艦娘の戦争   作:黒猫クル

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次回がラストです
本編の瑞鳳はまだ両親が健在で壊れていなかった頃の瑞鳳です


私の見た戦争③

 その日の夜、深夜に目が覚めた。2度寝しようとしたが目が冴えてしまって眠れない。仕方なく鎮守府の中を歩き回っているとトイレの中で異音がした。低い粘着質で聞き覚えのある嫌な音。

 

 誰かがトイレで吐いている。誰だろうと思い外で待っていると、水を流す音がしてドアが開いた。

 

「叢雲……?」

「あっ……!」

 

 トイレから出てきた叢雲はダッシュで彼女の部屋に走り出した。

 

「待って!」

「ほっといて!」

 

 止めようとしたけど間に合わず、部屋に逃げられてしまった。同時に鍵をかける音がした。

 

「叢雲、何かあったの?」

「うるさい!」

 

 彼女の怒鳴り声が聞こえた。

 

「何があったの?」

「何でもないってば!」

 

 ダメだ。話してくれそうにない。叢雲がいじけているように感じた。普段の彼女からは絶対に見られない子供のような態度。

 こういう時はどうすれば良いのだろうか? 妹がいじけた時は冷静に話を聞いてあげたが叢雲にも通用するのだろうか? 自信が無いけど今はそれ以外方法が無いと思う。

 

 まずは叢雲を落ち着かせることが第一だ。変に刺激するよりも彼女が落ち着くのを待った方が良いのかもしれない。私は散歩を再開した。

 

 

ー--------------------

 

 

 二十分ぐらい経っただろうか? 私は叢雲の部屋の外から声をかけた。

 

「叢雲、起きてる?」

 

 答えは無かった。

 

「私の独り言と思って聞いて欲しいんだけど叢雲、私は貴女が心配なの」

「……それが何?」

 

 中から叢雲の苛立ち含みの声がした。

 

「馬鹿にするつもりは無いし、誰にも話さないからできれば話して欲しい……かな」

 

 再び沈黙が流れる。叢雲を怒らせてしまったかもしれない。失敗したと思い、冷や汗をかいた。

 

「ごめん。疲れてる……よね? 今日のことは皆には秘密にしておくから……おやすみ」

「……待ちなさいよ」

 

 叢雲の声に足を止めた。

 

「入って」

 

 部屋のドアが開く。私は無言で彼女の部屋に入った。

 

 叢雲の部屋の中は散らかっていた。衝動的に当たり散らしたらしく、洗濯物は散らかっていたし色々な物が壊れている。

 

「馬鹿みたいでしょ?」

 

 ベッドの上に座っていた叢雲が呟いた。

 

「そんな時もあるわよ。叢雲だって大変なんでしょ?」

「……そうね」

 

 叢雲が小さくため息をついた。

 

「ねぇ陽炎。一番、人を殺してきた深海棲艦って知ってる?」

「知らない」

「駆逐艦イ級よ」

 

 意外な答えが返ってきたと思った。

 

「そうなの?」

「イ級はたしかに弱い個体かもしれない。だけど、数は物凄く多いの。数さえ集まれば戦艦でも沈めるわ。私はあれに殺される人を何回も見てきた。人や艦娘が生きたまま食われた時に上げた悲鳴が忘れられないの」

 

 話しているうちに叢雲の顔色は青くなり息が浅くなっていった。

 

「大丈夫?」

「私、死ぬのが怖い」

 

 ガタガタと震えながら叢雲が呟いた。

 

「臆病なのがバレるのが怖いから皆の前では強気でいるの。本当は戦うのが怖いし、逃げたいって思ってる。私は後方で安全な任務をしてるのがお似合いなのよ」

 

 叢雲が平和が1番とよく呟く理由が分かった。彼女は常に何かが起こることを恐れている。それだからこそ、一日が無事に終わるとほっとするし、実戦を回避したがる。私が目をつけられたのも現実を知らずに前線に行きたがっているのを気にしたからだと思う。

 

 もしかすると、後方にいるのも偶然ではないのかもしれない。本来、叢雲はできる艦娘だ。だけど、実戦ではそれが発揮できないし萎縮してしまう。だけど、実戦が絡まない任務なら彼の実力を十分に発揮できる。適材適所とはこのことを言うのかもしれない。

 

「私を指導しようと思ったのは?」

「教えなきゃダメ?」

「気になっただけ。話したくないならそれでもいいわ」

 

 少しの間、沈黙が流れた。

 

「努力家なことが気に入ったし、優秀な弟子が欲しかった……理由は色々あるけど、根本的には……」

 

 叢雲が話を切った。

 

「話せない?」

 

 また、沈黙が流れた。叢雲は話すか迷っているらしく、モジモジとしている。「話せ」と追い討ちをかければ話させることもできると思う。だけど、私は彼女の意思を尊重したかった。

 

 5分程して叢雲が意を決したのか口を開いた。

 

「駒になって欲しかったんだと思う」

 

