艦娘の戦争   作:黒猫クル

41 / 57
 平和会です
この話のために走れメロスと斜陽を読み直しました


あの時があったから今の私がある⑤

 二人は色々なことを教えてくれた。鎮守府での過ごし方、私の苦手な叢雲や瑞鳳への対処法、学ぶことは沢山あった。

 任務や訓練に真面目に取り組んでいれば二人から怒られることは無かったし、嫌味を言われることも無かった。ミスをしても荒潮や司令官が庇ってくれるし、叢雲も強く言わなくなった。

 ただ、叢雲と瑞鳳(瑞鳳のことは荒潮も司令官も分からなかったが)が何を考えているのかは分からなかったし、関わりたいとも思わなかった。

 

 荒潮と司令官に本音を話してから一週間後、私は不細工な野良猫のいる空き地に行った。彼はいつものように不機嫌そうな顔をして私を待ち構えていた。

 

「はいはい、あげるわよ」

 

 猫缶を地面に置いた。彼はそれを見た瞬間、全力で走ってきてハグハグと中身を食べだす。微笑ましい姿を見ながらベンチに腰をかけた。

 

 暖かい風が吹いた。フクジュソウが黄色い花を咲かせ、フキノトウが芽を出す……辺りを見回すと雪解けの季節だった。残雪が色々な所に見えるけど、近いうちに全て溶けるだろう。この季節には何とか冬を乗り越えたという安堵感を感じる。少しすると忌々しい梅雨になって、生きづらい灼熱地獄の夏になるけど……

 

「満潮ちゃーん!」

 

 後ろから聞き慣れた声がした。猫缶を食べていた彼がビクッと反応して、顔を上げ私の後ろに視線を向ける。

 振り返ると荒潮がいた。

 

「こんなところにいたの? あら?」

「あっ!」

 

 荒潮が私に近づくと彼は目を丸くして、私達から距離をとった。

 

「何よ!?」

 

 猫への餌やりを邪魔されたことで荒潮を睨みつけた。

 

「猫にご飯あげてたの? 悪いことしたわねー」

「荒潮のせいで邪魔されて最悪よ!」

「ごめんなさいねー」

 

 荒潮がいたずらっぽく笑った。

 そのまま、言い合いが続いたが野良猫は無言で私達を見つめていた。

 

「だけど、満潮ちゃん、凄いわねー」

「何が?」

「あの子、ここら辺にいるのは知ってたけど警戒心が強くて誰にも懐かなかったのよ。他の子達が可愛げが無いって言ってたわ」

「そうなの?」

 

 話を聞いてみるとあの子は誰にも懐かずに餌だけ貰ういつも一人の子だったらしい。撫でたことのあったり、毎日出会う私は例外中の例外。私に似ているという予想はあったってたのかもしれない。

 話している間に彼はソロソロと歩き、猫缶の残りを食べだした。

 

「なんかあの子、満潮ちゃんに似てるわね」

 

 猫缶を食べる彼を見ながら荒潮が呟いた。

 

「そう?」

「うん。一人ぼっちで警戒心が強いのに、懐いた人には懐く所とかそっくりじゃない。いつ頃から知り合いなの?」

「鎮守府に来た日から……」

「あら? 初日からなの?」

 

 私は彼との間にあったことを話すと荒潮は不思議そうに聞いていた。

 

「不思議なこともあるものね。お友達?」

「だと思う……向こうがどう考えてるかは分からないけど」

「なるほどねー」

 

 猫缶を食べ終わった彼が顔を上げた。いつもだと私の足元に擦り寄ってきて撫でれるけど今日は荒潮がいるからか、こちらに来ない。距離を置いて、ただジーッと私達を見つめている。

 荒潮が近付くと距離を取ってシャーと威嚇した。

 

「怖いのかしら?」

「そうみたい」

 

 しばらくの間、彼と荒潮は見つめ合っていたが、つまらなくなったのか彼は背を向けてどこかに走っていった。

 

 

ー--------------------

 

 

 次の日、早朝に執務室に向かった。司令官と荒潮に心を開いてから、基礎教養として中学生レベルの問題を解いていたがその答え合わせの為だった。

 

「入るわよ」

 

 執務室のドアを開けると司令官がいた。秘書艦の叢雲は遠征に出ていて、代わりに荒潮が秘書艦をやっていた。

 

「おはよう」

「おはよう、満潮ちゃん」

 

 司令官と満潮が私に挨拶をした。

 

