艦娘の戦争   作:黒猫クル

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お気づきの人がいるかは分かりませんがhttps://syosetu.org/novel/295051/2.htmlの瑞鳳と同一人物です。


艦娘になんてなりたくなかった④

 酒に溺れた。

 出撃が終わると鎮守府近くの居酒屋に駆け込んで強い酒を潰れるまで飲み続ける日々。色々と言われると面倒だし、習慣になっていたから仕事だけは真面目にやったけどそれ以外の時はずっとアルコール漬けだった。

 戦う理由だった両親が死んでしまった以上、何もかもがどうでもいい。

 

 私の豹変に周りからも心配されたけど誰にも心を開かない私に呆れられるようになった。豹変から2ヶ月が経った今では皆私に対して見て見ぬふりをする。

 

 ただ1人を除いて。

 

「瑞鳳さん! アルコールは辞めてください!」

 

 この日も居酒屋で1人飲みをしていたら彼が止めにきた。

 

「うるさい! 前線に出もしない餓鬼は黙ってろ!」

 

 彼は今私がいる鎮守府の整備兵だ。年は私よりも少し下。私が酒に溺れてからずっと私を止めようとする。

 

「嫌です! 瑞鳳さんは飲むのを辞めるまで動きません」

 

 彼がなんで私を止めようとするのかは分からない。だけど、鬱陶しい以外の感情を抱くことは無かった。

 

「邪魔すんな!」

 

 彼の手を払い除け、手元にあったハイボールを一気に飲み干す。

 

 苦い味と共に頭を揺すられるような感触が走った。

 

「あっ……」

 

 薄れゆく意識の中、彼の小さな声が聞こえたここから先は記憶が無い。気絶したのだと思う。

 

 

ー--------------------

 

 

 目を開けると知らない場所にいた。周囲はボロいアパートで私の上に毛布が敷かれている。

 

「おはようございます」

 

 整備兵の彼の声が聞こえた。

 

「おはよう……つっ……」

 

 二日酔い特有の激しい頭痛と共に状況を察した。ここは彼のアパートだ。多分、酔い潰れた私を彼が介抱してくれたのだと思う。私の服に乱れは無い。体に違和感も無いし、手を出されてはいないと思う。

 

「良かったら食べて下さい」

 

 台所に立っていた彼が味噌汁とお茶漬けの入った器を持ってきた。二日酔いの身にとってはありがたい。

 

「うっ……」

 

 だけど、味噌汁の味に思わず吹き出しそうになった。

 

「どうかしましたか?」

「……不味い……」

 

 酷い物だった。煮立て過ぎて味噌の風味が無い。加えて出汁もろくに取れていないしょっぱいだけの物だった。

 

「すみません。料理は下手くそで……」

「もう少しマシなものはできないの? 糧食のインスタントの物以下なんだけど」

「すみません……」

 

 申し訳なさそうな顔の彼を見ていると何故か段々と腹が立ってきた。同時に二日酔いの吐き気と激しい頭痛が私を襲う。

 

「つっ……」

「大丈夫……ですか?」

「水持ってきて!」

「は、はい!」

 

 彼が慌てて透明なコップに水を入れて持ってきた。コップの水を一気に飲み干すと頭痛が幾分かマシになった。

 残すのも悪いと思いもう一度、先程の味噌汁に口をつける。だめだ、飲めない。まともな味噌汁を飲みたい。そう思える程に先程飲まされた物は酷かった。

 

「ちょっとどいて」

「えっ?」

 

 ボーッとする彼をどけて頭痛を堪えながら台所に私は立った。

 

 数十分後、有り合わせの具材だけどまともな味噌汁ができた。適当に作った物だった上に料理をしたのは久しぶりだったけど我ながら良いできだったと思う。

 

「凄く美味しいです……」

 

 彼が飲みたいと言ったから飲ませてあげたけど美味しかったらしく、驚いた顔をしていた。

 

「別に君の為に作ったんじゃないけど」

「良かったらなんですけど作り方を教えてくれませんか?」

 

 断ろうと思った。だけど、今後も彼に介抱してもらう事になるとしたら、今朝のような飲めたものじゃない味噌汁が出てくるかもしれない。それが嫌だと思った。

 

