自宅を特定したストーカーのリョウスケから星野アイを守ったブロリーだったが、そこにアイが所属するアイドルグループの社長の"斎藤壱護"が場に乱入し、今はアイと二人で話していた。しばらくすると壱護とアイの二人がブロリーの方へと歩いてきた。どうやら話し合いが終わったようである。
壱護「つまり話をまとめると、まずお前の家と子供の存在を特定したファンがナイフで刺殺しようとしたと・・それをこの人が身を呈して助けてくれたと・・それで何かしらお礼がしたいと思ったから手を取って引き止めていたと?」
アイ「そうだよ!」
どうやら事の経緯がしっかりと伝わったようである。先程までの敵対心剥き出しだった表情がうって変わって申し訳なさそうになっていた。壱護はブロリーの前まで来ると頭を下げた。
壱護「すまなかった!いきなり殴りかかろうとしてしまった。本当に申し訳ない!この通りだ!」
ブロリー「いや、別に良い。結果的には何もされてない訳だからな。」
壱護「そう言ってくれると助かる。改めてアイを、うちの娘を守ってくれてありがとう!心より感謝する。」
アイ「私からもありがとう!感謝してもしきれないよ!本当に・・!」
ぎゅ
ブロリー「へぁっ!?」
壱護「!?何してんだクソアイドル!」
ブロリーが驚愕の声をあげて、壱護がアイを非難するがそれは当然である。何故ならアイが途中で言葉を切ったかと思えばブロリーを抱き締めたのだから。とはいっても身長151cmのアイが、身長2m後半はあるブロリーに抱き着いたのだからアイの顔はブロリーの腹部から胸部の間辺りまでしか来てないが。それでも初対面なのにいきなりこんなに大胆な行動に出るのは流石に社会的に不味いのである。しかし、今のアイには壱護の叱責の声など聞こえていない。アイはブロリーを見上げると再び視線を合わせて笑顔でお礼を言った。その笑顔は、アイドルとして魅せる笑顔ではなく、顔を朱らめて心から気持ちの籠った本心の笑顔だった。
アイ「ありがとう・・///助けてくれて・・///守ってくれて本当にありがとう・・///」
ブロリー「・・礼など必要はない。俺の好きでやったことだ。」
アイ「それでもだよ・・///貴方がいなかったら今頃私は・・」
その後に続く言葉を飲み込むアイ。その先は言わなくてもブロリーでさえ察することが出来た。
ブロリー("殺されてた"だろうな。それが面倒なことに繋がることが嫌だったから俺が相手になっただけなんだが、何故この小娘はこんなにも頑ななんだ?)
ブロリーはアイがここまでするのかが理解出来ていなかった。彼は今まで自分に従ってずっと行動していたからだ、様々な星を破壊し尽くしたのは自分の本能に従って、そしてナイフを持ったリョウスケと対峙して結果的にアイを守ったことも自分の気持ちに従った結果だったのだ。そしてブロリーが想いのまま起こす行動はいつも周りからは"怯え"や"恐れ"で自分から距離を取る者ばかりだった。感謝など一度もされたことがなかったのだ。だからわからなかった、何故アイが自分に抱き着いてまで感謝を伝えるのか。ブロリーは困惑こそするものの、不思議と悪い気はしなかった。それに気づいたブロリーはどうも照れくさい気持ちになり、いつの間にかアイから視線を逸らしていた。遠くから一連のやり取りを見ていた壱護が痺れを切らして言った。
壱護「二人ともいい加減に離れろ。アイドルが男に抱き着いてる光景なんて不味いだろ。」
アイ・ブロリー「「!!」」
壱護の言葉で正気を取り戻した二人は、ゆっくりではあるがお互いの身体から離れた。アイは顔全体が真っ赤になっていてブロリーもむず痒い気持ちのまま難しい顔をしてそっぽを向いていた。そしてそんな気持ちを誤魔化すかのように話題を変えた。
