艦娘の戦争   作:黒猫クル

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不知火の迎える結末とは…?


憎悪と呪い⑨

 瑞鳳との再会から1年が経った。

 この頃に人類の大規模な反抗が始まり、あっという間(8年間戦争をしていたにしては、の話しだが)に終戦間際になった。

 

 人類の反抗が始まってからも提督は罪を負い続けた。彼は多くの艦娘を殺した。介錯を強要し多くの艦娘の恨みを買い続けた。

 

 提督は他の艦娘の前では平然を装った。だけど、私と2人きりになると発作が起きる。仕事は手が付かなくなるし、小動物のように私に対して臆病になる。私が提督の不意をついて攻めると、面白いように反応した。他人の前では自分を誤魔化せても私の前ではできないらしい。いつの間にかどう彼をいたぶるのかを考え実行していくのが私の日々の楽しみになっていた。

 

 この1年間で提督は急速に老けた。白髪が増え、顔の皺も増えた。今の彼の風貌はとてもではないが40代とは思えない。彼は常にイライラしていて、寝る時も睡眠薬で無理矢理寝ている。ずっと彼の下にいた古参の中には彼の変化に気づいた人もいる。ただ、その原因が彼の罪の意識と私だと気づいた艦娘は陽炎を除いていなかった。

 

 終戦の前日、私は秘書艦として提督の横にいた。

 

「いよいよですね」

 

 その日の執務が終わってから提督に声をかけた。

 

「そうだな……」

 

 彼がボンヤリとした様子で外を見つめながら呟いた。

 

「戦争が終わったら司令はどうするつもりですか?」

 

 彼が下を向き、沈黙が流れた。

 当たり前だ。深海棲艦への復讐だけで生きている人間が終戦になってする事は1つしかない。提督の沈黙を見て私は笑みを浮かべた。

 

「戦争が終わった時、私は司令がどうなるのか楽しみです」

 

 彼は無言で立ち上がり、フラついた足取りでトイレに駆け込む。数秒後、彼が吐く音が聞こえた。

 

「不知火……頼みがある」

 

 トイレから出てきた彼が小声で呟いた。

 

「何ですか?」

「今、この場で俺を殺してくれないか?」

「拒否します」

「命令だ」

「命令違反と言われても拒否します。自分は逃げながら私に罪を擦り付けようとでも?」

「遺書は書く。俺の指示でやった事と分かれば罪には問われないだろう。だから……殺してくれないか?」

 

 私は提督が嫌っている火傷跡のある右目で彼を睨みつけた。

 

「やるなら、自分でしたらどうですか? 私は提督を殺すつもりはありません。司令が苦しんで発狂して、自らの手で命を絶ってくれる事が私の唯一の望みです」

「本当に悪かった!」

 

 彼が震えながら頭を下げた。

 

「何をされてもいい。金はいくらでも払うし、靴も舐める。殺してもいい。だから……」

「私は司令を許す気はありません。それに、私がこうなる事を望んだのは司令ですよね? 今更、何を言っているのですか? せいぜい最後の時まで苦しみ続けて下さい」

 

 そう返して私は執務室を後にした。

 

 

ー--------------------

 

 

 執務室を出ると後から陽炎に声をかけられた。

 

「ねぇ……」

「どうしました?」

 

 振り返ると無表情で彼女が私を見つめていた。

 

 陽炎とは一年以上の付き合いだったが、お互いに強運な事もあって相方として付き合いが続いていた。

 

「今、暇かしら?」

「執務終わりなので時間はありますね」

「ちょっと浜辺まで散歩に行かない?」

 

 彼女から散歩に誘われるのはよくある事だ。その時の気分で付き合うか付き合わないかを決めている。この時は終戦前だし付き合おうと思った。

 

 外はよく晴れていて、雲一つない天気だった。太陽が辺りを照らしていて立っているだけでも汗が出てくる真夏模様。暑い事には慣れているが不快な事には変わりない。こんな天気なのに散歩に誘う陽炎はどうかしていると思う。断らなかった私も私だが。