「おはよう。答え合わせして」

 

 荒潮がいつもと同じ笑顔でテキストを受け取った。

 

「満潮ちゃん、凄いじゃない! 全問正解よ」

「そんなに凄いこと? これぐらいできて当たり前でしょ?」

 

 私が解いた問題は中学生初期から中期レベルのものだ。教科書を読めば答えが書いてあるし、少し考えれば解ける類のもの。中学時代は授業すらろくに受けれなかったからわけがわからなかったけど……

 

「何も勉強してなかった満潮ちゃんができたからすごいのよ」

「……納得できないわ。早く次の問題をだしなさいよ」

 

 褒められて嬉しい気持ちはある。だけど、無理にお世辞を言ってるようにしか聞こえなかった。

 

「勉強熱心だな」

 

 司令官が呟いた。

 

「は? 何よ? 悪いこと?」

「いや……真面目にやってるのが意外だと思って……」

「何よそれ!? 私が不真面目だって言いたいの?」

 

 口にして気づいたが司令官がそう思うのも無理がないと感じた。私が不真面目だったのは叢雲や荒潮から聞いていただろうし、今が違うだけだ。

 とはいえ、司令官は言葉足らず過ぎるけど……

 

「ねぇ、満潮ちゃん」

 

 あたふたする司令官の話を区切るように荒潮が私に声をかけた。

 

「何?」

「本を読んでみない?」

「本?」

「うん。太宰治の走れメロスとかいいと思うの。読んでみない?」

 

 本と言われて戸惑いを感じた。読書の経験なんてほとんど無いし、読もうと思ったこともない。私なんかで読めるのだろうか?

 

「読めたら、でいいの。短いし、すぐに読めるわよ。今日は非番だし丁度いいんじゃないかしら?」

 

 私の気持ちを察したのか荒潮が笑顔で話した。荒潮は他人をよくからかうけど、嘘は言っていないと思う。それに、名前の聞いたことのある名作に一度ぐらいは触れておいても良いのかもしれない。

 

「そこまで言うなら……」

「確か提督が持ってたわよね? 貸してくれない?」

「あ、あぁ……」

 

 予想外の展開だったらしく、司令官は戸惑いながら本棚から文庫サイズの小説を取り出した。

 

「意味が分からない所があったら何でも聞いて頂戴ね」

「うん……」

 

 私は執務室のソファーに腰をかけて、生まれて初めての読書を始めた。

 

 

ー--------------------

 

 

 一時間ぐらいして、私は本を閉じて深く息を吐いた。

 

 言葉にならなかった。

 話の内容は、主人公のメロスが自分の代わりに処刑される友人のために一人で走るというもの。勧善懲悪のよくある話だったけど、私には主人公の感情が全て分かってしまった。

 とても強い感情だった。ただ友のために死ぬ為に走る極端な感情。一度、心が折れそうになったけどそれでも立ち上がって彼は走った。

 

 友達のいない私なんかじゃとても真似出来ないこと。架空の世界の話というのは分かってる。だけど、言葉にならない何かを思わずにはいられなかった。

 

「満潮ちゃん、どうだったかしら?」

 

 私が読み終わったことに気づいたのか、荒潮が執務の手を止めて呟いた。

 

「上手く言葉にできないわ……」

「読んで良かったと思う?」

「……うん……」

 

 少し考えてからそう答えた。読んで良かったと思う。感動的な話だったし、読めた事に達成感があった。名作と言われるだけのことはあると思う。私は本を司令官に返した。

 

「喜んでもらえて良かったわー」

「他に何かない?」

「うーん……そうねー……」

「斜陽とかどうだ?」

 

 司令官が呟いた。

 

「斜陽? 満潮ちゃんには少し長すぎない?」

「うーん……太宰治繋がりで良いと思ったんだがなぁ……」

 

 二人の会話を聞いて、どんな話なのか気になった。

 

「見せて」

 

 司令官が本棚から取り出した文庫本は走れメロスよりずっと厚い小説だった。読むのに覚悟がいるかもしれない。そんな気がした。

 

「満潮ちゃん。読めなくても責めないし、嫌になったらいつでもやめていいわよー」

 

 荒潮の声に一瞬、別の物にしようかという考えが頭をよぎった。だけど、一度手に取ったものを読みもせずに諦めるのはどうかと思う。それに、これは司令官が私に選んでくれた本だ。

 

「大丈夫」

 

 強がりだったけど、そう呟いてから本を読み出した。

 

 

ー--------------------

 

