艦娘の戦争   作:黒猫クル

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 話が段々と壊れていきます

 余談ですが11月17日の艦隊名古屋に参加します。まだ何を出すかは未定ですが、よろしくお願いします


憎悪と呪い⑦

 瑞鳳が去ったその日のうちに私は提督に呼び出された。何だろう? と思いながら執務室のドアを開けると提督が真面目な顔で私を見つめていた。

 

「お呼びですか?」

「不知火、他の鎮守府に行くのか秘書艦になるのか好きな方を選べ」

 

 彼の言葉に首を傾げた。

 

「申し訳ございません。質問の意図が分からないのですが……」

「瑞鳳がいなくなって秘書艦のシフトに穴が空いた。それに、気づいているのかは知らんが鎮守府ではおまえが最古参だぞ」

「言われてみるとたしかにそうですね」

 

 戦死や転勤で秘書艦の人間がよく変わる関係で、いつの間にか私が最古参兵になっていたらしい。今までは瑞鳳が私の代わりをやっていたが、彼女がいない今は、お前がやれということだろうか?

 

 私の記憶する限り、提督の秘書艦は複数いたが必ずと言っていいほど最古参兵が含まれていた。秘書艦は重巡以上が勤めていると思っていたが、提督の好み以外に生存率の違いもあったのかもしれない。

 

「普段なら秘書艦を命令するが……お前はここまで務めてきた功績がある。だから、特別に転勤か秘書艦か好きな方を選ばせてやる。好きな方にしろ」

 

 考えるまでもない。私の答えは一つだった。

 

「秘書艦をやらせて下さい」

「本気か?」

 

 提督が意外そうな顔をした。

 

「私は鎮守府を離れる気はありません。転勤か秘書艦か? と言われたら秘書艦を選びます」

 

 沈黙が流れた。

 彼としては私への慈悲のつもりだったのかもしれない。普通の艦娘なら、間違いなく転勤を選んだと思う。だけど、私にはその選択肢は無かった。

 

「……まだ、舞風の事を根に持っているのか?」

「そうしないと生きられなくしたのは司令では? 今でも妹の事はたまに夢に出てきます」

 

 私の言葉に彼がため息をついた。

 

「馬鹿馬鹿しい。復讐と言ってもお前は何をする気だ? 舞風が死んでからの2年間、お前は何もせず、黙って俺の指示に従っていただけじゃないか」

「それでいいんです。何もしない事が私の復讐ですから」

 

 私の言葉に彼の顔が歪む。

 

「どういうことだ?」

「司令は生きている限り、罪を犯し続けその度に苦しみます。私は司令が苦しむ顔が見たいんです。秘書艦にしてくれた事には感謝しています。これからは近くで司令が苦しむ様子を見れますから」

 

 引きつる提督の顔に口角に力が入る私を気味悪いと思ったのか彼は視線を逸らした。

 

「……好きにしろ。秘書艦任務は明日からだ。朝6時までに来い」

「承知しました」

 

 部屋に戻る間、私の復讐が大きく進んだ事に達成感を感じた。

 

 

ー--------------------

 

 

 秘書艦任務は過酷だった。ろくに説明は無かったし、ミスをすると怒鳴られる……他の秘書艦の艦娘に頭を下げて仕事のやり方を聞きながら、手探り状態で進めざるを得なかった。

 

 提督は私への嫌悪でキツく当たっていたのだと思う。秘書艦になってからは、無理な出撃も多く入れられたし、周囲から見ても私が提督から嫌われているのは明らかだった。

 

 だけど、3週間もすると秘書艦にも慣れたし仲間の介錯を他の艦娘に強制して自己嫌悪に苦しむ提督を眺めるのはやっぱり気分が良い。秘書艦任務の間、私はずっと提督の傍にいた。彼が罪悪に苦しむように。彼の気が休まらないように。

 