 

「暑いわね」

「そうですね」

 

 2人で汗を流しながら浜辺まで歩いた。

 

 浜辺に人影はなく、私達二人だけだった。海の色は澄んでいて白い波が砂浜に打ち付けていて、波の音と風の音だけがしていた。

 

「士官学校にいた時に4人で海水浴に行った事、覚えてる?」

 

 陽炎が呟いた。

 

「覚えてますよ」

「懐かしいわね。あの時は野分と舞風もいたっけ……」

「そうですね」

 

 あの時の事を思い出した。戦争状態ではあったけども、あの時は私を含めた4人が生きていて日常があった。だけど、今となってはもう過ぎたことだ。

 

「あの子達は水着を着てしゃいでたけど貴方は、ずっと落ち着いていたわね」

「舞風が溺れないか不安でしたから」

「妹が第1か……あの時の不知火らしいわね」

 

 あの時の私は舞風の為だけに生きていた。だからこそ、海水浴でも妹が心配でしか無かったし、遊んでいる余裕は無かった。

 

 沈黙が流れる。陽炎が私に何かを言おうとしている事に気づいた。彼女が何を言いたいのかは分かっているが、私から切り出す気は無かった。

 

「それで、やり遂げるつもりなの?」

 

 意を決したのか陽炎が口を開いた。

 

「なんの事ですか?」

「復讐よ」

 

 予想通りの言葉に心の中で小さなため息をついた。陽炎は私の全てを知っている。知っているからこそ私を止められない事を知っているはずだった。

 

「分かってるはずの事をどうして聞くのですか?」

「本音を話すけどいい?」

「好きにして下さい」

「私は貴女を止めたいのよ……」

 

 陽炎の言葉に私はため息をついた。

 

「ここに着任して話した時からずっと貴女を止めたかったし、助けたかった」

「その割には何もしませんでしたね」

「仕方ないじゃないの!」

 

 私の皮肉に陽炎が怒鳴り声を上げた。

 

「どうすれば良かったの? 命よりも大切な舞風が死んだ貴女は復讐だけで生きていた。止めた時にどうなるか分からなかった。だから……私は貴女を止められなかった」

 

 陽炎の頬を涙が伝うのが見えた。

 

「そうですか」

「貴女はいつ死んでもおかしくない事ばかりしていた。見ていて怖かった。生きて欲しかったから、死なないように貴女を支えた。いつか提督を許して分かり合えると信じていた。だけど、私の行いは貴女の心に響かなかった」

 

 震えた声で話す彼女を鬱陶しいと思った。陽炎がした事は私にとっては余計なお世話でしかない。私としては死ぬ時は犬死にするつもりだったし、それ相応の覚悟はできていた。

 

「迷惑をかけましたね。申し訳ございませんでした」

「提督を庇ったと聞いた時、貴女の何かが変わったかもしれないと思った。だけど、私の淡い希望にすぎなかった。貴女はより狂っただけ。火傷跡すら提督への武器にしようとしたわ」

 

 彼女の言葉に私はまた、ため息をついた。

 

「それがどうかしましたか? 嫌味を言いたいだけですか?」

「あの時の不知火に戻ってよ!」

 

 そう叫んだ彼女の顔は涙と鼻水でグチャグチャになっていた。

 

「いつのことですか?」

「何もかもが完璧で大人びていて妹想いで私よりも優れた憎たらしい妹……本当に、大っ嫌いだったわ。あの時の日々は戻らないかもしれない。だけど、あの時の貴女は良い姉だった。だけど、今の貴女は何なの? 復讐の為にしか生きられないの?」

 

 あの時の私になんて戻れるはずなんてない。戦死した実の妹の野分の姿を血の繋がりの無い、私に求めているのだろうか? 心から馬鹿馬鹿しいと思った。

 

「私は復讐の為にしか生きる事はできません。陽炎がどう思うかは勝手ですが邪魔をしないで下さい」

「そう……」

 

 グスグスと泣いていた陽炎が右手で涙を吹いた。

 

「不知火……助けてあげられなくてごめんね……」

 

 陽炎はどこかに向かって走っていった。

 

 その後の陽炎の事は何も知らない。深夜には部屋に帰ってきたが終戦まで話す事は無かったし、関わる事も無かった。戦友会で見かけても軽い挨拶をするだけだ。彼女は今、どこで何をしているのだろうか?