 

 気づくと夕方になっていた。司令官はどこかに行ってしまって、荒潮と私だけが執務室の中にいた。

 

「満潮ちゃん、読めた?」

「うん……」

 

 本を閉じて何も考えずにドサッとソファーに寝そべった。

 

 何とか読破できた。その間に何度も単語の意味を司令官や荒潮に聞いたし、頭を抱えることも多かった。休憩を取りながら読んだけど、慣れるまでは必死になって息継ぎをしながら泳いでいる感じだった。

 

 凄い小説だった。読んでよかったと思う。最初は没落貴族の退廃的な読んでてムカつく話だと思っていた。だけど、実際には何もかもを失い、苦しみつつも前を向こうとする話だった。主人公の決意にある種の美しさを感じたし、強さすら感じた。ハッピーエンドとは、言えない話だけど心に残る話だった。

 

「満潮ちゃん、凄いわね」

「……そう?」

 

 読後感の余韻の中でボーッとする思考の中で荒潮に返事を返した。

 

「少し長い小説だから満潮ちゃんにはちょっと早いかなぁ……と思ってたけど、全部読めたじゃない。誇っていいと思うわよ」

「ありがとう……」

 

 その後も荒潮が私を励ますような事を何回か言ってくれたけど、曖昧な返事しか返せなかった。頭がオーバーヒートを起こしていたのかもしれない。初めて、読書で疲労感を感じた。だけど、達成感と余韻のある心地いい疲労感だった。

 

 

ー--------------------

 

 

 次の日、私は朝早くに執務室に向かった。ドアを開けると執務室の中は司令官一人だった。彼は一人で執務の準備をしていた。苦手な秘書艦の叢雲の姿はない。好都合だと思った。

 

「おはよう」

「おはよう、満潮。早いな」

「何よ? 早起きするのがそんなにおかしい?」

 

 口にしてしまったと思った。相変わらずひねくれた癖は抜けていないらしい。自分の抜けきれない悪癖を後悔した。

 

「すまん。悪い気持ちにさせたな……」

 

 荒潮がいるならフォローしてくれるけど、今は彼女は朝食中でいないから自分で何とかするしかない。そのまま、本題に入ることにした。

 

「……読み終わったわよ」

 

 借りていた本を彼に渡した。昨日は、疲れていて司令官に返すのも忘れて寝てしまっていたからその後始末のつもりだった。

 

「早いな。もう読み終わったのか?」

「一日中読んでたんだからそれぐらい誰でもできるわよ」

「感想を聞いてもいいか?」

 

 一瞬、素直に話すか迷った。だけど、司令官なら真面目に聞いてくれるだろうし馬鹿にされることはないと思う。話すことにした。

 

「最初は落ちぶれ貴族のムカつく話だと思ってた。だけど、強い人の話だった。上手く言えないけど……凄い小説だったと思う」

「読んで良かったと思うか?」

「うん……」

「楽しんでもらえて良かったよ」

 

 ホッとした表情の彼を見て、ふと作品の中に恋という感情が出てきたのを思い出した。

 

「ねぇ、司令官」

「どうした?」

「司令官は恋ってしたことがある?」

 

 斜陽に出てきた恋という感情はとても強いものだった。片思いと言っていいレベルのものなのに、主人公はそれに自己破壊的に執着し続け、彼女なりの結末を迎えている。

 私は恋という感情を知らない。異性の誰かを好きになったことは無いし、好かれたこともない。だから、それが分からないし主人公が感じた感情が気になっていた。

 

 私の質問に司令官は怪訝な顔をした。

 

「恋? 何か気になることでもあったのか?」

「斜陽に出てた恋って何なのか気になるのよ。荒潮に聞いたら、昔年上の人にしたことがあるって言ってたけどそれ以上、話してくれなかったわ。司令官は何かないの?」

「えっと……自分の場合は……」

 

 彼が答えずらそうにマゴマゴとしだした。荒潮はあっさり答えてくれたけど司令官は話しにくいのだろうか?

 

「少し説明しにくいんだが……」

 

 彼がポツリポツリと話し出した。

 

「その人のことを初めは苦手だと思っていたんだ」

「苦手?」

「君よりも高圧的で、怒られてばかりだったからな……仕事も僕よりもできたし……」

 

 話を聞いてて秘書艦の叢雲の顔が浮かんだ。まさかあれを……?