 提督は平気なフリをして、私の前では何事も無かったかのように過ごす。だけど、それで十分だ。無理な強がりは精神に大きな負担をかけるし、彼が誤魔化そうとしてもため息や顔の引きつり等の細かい動作で提督が苦しんでいる事には気づいていたから。

 

 日々の負担に私が加わり、提督は確実に消耗していった。

 

 

ー--------------------

 

 

 秘書艦に着任してから1ヶ月後、瑞鳳の代わりに私のルームメイトとなる艦娘が着任した。

 彼女が着任した日、私が自室で艤装の手入れをしているとドアが開いた。視線を向けると、狐色の髪と目を持った少女が私を見つめていた。

 

「久しぶりね不知火」

 

 着任した艦娘は同艦型であり、私の義理の姉の陽炎、私にとって3人目の相方になる艦娘だった。士官学校を卒業して以来の再会だった。

 

「お久しぶりです。3年ぶりですね」

 

 陽炎は昔に比べて顔が険しくなった気がした。目立った傷は無いけども彼女なりに苦労したのだと思う。

 

「変わったわね」

「そうですか?」

「ええ、目付きが全然違うもの。野分と舞風はどうしたの?」

「戦死報告が届いていませんでしたか?」

「……貴女が殺したって聞いたけど本当?」

 

 そう呟いた陽炎の声は震えていた。彼女を見ると目の奥に激しい怒りが見えた。私は心の中でため息をついた。

 

「否定はしません」

 

 陽炎の目がカッと見開く。

 

「ふざけてんじゃないわよ! 実の妹と私の妹を殺して何様のつもり!? 狂ってるの?」

「私は介錯をしただけです。2人とも助けようの無い状態でしたから」

 

 私の言葉に陽炎が小さく舌打ちをした。

 

「貴女……昔からそうね。そういう所、本当にムカつくわ」

「そうですか?」

「私、昔から貴女の事、大っ嫌いなのよ。年下の癖に私よりも成績優秀で私よりも大人びてて実の妹にも私の妹にも姉として慕われる人間……ずっと嫉妬してたわ。嫉妬していたからこそ、認めていた。認めていたから野分を任せれたのに……舞風も大丈夫だと思っていたのに……」

 

 陽炎の言葉を馬鹿馬鹿しい思った。過ぎた事は過ぎたことでしかない。謝れとでも言いたいのだろうか? 私は艤装を手入れする手を止めた。

 

「謝れとでも言うのですか? 私は神ではありません。野分にも生きていて欲しかったですし、妹も守ろうとしました。無駄な努力と願いでしたが」

 

 パシンと音と共に左頬に鋭い痛みが走った。

 

「いい加減にしなさい! 昔の貴女は妹の為に生きていた。だけど、今の貴女は何? 何のために生きているの? 命よりも大切な妹を殺して抜け殻みたいになってるんじゃないの!?」

「私の生きる目的ですか? 司令官への復讐ですよ」

「復讐? どういうことよ?」

 

 隠すほどの事でも無いし、黙っていた所でどうせバレる。私は私の中の物を全て話す事にした。

 話をしている間、陽炎は気持ちが落ちついてきたのか口調から興奮が消えていったが、代わりに顔色が青くなっていった。

 

「貴女……何やってるのよ……?」

「おかしいですか?」

「当たり前よ。復讐なんて馬鹿な事は辞めなさい。何の意味があると思っているの? 舞風だってそんなこと望んでないわよ」

 

 彼女の言葉に小さな苛立ちを感じた。陽炎の実の妹の野分も提督に間接的に殺されているのに理解できないのだろうか?

