艦娘の戦争   作:黒猫クル

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 字数配分をミスしたので短めです


承認欲求と依存と⑪

 奇跡が起きた。激戦になったが作戦は成功し、負傷者は何人か出たがいずれも軽傷で戦死者はいない。私たちの完勝だった。戦闘の中で作戦成功を無線で聞いた時、私はそれを信じられなかった。

 鎮守府に帰ると司令官は私達を外で待っていて「おかえり」と言ってくれた。皆の前だったけど、彼に飛びついた。いつもの甘えている時とは違って暖かい感触……彼に抱きしめられてやっと生きているんだって思った。

 

 そのまま司令官と抱き合っていたがふと、陽炎が暗い顔をしてることに気がついた。皆が勝利を喜び合ってる中、彼女はだけは何も話さずに鎮守府に戻っていった。

陽炎の様子が気になって、部屋に向かうと中から陽炎と荒潮二人の話し声が聞こえた。

 陽炎は義理の妹が心配で最前線の鎮守府に行きたいという話をして、荒潮は自分の過去のこと(私も知らないものだった)を陽炎に語っていた。司令官に話さなければならないと思い、話の途中で私は執務室に戻った。

 

 陽炎が最前線の鎮守府に行きたがっていることを司令官に話すと彼は黙って聞いていた。

 

「どうするの?」

 

 私の質問に司令官は少し考えるような仕草をした。

 

「叢雲なら、どうするんだ?」

 

 一瞬、答えようと思った。だけど、それは彼のためにならない。それに、私は司令官自身の言葉を聞きたかった。

 

「私に聞くんじゃなくて、アンタが答えなさいよ」

 

 少しの間、沈黙が流れた。

 

「行かせてやりたいと思う」

「そう……」

 

 何となく察していたけども彼らしい答えだと思った。

 

「叢雲はどうなんだ?」

「……アンタと同じよ。嫌だけど」

 

 本音を見抜かれと思ったのか司令官がビクッとした。彼の考えは私と同じだろう。

 鎮守府ができたばかりの時からいる古参の陽炎は鎮守府に必要な存在だ。戦友な上に最前線の地獄で戦死してしまうかもしれないし、止めたいのが本音。

 だけど、陽炎には陽炎の意思がある。私達にそれを止める権利は無いし、仮に止めたとしても何らかの手段で鎮守府を抜け出すだろう。彼女はそういう子なのだから。

 

「一回は止めて、それでも行きたいと言うなら行かせる。それでいいわね?」

「そうだな……」

 

 彼が残念そうに呟いた。口では行かせてやりたいと言っているけども、本当は私に陽炎を止めて欲しかったのかもしれない。そんな気がした。

 

 少しして執務室のドアが開いた。陽炎だ。中に入ってきた彼女は司令官と私に面と向かった。

 

「司令官、叢雲、話したいことがあるの」

「何よ?」

「私、最前線の鎮守府に行きたいの」

 

 予想通りの陽炎の言葉に、私は小さくため息をついた。

 

「ダメだって言ったらどうするの?」

 

 私の言葉に陽炎が一瞬、怯んだ様子を見せた。

 

「ダメだとしても行きたいの。不知火のことが心配だし、後悔したくないの……」

 

「お願い。行かせて。自己責任なのは分かってる。帰って来れないかもしれないことも分かってる。だから……」

 

 陽炎が目を見開いて真剣な眼差しで私達を見つめた。

 

「……アンタはどうするの?」

 

 司令官に話を振った。

 

「えっ?」

「仮にもこの鎮守府のトップは司令官よ。陽炎を行かせてあげるかあげないかはアンタが決めなさい」

 

 あえて彼に選択権を与えた。司令官は行かせたいと言っていたが本当にそれでいいのか、彼自身に決意させなければならない。何が起きても後悔しないために。

 

「……僕は、陽炎の意思を尊重したい……」

 

 彼が絶え入るような声で呟いた。

 

「良かったわね、陽炎。行けるわよ」

「えっ!?」

 

 陽炎が驚いた表情を見せた。

 