 背筋がゾクリとした。

 

「えっ、どういうこと?」

「私、自分が信用できないの。だから、他人に頼ってる。司令官がそうだし、陽炎や荒潮だってそう。貴女はやる気があったから尚更都合が良かった」

 

 返す言葉が無かった。叢雲の告白は私を都合よく利用していたと言っている。私は利用されている自覚は無かったけど叢雲に取ってはそのつもりだったのだと思う。

 

「軽蔑しなさいよ。自分勝手な女でしょ? 私は貴女が思ってるほど立派な艦娘じゃないのよ。本当は秘書艦なんて立場につくべきじゃないと思う。艦娘失格よ」

 

 私は叢雲を軽蔑する気にはなれなかった。彼女の指導は的確だったし。秘書艦任務も完璧だった。彼女のそれがたとえ偽善だったとしても結果が出せていたのであれば良いと思う。

 

「そんなことないわ。叢雲は立派よ」

「下手なお世辞を言うのはやめなさいよ。私はできる艦娘として振舞っていただけ。無駄にプライドばかり高い秘書艦で迷惑だったでしょ?」

 

 ダメだ。普通に話すだけじゃ私の気持ちは伝わらない。アプローチを変えなければならないと思い、話題を変えることにした。

 

「ねぇ叢雲、嫌味じゃなくて興味本位で聞きたいんだけどいい?」

「何よ」

「叢雲は何で艦娘になったの?」

 

 また、沈黙が流れた。

 

「させられたのよ」

「えっ?」

「艦娘なんてなりたくなかったわ。だけど、私の実家は軍人の家。拒否権なんて無かった」

 

 話によると叢雲は初めて艦娘になった吹雪の次に艦娘になった4人のうちの1人だった。彼女は成績優秀で4人の中でもトップだったし、彼女もそのことにプライドを持っていた。

 

 だけど、戦場ではそんなものは何の役にも立たなかった。戦場では生きるか死ぬかそれしかない。生きる為の努力はするのが当たり前。死ぬのは運が無かったから。仲間が目の前で死ぬのを見たし、介錯をつとめたこともある。最前線の鎮守府の提督は深海棲艦への復讐のために提督をやっている狂人で、深海棲艦を殺すことしか考えていない。

 

 自分がいつ死ぬか分からないプレッシャーに耐えながら生きる日々。叢雲の心が折れるまでにあまり時間はかからなかった。ある日、彼女は敵前逃亡をしてしまう。

 

 その日のうちに提督に呼び出され、激しい叱責の後に軍事裁判にかけられることを叢雲に告げた。軍事裁判にかけられることは場合によっては死刑もありうる。叢雲は必死になって命乞いをした。ただ、提督にとって軍事裁判にかけるというのは脅しだったらしく、代わりに後方で働くことを誓わされる。

 

 こうして、敵前逃亡をした罰の左遷という面目で叢雲は後方に送られることになった。しかし、叢雲が命のやり取りから離されてホッとする間もなく、今度は親族に敵前逃亡の話が伝わりそのことで責められた上で縁を切られてしまう。そんな彼女が唯一いられるのが今いる鎮守府という話だった。

 

「みっともない話でしょ? 私は怯えて逃げ回ることしかできないの。その癖、無駄にプライド高くて迷惑はかけるし、他人を下に見るのをやめられない人間よ」

「叢雲」

 

 私は話し続けようとする彼女の話を切った。

 

「何よ?」

「辛かったね」

 

 私の言葉に叢雲の顔が歪んだ。

 

「あなたに何が分かるの?」

「分からないわ」

「じゃあ、何なのよ!」

「人の気持ちはその人しか分からないし、私が叢雲の辛さを全部理解するのは無理だと思う。だけど、とても辛かったことだけは分かるわ」

「つっ……」

 

 彼女が下を向く。私は彼女の肩に優しく手を当てた。

 

「叢雲、貴女は立派よ。鎮守府の誰よりも辛い過去を持っているのに頑張ってる。叢雲にとっては私達を騙していただけなのかもしれないけど、私にとって叢雲は憧れの艦娘なの。指導は的確だったし、秘書艦任務も完璧じゃない」

「そんなの……誰だってできることよ」

「できないわよ! 私だったら妹への嫉妬心を拗らせて自分勝手な艦娘の面倒を見るなんてごめんだわ! それに、私の指導に付き合いながら秘書艦任務を完璧にやるなんてオーバーワーク過ぎて普通はできないわ。叢雲だからこそできることよ」

 

 叢雲からの言葉は無かった。ただ、下を向いた彼女の目からポロポロと涙がこぼれるのが見えた。

 

「私達、仲間でしょ? ここではだれもあなたを責める人はいないし、貴女を必要としている。自分の立場に誇りを持っていいのよ」

「陽炎、ありがとう……」

 

 涙を流し、グスグスとなく彼女のそばに私は寄り添い続けた。

 

 

ー--------------------

 

 

 十分程経った。

 

「落ち着いた?」

「うん……」

 

