艦娘の戦争   作:黒猫クル

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比較的明るめです


艦娘になんてなりたくなかった③

 空母の役目は艦載機を駆使して空襲をしたり、敵の航空機から味方を守ること。私がモデルになったのは小型の軽空母。正規空母に比べて小型で搭載できる艦載機の数が少ない欠点があるけども小型だけに小回りがきくし、運用コストが安い。

 そのため、私の役目は大型の空母じゃ出撃できない場所に出撃したり、艦隊の補助的な役割をすることになる。

 

 使い勝手のいい艦種である私は出撃数が非常に多かった。飯を食う時間が無い日もあったし、本当に寝れる時にしか寝れない時もあった。

 ここに来た時に不知火に「食べれる時に食べて寝れる時に寝ておいた方がいいです。それが生きる秘訣です」と言われていたけどその通りになっていた。

 

 あの鎮守府で勤めていた日々が人生で1番ハードな日々だった。その場の勢いだけで私を艦娘として送り出した両親を憎んだ事があったし、それに流されていた過去の自分に対しても同じものを感じる事もあった。それでも両親の事は大好きだったし、殺したいぐらいに憎むことは無かったけど……

 

 

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 着任から1年ほどしたある日の事、出撃の報告をした時の事だった。

 

「報告は終わり。じゃあ私は帰るから」

「待て」

 

 帰ろうと提督に背を向けたら後ろから声をかけられた。

 

「何? まだ何かあるの?」

 

 彼の言葉に振り向いた。

 

「聞きたいんだが君は何の為に戦っているんだ?」

「質問の意味が分からないんだけど」

「いいから答えろ」

 

 私の戦う意味? 国を守る為以外のものがあるのだろうか?

 

「国を守るために……」

「それは建前だろ? 君はなぜここにいる?」

 

 言葉に詰まった。死んだお姉ちゃんの為? いや違う。お姉ちゃんは私が生きる事を望んでいたけども戦うことを望んでいたわけではない。私は何故、ここで戦い続けているのだろうか?

 

「えっと……」

「今直ぐにとは言わないが答えを見つけておけ。君にとっても悪いようにはならんはずだ」

「……」

 

 返す言葉が見つからず私は無言で執務室を後にした。

 

「提督に何か言われましたか?」

 

 部屋に戻ると艤装の整備をしていた不知火に声をかけられた。

 

「相変わらず勘がいいね」

「顔に書いてあるから分かりますよ」

 

 不知火とは同じ様な経験をした為か自然と気が合うようになり、いつの間にかあまり言葉を交わさなくてもお互いに相手の言いたい事が分かるようになった。交流関係があった艦娘は少なかったけど彼女だけは戦友と言っていいと思う。

 

「国の為という理由を除いて戦う意味は何買って聞かれたの」

「戦う意味? 私の場合は提督への復讐の為ですね」

「不知火はそうなるか……」

 

 明確で分かりやすい答えだ。不知火らしいと思った。

 

「瑞鳳は見つかりませんか?」

「何かと言われるとね……」

 

 不知火が小さくため息をついた。

 

「今回は提督の意見に賛成するべきかもしれませんね」

「なんで?」

「人間は目標があった方が頑張れるからです。私は復讐という目的があるからこそ今も生き残っています。提督も深海棲艦への復讐という目的があるからこそ今も走り続ける事ができています。あくまでも私の意見ですが些細な事でも良いので戦う事の理由を探す事自体は悪い事ではないと思いますよ」

「そっか……」

 

 私が戦う理由……。今まではただ生き延びる事に必死で考えた事も無かったけど、少しだけ考えてみようと思った。

 

 1ヶ月ぐらいして私は戦う理由を見つける事ができた。

 

 

ー--------------------

 

 

 提督に声をかけられてから1週間後ぐらいに私はまた、提督に呼び出された。

 

「今度は何?」

「秘書艦をやらないか?」

「それって命令?」

「強制はしない」

「じゃあ、嫌」

 

 絶対性のある命令じゃなければ結論は決まっている。提督の事は未だに嫌いだし、受ける理由が無い。

 

「そう直ぐに結論を出すな。お前にメリットが無いわけじゃない。秘書艦は給料が高い。それに加えて出撃の数が減る」

「つっ……」

 