ブロリー「そういや小娘。名は何という?」
アイ「え!?」
だがしかし、ブロリーが名前を聞いたとたんにアイは驚いた顔をして全身を硬直させた。壱護も驚いたのかサングラス越しに目を見開いていた。当のブロリー本人は、何故アイが驚いたのかわからず、頭を傾けてクエスチョンマークを浮かべた。
ブロリー「ん?なんだ?俺何かおかしい事言ったか?」
アイ「いやそうじゃなくて・・私の事知らないの!?」
ブロリー「俺達始めて会ったんだから知るわけないだろう。」
アイ「ええー・・なんかショックだなー。これでも私、テレビのライブにも沢山出てる不動のセンターアイドルなんだけど・・まぁ知らないならしょうがないか。私は星野アイ!アイドルのアイだよ。」
壱護「俺は斎藤壱護。アイが所属するグループの社長だ。でそっちの名前は?」
ブロリー「ブロリーです・・」
アイ・壱護「「え?/は?」」
ブロリー「ブロリーです・・」
壱護「それは聞いた!名字は?」
アイ「ほら、私で言う星野みたいな。」
ブロリー「そんなものはない。俺は生まれてからずっとこの名前だった。」
壱護「そうなのか・・なんかすまんな。」
ブロリー「何故謝る?親父も含めて俺の知り合いは名字を持ってない奴なんて結構いるぞ。」
壱護「なんとなく闇を暴いちまった気がしてな。それと話は変わるんだが、ブロリー、まさかとは思うが、アイを守ってくれた時、双子の子供を見たりしなかったか?」
突然壱護が変えた話題、それはアクアマリンとルビーのことで間違いないだろう。確かにブロリーはアイを守る時に怯える双子の子供を認識してアイを子供達と共に引っ込ませていた。別に嘘をつく理由もなければ誤魔化す理由もないため、ブロリーは素直に肯定した。
ブロリー「ああ、さっきからずっとドアからこっちを覗いている金髪の二人の子供の事か?」
アイ・壱護「「え?」」
アクア・ルビー「「!!!?」」サッ
ブロリーが指差した先には、ドアの陰からひょっこりと此方を覗くアクアとルビーの二つの顔があったが、ブロリーとアイと壱護の三人が向くと、ドアの陰に急いで隠れてしまった。ひょっこり覗いていたのをバッチリ見たアイは自分の子供にデロデロになっていた。
アイ「うちの子きゃわ~!!あっそうだ!せっかくだからブロ君にも紹介しよう。」
ブロリー「ブロ君!?」
アイ「うん!ブロリーさんだからブロ君だよ!・・もしかして嫌だった?」
ブロリー「いや、初めてそんな風に呼ばれたから驚いただけだ。」
アイ「そう?良かった~!」
アイはあだ名呼びを許可されたのがよっぽど嬉しかったのか、無邪気な子供のようにピョンピョン跳び跳ねて喜んでいた。そしてそんな様子をアクアとルビーが再びドアの陰から覗いていた。二人は大人三人に聞こえないようにヒソヒソと話し始めた。
ルビー「ねぇお兄ちゃん、あの人だよね?ママを助けてくれた恩人さんって。」
アクア「そうだな。」
ルビー「・・大きすぎない?社長よりも頭二つ分くらい飛び抜けて背が高いんだけど。それにママもなんかすごく楽しそう。顔を赤くしたママに抱き締めて貰うなんて羨ましすぎるんですけど!」
アクア「お前いつも事あるごとにアイに抱っこして貰ってただろ。それに俺とルビーでは何も出来なかった。あの人、ブロリーさんだっけ?ブロリーさんが居てくれたからアイは殺されずに済んだんだ。アイにとっては命の恩人だ。しょうがないだろ。それにお前もブロリーさんには悪いイメージは持ってないだろ?」
ルビー「それはそうだけど~。」
アクア「それよりも、何故ブロリーさんは俺達が覗いていることが分かったんだ?一度もこっちを見てなかったにも関わらず俺達がこうしていることを認識していた。それだけじゃない。ナイフを持つ奴を相手にそのナイフを素手でへし折った上に、あんなに簡単に人をあそこまで投げ飛ばせる力まである。人間なのか疑うレベルで規格外だった。ブロリーさんって何者なんだ?」