 

「私の自己満足ですよ。それの何が悪いんですか?」

「何が悪いって……他人を害する事が悪い事なぐらい分からないの?」

「今の私に善悪は関係ありません。今の私はそれが無いと生きていけません。それとも、陽炎が私に生きる意味を与えてくれるとでも?」

 

 私の言葉に沈黙が流れた。

 陽炎は下を向いて、片手で考え込むように頭を抱えている。私としては時間の無駄だから、早く会話を切り上げて欲しかった。

 

「分かったわ……貴女の好きにしなさい。だけど、私はそれに協力する気は無いから」

「そうですか。好きにして下さい」

 

 そう返して私は艤装の手入れを再開した。

 

 

ー--------------------

 

 

 その日から陽炎との共同生活が始まった。陽炎は士官学校時代とは違い、私生活を指摘する事は少なくなった。ただ、指摘する時は睡眠時間や食事の栄養バランス等、私自身も直さなければならないと思う事を言ってくる。私はそれを素直に聞いた。私は、生存の為に役に立つ事は全て受け入れるべきだったから。

 

 1週間もすると陽炎の目から私への嫉妬は消えていた。代わりに彼女は私に対して必死になって追いつこうとしていた。陽炎は実力を確実に上げていき、私と個人演習をしてもある程度は対応できるようになっていたと思う。

 

 だけど、どうしても足りない物があった。

 陽炎は仲間を失うかもしれない恐れや戦場での警戒心が不足している。

 

 陽炎のいた鎮守府は後方で比較的安全な護衛任務や遠征がメインだった場所だ。その事から判断すると、仲間の死を経験していないのだと思った。

 

 陽炎が来て2週間が経ち、その機会は訪れた。その日の出撃で着任して1週間もしていない艦娘が負傷し、瀕死になった。彼女は新人という事もあって、陽炎がかなり気にしていた艦娘だった。

 

 報告の後、陽炎だけが提督に残るように指示を出された事を聞いて私は、2人の運命を察した。

 1時間程して陽炎は顔色を真っ青にして部屋に帰ってきた。

 

「お疲れ様です」

「お疲れ……」

 

 陽炎がベッドに倒れ込んだ。息は浅く、ゼェゼェと息切れを起こしているようにも見える。私は無言でお茶のペットボトルを彼女の横に置いた。

 

「ありがとう」

 

 少しして陽炎はペットボトルを手に取るとゴクゴクと飲み出した。

 

「落ち着きましたか?」

「うん。大丈夫……」

 

 そう呟いて、起き上がった陽炎は、少し気持ちが落ち着いたのか息切れは無くなっていた。しかし、顔は青ざめたままだった。

 

「不知火……」

「どうしました?」

「貴女もあれを……やらされたの?」

「はい。私が最初に介錯したのは野分でした」

「舞風も?」

 

 妹の名前を聞いて、あの時の光景がフラッシュバックした。妹の死から2年経つが今でもたまに夢に出てきてしまう。陽炎の前という事を意識することでどうにか動揺を抑えられた。

 

「……はい、そうですね」

「そう……」

「少しは私の気持ちが分かりましたか?」

 

 私の言葉に陽炎の表情が歪む。

 

「分かったわよ……でも、間違ってる……」

「そうですか」

 

 お互いに話す事が無くなりその日は1日、陽炎と口を聞かなかった。

 

 

ー--------------------

 

 

 陽炎が介錯をしてから1ヶ月後、秘書艦任務の終わりに提督に声をかけられた。

 

「不知火、話がある」

「何ですか?」

「転勤だ」

「お断りします」

「命令だ」

 

 提督の言葉に小さくため息をついた。

 

「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「後方の鎮守府で、実力のある駆逐艦が欲しいと要望があった。それに応じただけだ」

 

 嘘だとすぐに気づいた。

 提督がそんな理由で最古参の大駒である私を手放すはずがない。彼は私を遠ざけたいだけだ。

 

「本当は、怖くなっただけなんじゃないですか?」

「何が言いたい?」

 

 彼の眉間にシワが寄るのが見えた。

 

「司令は私が怖いから遠ざけようとしているだけなんじゃないですか?」

「お前がそう思いたいならそう思ってもらってかまわない。だが、命令には従ってもらう」

「臆病ですね。そんなに私が傍にいるのは嫌ですか?」

 

