今回も暗い話です
憎悪と呪い①
太陽が僕をギラギラと照らしている。額に汗が流れた。夏は過ぎたが残暑が厳しい。セミの鳴き声が聞こえる上に、ジメジメとしていて9月とは思えなかった。
目的地までもう少し。本当は行きたくないけど行かなければならない。
僕は1人で髙塚さんの家に向かって歩いている。二度と会いに行かないと思っていたはずなのに、また彼女に会いにいくことになってしまった。
家を出て20分、やっと彼女の家である茶色くて木製の古い貸家にたどり着いた。相変わらずの荒れ具合だったけど、より酷くなっている。窓ガラスが割れているし、周辺にはゴミが捨てられている上に「税金泥棒」や「死ね」等の落書きまでされている。
全部、僕のせいだ……
震える手でチャイムを鳴らすと10秒もしないうちに引き戸が開き、高塚さんが現れた。
「君か。なんの用?」
ガーゼや絆創膏塗れの顔の彼女は、明らかに不機嫌そうな表情をしていた。
「この度は、本当に申し訳ありませんでした!」
「本当だよ、全く……! えらいことだったんだからね」
彼女は僕の謝罪を吐き捨てるように受け取った。
僕は高塚さんの戦争証言を学校でそのまま発表した。案の定、教師に怒鳴られた上に親と一緒に学校まで呼び出しを食らう羽目になった。その後、母親も高塚さんの所に怒鳴り込みに行ったらしく、母親が彼女に手を上げ警察沙汰にもなったらしい。その時の言い合いを誰かが撮影していてネットに投稿したらしく、僕の発表の件もあって大炎上した。
今では、彼女の家にイタズラをしに来る人間がいるし、それで実害が出ているのは見ての通りだ。
彼女の証言を発表した事を後悔していない。だけど、高塚さんに迷惑をかけてしまったのは申し訳ないと思う。今日、彼女に会いに来たのはそれが理由だ。持ってきた菓子折りは自分の小遣いから出している。
「母が本当に申し訳ございませんでした」
「その件は別にいいよ。言いたいことは言えたし、痛いのには慣れてる。それに、殴らせた時点で私の勝ちだから」
彼女の言葉に首を傾げた。
「どういうことですか?」
「先に手を出した方が悪い。これが常識なの。私はあの女に殴られた。だから私は被害者ヅラができるの。せっかくだし、覚えておきなよ」
「そうですか……」
言い合いで僕の母親が興奮している中、高塚さんは声を荒げずに落ち着いて話をしていた。母親が彼女を引っぱったいたり、髪を引っ張ったりしても無抵抗だったと聞いている。言い合いも母親が一方的に論破される展開だったらしい。
何もかもが髙塚さんの思惑通りになっている。改めて彼女が怖いと思った。
「慰謝料はしっかり取るつもりだし、むしろ迷惑がかかったのは、君の方なんじゃないかな? 副作用で、イタズラしに来る馬鹿が出てきたのは最悪だけどね」
「本当にすみません……」
「謝罪の続きは中で聞くから入りなよ。暑いし、喉乾いてるでしょ?」
意外な言葉が飛んできた。だけど、謝罪以外で彼女と話したい事があるし、喉も乾いていて冷たい物を飲みたい。彼女の言葉に甘える事にした。
「はい」
彼女の家の中は外に比べて、ひんやりとしていた。外は荒れていたのに対して1か月前に来た時よりも片付いている。ゴミは消えていたし、埃もあまり見なくなっていた。彼女の中に何かの変化があったのだろうか?