ルビー「うーん、別世界とか別の星からやってきた悪魔とか?」
アクア「・・否定できない自分がいる。でもどうしてそういう発想になった?」
ルビー「だって私達も転生してるんだよ?だったら人間じゃないのが現れても不思議じゃなくない?」
アクア「すごい説得力だな・・」(ブロリー・・すごいキラキラネームだな。覚えたぞ。・・それよりもブロリーって何者なんだ?ナイフを素手で掴んでへし折って無傷なんて普通はあり得ないことだ。別世界の悪魔説もあながち間違いじゃないかもな。それにしても、ルビーは嫉妬してたが、あれはどちらかというとブロリーがアイに迫られてるって感じか。)
アクアとルビーは転生者である。なので規格外であり、自分達と同じ独特の名前を持つブロリーに親近感を覚えるのだった。そして規格外の戦闘力を目の当たりにしたアクアは、ブロリーが人間なのかどうかを疑い始めた。
アクア(まぁブロリーが何者であれ、アイを救ってくれたことには変わりない。俺はストーカーにアイが刺されそうになってたとき、恐怖と混乱で何も出来なかった。ブロリーがいなかったら本当にアイは、いや俺達ごと殺されてたのかもしれない。ブロリーの背中に守られてる時、すごい安心感があった。不覚にも・・"格好いい"って思っちまったな・・本当にありがとう・・)
しかし、それも一瞬でアクアはアイや自分達を助けてくれたブロリーに感謝した。いまだにやり取りを続けているアイやブロリー達をずっとドアの陰から見ていた。そして、ブロリーは意識はアイ達に向けながらもそれは全て聞こえていた。
ブロリー(全部丸聞こえなんだが。あの娘の言うこと全て当たってる。俺は確かに宇宙から来たからな。)
ブロリーがルビーの思考を心の中で肯定しつつ物思いに耽っていると、先ほどから壱護が静かなのに気づいた。見てみると、ずっと片手で頭を抱えていたのだ。気になったブロリーは聞いてみることにした。
ブロリー「ん?頭なんか抱えてどうしたんだ?」
壱護「あぁ・・お前にあの双子の存在を知られたことを嘆いてた・・」
ブロリー「なんか問題あるのか?」
壱護「いや、アイドルが世間に内緒で子供を作って育てているんだぞ!それが今回アイのストーカーと君に知られてしまった!世間にバレたら大損害どころじゃ済まない!なぁ、こんなこと頼むのは助けて貰った分際で図々しいのは充分に承知している。だけど頼む、どうかアイの子供のことは公表しないでくれないか?」
壱護は再びブロリーに頭を下げて頼み込んだ。その表情は、覚悟と悲痛さを併せ持っていた。それを聞いたブロリーの答えは既に決まっていた。
ブロリー「別に構わんぞ。わざわざ言いふらす理由も無いしな。」
壱護「ありがとう、本当に助かる。はぁ、少し安心したらまた胃が痛んできた。」
アイ「佐藤社長またお腹痛いの?無理しない方がいいよ?」
壱護「誰のせいでこんなことになってると思ってんだクソアイドル!それに俺は斎藤だ!つーかお前!ブロリーのことは一回で名前を覚えたくせに俺のことは何年経っても覚えられないとはどういう了見だ!?」
アイ「だってブロ君は私の命の恩人だもん!好きな人だからすぐに名前を覚えちゃった♪」
壱護「はぁ!?好き!?」
ブロリー「好き?俺の事がか?」
アイ「うん!私とアクアとルビーの前に立って身を呈して守ってくれたんだもん。命の恩人を好きになることは不思議なことじゃないでしょ?」
壱護「・・ッ!」
アイの顔を赤くして蕩けるような表情を見て、壱護は彼女が本気だということを悟ってどこか諦めたような顔つきになった。ブロリーも驚きこそあったものの、嫌な気はしなかった。壱護がふと腕時計を見る、そして目を見開いて叫んだ。
