艦娘の戦争   作:黒猫クル

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 難産でした。もう少し執筆スピードを速くしたい……
 本編は②からとなります


満潮編
あの時があったから今の私がある①


 交通事故にあって病院に運ばれた。

 学校の登校中に信号を無視した車に跳ねられ、気づいたら包帯で体のあちこちをグルグル巻きにされて病院のベッドの上にいた。全身が痛くてたまらなかったけど、三週間ぐらいすると痛みも収まって少し動けるようになった。リハビリは大変だったけど、看護師の人(岸本 満子という名前だった)が献身的に介護してくれたこともあって切り抜けることができた。

 

「主治医の許可が出たので今日からスマートフォンを解禁します。ただし、SNSへの病院内の写真投稿や消灯時間を過ぎて使うのは禁止ですよ」

「ありがとうございます」

 

 渡されたスマートフォンの電源を入れると同時に大量の通知音が鳴り響いた。慌てて音を消してから内容を確認すると高塚さん(艦娘の時の名前は瑞鳳)と綾瀬さん(艦娘の時の名前は陽炎)からの不在通知やSNSへのメッセージが大半だった。内容を見ると僕の様子を気にしたり(高塚さんに至っては連絡が無いことに逆ギレしてた)、連絡が無いことを気にするものばかりだった。

 

 ひとまず高塚さんに連絡を取ることにした。

 

「返信できなくてすみません。交通事故にあって寝込んでました」

 

 返信がすぐに来た。

 

「遅い。何かあったら言ってよ!」

「すみません……」

「どこの病院? それとあの女のいない時間は?」

 

 慌てて病院の名前と母がいない時間を教えると「分かった」と返信が返ってきた。

 

「お知り合いですか?」

 

 岸本さんが僕に声をかけた。

 

「はい。以前、話を聞かせていただいた元艦娘の方です」

「元艦娘ですか……」

 

 元艦娘という言葉に反応した岸本さんを見てやらかしたか? という不安が頭の中をよぎった。

 

「すみません。できれば他の人には秘密に……」

「大丈夫ですよ。私も元艦娘ですから」

「えっ!? そうなんですか?」

 

 思ってもない言葉に驚きを感じた。金髪で西洋人形みたいな容姿で綺麗な人だと思ってはいたけども元艦娘だなんて予想できなかった。母も知らなかったと思う。

 

「と言っても艦娘でいたのは最後の三年間だけですけどね」

「そうなんですか……元艦娘であることは母には黙っておいた方が良いかもしれません。母は元艦娘が嫌いですから……」

「承知しました」

 

 岸本さんがニッコリとした笑顔を作った。母にバレると間違いなくトラブルの元になるし、黙っていなければならないと思った。

 

「一ノ瀬さん、面会です。高塚結衣さんと名乗ってますがお知り合いですか?」

 

 別の看護師の人の声がした。連絡したばかりの高塚さんが来たのは意外だったけど、母はいないし丁度良い時間だと思う。通すことにした。

 

「通してください」

 

 五分ぐらいして病院のドアが開いた。

 

「久しぶり。連絡が取れないから何があったのかと思えば交通事故とはついてないね」

 

 相変わらずの皮肉に少し笑ってしまった。僕の笑いに高塚さんが小さくため息をついた。

 

「笑えるってことは元気そうだね。気にして損したよ」

「面会時間は二十分です。プライバシー確保の為に外で様子を見ます。すぐ外におりますので、何かあればお呼びください」

「ねぇ、どこかで会ったっけ?」

 

 高塚さんが外に出ようとする岸本さんに声をかけた。

 

「いえ……お会いした記憶はありませんが……」

「そう? 貴女の目が私に会ったことがあるって言ってるけど」

 

 岸本さんの返事は無い。ただ、沈黙が流れた。

 

「まぁいいや。悪いけど私は貴女のことは覚えてないから」

「失礼します……」

「あら? ミッチーじゃない」

 

 廊下から聞き覚えのある声がした。その声に岸本さんは明確にビクッとした。綾瀬さんだった。

 

「この子の前ではいつも通りに話しても大丈夫よ。貴女のことも叢雲から聞いてるし」

「私は患者のことを第一に考える義務があります。仕事がありますので……失礼します」

「相変わらず、仕事中の貴女は頭が固いわねー」

 

 綾瀬さんの声に脇目も降らずに早足で岸本さんは廊下に消えた。

 

「綾瀬さん、お久しぶりです」

「久しぶり。元気にしたって……わけではなさそうね」

「岸本さんと知り合いですか?」

「知り合いってあの子、満潮よ? 叢雲の話に出てきたの覚えてない?」

「あっ……!」

 

 青崎さん(叢雲)の話を思い出した。満潮さんといえば青崎さんの元婚約相手の司令官とのいざこざを起こす原因になってしまった人だ。ただ、看護をしてくれた彼女からはそんな印象を受けなかった。青崎さんの話の満潮さんはツンとしてて反発してばかりだったけど岸本さんはそんなことも無く丁寧で献身的に看護をしてくれた。

 

「あー。あの時のガキか。通りで嫌な目をされるわけだ」

 

 高塚さんが呟いた。

 

「うーん……現役の時は色々問題があったみたいだけど、今は真面目に働いてるみたいよ」

 

 高塚さんが口をつぐんだ。戦時の自分と平時の自分を比較してしまったのかもしれない。

 現役の時にあそこまでひねくれていた彼女を何がここまで変えたのだろうか? 青崎さんの話では表面上しか聞けていなかった岸本さんがどういう生き方をしてきたのか気になった。

