艦娘の戦争   作:黒猫クル

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 自分の命よりも大切な生き残った唯一の身内である妹の舞風が着任してしまい、頭を抱える不知火。彼女のとった行動は…


憎悪と呪い④

 妹がここで生きていけるとは思えない。近いうちに下手をしたら明日にでも妹は死ぬ。今から現実を教えれば……? いや、そんな事では間に合わない。この地獄は身をもって経験しなければ分かるものではない。

 

 提督との話を終えて1時間ほど考えて答えが出た。出た答えは擬似的な経験をさせて、現実を叩きつけるというものだった。

 

 私は野分を殺しているのに加えて、他の艦娘の介錯もしている。その話をするだけ。根本的な解決にはならないけど、舞風の態度を少し改善できるかもしれない。せめて1日……明日1日を生き延びることができれば変わると思う。そのための措置だった。

 

「舞風、大切な話があります」

 

 自室で舞風の引越しの手伝いを終えてから声をかけた。

 

「姉さん、どうしました?」

 

 机で本を読んでいた妹が笑顔で振り向いた。

 

「野分の最後を知ってますか?」

「いえ……戦死したとは聞いてますが……」

「野分を殺したのは私です」

「えっ……?」

 

 妹の顔に動揺が浮かぶ。

 

「嘘ですよね……?」

「私が嘘をついているように見えますか?」

 

 私の反応に嘘が無いと確信したのか妹の顔に動揺が広がって青くなっていった。

 

「そんな……」

「申し訳ありません。誤解を招く言い方をしました」

「どういう……ことですか?」

「正確には私は野分の介錯をつとめました」

「何があったのですか……?」

 

 私は艦娘としての任務を果たし、瀕死になってしまった野分にトドメをさしたことを話した。

 

「どうして……」

 

 妹の顔を伝った一筋の涙に心が傷んだが我慢した。

 

「どうして、殺したのですか!?」

「それが、生き残った物の義務だからです。生前に野分ともお互いに生き残った方が死にかけた方を殺すと話し合っていました」

「だからって……!」

「今の話で分かりましたか?」

 

 表情を変えずに妹に視線を返した。

 

「ここはそれが当たり前の場所なんです。私自身、何人も艦娘の介錯をしてきました。そして、次に介錯をするのは舞風、貴女かもしれません。逆に介錯が必要な場合は貴女が私を殺さなければなりません」

「どうして……そんな事しなきゃいけないんですか?」

「ここは戦場です。戦場に甘えは許されません。介錯をする事は、仲間の死を乗り越える為に精神的に強くなるために必要なんです。明日、死んでいるのは私かもしれませんし、貴女かもしれません。舞風、貴女は甘すぎます。生き延びる為にも覚悟を決めなさい」

 

 自分でも厳しい事を言っている事は分かっている。だけど、ここで生き延びるにはこの異様な環境に順応するしかない。妹の為にも私は厳しくならなければならなかった。

 

「嫌ですよそんなの……」

「舞風、私は貴女の為に言ってるんです。私は貴女に生き延びて欲しいですし、強くなって欲しいんです」

「姉さん……」

 

 妹が涙でグチャグチャになった顔を上げた。

 

「分かりました……私……頑張ります……」

 

 妹の決意を見て少しだけ安堵感を感じた。

 

「大丈夫です。舞風ならできますよ。私の妹ですから。明日を生き延びる所から始めましょう」

「はい……」

 

 妹が震える声で呟いた。

 

 その日の夜、妹が泣きながら抱き締めて欲しいと言ったから、孤児院にいた時のように抱き締めて頭を撫でてあげた。あの頃に比べて妹は大きくなっていた。あの時のように頭にシラミは付いていなかったし、腕も骨が見えそうだった時に比べてしっかりとしていた。

 

 たとえこの先、何が起きたとしても……仮に私自身が死んだとしても……私は妹を守らなければならない。

 

 そう心に誓った。

 

 

ー--------------------

 

 

 初出撃の日、舞風は出撃前だと言うのにずっと周りを見回してキョロキョロとしていた。

 

「舞風、警戒を怠らないのは良い事ですが見てて気になるので程々にしなさい」

「は、はい!」

 

 私が注意すると緊張した様子で舞風が答えた。初出撃な上に私から脅されているから無理もないと思うけど落ち着きの無さを感じる。新兵でよく見られた警戒心も何も無くボーッとしている状態よりはマシだけど、少しは落ち着いて欲しいと思う。

 

 戦場では冷静さが必須になるが、舞風はこのままで大丈夫だろうか?