 叢雲は落ち着いたのか呼吸は整えていた。大丈夫だと思う。

 

「ねぇ陽炎」

 

 叢雲が呟いた。

 

「どうしたの?」

「陽炎はなんで艦娘になったのか聞いていい?」

 

 話すか迷った。過去の恥知らずな自分がバレるのが嫌だったし、みっともないと思ったから。だけど、叢雲は過去を話してくれた。私も話すべきだろう。

 

「誰かがやらなきゃいけないと思ったからよ。私自身、そう思ったことにプライドを持っていたし自慢でもあった。だけど、義理の妹の不知火に出鼻を折られちゃったわ」

「不知火ってたしか貴女が嫉妬してた子よね? 何かあったの?」

「不知火に艦娘になった理由を聞いたら、そうしなければ生きていけなかったから、って返されたのよ。何も言えなかったわ」

「そうしなければ生きていけなかった……強い子ね」

「うん。不知火はなんでもできたし、中身も私なんかよりもずっと大人だった。それに、私の実の妹からも尊敬されていた。だから、負けたくなかった。絶対に勝てなかったけど……」

 

 不知火は今何をしているのだろうか? どこかの戦場で戦っているかもしれないし、寝ているのかもしれない。今の私なら彼女相手にも勝ち目はあるのだろうか? もう一度戦ってみたいと思った。

 

「陽炎も大変ね」

 

 急に眠気を感じた。思えば夜中に起きてからかなり、時間が経っている。私は大きな欠伸をした。

 

「ごめん。そろそろ寝ていい?」

「いいけど、今日あったことは秘密にしといてね」

「分かった。約束するわ」

「あらー、お二人さん何を話しているのかしら?」

 

 後ろから聞こえた声に振り向くと荒潮と提督がドアの隙間からそちらを覗いていた。

 

「荒潮!?」

 

 叢雲が声を出した。

 

「叢雲ちゃんの大声が聞こえたから、気になって来てみたけど色々と面白いことが聞けたわー」

「全部聞いてたの?」

「すまん」

 

 提督が申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「悪気は無いのよ。でも、2人共女の子で可愛いなぁって思って」

「違うわよ!」

 

 叢雲と声が被った。

 私は女であることを捨てたつもりは無い。だけど、小馬鹿にしたように言われるのは癪だった。

 

「ごめんなさい。からかう気はないのよ。ただ、平和だなぁと思って」

 

 荒潮に悪気はないのだと思う。それ故に言い返す気にはなれなかった。

 

「叢雲」

 

 提督が呟いた。

 

「何よ!」

「俺って頼りない人間だよな……?」

「何が言いたいのよ!」

「自分は提督としてまだ未熟だと思う。だから……これからも色々教えてくれないか? それと……頼りない人間かもしれないけど、本当に辛い時は頼ってくれないか……?」

 

 申し訳なさそうに話す提督に叢雲が小さく舌打ちをした。

 

「……分かったわよ……。明日からもこき使ってあげるから覚悟しなさい!」

「叢雲ちゃん、私も色々教わりたいからよろしくねー」

「ああもう! どいつもこいつも仕事を増すわね!」

 

 そう叫んだ叢雲は怒っているようにも見えたけど、どこか嬉しそうだった。

 

 

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 その日から叢雲の態度が変わった。プライドが高いのは相変わらずだし、怒こる時は怒る。だけど、よく笑うようになったし、本来の彼女らしい一面を見ることが増えた。戦時下といっても鎮守府には笑顔があったし、人間らしさがあった。

 

 だけど、私はすっかり忘れていた。

 

 戦争は人の命を無作為に奪い、不意打ちのように現実を叩きつけてくるということを。

 

 人間は環境になれてしまうと今の状態が当たり前と思ってしまい、今が悪い状態だとしてもそれ以上悪くなることは無いと無意識に思い込んでしまう。そして、いざ無慈悲な現実を叩きつけられた時に自分が現実を甘く見ていたことを思い知らされる。

 

 私は戦争という不条理の中を生きている。

 戦時下でいつ死ぬかなんて誰にも分からない。激戦区なら尚更そうだし、兵士の身内は常にそれを覚悟していなければならない。

 

 実の妹の戦死を知ったのは鎮守府に着任してから半年した時のことだった。

 

「陽炎ちゃん、何かあったの?」

 

 私が昼食を食べづらそうにしているのを見た荒潮が私に声をかけた。

 

「激戦区に行ってた実の妹が戦死したのよ……。実感が湧かないわ」

 

 妹の死が信じられなかった。実感が湧かなかったし、私のことを姉さんと慕っていた真面目で可愛いたった一人の妹が戦死したなんて考えたくもない。ただ、妹はもうこの世にはいない。それだけは事実だった。

 

「そう……」

 

 沈黙が流れた。てっきり、荒潮のことだから何かしら場を和ませるようなことを言ってくれると期待したけど私の見当違いだったらしい。

 

「陽炎ちゃん、ごめんね。励ましてあげるような言葉が思いつかないわ」

 