 無表情の提督の言葉気持ちが揺らぐのを感じた。出撃が減るのは悪くないし、何よりも給料が上がるというのは非常に魅力的だった。

 

 私は収入の殆どを両親への仕送りに使っている。少しでも多く金を両親に送りたい私としては給料は多いに越したことは無い。

 提督が私のそんな事情を知っているかは分からないけど、足元を見られた気がした。

 

「嫌だと言えば止めはしないが実を取ることも考えた方が良いんじゃないのか?」

「分かったよ! 受ければいいんでしょ! 受ければ!」

 

 提督の言いなりになるのは気に入らなかったけど実を取る事を私は選んだ。

 

 秘書艦にされた事を不知火に話すと最初は提督に寝返った事を疑われた。だけど、それを否定すると変な顔をされた。提督が秘書艦を決める事は基本的に強制で拒否権があったことは珍しいらしい。不知火は提督が私を優遇していると言っていた。

 

 実感がわかなかった。私は提督の事が嫌いだったし、提督は私の事を駒のひとつとしてしか思っていないはずだ。不知火の話が事実だとしたら何故、私が特別扱いされるのだろうか?

 考えてみたけど分からなかった。

 

 

ー--------------------

 

 

 提督は言葉巧みに私を操作して言いなりにする。実を取ろうとするとどうしても提督の意見を採用せざるをえない。それが嫌だったし、逆らえない自分が嫌いだった。

だけど、1度だけ優位に立ったことがある。私が鎮守府に着任して2年目の事だった。

 

 提督に恋をした艦娘がいた。誰だったのかは覚えていないけど変わった子だった事だけは覚えている。通過儀礼(彼女の場合は相手が同期の子だったが)の時は泣いていたのに彼女は提督 に同情していた。

 提督を放っておけないと言っていた。放っておけないからこそ寄り添いたいと……

 

 理解できなかった。私は提督の事が大嫌いだったし、他の艦娘も同様だった。提督に好意を感じていたのはおの子だけだ。

 

 その子は秘書艦になって……最終的に二人は肉体関係にまで発展していたと思う。夜間警備の時に服装が乱れて顔を赤らめていたその子を見たから……

 

 その子は着任して半月ぐらいした時に戦死した。その作戦に私は参加していなかったけど、提督が殿として1人で残る事を命令したと聞いた。

 

 その子が戦死したその日、私は執務室に呼び出された。

 

「何の用?」

「今日の分の秘書艦はお前がやれ。特別給は出す」

「あの子の代わり?」

「そうだな」

 

 提督はいつものように無表情で呟いた。

 

「命令だよね?」

「当たり前だ」

 

 提督の態度にため息をついた。

 

「はいはい分かりましたよ。でも凄いよね。抱いた子が自分の指示で死んだのに平然ズラって私にはできないなー」

「勝手に言ってろ」

「バーカ」

 

 その後も暫く嫌味を言い続けたけど提督が反応しないのが面白くなくて何も言わなくなった。

 

 次の日(偶然にも次の日も私が秘書艦だった)に異変に気づいた。提督が食事を取ろうとしない。私は一日中、彼のそばに居たから確定事項だった。

 

「夕飯食べたの?」

 

 気になって夕食の栄養食品を食べた後に声をかけた。

 

「いらない」

 

 提督が呟いた。

 

「昼は?」

「いらない」

「朝は……」

「いらないって言ってるだろ!」

 

 鈍感な私だけど流石に気づいた。提督は何事も無かったかのような顔をしているけど実際にはあの子を殺した事を悔やんでいる。悔やんでいるからこそ食事を取らない。

 

「ふーん。ただの冷血漢だと思ってたけど後悔する時もあるんだ」

「……なんとでも言え」

 

 いつもは無表情の彼の顔が歪んだ。手応えを感じた。

 

「絶滅戦争なんてイキった口でよく言えたよね。後で後悔するなら初めっから人が死ぬような馬鹿な作戦を考えるんじゃないわよ!」

「黙れ!」

 

 沈黙が流れた。提督は息を切らして興奮状態に見える。

 彼の苦しむ顔に愉悦感を感じた。今までいいように使われてきたけど、私は彼に対して優位に立っている。それが気持ちよかった。

 