 

「水雷戦隊、出撃します!」

 

 旗艦である私の号令の元、舞風にとっての初出撃が始まった。

 

 今回の任務は船団護衛だった。任務内容は資材を積んだ輸送船を目的地である別の鎮守府まで護衛するもの。

 通る海域は危険性が低い場所だったけど、近くで大規模作戦が行われたばかりであり、周囲に残存艦隊がいる可能性がある任務だった。

 

 出撃から1時間は何事もなく進んだ。青空が広がっていて日光に焼かれるような暑さを感じる日。嫌な日だった。海上に遮蔽物が無いからものすごく暑いし、水分補給も必要になる。今回は短時間の護衛だからそこまで気にする必要は無いけど不快なことには変わりない。

 

 舞風は緊張していて、ひたすら戦闘を走る私を見ている。出撃前は辺りをキョロキョロしていたけど、今はその逆だ。本音を言うと私を見続けるだけではなく、周囲の警戒をして欲しいが、もしかしたら、私を見て何かを学び取ろうとしているのかもしれないと思うと何も言えなかった。

 

 ふと、チクリとした感触が左頬を刺した。嫌な予感を感じて周囲を見回すと視界の端に複数の黒い点が見えた。

 

 背筋がゾワッとした。黒い点は深海棲艦の群れだ。

 

「深海棲艦を発見! 総員警戒態勢!」

 

 叫び声を上げた。

 舞風が「えっ?」と呟いてキョロキョロと辺りを見回す。他の艦娘は気づいているのに、舞風だけが遅れている。

 

「左舷側です! 相手側に何か動きがあったら直ぐに私に報告して下さい」

 

 敵の出方が分からない以上、下手に動くのは危険だ。こちらは駆逐艦しかいないし、相手の方がこちらに気づいているのかさえ分からない。上手く行けばやり過ごせるかもしれないし、危険を回避できるかもしれない。

 

「深海棲艦が近づいてきます!」

 

 緊張が走る中、艦娘の一人が叫ぶ。私は小さく舌打ちした。敵に交戦の意思あり……最悪のパターンだ。

 

「敵の編成は分かりますか?」

 

 しばらくの間、沈黙が流れた。

 

「軽巡ホ級1駆逐イ級3です!」

 

 1人の艦娘の声に改めて視界に深海棲艦を収める。相手は報告通りの編成であり、緑色の目の普通の個体。相手が軽巡1駆逐3に対してこちらは駆逐6。全員で行けば勝てると判断した。

 

「迎え撃ちます。総員戦闘準備!」

 

 私の言葉に艦隊のメンバーの気が引き締まるのを感じた。舞風の様子が気になって、チラリと見ると緊張しているのか胸に手を当てていた。妹にとっては、初の実戦政権。私が引っ張っていかなければならない。

 

「私と舞風でホ級を相手にします。他の人はイ級の相手をして撃破次第、自らの判断で動いて下さい!」

 

 敵の中で一番の驚異であるホ級の相手をするのは旗艦で最も練度の高い私の義務だ。妹に同じ役割をさせるのには不安が残るが、視界に収まる範囲に置いておきたかった。

 

「舞風、貴女は回避する事を最優先にしなさい。ホ級は私が倒します」

「は、はい!」

 

 妹の声が聞こえた。

 

 私が倒れたとしても後任の旗艦は出撃前から決まっているし、妹以外の艦娘は練度が高くイ級を相手にするには1対1だったとしても十分だと思う。妹にはこの機会に戦闘を経験させるつもりで、何も不足はないはずだ。

 

「総員突撃!」

 

 私の号令の元、戦闘が始まった。

 

 私を先頭にして艦隊は単縦陣で深海棲艦の群れに突っ込んでいく。砲撃の射程外の為、こちらからはまだ撃たない。ホ級の砲塔が光るのと同時に散開した。直後に私から右舷側に5m程離れた場所で水柱が上がる。

 

「舞風、私についてきなさい」

「はい!」

 

 そのまま距離を詰めて30秒後、駆逐艦の砲撃の射程内に入った。イ級の口内が光る。咄嗟に回避行動を取ると私から2m離れた地点に水柱が上がった。

 他の後ろで砲撃音がした。私を砲撃しようとしたイ級に命中し、爆発がおこる。

 

「チッ」

 

 私も走りながらホ級に向けて砲弾をしたが至近弾でホ級近くの海面に水柱を上げただけだった。もう少し左。照準を修正し再装填しようとしたら、海面でこちらに放射状に向かってくる3本の白い筋に気づいた。

 

「魚雷! 避けて!」

 

 サッと回避すると魚雷は私の脇を通っていく。私の指示が通じたのか後方で命中した音はしなかった。

 