 私の心境を察したのか荒潮が呟いた。

 

「いいのよ別に……気にしないで……」

「辛気臭いわねぇ、何かあったの?」

 

 そう呟いた叢雲が私の隣に座った。

 

「妹が戦死したわ」

「そう……」

 

 また、沈黙が流れた。叢雲は何を言うのだろうか? 私は彼女の言葉を待った。

 

「陽炎、少し厳しい話をするかもしれないけどいいかしら?」

 

 数分して彼女が口を開いた。

 

「何?」

「辛いのは分かるわ。だけど、今できることをやるしかないんじゃないかしら?」

「それはそうだけど……」

「勿論、今すぐにとは言えないわ。心の整理に時間がかかるでしょうし、色々と思うこともあると思う。だけど、乗り越えなきゃいけないわよ。死んだ妹の為にも今自分のできることをしっかりやりなさい」

 

 そう話した叢雲は席を立った。

 

「叢雲ちゃんらしいわね」

「そうね……」

 

 叢雲の言葉は徹底的に現実に即したものだ。彼女の意見は正しいと思うし、私自身も乗り越えなければならないと思う。

 だけど、私はどうすればそれを乗り越えられるのだろうか……?

 

「ねぇ荒潮」

「どうしたの?」

「どうすれば乗り越えられるかな……?」

 

 少しの間、沈黙が流れた。

 

「叢雲ちゃんと言っていることは同じかもしれないけど、現実を受け入れるしかないと思うわ。死んだ妹さんの為にも強く後悔がないように生きるしかないと思う」

「そう……ね……」

 

 荒潮も叢雲と同意見。私は前を見なければならないのだろう。本当に乗り越えられるか不安だけど、私は覚悟を決めた。

 

「大丈夫、陽炎ちゃんなら乗り越えられるわよ」

「ありがとう……」

 

 荒潮の楽観的な言葉に少しだけ救われた気がした。

 

 

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 それから半月後、今度は義理の妹の舞風の戦死を知った。

 

 妹の死の傷が癒えつつあった私にとって忘れられないニュースとなった。血の繋がりが無いとしても舞風は可愛い妹だったし、行き先が激戦区の鎮守府とはいえ、彼女にとって実の姉の不知火がついていたこともあって信じられなかった。不知火に手紙を送ったが前線が荒れていたのか返事は無く、彼女が何を考えているのか分からない状態が続いた。

 

 鎮守府のメンバーが増えて大きくなりつつあった頃だということもあって、できるだけ平穏を保ったつもりだったけど、叢雲と荒潮にはバレていた。

 

 不知火には会いに行けなかった。私が最前線の鎮守府に行くわけにはいかないし、本当は会って話がしたかったけど不知火だって妹の死は辛いだろうし、私が彼女に何かしてあげられるとは思えなかったから……

 

 

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 舞風の戦死から3年が経った。

 

 この間、私は後方の鎮守府の艦娘として自分の仕事をやり続けた。相変わらず実戦は少なくて(それでも、たまに負傷者はでるけど戦死する子はいなかった)後方特有の地味な任務ばかりだったけど、仕事にやりがいを感じられたし毎日が楽しかった。

 

 鎮守府の中は戦争中とは思えないほどに穏やかだった。私と叢雲と荒潮は鎮守府の顔役になり、鎮守府を支えた。

 

 鎮守府には色々な艦娘が着任したり出ていったりしたけども、どの子もそれぞれの個性や過去を持っていた。私達はその子に合った働き方や指導の仕方を考え、実践する。どの子も私達に心を開いてくれたし、鎮守府から送る時も笑顔で見送ることができた。

 

 ただ、荒潮だけは過去のことを絶対に話してくれなかった。聞いても「ごめんね」と言うだけで絶対に話してくれない。過去に何かがあったとは思う。ただ、それの正体はさっぱりだったし、着任する艦娘全員のことを事前に調べる叢雲も検討がつかないと言っていた。

 

 鎮守府初の空母である軽空母の瑞鳳さんが来たのはそんな時だった。

 

「瑞鳳さん、ご一緒してもよろしいですか?」

 

 彼女が着任したその日、私は昼食を食べる彼女の横に座った。

 

「いいよ」

 

 彼女がカレーを食べながら呟いた。

 

「失礼します」

 

 彼女の横に座った。

 

 瑞鳳さんは私よりも1つ年上の人で激戦区の鎮守府(不知火のいる場所と同じだった)で働いていた古参兵だった。従軍歴は私よりも1年短いけど3年間そこで生きてきたということには変わりない。彼女から多くのことを学びたかったし、不知火のことを知りたかった。

 

「良かったら、ですが前にいた鎮守府での話が聞かせてくれませんか?」

 

 彼女のカレーを食べる手が止まった。

 

「……何で聞きたいの?」

 

 私の直感がマズイと言った。不知火のことに絞って聞いた方が良いのかもしれない。

 

「あちらに行った義理の妹のことが気になるんです。不知火という名前ですが何か知りませんか?」

「不知火? 不知火ならルームメイトだったよ」

「本当ですか!?」

 

 不知火の元ルームメイトという事実に驚きを感じた。

 

「寡黙だけど、優秀で何でもできる子だったよ。壊れていたけどね」

「壊れていた……? どういうことですか?」

「知らないの? 不知火は実の妹を殺したって言ってたよ」

「えっ……?」

 

 自分の耳を疑った。

 

「正確には介錯をつとめた、だったかな。同じ理由で義理の妹も殺したって言ってたよ」

 

 義理の妹……となると私の妹のことだと思う。野分も舞風も不知火に……?