「いいよ。教えてあげる」

「ありがとうございます!」

 

 彼が嬉しそうな顔をした。

 

「勘違いしないで。あまりにも不味い物を飲まされるのが嫌なだけだから」

「は……はい」

「介抱してくれたのはありがたいけど二度とこんな不味いのは出さないで」

「わ、分かりました……」

 

 私の言い方が強かったこともあるけど彼が少し怯えた様子で呟いた。

 

 

 

 その後も彼との関係は続いた。私が居酒屋で馬鹿みたいに飲んで彼がそれを止めようとするのはいつもの事。私が潰れて介抱されるのもお決まりだった。彼の背中や家で吐いてしまった事もある。だけど、彼がそれについて文句を言う事は無かった。今思えば甘えていたと思う。

 

 教える側になって分かったけど、物覚えの悪い子だった。

 何度言っても味噌汁を沸騰させるし、具材に芯が残っている事も多かった。わざとやってるのか? と思ったぐらい。

 

 私が望んだわけではないけども、彼との距離は少し縮んだと思う。だけど、彼が私に甘い理由は未だに分からなかった。

 

 

ー--------------------

 

 

 彼との関係が少しだけ近くなって半月程経ったある日、彼が落ち込んだ様子で居酒屋に現れた。

 

「すみません」

「何?」

「今日は一緒に飲んでもいいですか?」

 

 普段は私を止めようとする彼がそんな事を言うのは意外だった。

 

「好きにすれば?」

「ありがとうございます……すみません。強いお酒ってどれですか?」

「コップ貰って」

「え?」

「いいから」

 

 私は彼からコップを受け取ると飲んでいた焼酎をコップの半分ほど注ぎ、少しのお湯を入れた。

 

「ありがとうございます……」

「酒は飲めないんじゃなかったの?」

 

 彼が焼酎を煽る様に一気に飲んだのを見て声をかけた。

 

「今日で二十歳です」

「ふーん」

「もう1杯、お願いできますか?」

 

 無言で同じ物を作り、彼に渡した。

 

「ありがとうございます……」

 

 また、彼はそれを一気に飲み干す。

 

「何があったのかとか聞かないんですね」

 

 飲み干した直後に彼が呟いた。

 

「悪いけど興味無いから」

 

 彼の様子から何か悪い事があったのではないか? と察してはいたけども確信に変わった。どうせ、仕事でやらかしたとかそういう話だろうけど。

 

「聞くぐらいいいじゃないですか……」

「悪いけど私は人の愚痴を聞くほどお人好しじゃないんだ」

「そんなこと言わないで下さいよぉ……」

 

 酔いが回っている。そう思った。顔を赤くしていたし、口調がいつもに比べてくだけている。

 

 彼は聞きもしないのにあったことを勝手に話し出した。彼の話は私の予想通りで、仕事でミスをしてその件で酷く怒られたとかそういう話だった。そのミスで人が死にかけていた事もあって、かなりのショックを受けたらしい。

 

 何度も話を遮ろうとしたけども、聞いてくれるだけでもいいと彼は話すのを止めない。鬱陶しいと思ったし正直に言えば壁にでも話してて欲しかった。

 

「人が死んでないなら別にいいじゃん。別に気にする必要ないんじゃないの?」

 

 彼の話が終わった直後にどうでもいいと思いながら呟いた。

 

「そんな事ありませんよ! 事故は起こらなくて当たり前なんです。それなのに僕のせいで……」

「それだけ、君の仕事が甘いって事なんじゃないの?」

 

 早く会話を終わらせて欲しいと思いながら呟いた私の言葉が不快だったのか彼の顔が歪んだ。

 

「言ってくれますね……それなら、瑞鳳さんは仕事に真剣になっているんですか? 任務中はどうなのかは知りませんが仕事終わりは酒漬けで次の日は二日酔いなのが当たり前ですよね? 本当に真剣に働いているんですか?」

 

 彼の言葉に舌打ちをしてコップを机に叩きつけた。

 

「悪いけど、死線に身を置いている人間と比較しないでくれる? 親しい人が死にかけて自らの手で葬った事はあるの? 飯を食う時間すら無かったことは? 寝れる時にしか寝れなかった時もある。前線ではそれが当たり前なんだよ。今更手を抜く事なんてできるわけがないだろ!」