「減給だ。それと、1ヶ月部屋に入ってろ」

「はいはい。分かりましたよ。私に八つ当たりしても提督がやった事は変わらないから。それは忘れないでねー」

 

 提督が「出ていけ!」と叫んだのを見て私は腹を抱えて笑いながら執務室を後にした。

 

 ……今思うとなんでこんな残酷な事を言えたのかが自分でも分からない。小さな満足だったとはいえ、取り返しのつかない事をしていたと思う。

 

 ずっと冷血漢と思っていたけども彼もまた人間だった。

 

 

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 着任して3年したある日、提督との別れは唐突にやってきた。彼が私に他の後方の鎮守府(提督もそれなりに優秀な人だった)に移る気は無いかと声をかけ私がそれを受け入れたそれだけの話。

 

この鎮守府にいるのは嫌だったし、私にとっては願ってもない話だった。

 だけど、今回ばかりは流石の私も疑問を感じた。戦局が一段落したとはいえ何故、私の前に蜘蛛の糸が垂らされたのだろうか? 優遇されすぎている。

 彼の提案を受けはしたけども、提督に聞いても答えてくれずその疑問は晴れなかった。

 

 着任してからの付き合いの不知火には別れの挨拶を済ませた。彼女は私に「新天地でのご活躍を応援しています」と言ってくれた。

 

 鎮守府から消える最終日、私は執務室に座る彼の前に立っていた。

 

「最後に聞きたいんだけどなんで私に甘かったの?」

 

 最終日、彼の前に立ってその質問をした。

 

「気のせいじゃないか?」

「そんなわけないでしょ? 私だけは秘書艦になる事に拒否権があったし、死んだ秘書艦の事をネタにして叩いた時も軟禁生活で済んでいる。なんでなの?」

 

 私の言葉に彼は少しの時間、沈黙が流れた。

 

「……君が戦う理由を話してくれるのであれば話してもいい」

「なんで話さなきゃいけないの?」

「見つけたんだろ? 話して欲しければそれぐらいのこと対価として払ってくれ」

「変な理由なんだけど……それでもいいの?」

「かまわない。変だと思うのは君が勝手に思っているだけだろ?」

 

 私が勝手に思っているだけという彼の話し方に少しだけイラッとしたけども等価交換になってはいる。話す事にした。

 

「お父さんとお母さんを笑顔にしたいから……」

 

 大好きな両親を笑顔にしたい。それが私の見つけた戦う理由だった。変な理由だと思う。子供っぽいし提督や不知火のように強い感情が伴った理由でもない。

 口にして顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。不知火には話したけど、他の人に話すのは初めてだった。

 

「そうか」

「変な理由だって思わないの?」

「君が見つけたならそれが君の答えだ。馬鹿にする気はない」

「そう……次は提督の番。話してよ」

 

 私の言葉に彼が小さくため息をついた。

 

「死んだ娘に君が似ていた。ただそれだけの話だ」

「そっか……」

 

 やっと私が優遇されていた理由が分かった。彼は私を死んだ娘と重ねていた。ただそれだけの話。

 勝手に他人と重ねられた事に小さな不快感を感じたけども、彼の気持ちも分かる気がした。

 

「元気でな」

「今までありがとう」

 

 自分でもその一言を口にしたのは意外だった。彼の事を恨んでいたはずなのに、私はなんでこの一言を言えたのだろうか? 今でも理由は分からない。

 

 私の言葉に提督は笑顔を作り見送ってくれた。

 

 

ー--------------------

 

 

 新天地の鎮守府で私はエースとして破格の扱いを受けた。給料も良かったし、戦局も最初にいた鎮守府よりは遥かにマシ。激戦区の鎮守府で働いていたし、秘書艦任務もできるから当たり前と言えば当たり前だったと思う。

 

 理想的な艦娘をやれていたと思う。皆の前では笑顔でいれたし、戦場では誰よりも冷静で実戦的な指揮を取れた。

 

 私はここで立派な艦娘として生きていく……はずだった。

 

 新天地に着任してから半年後その報は突然やってきた。両親が死んだ。深海棲艦に故郷が空襲され、戦死者の名簿に2人の名前が載っていた。

 

 私の目の前は真っ暗になった。

 

現代編は必要は必要だと思いますか?(よろしければ投票した理由を一言で良いのでコメントにお願いします)

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