 

「嘘……ですよね?」

「私も現場を見たわけじゃないから本当のことは分からない。だけど、あそこの提督はキチガイだから本当なんじゃないかな? 実際に私は初出撃の日にお姉ちゃんと思っていた人にトドメを刺してやれって言われたよ」

「瑞鳳さんも介錯をつとめたのですか……?」

 

 私の言葉に彼女が小さく舌打ちをした。

 

「聞かなくても分かるでしょ? あそこはああいう所なんだよ」

 

 嫌な汗が流れる。心臓がバクバクしていて、呼吸が浅い。ダメ、これ以上聞き続けると私が壊れてしまう。

 

「ありがとう……ございました……」

「悪いけど、あそこのことはあまり話したくないんだ。思い出したくないから」

「申し訳ありませんでした……」

 

 瑞鳳さんに話を聞いたことを後悔した。

 

 

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 瑞鳳さんが着任して2週間が経った時、急に転機が訪れた。思えばこの頃が1番戦況が悪かったと思う。私達の鎮守府が大規模作戦に囮役として強制的に参加させられることになった。

 拒否権は無かった。人員不足で艦娘が不足していたし、徴兵制が開始されていたとはいえ前線に送り込める人員が私達以外いなかったから。

 

 大規模作戦への参加が決まってから鎮守府の雰囲気は変わった。

 叢雲は毎日顔を青くしているし、提督も同じ。二人はずっと一緒にいるようになった。荒潮はあまり笑わなくなって私もあまり他人と話さなくなってしまった。鎮守府全体の空気は重苦しくなった。

 

 時間が経つのを怖く感じた。鎮守府に着任したばかりの頃の私だったら初の大規模作戦に燃えたのかもしれない。だけど、今の私は恐怖しか感じなかった。誰かが死ぬかもしれない。私かもしれないし、他の誰かかもしれない。不安で眠れない日が続いた。

 

 ただ、瑞鳳さんだけは変わらなかった。人前で笑顔になれるし、仕事は軍人の顔になってしっかりやる。彼女だけはいつもと同じ日々を送り、日常を過ごしていた。

 

 どうして彼女は笑顔でいられるのだろうか? 死線に身を置いていたから命のやり取りになれているからだろうか?

 

 大規模作戦が始まる4日前の夕飯の席で彼女に話を聞いた。

 

「瑞鳳さん、話してもいいですか?」

「陽炎、どうしたの?」

「大規模作戦が迫っているのに、瑞鳳さんはどうして平穏を保てるんですか?」

「いつも通りだから。後方のここに来て2週間足らずで大規模作戦の囮役をやることになったのは少し驚いたけどね。作戦の内容を聞いたけど、生き残る可能性は五分五分って所かな」

 

 彼女は夕食を食べる手を止めて淡々と語った。

 

 瑞鳳さんは冷静だ。笑顔でただ現実を淡々と話す彼女を同じ人間とは思えなくなってきた。死ぬのが怖くないのだろうか?

 

「瑞鳳さんは……死ぬのが怖くないんですか?」

 

 私の問いに彼女の顔から笑顔が消えた。

 

「死ぬのが怖くないと言ったら嘘になる……かな。私だって死ぬのは怖いよ」

 

 彼女が話すのを区切った。

 

「だけど、いつか死ぬのは誰でも同じ。今日生きても明日死ぬかもしれないし、明日生きても1年後には死んでいるかもしれない。いつ死ぬか、なんて誰にも分からない。だけど、人間誰しもいつかは絶対に死ぬ。だから、私は今を精一杯生きている。私なりのベストな選択をしたいし、後悔の無い生き方をしたい。その先に何が待っているのかは分からないけどね」

 

 彼女の言葉に感銘を受けた。

 

 死はずっと身近にある。私はそれを普段意識していなかったが、それが間近に見えたから恐れていただけだ。瑞鳳さんは自分がいつ死ぬのか分からないことを知っている。だからこそ、彼女にとって死は当たり前のものになっている。死が当たり前だからそれを必要以上に恐れないし、毎日をよりよく生きようとする。見習わなければならないと思った。

 

「瑞鳳さん」

「何?」

「ありがとうございました」

 

 私の言葉に彼女が小さくため息をついた。

 

「礼を言われるようなことじゃないよ。勝手に私の考えをベラベラ喋っただけだから。それと、言い忘れたんだけど……」

 