 

 私の仕事を馬鹿にされる事は耐えられなかった。私生活は滅茶苦茶だけど、仕事に関しては未だに私は手を抜いたことが無い。それが体に染み付いていたし、今更変えられるとは思えない。戦場に行けば自然と酔いが覚めるし、任務だけは真面目にやっている。それは事実だった。

 

「すみません……」

 

 言い返せなかったのか彼が申し訳なさそうに呟く。私も少し言い過ぎたかもしれないと思った。

 空になった自分のコップでお湯割りの焼酎を作り口をつけた。

 

「仕事の内容が違うから一概にそうとは言えないけど取り返しがつくミスなら、後で取り返せばいい。それだけの話なんじゃないの?」

「そうですね……」

 

 先程の酔って変に口が回っていた時とは違う様子で彼が答えた。

 

「落ち込むだけなのは時間の無駄だから。そんな暇があるならミスを挽回する事を考えた方がいいと思うよ」

「ありがとうございます……」

 

 取り返しのつくミスなら挽回すればいいだけなのになんでそんな事で病むのだろうか? 私は彼の気持ちが分からなかった。

 

 その日以降、彼はたまに私の横で酒を飲むようになった。彼が私の横で飲む時は彼がその気になった時。特に仕事でやらかして落ち込んでいる時が多かった。

 私はそれを無視しつつも気が向いた時にたまに助言を出す。そんな関係。酒は彼の方が弱く、酔い潰れた彼を私が介抱する羽目(彼に巻き込まれて出禁になるのが嫌だったからだけど)になった時もあった。

 

 彼の内面の言葉を聞いていくうちにこの人間の中身が少しづつ分かってきた。彼は真面目で純粋な人間だ。けれども、要領が悪くて色々な事が上手くいかないタイプの人間。少女であることを捨てる前の私のような人間だった。

 加えて、私にしつこく纏わりつく理由は私への好意である事も何となく察した。そうでもなければここまで私に構うことなんてできるわけがない。

 ただ、私自身は彼に好意を持つ事は無かったし、彼の事を鬱陶しい人間と思うのはずっと変わらなかった。

 

 

ー--------------------

 

 

 彼と飲むようになって数ヶ月が経ったある日の事。この日も彼と一緒に飲んでいると、店員から店の改装のために早仕舞をするという話をされた。

 正直、まだ飲み足りなかったけど閉めるとなると諦めるしかない。彼と共に店の外に出た。

 

「早仕舞か。ついてないね」

「そうですね……」

 

 相槌をうつ彼をチラリと見た。今日、飲みに来た時からそうだったけどソワソワしている。

 

「あの……瑞鳳さん……」

 

 彼のアパートとの別れ道に差し掛かった時に声をかけられた。

 

「何?」

「良かったらなんですけど……この後、僕の部屋で続きを飲みませんか?」

 

 彼の顔は真っ赤になっている。彼の本音を察した。男女が1つ屋根の下となるとする事は1つしかない。

 

「いや……あの、嫌ならいいんですけど……」

「それって、遠回しだけどそういう意味で誘ってるって事?」

 

 私の質問に彼は顔だけではなく耳までトマトのように真っ赤にした。

 

「は、はい……」

 

 ため息をついた。

 確信した。私は行為をしないかと言われている。誘うとしてもやり方が露骨過ぎると思う。

 断ろうかと思った。だけど、私にその手の経験は無いし、いつ死ぬか分からない身だから経験をしておくのも良いかもしれない。

 

「いいよ。付き合ってあげる」

 

 小さな好奇心でそう答えた。

 

「えっ……? 本当ですか……?」

「君が相手ならいいよ」

「瑞鳳さん……ありがとう……ございます……」

 

 彼と手を繋ぐ。荒れてゴツゴツとした手だった。

 酔っていたけども少し緊張感を感じた。彼は私以上だったと思うけど……

 二人の間に話は無い。ただ、心臓がとくんとくんと小さな音をたてている。暗い道を街灯が照らし、周囲は虫が鳴く音に満ちていていた。

 私達は手を繋いだまま彼のアパートへと向かった。

 