 敵の意図は不明だけど、深海棲艦は有効射程距離よりも遠くから撃ってきた。あっさりと回避できたのはそのおかげだ。深海棲艦達が慌てて魚雷の再装填をするのが見えた。チャンスだ。

 

 再装填をして再びホ級に砲撃をかました。砲弾がホ級の頭に命中し、火柱が上がった。相手が怯んだ隙にさらに距離を詰める。魚雷の有効射程距離になった所でホ級に向けて魚雷を発射した。

 

 10秒後、ホ級の周囲に四本の水柱が上がる。全弾命中だ。ホ級がグラりと崩れるのが見えた。

 

 ホ級を撃破したと判断してホ級に背を向け周囲を見回した。妹は私の3m後ろにいる。他の艦娘もイ級の撃破に成功したらしく、戦闘は終わっていた。

 

 突然、背筋がゾクリとした。咄嗟に振り向くと沈みかけのホ級の方向が妹に向いている。妹は周りを見ていてそれに気づいていない。

 

「舞風……!」

 

 妹に飛びつくように飛び跳ねた。時間が圧縮されてゆっくりと流れていく。

 

「えっ……?」

 

 妹が振り向くのと、ロ級の砲撃はほぼ同時だった。私が妹に覆い被さるのと同時に全身に激痛が走った。

 

 

ー--------------------

 

 

 目が覚めた。見慣れない天井が目の前にあった。白い照明が私を照らしている。

 

「姉さん! 良かった……」

 

 声のしたに振り向くと妹が泣いていた。

 

「舞風、任務は成功しましたか?」

「はい、大丈夫です」

「鎮守府に辿りついてからの記憶がありません。詳しく話してください」

 

 あの後、妹がロ級にとどめを刺したが私自身は重傷だったため。妹に背負ってもらいながら気力だけで指揮を執った。目的地の鎮守府にたどり着いた記憶はあるけど、その後の事は覚えていない。気づくと医務室のベッドの上にいた。

 

 妹の話によると私は鎮守府に着くのとほぼ同時に気を失ったらしい。そのまま医務室へ運ばれて治療後、丸一日眠っていたという話だった。妹を除く艦隊のメンバーは既に元居た鎮守府に帰っていて、妹だけは私の様子を見るという面目で残ることを許されたらしい。

 

「姉さんが帰ってこないんじゃないかと思ってずっと不安でした。私のせいで……本当にごめんなさい!」

「舞風が無事で任務が成功したのであれば私は十分ですよ」

「姉さん……」

 

 妹が私に抱き着く。妹は震えていた。

 

「死なないでください……私には姉さんしかいないんです……」

「大丈夫ですよ。私はそう簡単に死んだりしませんから」

 

 優しく呟きながら頭を撫でた。

 

 本当は死なない保証なんてどこにもない。明日には死んでいるかもしれないし、明日生き延びたとしても明後日には死んでいるかもしれない。明後日生きたとしても一年後には……

 

 私は戦争が終わるまでに自分が生きていられるとは思えない。だけど、今は嘘を付いてでも妹を安心させてあげたかった。

 

 

ー--------------------

 

 

 覚悟はしていたが鎮守府に帰ると執務室に呼び出され提督からの叱責を受けた。

「仕事に私情を持ち込むな。旗艦としての責任が取れていない。今回は大目に見るが二度と同じ事をやるな……」

 

 そんな事をグチグチと言われた。

 

 提督の言いたい事は分かる。私の行動は軍人失格だ。無事生還できたものの、運が良かっただけだ。下手をしたら死んでいたかもしれないし、妹に解釈をさせる事になっていたかもしれない。魚雷を打ち込んだ後に油断するなど私のミスが重なった結果であるとはいえ、直後に妹を庇ったのは有り得ないと言わざるをえない。

 

 私自身は妹が無事で良かったと思っているが軍人としてという目で見ると自分を責めたくなる。妹を庇った私の行動は正しかったのだろうか? 結果論だけで見れば正しかったと言える。だけど、過程やその時の心情を考えると決して褒められたものでは無い。

 

 私は運がいい。だけど、運の良さに頼りきるのはどこかで必ず身の破滅をもたらす。多くの指揮官がそうだったし、私も例外では無いだろう。だけど、妹を放置することもできない。妹に運があるかどうかは分からないけど、このままだと近いうちに必ず死ぬ。 せめて、別の鎮守府に移すことができれば……

 

 だけど、提督がそれを許してくれるとは思えない。消耗率の高いこの鎮守府が人手不足なのは言うまでも無いし、他の鎮守府への異動を希望する艦娘は少なくない。提督としても私の妹だけを特別扱いするわけにもいかないだろう。

 

 現実と理想のギャップの中、私は疲弊していった。

 

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