 彼女の顔が急に険しい軍人の顔になった。

 

「臆病なことは決して悪いことじゃないけど臆病さのせいで、足を引っ張るようなことは絶対にしないでほしいかな。普段は威張ってるくせに戦場に行くと使い物にならなくなるチキンな秘書艦様みたいにね」

「はい……気をつけます……」

 

 瑞鳳さんが着任してから3週間も経っていないが、彼女と叢雲は衝突することが多い。叢雲も彼女相手だと実力で分からせることができずに手を焼いているらしく、叢雲から彼女に対しての愚痴をよく聞く。仕方の無い1面もあると思うけど、何とかしたいと思った。

 

 

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 部屋に戻り、荒潮に瑞鳳さんから聞いた話を話すと急に提督の誕生日パーティ(偶然にも出撃の2日前が提督の誕生日だった)をやろうと言い出した。何を言っているんだ? と思ったけどこういう時だからこそと言われると黙るしかなかった。

 

 提督は参加するのを嫌がったけど主催として無理矢理連れてきた。当然ながら叢雲は不参加だったけど他の子達は参加してくれた。中でも瑞鳳さんが1番協力的だった。

 

 作戦の2日前にパーティは開かれた。上手くいくか不安だったけど、荒潮や瑞鳳さんが場を盛り上げてくれたこともあって少しずつ盛り上がっていった。

 

 提督も最初は遠慮しがちだったが、酒が入ると気分が良くなったのか笑顔を見せるようになった。パーティが盛り上がりケーキが出てきた時に、事件は起きた。

 

「アンタ達、何やってんのよ!?」

 

 パーティの場に突然、叢雲が現れた。彼女の怒鳴り声に皆は黙ってしまった。

 

「叢雲ちゃん、落ち着いて……」

「頭がどうかしてるんじゃないの!? 2日後には死んでいるのかもしれないのよ! 不謹慎だって思わないの!?」

「ねぇ」

 

 叫び続ける叢雲に瑞鳳さんが冷たい声で呟いた。

 

「少しは、空気を読んだらどう?」

「空気を読めですって!? 読むも何もここの空気が異常なのよ!」

「黙れ!」

 

 瑞鳳さんが叢雲の胸倉を掴んで怒鳴り声をあげた。

 

「皆が死ぬのを怖がってないとても思ってるの!? 怖いからこそ、明るく生きようとしているって何で分からないの!? 叢雲がそれをどう思うかは勝手だよ。だけど、それを他人に強要しないでくれる?」

 

 瑞鳳さんが叢雲の胸倉を掴んでいた手を緩めた。沈黙が流れる。

 

「お酒……頂戴。1番強いやつ」

 

 数分ほどして叢雲が呟いた。

 瑞鳳さんがウイスキーをグラスに注いで叢雲に渡すと彼女はそれを煽る様にして飲み、部屋を後にした。

 

「ごめん。見苦しい所を見せたね」

 

 叢雲が出ていくのを見て瑞鳳さんが呟いた。

 

 

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 叢雲のせいでパーティの場は冷めきってしまい、そのままの状態で終わってしまった。片付けの最中も話す子は少なかった。少しでも場を和ませようという荒潮の計画が失敗に終わってしまったことを残念に感じた。

 

 パーティの片付けが終わった直後に暗い顔をした提督に声をかけられた。

 

「陽炎、少しいいか?」

「司令、どうしたの?」

「愚痴を話してもいいか?」

「私で良ければ聞くわよ」

 

 提督が私に愚痴を話すのは珍しい。彼が愚痴を話すとしたら叢雲相手の方が多いし、叢雲相手に話せないことは荒潮に話す。しかし、叢雲はあの状態だし荒潮は片付けが始まる前に部屋に帰っている(凄く疲れた顔をしていたから先に部屋に返した)から、鎮守府の初期組で相談出来る相手は私しかいないのだろう。

 

 片付け終わった静かな食堂のテーブルで提督に対面する形で座った。

 

「何かあったの?」

「……君達を殺してしまいそうで怖いんだ……」

 

 彼らしいと思った。

 

 提督は私達を戦場に送ることを嫌がっている。普段の遠征任務でも絶対に帰って来ることを約束されるし、万が一交戦する機会があると防波堤で心配そうな顔をしながら私達を待っていてくれる。

 

 叢雲がよく口にしていたけど、提督は前線の指揮官としては向いていないのだと思う。彼は信頼を得る能力には長けているけども部下を大切にしすぎるし、臆病すぎるから。

 

 今までは彼の長所を生かす形で提督としての立場の仕事をすることができた。だけど、今の彼は違う。私達に死地へと向かうことを命令し決断しなければならない立場だ。

 

「私はいいのよ。司令官の指揮で死んだとしても恨む気はないわ」

 

 私は笑顔でそう答えた。

 

