転生したら転剣の世界でした 〜Ruby Memoria〜 作:氷月ユキナ
朝が来た。
師匠に蹴りを入れて不貞寝したぼくは、目を擦りながら隣で寝ているフランをゆする。
……起きない。
「師匠、フランに浄化魔術使って」
『お、おうよ!』
ぼくはフランの身体を、むりやり起こして着替えさせる。
『な、なあ、ルビー?』
「何?」
『その……昨日はすまんかった! 配慮が足りてなかった!』
「……はい、もういいよ」
『え、いいのか?』
「まあね。師匠も流石に驚いただろうし……次に無遠慮な事を言ったら処刑ね」
『ヒエッ』
フランを浄化魔術で体を綺麗にしている師匠にぼくは許しの言葉を与える。
師匠は安心したと言わんばかりの息を吐いて、魔術の水でフランの顔を洗っていた。
「……ん……うぅ……」
「起きた?」
ここまでしてようやくフランが起きたらしい。
フランが朝に弱いということを知ったのは、野宿の時だ。
「おはよ」
「うん、おはよう」
『よく眠れたか?』
「ばっちり」
フランを起こした後は、食堂に向かい朝食を食べる。
「はいよ。朝定食お待たせ!」
「おぉー」
ぼくの前に、木製のランチプレートが運ばれてきた。
その上に載っているのは、パンと卵焼き、ソーセージ2本、茹でたニンジン、そしてスープ。
パンは黒くて硬いしスープは具が少ないが、それでもご飯が食べられるというだけで恵まれているのだ。
今世でぼくはそれを痛感した。マジで。
『どうだ?』
「美味しい」
「ぼくは奴隷の時の食べ物よりはおいしいかなって程度。食べられるだけありがたいけどね」
奴隷の時に食べたよくわからないプルプルのやつとかメッチャ硬いよくわからないものより全然いい。
「でも、師匠の方がずっと美味しい」
『はは、嬉しいこと言ってくれるね』
「本当にそう。師匠の料理が食べたい」
「こんなところでイチャイチャしないで?」
いきなりイチャイチャし始めたよこいつら……。
師匠の料理の方がおいしいのは同感だが、時と場所を弁えて……いや、戦闘中よりはマシか。
『依頼を受けて町の外に出れば、昼は俺が作ってやるから』
「楽しみ。早く外行こう」
『じゃあ、依頼を探しに行かないとな』
「ん」
「あのー? 依頼探しに行く前に、朝食食べ終わろう? 食べ物を粗末にすんな」
◇◆◇
「こんちわ」
「こんにちわー」
「こんにちは。依頼を探しに来たんですか?」
「ん」
「はい、そうです。依頼を受けたいんですが……」
「依頼ボードはそちらです。Gランク冒険者が受けられる依頼は、1番左のG、Fランク依頼だけですので、ご注意を」
「分かりました」
FランクとGランクの依頼だけか……仕方ないな。
そうだよねぇ、こんな早くから高ランクの依頼を受けるなんてことは無理、か。
まずはGランクの依頼ボードを見てみる。
『薬草採取、イノシシ狩り、屋敷の草むしりに、道路のゴミ拾い?』
「うっわ……」
「しょぼい」
『そうだな。依頼料も安いし』
Fランク依頼を見てみる。
『ちっとはましだが、ゴブリン5匹の討伐、牙ネズミ駆除、森でのキノコ採集か』
「えぇぇ……」
「しょぼい」
『だな。まあ、それ以上の依頼を受けられないんじゃ仕方ないさ。それに、レベルが低いのは確かだし。レベルが上がるまでは、雑魚を狩ってよう』
「それしかないよね」
最初はこんなものか。レベルが低い依頼ばかりだけど、これも一興。
何事も楽しむことが大事なのだ……と、ぼくは自分に言い聞かせる。
「じゃあ、これ」
「ん? 薬草採取?」
『まあ、初めてなんだし、いいんじゃないか?』
これはヒール草という5級ポーションの材料になる薬草だ。森の中にたくさん生えていた。
「これ」
「彼女の持っている依頼をお願いします」
「はい。じゃあ、こちらの依頼ですね。確認しました」
「ん」
「ヒール草の形などは分かりますか。分からないのであれば、資料がありますが」
「大丈夫」
「そうですか。依頼を5つ達成されれば、ランクアップとなりますので、頑張ってください」
「ん。ありがとう」
「じゃあまたね、ネル」
「はい!」
これで依頼が受理されたので、仕事ができる。
一つ一つ、丁寧にこなしていくとしよう。
『よーし。行くか!』
「ん」
「さて……皆、頑張ろ!」
◇◆◇
『これが、ポーションの原料のヒール草か』
「名前そのまんまだね。分かりやすい」
◇◆◇