壱護「やばっ!!もうこんな時間じゃねーか!アイ!早くドームに行くぞ!」
アイ「え~っ、嫌だ行かない。」
壱護「はぁぁぁ!!??いや行かないってお前・・」
アイ「ブロ君と一緒に居たい。今日のライブは延期で~。」
壱護「無理に決まってんだろ!」
アイ「佐藤社長なら出来るでしょ?」
壱護「俺は斎藤だ!いい加減覚えろクソアイドル!」
アイ「ブロ君も私がここにいる方が嬉しいと思わない?」
ブロリー「どうも思わん、どうでもいいことだ。」
アイ「ひどい!」
壱護「いいぞブロリー!」
ブロリー「だからアイの好きにしたらいいと思うぞ。」
壱護「マジかよお前!」
アイ「ありがとうブロ君!」
ブロリー(こいつら面白いな・・)
本人は完全に無自覚だが、自分が何かを言う度に何かしらのリアクションをとる二人を、ブロリーは心の中で面白く思っていた。
アイ「という訳で社長、今日はブロ君と居るから私はいけない。他の子達だけで出てていいよ。」
壱護「それだと『B小町』としての意味がねぇんだよ!お前が一番人気があるのは自覚してるだろ!早く行くぞ!」
アイ「でも、やっぱり無理だよ。だってブロ君、私を守ったときにナイフを素手で掴んでたんだよ?もし知らないうちに手を切っててブロ君が死んじゃったら・・」
ブロリー「無傷だ。それにその程度で死ぬほど俺は雑魚じゃない。」(そろそろ買ってきたもの家に置きたいから帰りたい・・)
壱護「と言ってるが?」
アイ「むぅ~!それとも社長は襲われて心傷してるアイドルを当日のライブに出すつもりなの?私もう今日はいいパフォーマンスできる自信ないよ?」
壱護「・・ッ!」
ブロリー(ん?なんか嫌な予感するぞ。)
壱護はアイの言うことが効いたのか、苦虫を噛み潰したような表情になると、そしてポケットから携帯を取り出した。
壱護「・・わかった。だがこれは悪魔でお前が心身ともに安定するまでの措置だからな!」
アイ「うん!ありがとう社長!」
ブロリー「・・なんだかんだ言って甘いなお前。」
壱護「うるせぇ、ほっとけ。」
壱護はアイが来れない事を理由に本日のドームライブを延期する要を他のメンバーやマネージャー、東京ドームの関係者達に伝えるためにエレベーターホールの方に歩きながら電話するのだった。
アイ「やった!これで心置きなく一緒に居れるね!ブロ君!」
ブロリー「・・悪いがそろそろ買ってきたやつ仕舞いたいから一旦帰る。」
アイ「え・・?やだよ・・もう会えないの?」
ブロリー「そうではない。予定なら空いている。それにお前もさっき休むって言ってただろ。」
アイ「ウン、ソウダネ。わかった。じゃあ三十分くらいしたら迎えに行くからね!」
ブロリー「は?」
アイ「予定なら空いてるんでしょ?ならいつ行っても問題ないよね。」
ブロリー「そうだが・・本当に来るのか?」
アイ「勿論!じゃあまた後でね!」
アイはアイドルとして魅せる笑顔でブロリーに手を振ると自宅のドアに手をかけた。いつの間にか子供達は家の奥へと入ったようだ。しかし、手をかけたその瞬間、アイの両目の白い星は、一瞬で黒くなってハイライトが消えた。
アイ「ブロ君・・ゼッタイニ、ニガサナイカラネ・・」
ブロリー「!?」
そして今度こそアイのドアは完全に閉まった。そして残っているブロリーは、最後に見せたアイの表情と重い空気にほんの少しだけ目を見開いた。
ブロリー「な、なんてやつだ・・」
いきなりとんでもなく重い感情をぶつけられたブロリーは、それだけ言うと、今度こそ家に戻れたのだった。
という事でドームライブ延期ルートです。次回は再びパラガス達を出そうと思っています。