「何よ? そんなに驚くこと?」

「ダメって言われると思ってたから……」

「本当は嫌よ。だけど、そういっても貴女は行くでしょ? それに、荒潮にも行きたいって言ってたんでしょ?」

「聞いてたの?」

「いつもは元気な貴女が暗い顔してたら気になるでしょ? 司令官にも話して貴女を行かせてあげることにしたわ……でも、一つだけ約束してもらうわよ」

「何?」

 

 窓から一筋の夕日が射し込んで陽炎を照らした。

 

「必ず生きて帰ってくること。それだけは約束しなさい」

 

 沈黙が流れた。必ず帰ってくるなんて口約束でしかない。司令官も陽炎もそれは分かっているはずだ。だけど、約束させたかった。

 

「ありがとう」

 

 少しして陽炎が呟いた。

 

 結論から言えば陽炎を見送ったのは間違いだった。彼女が抜けた穴を埋めるのは大変だったし、陽炎がいれば瑞鳳を立ち直らせられたのかもしれない。陽炎自身も不知火と再会したことで妹を助けられなかったトラウマを作ってしまった。それに……陽炎がいればこれから起こる悲劇を防げたのかもしれない。

 

 だけど、今あの時に戻れたとしても私は陽炎を見送ると思う。陽炎は大切な仲間だったのだから。

 

 

ー--------------------

 

 

 陽炎がいなくなってから何ヶ月かして彼女と入れ替わるように一人の艦娘が着任した。頭の両脇にフレンチクルーラーみたいな物がある独特な髪形をしていて、背丈は私よりも一回り低くて荒潮と同じくらい。西洋人形みたいな美少女ではあったが、ツンとした顔をしていた。

 

「満潮よ。私、何でこんな艦隊に配備されたのかしら?」

 

 聞こえてた罵声に正直、イラッとした。初対面の相手に対してどうかしてる。

 

「……叢雲よ。よろしく」

「提督の青崎だ。よろしく……」

「挨拶なんかいらないわ。部屋はどこ?」

「101号室よ」

 

 私の言葉に満潮は何も言わずに執務室のドアを勢いよく閉めて部屋を出た。

 

「何よ、あの子?」

「今まで見てきた中で一番態度が悪いな……」

 

 陽炎や瑞鳳と言った初印象が悪い艦娘はこれまでにも何人もいたが満潮はその中でトップクラスで最悪だ。「よろしく」の一言も言えてないし、礼儀の欠片も感じられない態度はどうかしてる。志願制ではなく、徴兵制が開始されて(この手のものは兵士の質を下げるものであるが)から初めて着任した艦娘だけど、予想以上に悪い人材なのかもしれない。これからこんな子ばかり送られてくるのだとしたらため息が出る。こんな状態で大丈夫なのだろうか?

 

 

 この子が原因で鎮守府が荒れるなんてこの時点ではまだ、考えてもいなかった。

 

「そういえば叢雲、瑞鳳は大丈夫なのか?」

 

 思い出したように司令官が呟いた。

 

「……放っておくしかないわよ。どうにもならないことんだし、諦めなさい」

 

 一、二ヶ月前に突然、瑞鳳が酒に溺れた。今の彼女は仕事の時を除くと寝るか酒を飲んでいるのかのどちらかだ。気になって声をかけたが何も話そうとしないし、近寄ってくるなと言わんばかりの態度を取られる。

 少し調べてみて、瑞鳳が潰れた前日に彼女の両親が戦死したことを知った。それを知った時、私は瑞鳳を切ることにした。助けようがないし、下手に声をかけて反発される方が面倒だ。それに、酒に溺れているけども仕事はこれまで通り真面目にやってくれるし、私から言うことは何もない。むしろ、口うるさいのが静かになったのが気持ちいいぐらい。

 初めは気にかけていた荒潮も瑞鳳が潰れた原因が両親の死と知ると何も言えなくなったのか、声をかけなくなった。今の瑞鳳を気にかけているのは司令官を除くと彼女に気があった整備兵、彼一人だけだ。

 

「そうか……」

 

 司令官が残念そうに呟いた。

 

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