 小さな舌打ちが聞こえた。

 

「なんとでも言え」

「私一人を飛ばして罪から逃れられるとでも?」

「黙れ」

 

 提督が私を睨みつけたのを見て口元がニヤけるのを感じた。

 

「命令であれば従います。ですが、罪からは逃げられませんよ?」

「黙れと言っているだろ!」

「失礼します」

 

 私は、提督の怒鳴り声に満足してその場を後にした。

 

 急遽決まった転勤だったが、不思議な事に陽炎が私について行くと言って聞かなかった。提督も私を制御できることに期待したのか、それを許可した。移動中に私についてきた理由を聞いたが陽炎は、それ話さなかった。

 

 新しい着任先の鎮守府についたその日のうちに私は現地の提督の寝込みを襲う形で「元いた鎮守府に返せ」と脅迫した。提督が「撃ったらどうなるか、分かっているのか?」と言ってきたから「試してますか?」と返すと、彼は顔面蒼白となった。

 現場に駆けつけた陽炎は私を止めなかった。むしろ、提督に対して私の事を「何も失うものがない無敵な人」と言い、私の弁護と提督の説得に回ってくれた。陽炎の話を聞いた上で2週間だけ艦娘の訓練に付き合い、訓練の改善をする事を条件に元々いた鎮守府に帰ることを許可された。

 

 2週間という短い期間だったが私達は所属している艦娘の意識改革に成功した。口数が少なく、強くて厳しい私と周りに気遣い頼りになる陽炎。鎮守府自体が小さかった事もあったけど、私と陽炎の相性が良かったのだと思う。飴と鞭を交えて艦娘達の信頼を得る事ができた。

 

 指定された期間を終えて鎮守府を離れる時には提督(私達の実力を認めたのかを手放す事を悔やんでいた)と艦娘全員が私達を見送ってくれた。

 

 

ー--------------------

 

 

 転勤を命じられて2週間後、私はまた彼の前に立っていた。

 

「着任しました。2週間ぶりですね」

「……そうだな……」

「私一人を飛ばしても罪からは逃れられないと言いましたよね?」

「つっ……」

 

 私の言葉に提督の顔が歪んだ。

 

「どうですか? 罪から逃れる事はできましたか?」

 

 沈黙が流れる。提督の目が私から逸れた。

 

「できるわけがありませんよね? もっとも、私が戻ってきてしまったので意味が無くなりましたが……」

「向こうの提督を脅迫したらしいな……」

 

 少し気力が回復したのか私を睨み付けた彼が呟いた。

 

「はい、それが何か?」

「殺されるとは思わなかったのか?」

「殺されるなら殺されるで仕方が無いと思っていました」

「……死が怖くないんだな」

「ええ、私には失う物が何もありませんから」

 

 彼が小さく舌打ちした。

 

「狂人が……」

「そっくり、そのままお返しします」

 

 私のあざけ笑うかのような返し方にまた沈黙が流れる。提督は私と顔を合わせていられなくなったのか下を向いたが数秒してまた、顔を上げた。

 

「それで、これからどうする気だ?」

「秘書艦に志願します」

「受け入れると思うのか?」

「ええ、受け入れざるをえないと思います」

「理由は?」

「私が最古参だからです。この鎮守府では、最古参の人間が秘書艦をするのが決まってますよね? それに人手不足の秘書艦任務に志願する人間は貴重なのでは?」

 

 返事は無かった。内心は嫌だが否定できない。私は彼がそう言っていると判断した。

 提督は自分自身の感情よりも義務や使命を優先する人間。そうなると答えは1つしかない。

 

 私は無言で背を向けた。

 

「明後日からだ……朝6時に来い……」

「承知しました」

 

 提督の言葉に満足感を感じながら私は執務室を後にした。

 

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