「何を言ってるんだ! 死ぬのが怖いんじゃないのか!?」

「怖いわよ。だけど、それが義務なら仕方がないと思う。私達を死地に向かわせるのも本来は司令官の義務なんでしょ?」

「義務って……義務ならば犠牲になっていいと思っているのか?」

「忘れたの? 私達は兵士よ。私は、艦娘になって戦う為に志願したし、そのことを誇りに思っている。当然ながら死ぬ覚悟もできている。だから、指揮官は自分の立場を全うすれば良いのよ」

 

 沈黙が流れた。提督は下を向いていて私を見ようとしない。彼の頬から垂れた涙が机を濡らした。

 

「大丈夫。司令官ならできるわ。私達の提督でしょ?」

「すまん……陽炎……」

 

 彼が涙声で呟いた。

 

「いいのよ。皆だって司令官が嫌がってることは分かってる。司令官1人で悩むことはないのよ。大丈夫、私達は絶対に帰ってくるから」

 

 私は泣く彼を慰め続けた。

 

 

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 10分ほどして彼は気持ちを落ち着かせたのか涙を吹いた。

 

「落ち着いたみたいね」

「ありがとう……陽炎……」

 

 ぼんやりと呟いた彼に微笑んだ。

 

 良い雰囲気だと思う。このままの勢いで私の心の中の想いを口にすれば、彼は受け入れてくれるかもしれない。仮に受け入れられなかったとしても、一晩だけなら押し通せるのかもしれない。だけど……親友を裏切ることは私はできなかった。

 

「私に感謝するのはいいけども、寝込んでる恋人の所に行ってあげた方がいいんじゃないの?」

 

 彼が驚いた顔をした。

 

「知っていたのか……」

「鎮守府の子達は皆、知ってるわよ」

 

 提督と叢雲は付き合っている。日常だと提督が叢雲に引っ張られているように見えるが二人でデートをしている光景が目撃されているし、肉体関係に至ったような噂もある。二人が何に惹かれたのかは分からないけど、お互いに惹かれ合う何かがあったのだと思う。ただ、皆の中ではそのことで2人をからかうのはよそうという方針で一致している。

 

 提督に気があった私は彼に好きな異性ができたと聞いた時、嫉妬心を感じた。だけど、相手が叢雲とわかった時には潔く諦めることにした。2人はずっと一生にいるし、叢雲は提督に似合う相手だから。

 

「私のことはいいから叢雲の所に行ってあげなさい。今日の件で1番傷ついてるのは多分、叢雲よ」

「そうだな……ありがとう、陽炎」

 

 彼が食堂を後にした。

 

 彼が居なくなったのを見計らって私は戸棚からパーティの余りの日本酒を引っ張り出して飲んだ。

 

「あーあ、失恋しちゃったわ」

 

 飲んだ日本酒の味はやけに辛く感じた。

 

 

 作戦の日、提督は私達を真剣な表情で見送ってくれた。旗艦の叢雲も覚悟を決めたのか、怯えは見せずに軍人の顔をしていた。

 

 叢雲を見て私も必ず帰ってくるんだ決意した。

 

 

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 作戦は成功した。負傷者は何人か出たけど、体の一部を失ったような重症の子はいない。私達の大勝利だった。

 鎮守府に帰ると提督が私達を出迎えてくれた。皆、喜んでいたし叢雲は皆の前だというのに提督と抱き合っていた。

 

 だけど、私は喜ぶことができなかった。

 

 何度も死んだかもしれないと思った。初めての生死の境をさまよった戦闘だったと思う。何度もやられたと思った。今の私が軽い怪我だけで生きていて皆が生きているのも奇跡だったと思う。

 

 だけど、戦争はこれからも続く。戦争が続く限りは私たちは戦い続けなければならないし、また同じようなことが起きるのかもしれない。故に死は私達が想像している以上に身近にあり、いつそれが訪れるのか分からない。

 だからこそ、私達はいつ死を迎えたとしても後悔の無い生き方をしなければならない。私は前々からやりたいと思っていと思っていたけども、実行に移せないことがある。後悔のない生き方をする為にそれをしなければならないのかもしれない……

 

「陽炎ちゃん、辛気臭い顔してどうしたの?」

 

 部屋で1人で考え込んでいたら、荒潮に声をかけられた。

 

「考えことよ」

「何を考えていたの?」

「これからのことを……ね」

「これからのことってなぁに?」

 

 話すか迷った。だけど、荒潮に意見振ってみて彼女の話を聞いてみるのも良いのかもしれない。思い切って話すことにした。

 

「不知火に会いたいなって思ったの」

「それって、向こうの鎮守府に行きたいってこと?」

「そうよ」

 

 沈黙が流れた。

 

「生きて帰れないかもしれないのに、本気?」

「覚悟の上よ。もう一度、不知火に会って話をしたいの」

 

 不知火に対しては喉に小骨が引っかかるような間隔がずっと続いていたけども、今日の作戦を経てようやくやりたいことが分かった。今までは自分の気持ちを見て見ぬふりをしていたし、過去の嫉妬から不知火を意図的に避けようとしていた。だけど、今の私は違う。