以前と同じように丸机の近くに敷かれている座布団に座った。
「麦茶でいいよね?」
「はい、お願いします」
高塚さんが紙コップに麦茶を入れて、僕の向かい側に座った。
「それで何? 菓子折り持って謝りに来だけじゃないんでしょ?」
「あっ……」
彼女が僕の心理を察していた事に驚きを感じた。
「何となくそう思っただけだから。要件があるなら早く話してくれる?」
彼女が少しイラッとした様子で呟いた。
「どなたか、元艦娘の人を紹介してくれませんか?」
「何がしたいの?」
「証言を聞きたいんです」
僕の言葉に髙塚さんがため息をついて、麦茶に口をつけた。
「物好きだね……私で火傷したのに懲りてないの?」
「高塚さんの話を聞いてて自分のやりたい事に気づいたんです。艦娘の人達の生きた声を聞きたいんです」
「聞いてどうするの?」
一瞬、答えに詰まった。だけど、すぐに答えは見つかった。
「分かりません……でも、風化させちゃいけないと思うんです」
「私の事を発表したのもそれが理由か……」
「はい」
少しの沈黙が流れた後に高塚さんがまた、深くため息をついた。
「分かった。不知火に紹介状を書いてあげるよ。私の方から連絡もしとくから、行ってきなよ」
「ありがとうございます」
「で、交通費はあるの? 不知火の住んでる所は隣の県だから距離があるし、電車で片道3000円ぐらいはかかるよ」
「あ……」
慌てて財布の中を見た。1000円札が2枚しかない。往復で最低6000円、食費とかを考えるともっとかかると考えると全然足りない。
髙塚さんは「どうしよう」と思う僕に対して無言で財布から1万円を取り出した。
「貸すから行ってきなよ」
「いいんですか……?」
「いいって言ってるでしょ? 残ったら土産でも買ってきて」
「ありがとうございます」
「それと、過去の事を他人に知られたり、発表されるのが嫌な人間もいる。君は真っ直ぐ過ぎるからそこら辺、気をつけなよ。何が起きても自己責任だからね」
「はい……」
彼女の忠告を心に刻んだ。
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鈴木さん(本名は鈴木佳奈さんで、髙塚さんは不知火と呼んでいる)が住んでいるのは県庁所在地の二階建ての比較的新しめで白いアパートだった。
「えーと……201号室だな……」
「どなたですか?」
チャイムを鳴らす直前、後ろからした声に振り向くと1人の無表情の女性が立っていた。気配もなく、いつの間にか後ろに立っていた彼女に驚いた。
桃色の髪をポニーテールに束ねていて右目周辺に火傷の跡がある。髙塚さんの証言と一致している。彼女で間違いないだろう。
整った顔つきで高塚さんとは違った意味で綺麗な人だったけど、白髪や皺が所々にあり三十路にしては少し老けて見えた。
「初めまして一ノ瀬 純一です。髙塚結衣さんの紹介で来ました」
「髙塚結衣……? ああ、瑞鳳の事ですか。話は聞いていますよ。君の事ですね。相手の許可を取りもせずに証言をそのまま発表する大馬鹿者は」
「あっ……それは……」
辛辣な言葉が飛んできた。
「正義感を持つのは結構な事ですがそれが本当には相手の為になるのかはよく考えた方が良いですよ」
「はい……」
その通りだ……。彼女の言葉に苦い物を感じた。
あの時の僕は正義感に酔っていた。エゴと自覚しながらも高塚さんの証言を風化させてはいけないと思い、そのままの内容で発表した。その結果が……今だ。
「丁度、昼時ですし、ファミレスにでも行きましょうか」
落ち込む僕を気にもとめずに彼女は僕に背を向けた。
昼前だったけど、ファミレスの中は満席直前だった。アパート前からファミレスで注文をするまで彼女との間に会話は殆ど無く、何を考えているのか僕には全く分からなかった。
注文は、僕がハンバーグ定食を頼んだのに対して鈴木さんは鯖の煮付け定食を頼んだ。
ドリンクバーを取りに行きお互いに席に着いた所で話が始まった
「話し出す前に言っておきます」
「は、はい!」
鈴木さんの声に緊張で身体がビクッとした。
「私の話をどこかで発表するしないは自由です。ですが、それで何が起きても貴方の自己責任です。それだけは理解しておいて下さい」
「分かりました……」
彼女の話が始まった。
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