ。
アイ(子供がいるのを肯定してくれた・・それにどんな生き方をしても良いって認めてくれた・・私を守ってくれたときも、肯定してくれた今もこの人に嘘も裏切りも無かった・・だからこんなに胸が熱いのかなぁ・・?だからこんなに心臓の鼓動が早いのかなぁ・・?だからこの人とずっと一緒にいたいって思っちゃうのかなぁ・・?)
遂にはリョウスケがブロリーに恐怖して逃げ出したことで危機は去った。だが、アイの心境は危機が去って皆無事だった喜びと感謝よりもブロリーに対する想いの方が強かったのだ。星野アイは"自宅の前で面倒事を起こされたくない"との思いで現れたブロリーにより命を救われたのだ。
―――――
このようなことがあったのだ。つまり何が言いたいのかというと、ブロリーに恋をしてしまったのだ。家族に恵まれずアイドルとしてうまくやってこれたアイにとって、誰かに身を呈して助けられたという経験は今まで一度も無かったのだ。それにアイドルファンでもない人が損得を考えずにだ。そして事が終わるとブロリーは買い出しの袋を持って隣の自宅に戻ろうとした。
アイ(え?帰っちゃうの・・?・・嫌、もっといたい・・色々聞きたい・・色々話したい・・!)「ま、待って!」ぎゅ グイッ
ブロリー「!」
それを手を繋いで引き止めたアイ、ブロリーはいきなり止められたことに驚いて振り返る。すると、再び二人の視線が合う。ブロリーは"面倒だ"と思いながらもそれを表情に出さず、そしてアイは、顔を朱らめたまま見ていた。
?「アイ、ドームライブの準備は終わったか?もう行く・・ぞ・・」
突然かけられた第三者の声。二人が視線を向けると、そこには金髪にサングラスをかけたスーツ姿の男性がいた。この人は"斎藤壱護"アイドルグループ『B小町』の社長である。その人物がアイとブロリーの手が繋がっていることを目撃した。
壱護「テメェ・・!ウチのアイドルに何手出してるんだぁぁぁ!!」
アイ「待って社長!違うの!」
ブロリーの手を離したアイは、今にも殴りかからんと言わんばかりに迫ってくる壱護との間に割って入って壱護を止めようと説得を始めた。
ブロリー(帰りたい・・)
ブロリーはこの騒動で更に時間を取られることを確信して遠い目で空虚を見つめるのだった。
文字数が多い割にはストーリーが全く進んでいません。次回からストーリーを進めますのでどうかご了承下さい。