 

ー--------------------

 

 

 目が覚めた。

 辺りは明るくなっていて外からは小鳥の鳴き声が聞こえる。ぼんやりとした意識の中、寒気で自分が裸な事に気づいた。

 一線を越えたと改めて自覚した。彼に抱かれた事は、後悔するほどではなかったけど良かったとも思えなかった。

 

 昨晩の事はあまりしっかりと覚えていない。ただ、暑かった事と強い快楽のような何かを感じた事は覚えている。だけど、私の心の中の冷たさを満たすには至らなかった。むしろ、行為の後の脱力感で強く感じたぐらい。

 彼の愛の言葉を聞いても何も感じないし、抱かれる前も抱かれた後も私の心の中は冷えきったままだった。

 

「おはようございます」

 

 服を着て起き上がろうとしたら、彼の声がした。

 

「おはよう」

「朝ご飯ができているので良かったら……」

 

 丸テーブルの上に朝食が並ぶ。白いご飯と味噌汁と焼き魚という簡易的な物だった。

 昨日、聞きそびれて食べる前にどうしても聞きたいことがあった。

 

「ひとつ聞きたいんだけどいい?」

「何ですか?」

 

 彼が私の向かい側に座った。

 

「なんでこんな女を好きになったの?」

 

 私の質問に彼の顔が赤くなった。

 

「実は……初めて会った時からずっと気になっていました。それと、酒に溺れたのが放っておけなかったから……です……」

「そう……物好きだね」

 

 彼の答えにため息をついた。

 

 この鎮守府に来た当初、私は理想的な艦娘を演じていた。彼はそれに惚れたのだろう。加えて、彼は困っている人間を放っておけないタイプの人間なのだと思う。それに元々あった私への好意が重なっただけ。凄く単純な理由だった。

 

 食事に手をつけた。味噌汁に手をつける勇気はなかったから白米と魚から。どれも普通の味だった。

 

「あの……瑞鳳さん……!」

 

 黙って朝食を食べる私を見つめていた彼が決意したように呟いた。言いたいことは分かっている。

 

「私はあなたを愛する気は無い。それでも良ければ好きにすれば?」

「ありがとうございます……」

 

 そう言葉を口にした彼は顔を赤くしていたけど、嬉しそうに見えた。

 

 相手から愛されない事が確定している恋愛の何がいいのだろうか? 愛人を殺してまで自分の使命を通した前の提督といい目の前の整備兵の子と言い、男という生き物は本当に分からない。

 

 白米と焼き魚が消えて味噌汁だけが残った。あの時の味を思い出した。

 

「瑞鳳さん……ダメなら残してもらっても……大丈夫ですよ……」

 

 不安そうな様子で彼が呟いた。

 

 正直に言えば食べずに残そうかと思った。だけど、味を見ずに捨てるというのは資源の無駄遣いだし、彼に悪い気がする。意を決して味噌汁に口をつけた。

 

「……少しはマシになったね」

 

 塩味の薄い甘い味噌汁だった。だけど、味噌の香りはしていたし、飲めるレベルのものではあった。

 

「瑞鳳さんが教えてくれましたから……」

 

 彼が少しだけホッとした様子で呟いた。

 

 その後も彼との関係は続いた。

 彼は私が酒を飲むを止めなくなった。むしろ、私と一緒に飲もうとする。酔って私と話そうとする。質問されることが増えた。多分、私の事をもっと知りたかったし、寄り添いたかったのだと思う。

 

 加えて、彼が傍にいる時間が増えた。仕事終わりは必ずと言っていい程に私のそばに居るし、クリスマスも年越しも一緒に過ごしたした。休日に一緒に遊びに行ったこともある。だけど、私の心は冷えきったままだった。体を重ねても満たされないし、彼を愛そうとも思えない。むしろ、自分の中の傷をより強く自覚してしまう時すらある。だけど、不思議と彼を手放す気にもなれなかった。

 

 受け入れる事もできず、別れることもできず、彼との関係はダラダラと続いていった。

 

現代編は必要は必要だと思いますか?(よろしければ投票した理由を一言で良いのでコメントにお願いします)

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