 

「なんで、そんな人を好きになったのよ?」

「彼女が仲間に弱音を吐いてる所を見たんだ」

「どんな弱音?」

「……詳しくは話せないけど、その子は凄く臆病だったんだ。怖くて逃げたくなってそんな自分が嫌いで周りに隠したくて強気になって……」

 

 叢雲の顔が頭から消えた。その子が誰なのかはしらないけど、私に似ている気がした。

 

「それを知った時、助けてあげたいって思ったんだ。結局、何もできなくてその子に頼ってばかりだったんだけど助けてあげたいっていう気持ちが次第に……な……」

「守ってあげたいが好きになったってこと?」

「そうだな……」

 

 話は何となく分かった。だけど、好きになった理由はよく分からない。守りたいという気持ちは分かる。だけど、異性を好きになった経験の無い私にはそれが好きに変わる気持ちが全く分からなかった。

 

「よく分からないわ」

「そうか……」

「守りたくなる気持ちは分かるけど、やっぱり異性の誰かを好きになるって分からないわ」

「満潮は、誰かを好きになったことはないのか?」

「あったら、こんなこと聞いてないわよ!」

「あっ……すまん……!」

 

 彼が慌てて頭を下げた。やってしまったと思ったけど、今更謝れない。自己嫌悪でドクンドクンと激しく動く心臓を無理矢理抑え込んだ。

 

「……顔を上げて……。代わりに教えて。好きってどんな感覚なの?」

 

 司令官がゆっくりと顔を上げた。

 

「感覚か……その人と一緒に居たいという感じ……かな?」

「どういうこと?」

「その人をずっと見ていたくなるんだ。一緒にいるだけで嬉しいし、笑顔を見るとこちらも嬉しくなる。そんな感じかな……」

 

 実感は湧かないけど、話を聞いていてイメージだけはできた気がする。荒潮も似たような事を言っていた。もっとも、私には無縁な感覚なのだろうけど……

 

「……何となく分かったわ。別の本ない?」

「あっ、えっと……恋愛小説がいいか?」

「何でもいいわ」

「じゃあ、少し難しめの物を……」

 

 私が司令官から本を借りる(異邦人というタイトルだった)のと同時に執務室のドアが開いた。秘書艦の叢雲だった。

 

「おはよう」

「あっ、おはよう叢雲」

 

 司令官が笑顔で挨拶をした。

 

「あら、満潮がいるのは珍しいわね」

「何よ? 私が居るのがおかしいってこと?」

 

 しまったと思い冷や汗が流れた。相変わらず悪癖が抜け切れていない。相手が苦手な叢雲だから尚更だった。

 不安を感じる私を他所に叢雲が呆れた感じで小さくため息をついた。

 

「何でもいいけど、仕事は真面目にやりなさいよ。分かってると思うけど、そろそろ遠征の時間だから準備しなさい」

 

 すっかり忘れていた。慌てて時計を見ると集合時間の二十分前になっていた。集合は十分前が義務と言われていたから、ギリギリの時間……急いで執務室を飛び出した。

 

 

ー--------------------

 

 

 その日の昼休み、いつもの空き地に向かった。

 

「ごめんなさい。待たせたわね」

 

 積荷が用意されてないとか向こうが時間を間違えていたとかそういう下らないトラブルで遅くなってしまった。逆ギレされたし、旗艦の瑞鳳は舌打ちするしで最悪の気分だった。

 

 野良猫の彼はやっと来たかと言いたげな不満そうな顔で私を待っていた。私がベンチに座ると彼は尻尾を立てて駆け寄ってきた。

 

「はいはい、待ちなさいよ」

 

 猫缶を開けて彼の前に置くとハグハグと食べだした。不機嫌そうな顔をしていたけども、やはり野良猫は生きるのに必死だ。昔の私と同じ気がした。

 

 彼を見ながら司令官から借りた本を開いた。読んでみようとしたが何ページか進んだところで手が止まった。小説の中に心理描写がほとんど無い。ただ、出来事や風景描写だけが淡々と語られている。

 どこまでも空っぽで空虚な人間。主人公にはそんな感じがした。

 だけど、その解釈が正しいのか分からない。司令官か荒潮に聞きたいけど二人は今はいないし聞く手段が無い。違う解釈をしながら読み続けるのも悪い気がするし手を止めざるをえなかった。

 

 野良猫がニャーと鳴いて私の方を向いた。

 

「食べ終わったの?」

 

 猫缶の中身は空になっていた。彼はジャンプして私の横に香箱座りで座った。

 

「何? 撫でろってこと?」

 

