艦娘の戦争   作:黒猫クル

51 / 57
 現代編です。最後にアンケートがあります


あの時があったから今の私がある⑮(終)

 岸本(満潮)さんの話が終わった。彼女の生涯は元艦娘にしては珍しく、艦娘になる前よりもなった後の方が良くなったものだった。岸本さんの話を聞いてよかったと思った。

 話が始まる前に高塚(瑞鳳)さんと喧嘩しだした時はどうなるかと思ったけど、彼女の話が始まると何事もなく平和に終わった。

 

「ありがとうございました」

「礼を言うなら陽炎に言いなさいよ。私はただ、話しただけだから……」

「私からも礼を言うよ。話してくれてありがとう」

 

 高塚さんの一言に驚いた。彼女は普段はありがとうなんて絶対に言わない。綾瀬(陽炎)さんも岸本さんも僕と同じらしく、驚いた顔をしていた。

 

「……それで、約束よ。瑞鳳、貴女の生涯を話してくれない?」

 

 約束と聞いて二人が何かしらの取引をしていたことを思い出した。取引の内容はお互いに自分の過去を話すというものだったのかもしれない。

 高塚さんがコーヒーに口をつけてから小さくため息をついた。

 

「世間に流されただけのつまらない女の話だよ」

 

 高塚さんが過去の話を始めた。彼女の話は一度聞いていた内容ではあったけど、何度聞いても辛く感じた。綾瀬さんも岸本さんも話が進むにつれて顔が暗くなっていき、話が終わる頃には二人とも下を向いていた。

 

「苦労したのね……」

 

 岸本さんが呟いた。

 

「適当に聞き流してよ。自分の意思で何も決められずに何もかもを失った馬鹿な女の話だから」

 

 高塚さんが自嘲気味に呟いて、カップの中に残っていたコーヒーを飲み干した。

 

「えっと……最後に暴言を吐いた女性ってたしか一ノ瀬君のお母さんだったよね?」

「はい……本当に申し訳ありませんでした」

「昔のことだから気にしないでよ。悪いのは君じゃなくてあの女だから」

 

 沈黙が流れた。ファミレス特有の周囲のガヤガヤとした音しか周りではしない。

 

「……私に元艦娘だって話すなと言ったのはそれが理由?」

 

 沈黙を破ったのは岸本さんだった。

 

「はい……何を言い出すのか分かりませんから……今日も塾に自習しに行くと嘘をついてここに来ています」

 

 岸本さんがため息をついた。

 

「君には悪いけど、ろくでもない人間ね」

「はい……そう言われても仕方ないと思います」

 

 岸本さんがコーヒーに口をつけた。

 

「ねぇ何で私達が差別されるのか知ってるかしら?」

 

 思いがけない質問に戸惑った。

 

「いえ……」

「君のお母さんが当てはまるかは分からないけど、誰かを差別することが人の本質なのよ」

「本質ですか……」

「人は自分よりも下の立場の人間がいるとホッとするものなの。しかも世間がそれを後押ししてくれるし、相手は社会の異物。これほど差別しやすい対象は無いわ。いじめが無くならない理由と同じよ」

 

 岸本さんが感じていた苛立ちの気持ちが伝わった。彼女は世間が嫌いだ。艦娘になる前からそうだし戦後の差別を見てからより一層強くなったのだと思う。

 

「満潮」

 

 綾瀬さんが小声で岸本さんに呟いた。

 

「分かってるわ言い過ぎだって。でも言いたいの。君のお母さんみたいには誰でもなりうるの。だから、貴方も気をつけなさいよ」

 

 彼女の話の後には、ただ静寂だけが残った。

 

 

ー--------------------

 

 

 帰りの電車は高塚さんと一緒だった。

 電車の中の彼女は無言で外を眺めていた。前みたいに何かしらのスキンシップを求められたりするかもしれないと思ったけど、そんなことはなく時間だけが過ぎていった。

 

「悪かったよ」

 

 次の駅で降りる頃になって彼女が呟いた。

 

「えっ?」

「証言を話した時に君に死ねばよかったって言ったことだよ。覚えてない?」

 

 高塚さんに再会した時のことを思い出した。あの時は彼女を怖いと思ったし、話を聞いたことを後悔した。だけど、そのおかげで多くの元艦娘に関われたし今は聞けて良かったと思う。高塚さんからの暴言も当時の彼女を考えると仕方ないと思う。

 

「覚えています。でも、仕方なかったと思います。なので、気にしないでください」

「そう……」

 

 高塚さんが呟いた。

 その後は会話をすることもなく最寄り駅で降りて彼女と別れた。高塚さんの気持ちは分からない。だけど、岸本さんの話が彼女が立ち直るきっかけになったのだろうか?

 分からないけど、高塚さんのことが気になった。

 

 

ー--------------------

 

 瑞鳳

 

 あの時の私はどうかしてた。いくら、私が傷つくきっかけを作った人だとしてもやっていたことは責任の擦り付けだ。悪いのは世間とあの女で彼は何も悪くない。むしろ、私のことを気にかけてくれていた。それなのに私は……

 前々から陽炎に相談していて謝る機会を探していたけどもできずにいたが、今日やっとそれが叶った。不器用な謝罪だったけど、彼は受け入れてくれた。

 少しは救われた気持ちになったけど、私の自己満足でしかないと思う。謝ることはできたけど私は私のままだ。

 また、あの時と同じ失敗を繰り返してしまうのではないだろうか? 何もできずに失ってしまうのではないだろうか? 後悔する前に何かをするべきではないのだろうか?

 考えたけど答えは出なかった。

 

現代編は必要は必要だと思いますか?(よろしければ投票した理由を一言で良いのでコメントにお願いします)

  • いる
  • いらない
  • どちらでもいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。