 

 

ー--------------------

 

 

 終戦の日、終戦宣言を聞いてから私は執務室の提督の元へと向かった。

 

「失礼します」

「来たか……」

 

 覚悟を決めたのか提督は1人で机に静かに座っていた。私を見た彼が机の下から一升瓶を取り出した。

 

「1杯やらないか?」

 

 無言で透明なグラスに注がれた日本酒に口をつけると少し辛めの味がした。

 

「お前と会って何年になる?」

「7年ですね」

「そうか……」

 

 そう呟いた彼はグラスの中の日本酒に口をつけた、

 

「7年前のあの時……お前に手を差し伸べなければ良かったな」

「そうですか? 私は満足していますよ。こうして自殺する直前の司令を見ていられるのですから」

 

 彼の嫌いな笑みを見せたが提督は表情を変えなかった。

 

「実の妹を殺した事を含めて、か?」

 

 一瞬、答えに詰まった。だけど、今更私の生き方を否定することはできない。

 

「はい。その通りです」

 

 心の中の罪悪感に蓋をして私はそう答えた。

 

「俺も自分の道を走り続けたが、お前もたいがいだな……」

 

 また、彼が日本酒に口をつけた。

 

「遺書に遺産は全部お前にやるように書いてある。好きに使ってくれ」

 

 提督としては私へのせめてもの謝罪のつもりなのだろうか? どうでも良かったけど、何かの役に立つかもしれないし貰えるものは貰っておくことにした。

 

「承知しました」

「……時間だな」

 

 彼は空になった御猪口を机の上に置いて、深くため息をつく。その後、腰にぶら下げている拳銃を手に取りこめかみに当てる。

 私の口元がニヤリとするのを感じた。

 

「次は地獄で会おう」

 

 パン! と乾いた音がして提督が倒れた。

 

 沈黙が流れる。ドサリと前のめりに倒れた彼を見て小さな笑いが込み上げてきた。

 

「アハハハ ……」

 

 笑いすぎて息が苦しくなったが止まらない。私を押さえつけていたもの全てが粉々に砕けた感じがした。

 

「ハハハ」

 

 缶詰を手渡された時、野分の介錯を指示された時、舞風の介錯を支持された時、彼が自己嫌悪で病んで行った時……笑っている間、彼との思い出が次々と走馬灯のように私の目の前に浮かんでは消えていく。

 

 私は執務室の中、1人で壊れたように笑い続けた。

 

 

ー--------------------

 

 

 戦争が終わって、私は1人になった。提督への復讐を終えた私には何も残されていなかった。

 

 今の私は適当な安いアパートを借りてそこで1人で暮らしている。艦娘でいた時にあまり金を使わなかった事と提督の遺産があるから一生食べていけると思うけど、何かをする気にもなれない。私は戦う以外の生き方を知らないのだから。

 

 突然、夜中に飛び起きたり戦時下の事を思い出して外に飛び出すような事にも悩まされたけど、月日が経つにつれて気にならなくなっていった。生活の中での差別に悩まされた艦娘もいたみたいだけど、私は何も感じなかった。

 

 今の私はとても楽だ。だけど、私は本当に生きているのだろうか?

 

 極端な話、今死んでも良いと思う。私が死んだ所で誰も悲しまないし、誰にも迷惑がかからないのだから。

 

 窓から外を眺め、気が向いた時に散歩に行くだけ。義理で戦友会に顔は出すが誰かと話すこともあまりない。何もできず、何もやる気になれない世界の中で一人きりで空虚な日々を送っている。

 

現代編は必要は必要だと思いますか?(よろしければ投票した理由を一言で良いのでコメントにお願いします)

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