艦娘の戦争   作:黒猫クル

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 短めです。次回以降は満潮の終戦後の話になります


あの時があったから今の私がある⑪

 荒潮の話から一週間後、終戦の一週間前に彼女は戦死した。戦場で私を庇っての戦死だった。戦死するその日まで荒潮は働き続けた。生きていて欲しかった。必死になって彼女を支えようとしたけども結果は私が原因となっての戦死だった。

 私がもっとできる艦娘だったら……もっと真面目に生きていたら……そして何よりもそもそも叢雲が引きこもったりしていなければ……

 

 私の心の中の怒りは叢雲に向いた。

 

 無言で落とすように叢雲の部屋の前に食事を置いて背を向けた。

 思えば私が鎮守府にいた時の苦しさの大半も殆ど叢雲が原因だ。コイツさえいなければ……そんな気持ちで心の中がいっぱいだった。

 

「満潮?」

 

 中から聞こえた声に足を止めた。

 

「荒潮はどうしたの?」

 

 激しい苛立ちの中、小さく舌打ちをして手の平に爪を立てた。

 

「死んだわ」

「えっ?」

 

 中から聞こえてきた場違いな声に怒りが爆発した。荒潮には叢雲を責めるなと言われていた。叢雲も叢雲なりに苦労していると言われていた。だけど……我慢しきれなかった。

 

「アンタのせいよ。アンタが勝手なことをしたから……! アンタが代わり死ねば良かったのに!」

 

 私は何を言っているの……? 荒潮に責めないでって言われたのに……司令官は叢雲を心配していたのに……

 私は叢雲が大嫌いだ。鎮守府で苦しかった原因の大半は彼女のせいだと言っていい。だけど、相手がどんなに嫌いな人でも死ねなんて言って良い言葉ではない。自分の口にした言葉を後悔したけども今更撤回なんてできない。

 強い罪悪感に襲われながら叢雲の部屋を後にした。

 

 

ー--------------------

 

 

 終戦前になるまで私は食事の時と仕事の時以外は部屋からほとんど外に出れなかった。秘書艦の叢雲を敵に回してしまったのだから外に出られるわけがない。下手をしたら恋人関係の司令官すら敵に回したのかもしれない。仕返しに何をされるのか分からない怯える日々だった。

 幸いなことに私の心配は杞憂で済んだ。任務で顔を合わせることになっても何も言われなかった。それに、外で話してくれる艦娘(私が助けた子達だった)のおかげで外部の情報は知れた。叢雲が秘書艦に復帰したことを知ったし、終戦が近いことも知った。荒潮が居なくなった部屋で私は一人ぼっちだった。

 

 終戦の日、私は外に出た。司令官にそこにいて欲しいと言われていたから。それに、艦娘としての生活に終わりを告げる最後の日に防波堤からの景色を見たかった。

 とても暑い日だった。歩くだけで汗が出るし日差しが痛い。蝉がジリジリとやかましい合唱会を開いている。冬も嫌いな季節だけど、やっぱり私は夏が一番嫌いだ。なんで司令官は私をここに呼んだのだろうか?

 防波堤に腰を掛けた。海は穏やかで波ひとつ無い。少し前まで戦争をしていたのが嘘のように感じた。艦娘の三年にも満たない時間で色々なことを学んだ。初めて人を信じることを知った。感動することを知った。恋をすることを知った。他の人を助けることを知った。そして、他人の死を悲しむことも……

 

 苦い記憶が蘇った。荒潮は最後まで私の味方をしてくれた。それなのに私はわがままを言ってばかりで……私は荒潮に報いることができたのだろうか? もう一度、荒潮に会えるなら今までありがとうと言いたい。それも叶わない願いだけど……目から流れた一筋の涙を拭いた。

 

 これからどうしようか? 艦娘から人に戻れば私は自由だ。鎮守府で働いていたからお金はあるし、艦娘になる前よりもずっと良い状態だと思う。このお金を元手に何かを始めるというのが普通なのかもしれない。だけど、私は何をすればいいのだろうか? 荒潮が生きていてくれたなら一緒に考えてくれたかもしれないけど、彼女はもうこの世にいない。私は、また一人で生きていかなければならない。仲間も友達もいない世界の中で一人で……

 考えていたら士官学校で神通さんに必ず帰ってきて下さいと言われたことを思い出した。顔ぐらい見せに行った方が良いのかもしれない。とりあえず、神通さんの所に向かおうかな……

 

 背中に独特の嫌な気配を感じた。チラリと視線を向けると叢雲だった。

 

「何よ? 嫌味でも言いに来たの?」

「言わないわよ」

 

 叢雲の言葉には敵意は感じられなかった。彼女が私の横に腰を掛けた。

 叢雲の意図が分からない。私を攻撃しに来たわけではないと思う(叢雲がその気ならとっくに怒鳴られている)けど、何も話さないからには意図の掴みようがない。

 

「何か話しなさいよ」

 

 気まずい雰囲気が我慢しきれなくなってそう呟いた。

 

「……虐めて悪かったわね……」

 

 叢雲の一言にイラッとした。

 

「何よ今更……!」

「嫉妬してたのよ。司令官が取られるんじゃないかって怖かった。本当にごめんなさい」

 