 

 もう一度、不知火に会いたい。妹を失った今の不知火がどうやって生きているのかは分からない。だけど、辛い思いをしているはずだし彼女のことが心配だった。私が不知火を助けられるかは分からない。だけど、彼女の助けになりたかった。

 

「妹さんのこと、心配なのね……」

 

 私は無言で頷いた。

 

「ねぇ陽炎ちゃん」

 

 数分の沈黙の後に荒潮が呟いた。

 

「何?」

「私の昔の話を聞いてくれない?」

「荒潮の? いいわよ」

 

 絶対に誰にも話さなかった荒潮が彼女が自分から過去を語ろうとするのは意外に感じたが聞くことにした。

 

「私、戦争が始まる前に大好きな人がいたの」

「大好きな人?」

「うん。当時の私は12歳だったかしら……親戚の私よりもずっと歳上の自衛隊のお兄さんだった」

 

「恋していたと思う。カッコよくて笑顔が素敵で大人びてる人だった。私がかまって欲しくてイタズラをしたり、からかったりするとその人は困った顔をしながら笑ってくれた。その人の笑顔が大好きだった」

 

 荒潮の顔が暗くなり、彼女の目から涙が流れた。

 

「だけど、深海棲艦との戦争が始まるとお兄さんは真っ先に戦死しちゃった。信じられなかったわ。実感が湧かなかったし、心の中に穴が空いたような感じがした。だけど、お兄さんはもうこの世にはいないことは事実だった」

 

「私が、艦娘になったのは死んだお兄さんに近づけると思ったから。死ぬのは怖くなかった。ただ、お兄さんにもう一度会いたかった。戦場にいれば、もしかしたら会えるかもしれないって思った。私は死ぬ場所を探しているの」

 

「艦娘になって後方に送られたのは残念だったけど、代わりに陽炎ちゃんや叢雲ちゃんに会えた。怒りっぽい子ばかりだったけど、私は大好きになれた」

 

「私は、皆が大好き。陽炎ちゃんも、叢雲ちゃんも、提督も……鎮守府の皆が好き。だから、日常を大切にしたいし、皆には笑顔でいてほしいの。」

 

 荒潮の話が終わった。鎮守府の話になってから荒潮は笑顔だったけど、無理矢理作ったようなぎこちない笑顔だった。

 

 彼女の話を黙って聞くことしかできなかった。私の実の妹の野分が死んで私が凹んでいた時、荒潮がかける言葉が思いつかないと言っていたことを思い出した。荒潮は私と同じ傷を負っている。あの時の反応は彼女だからこそなのだと思う。それなのに、荒潮は皆の前では常に笑顔でいる。私も強くならなければならないと思った。

 

「ごめんね。変な1人語りしちゃって……」

「いいのよ。溜め込んでたんでしょ?」

「うん……本当は誰にも話したくなかった。でも、陽炎ちゃんが向こうに行きたいって言ったから、話せる最後の機会かもしれないって思って話したの」

「まだ行けるって決まったわけじゃないわよ。これから、司令と叢雲を説得しなきゃでしょ?」

 

 荒潮が首を横に振った。

 

「陽炎ちゃんは強い子だから、何かをやるって決めたら絶対にそれを貫き通す。だから、今が話せる最後のチャンスだった。陽炎ちゃんなら絶対に2人を説得できるわよ。2人も嫌がると思うけど話せば分かってくれると思う」

「荒潮は嫌じゃないの?」

 

「本当は嫌よ……だけど、私は陽炎ちゃんの意思を尊重したい。だから、私は陽炎ちゃんを笑顔で見送りたいの」

 

 荒潮は泣きそうな顔をしながら話した。

 

 荒潮は私が向こうに行ったら永遠に再会できないと考えているのだと思う。それなのに覚悟を決めている。荒潮は私よりもずっと強い人間だ。今までそう思ったことは無かったけど、気づかざるをえなかった。どんな時でも荒潮は皆の為に尽くそうとしていた。私が叢雲にボコボコにされた時も、囮作戦の時にパーティを開いてくれた時も皆を笑顔にしようとしてくれていた。辛い過去があるのにも関わらず、それを少しも感じさせられなかった。

 

 私も彼女のように強くならなければならない。

 

「ありがとう荒潮」

 

 荒潮に感謝の気持ちを告げた。

 

 

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 予想通りではあったけど、叢雲と提督に不知火の鎮守府に行きたい話を話すと反対された。だけど、私がどうしても行きたい意思を話すと二人とも。思っていたよりもあっさりと転勤を承認してくれた。不思議に思って話を聞いてみると荒潮との話を叢雲が聞いていたらしい。叢雲は形式上、1回は断った上でそれでも行きたいなら陽炎の意思を優先することを予め決めていたという話だった。二人とも不安で本音は行かせたくなかったと思うけど私を見送る決意をしてくれたことに感謝した。

 

 私は二人に絶対に生きて帰ってくる約束をした。

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