 

「岸本さんの話を聞けませんか?」

「聞きたいの?」

 

 綾瀬さんが呟いた。

 

「私も聞きたいかな。あの子がどうやって立ち直ったのか気になるし」

「うーん……瑞鳳さんも聞きたいかー……悪いけどちょっと難しいかもしれないわね」

 

 綾瀬さんの言葉に高塚さんが少しイラっとした顔をした。

 

「何で?」

「叢雲の話を聞いてたから分かると思うんだけど、あの子って結構神経質なの。今だって瑞鳳さんを見た途端に出ていこうとしたでしょ?」

「向こうが勝手に苦手だって思ってるだけじゃん」

「それはそうだけど……でも、叢雲の鎮守府で瑞鳳さんのことが苦手な子ってかなり多かったみたいよ?」

「つっ……」

 

 反論の余地が無かったのか高塚さんが舌打ちをした。

 

「……じゃあどうすればいいの?」

「うーん……一応、説得してみるけどあまり期待しない方がいいかもしれないわね。いつもの嫌味を言わないって約束してくれるなら聞いてくれるかもしれないけど、約束してもらえないかしら?」

 

 少しの間、沈黙が流れた。

 

「……分かったよ。その代わりに説得は頼んだよ」

「あっ、もう一つ条件をつけてもいいかしら?」

 

 高塚さんの表情に明らかな苛立ちが浮かんだ。

 

「何?」

「心配だったことを素直に話すべきなんじゃない?」

 

 高塚さんが黙ってそっぽを向いた。何のことを話しているのだろうか? 二人の話が気になった。

 

「何かあったんですか?」

「瑞鳳さんが君のことをねー……」

「分かったよ! 話せばいいんでしょ?」

 

 綾瀬さんが話そうとしたのを遮って高塚さんが叫んでこちらを向いた。

 

「……長い間、連絡が無いから心配したんだよ。メッセージを送っても既読がつかないし、何かあったんじゃないかと思ってた。陽炎に相談したし、探して貰ったりもした。結局、君が連絡をくれるまで分からなかったけど」

「そうなんですか……」

 

 高塚さんは少し顔を赤くしていたけど話を終えるとまたそっぽを向いた。彼女が僕の様子を気にしていたことを意外に感じた。

 

「ご迷惑をおかけしました」

「いいよ。気にすることじゃないから」

 

 高塚さんがそっぽを向いたまま呟いた。

 

 

ー--------------------

 

 

 高塚さんと会った後も岸本さんは看護を今まで通りに続けてくれた。

 綾瀬さんの話から岸本さんが満潮さんであることを知ったけども、いつも笑顔で対応してくれた。青崎さんの話に出てきた彼女と同一人物とは思えなかった。ただ、高塚や綾瀬さんのことを聞かれることは無かったし岸本さん自身が自分の身の上を話すことは無かった。高塚さんや綾瀬さんが僕に会いに来ると彼女は形式上の言葉を告げてから病室を出ていく。二人と関わるのを避けているようにも見えた。

 

 退院の日から三週間後、ファミレスの中で彼女との再会が叶った。話を聞くのは僕と高塚さんと綾瀬さんの三人だった。

 

「陽炎から話は聞いてるわ。面白い子もいたものね」

「病院ではありがとうございました」

「いいのよ。仕事をしただけだから。それと、陽炎に頼まれたから来てるけど患者と私的に会うのはあまり良くないことなの。それは自覚しておいて」

「はい……」

 

 プライベートの彼女は病院で見た人とは別人に見えた。容姿は彼女そのものだけど、笑顔を見せないし機嫌が悪そうだ。青崎さんの話に出てきた彼女という感じがする。病院での彼女は仕事をしている時の顔なのだろうか?

 

「……で、瑞鳳もいるのね」

「陽炎から話は聞いてるでしょ? 私のことは気にしなくていいから」

 

 高塚さんの一言に岸本さんの顔が歪んだ。

 

「貴女、鎮守府で自分がどういう立場だったのか覚えてるの?」

「何が言いたいの?」

「仕事にはキツイ癖に誰とも話さずに酒ばかり飲んでて……すごく苦手だったのよ!」

 

 高塚さんがため息をついた。

 

「そんな昔のこと言われても困るんだけど。それに先に苦手だって思ったのはそっちじゃないの?」

「相変わらず一々イラっとさせるわね。そういう態度が相手を傷つけるって分からないの?」

「勝手に傷ついたのはそっちなんじゃないの?」

「貴女はもっと、他人を思いやる気持ちを持ちなさいよ! いつまで自分勝手でいるつもりなの!? そんなんだから、再会して早々叢雲と喧嘩するのよ!」

「私の勝手でしょ? 何で他人のことを考えなきゃいけないの?」

 

 マズイというのは分かってる。だけど、どうすればいいのか分からない。僕はヒートアップしていく会話を黙ってみることしかできなかった。

 

 綾瀬さんがパチンと手を叩いた。

 

「はいはい、二人とも言い合いはそれぐらいにしましょうね。一ノ瀬君が困ってるわよ。瑞鳳さんは嫌味は言わないって約束したでしょ? それに満潮も瑞鳳さんに聞きたいことがあるんでしょ?」

 

 二人が黙った。岸本さんが高塚さんに聞きたいことがあったのは知らなかった。ただ、高塚さんはそれを知っているように見えた。二人の間に綾瀬さん経由で何かやり取りがあったのかもしれない。そんな感じがした。

 

「……艦娘になる前から話せばいい?」

「はい。お願いします」

 

 岸本さんの話が始まった。

 

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