 頭を下げた真摯な謝罪だった。叢雲は本当に自分が悪いことが分かっている。その気持ちが伝わった。

 今更だし拒絶しようかと思った。だけど、相手を傷つけたのは私も同じだ。私が謝ってすらいないのに相手を許さないなんて都合が良すぎる。それに、司令官が取られるかもしれないと思って怖くなる気持ちも分からなくはない。もっとも、それ自体は叢雲の勝手な被害妄想だけど……それでも、私は彼女を許すことにした。

 

「分かったわよ……。そこまで言うなら許してあげるわ」

 

 叢雲の顔にホッとした表情が浮かんだ。病んだり、引きこもったり感情的になったりしてたけども彼女も彼女なりにそれをやめられないのを苦しく思っていたのかもしれない。

 前々から感じていたことだけど叢雲も私と同じだ。同じだからこそお互いをお互いに苦手だと思っていた。ただの同族嫌悪。極端なまでに叢雲のことを苦手に思っていた自分が馬鹿らしくなってきた。

 

「ありがとう」

 

 叢雲が呟いた。そのまま沈黙が流れた。

 

 叢雲が謝ったからには私もあの時のことを謝らなければならない気がする。だけど、謝れるだろうか? 謝ったところで叢雲が許してくれるだろうか?

 不安しかないけど、しがらみを断つ為にやらなければならない。私は決意した。

 

「……私も話さなきゃいけないことがあるわ」

「何?」

「ごめんなさい」

 

 私の謝罪に叢雲が首を傾げた。

 

「どうしたの?」

「死ねって言ったことよ。荒潮に叢雲のことは責めないでって言われてたのに……本当は荒潮が死んだのは私のせいなの。荒潮が疲れていたのに助けられなかったし、最後には私を庇って……」

 

 話していて自分が本当にろくでもない人間だと思った。一時の感情で人を傷ついて、その責任を他人に押し付けて暴言まで吐く……本当にあの時の私はどうかしていた。叢雲は怪訝な顔をしていたけど、それでも自分のした事への罪悪感は消えなかった。

 

「いいわよ。気にしてないから 」

「本当に……?」

「覚えてないのよ。あの時、誰かに荒潮の死を責められたことは覚えてる。それが原因で自殺しかけたけど……」

「自殺!?」

 

 自殺と聞いて背筋が凍った。

 

 後に聞いた話だけど、あの時の叢雲は本当に自殺しそうなぐらいに病んでいて荒潮に無理矢理止められたら生きていられたような状態だった。荒潮が死んだあのタイミングであの一言を言ったのは本当に最悪だった。荒潮の助力が無ければ本当に叢雲は死んでいただろうし、死ぬまで後悔していたかもしれない。

 その話を聞いた時、荒潮がいてくれて本当に良かったと思った。

 

「ごめんなさい……! 本当にごめんなさい! 謝るから……お願いだから、死なないで!」

 

 混乱して叢雲を止めようとした。叢雲は大丈夫と言っててくれたけど、それでも本当に彼女を殺してしまうかもしれないという不安な気持ちでいっぱいだった。

 興奮状態だったこともあって私が落ち着くまで時間がかかった。

 

「そろそろいいわね」

 

 話が終わってからそう呟いて立ち上がってから叢雲に背を向けた。

 

「これからどうするつもりなの?」

 

 叢雲が後ろで呟いた。

 

「分からない。だけど、私は私の生き方をするわ」

 

 私の生き方をする。今の私にはそれしかない。三年にも満たない艦娘の生活を終えて、私は新しいスタートラインに立った。不安定でその日を生きることに精一杯だったあの時とは違ってずっと恵まれていて足場の着いたスタートラインだ。だけど、これからどうなるか何をするかその具体的な考えは何も決まっていない。だから、それしか言えなかった。

 

「そう……頑張りなさいよ」

「叢雲も司令官と幸せに……ね」

 

 私は叢雲の前を去った。防波堤にはただ海猫の声と波の音だけが響いている。新しい生活の始まりだった。

 

 

ー--------------------

 

 

 鎮守府を出て最初に士官学校に向かった。着いた時には夕方になっていたが士官学校は、教師や役員が慌ただしく働いていた。何が何だか分からなかったけど、近くの人に聞いてみたら二十二時を回ってから来てくれと言われた。仕方なく、近くをフラフラして時間を潰した。

 

 二十二時になってやっと士官学校の中のゴタゴタが終わった。士官学校から人が出てきた。その中に目的の人を見つけた。

 

「ねぇ……」

 

 士官学校からでてきた彼女に後ろから声をかけたが無視された。

 

「ねぇってば!」

 

 私の声が聞こえたのか彼女が足を止めて私の方を振り向いた。久しぶりに見た彼女は虚ろな目をしていて少し痩せたように感じた。

 

「満潮さん……?」

「ただいま……って、何よいきなり!?」

 

 神通さんが私を抱き締めた。

 

「良かった……!」

 

 痛いほどに私を抱きしめながら神通さんは泣いていた。抱きしめられたのはビックリしたけど、神通さんが本当に私を心配していたことに気づいた。私に再会できたことを喜ぶ彼女を見て、会いに来てよかったと思った。

 

 そのまま神通さんの住むアパートで居候をすることになった。ただ世話になるのも悪いと思って士官学校の後片付けを手伝ったけど、その間に神通さんは戸籍の取得等の私にとって必要なことを全てやってくれた。今の名前(岸本 満子)もこの時につけてもらった。神通さんには士官学校の時から変わらず私は世話になってばかりだった。彼女の前では士官学校にいた頃よりは素直になれた。神通さんも一週間もすると私の気持ちを察してくれてくれるようになった。

 

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