 彼はスンとした顔で私を見つめた。撫でて欲しければ素直に喉でも鳴らせばいいのに……相変わらずツンとした可愛げのない子だ。

 

「撫でて欲しいならもっと素直に言いなさいよ」

 

 そう言いながら彼の頭に手を触れると彼は私の手に頭を押し付けてゴロゴロと音を出した。ご機嫌らしい。出会った当初はここまで仲良くなれるとは思わなかったけど、彼の方も私に慣れてきたのだろうか? そのまま大人しく頭を撫でられていた。

 

 彼が急にハッと起き上がり、私から距離を取った。

 

「あら? 足音消してたつもりなのにバレちゃったかしら? やっぱり野生の子は勘が鋭いわねー」

 

 後ろから荒潮の声がした。

 

「急に何よ?」

 

 後ろにいた彼女を睨んだ。

 

「満潮ちゃんが撫でてたから私も撫でられるかなー? て思ったけど無理みたいね」

「当たり前じゃないの」

 

 荒潮が私の手元の本に視線を向けた。

 

「あら? 難しそうなのを読んでるわね」

 

 難しそう? 荒潮の一言に疑問が湧いた。

 

「読んだことないの?」

「無いわねー。司令官から借りたの?」

「うん。だけど、正しく読めてるか自信無くて……」

「ちょっと見せてくれない?」

 

 荒潮に本を渡すとパラパラと何ページかめくった。

 

「……満潮ちゃんは読んでどう思ったの?」

 

 少しして彼女が呟いた。

 

「よく分からない」

「分からない?」

「うん。主人公が何を考えてるのかよく分からないの。色々してることだけは分かるんだけど……」

 

 話していて不安になってきた。私の読み取れない意図があるのかもしれない。読み違えてるかもしれない。悪い想像ばかりが頭の中に浮かんでいく。

 

「大丈夫よ。私も同じだから」

 

 荒潮の一言に気持ちがホッとした。

 

「私も主人公が何を考えてるのかよく分からないわ。ただ場当たり的に動いている感じかしら……」

 

 私と同じだ。荒潮がそれであれば私の解釈は合っているのだろうか?

 

「司令官に聞きに行かない?」

「行きたいけど、秘書艦がいるのよ……」

「叢雲ちゃん? まだ話せないの?」

「うん……」

 

 叢雲は未だに苦手だ。

 怒られることは減ったけど何か言われるのは怖いし、いるだけで存在を意識してしまう。それに、仕事中に執務室にいるのか荒潮ならともかく叢雲は許さないだろう。

 

「ねぇ、満潮ちゃん」

「何?」

「叢雲ちゃんに執務室にいていいかって許可を取ってみない?」

「えっ……?」

 

 全く想像していない提案が飛んできた。

 

「仕事のこともあるし、いつかは話さなきゃいけないから、今のうちに慣れておいた方がいいと思うの」

「無理よ! できるわけないじゃない!」

 

 ただでさえ苦手な叢雲に私から声をかけるなんてできるわけが無い。いつ爆発するのか分からない爆弾を素手で掴めと言われているようなものだ。

 

「何かあったなら私がケアするから大丈夫よ。叢雲ちゃん、いつもはあんな風だけど話せば分かってくれるわよ」

「そんなこと言ったって……」

「司令官とお話ししたいんでしょ?」

 

 荒潮が笑顔で囁いた。

 

「叢雲が居ない時でいいわよ……」

「叢雲ちゃんのことだから今日一日、ずっと司令官のそばにいると思うわよ。明日も同じかしらー……」

 

 わざとらしく話す荒潮に少し腹が立った。だけど、叢雲が司令官の傍を離れないというのは事実だと思う。司令官と話がしたいなら覚悟を決めるしかないのかもしれない。

 

「分かったわよ……行けばいいんでしょ行けば!」

 

 私は荒潮を連れて執務室に向かった。

 

 仕事中に邪魔をしないことを条件にあっさり許可は下りた。叢雲は怒りもしなかったし、荒潮についてきてもらうまでも無かったと思う。私が勝手に怖がっているだけで、話せば分かり合えるのだろうか?

 だけど、その日は中々仕事が片付かずに司令官に話しかけられたのは叢雲が夕食に行ってからになってしまった。自室以外の私の居場所ができた。

 

現代編は必要は必要だと思いますか?(よろしければ投票した理由を一言で良いのでコメントにお願いします)

  • いる
  • いらない
  • どちらでもいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。