『この実は毒消しの効果があるらしい』
「へぇ……《毒耐性》や《回復魔術》スキルを持ってない人は必要不可欠だね。これ一つで安心できる」
◇◆◇
『こっちは料理や調合に使うと一時的に基礎体力がつくスタミナ茸だ。ゴブリンやオークの魔石を喰らって得た《採取》、《薬草学》、《料理》スキルの知識のお陰でクエストが楽勝だな。しかも《危機察知》でヤバいものかどうかも分かるし。なあ二人共、こういう知識を身につけるのも楽しいだろ?』
「ん、とてもためになる……」
『って絶対楽しくない顔っ!』
「……フランは戦闘狂の気質だからね。草とかそういうのとは無縁か」
これはこれで楽しいと思うけど……こればかりは正確の問題なのでとやかくは言えない。
『まあ今は仕方ないさ。これも冒険者の仕事だからな』
「うんうん。ほら、フラン? これがヒール草だよ」
「ん……」
──キンッ……ガキ……ン……
「……ん? これ……剣戟の音かな?」
『誰か戦ってるな』
「ん、行く! すぐ行く!」
「うん。……師匠、行くよ。助けられるかも」
『……しょうがねぇな』
もうちょっと薬草とか見ていたかったけど……人の命が関わってるのならそんなものは関係無い。
ぼくは手に持っていた草を放り出して、剣戟の音がする方面に走り出した。
■□■
「リリー、クラール、俺をおいて逃げろ」
「諦めるな、ユースタス……!」
「なんでこの規模の群れがこんなところに!? 3匹でいいのに……!」
「ぐっ、俺が奥まで足を伸ばそうだなんて言わなければ」
他の冒険者たちが追い詰められている光景を、僕たちは崖の上から見下ろしていた。
「ゴブリン……」
「だね……良かった、間に行った」
『十三匹か、ちょっと多いな。それに、上位種のホブゴブリンも混じってるぞ。ソルジャー、シーフ、アーチャーが、群れを率いているようだな。対するは、駆け出し風冒険者が3人。戦士1人、レンジャー1人、魔術師1人か。バランスのいい構成だけど、あれだけ接近されたら、このままじゃマズいかもな、これ負ける』
「助ける! ルビーも来て」
「オーケー。行こう」
『分かった、どうする?』
「魔術で削って、割って入る」
フランと共に、崖からゴブリンの群れへ飛び降りる。
「し、死んでもコイツ等は俺が逃がす! おぉぉ、く、くらえ、俺の最後の魔術だ……! ファ──」
格好つけてるとこ悪いが、ぼくやフランに当たる可能性もあるのでむしろそんな“最後の魔術(笑)”を発動させるのは辞めてほしい。
それに──
「《火魔術》ファイア・アロー!」
フランがもう、魔術を使ってるからだ。
「グキャァ!」
フランによって発動された《火魔術》は宙を飛び、三匹のゴブリンを巻き込んで爆発させる。
「凄いじゃないかユースタス!!」
「い、いや、今のは俺のじゃなくて……」
なにか勘違いをしているようだが、説明する暇はないので無言でフランと一緒に冒険者の前に出る。
「え? なんで子供?」
誰が子供だ!? ……いや、12歳は子供か。
とても複雑な気分になったが、それを心の隅に押し込んで剣を抜く。
「ギャギャオウ!」
『残り十匹……やるぞ二人共!』
確かに、師匠の言うとおりにゴブリンを倒さなければならない。
だが、師匠はその前にやるべきことに気づいていないようだ。
「ねぇ、燃えてる」
「うん、どんどん燃え広がってるね」
『おう、燃えてるぜ! 二人の冒険者としての初陣だからな!』
「違う、森が燃えてる」
何をすべきか……それは消火に決まってるだろ!
「師匠って《水魔術》使えるでしょ!? 早く消火してッ! 森火事になったら笑えないよ!?」
『だわああぁぁッッ!? 《水魔術》アクア・クリエイト!』
師匠の必死すぎる《念話》が頭に響くと同時に大量の水が魔力から生みだされ、木を燃やしている火を消していく。
ああ……火によって環境が破壊されていく……。
『森で《火魔術》は駄目でした』
「気を付けてね、頼むから。放火魔として逮捕されたら冗談じゃすまないよ」
『はい。フラン、ここは《土魔術》で行こう。練習通り行けるか?』
「ん、やってみる」
『《ストーン・バレット》!』
「《ストーン・アロー》!」
師匠とフランの魔術によって大量の石の礫が射出され、ゴブリン達を次々と撃ち殺してゆく。
「師匠の魔法、凄い!」
『スキル《魔法使い》で威力が上がっているからな。フランには共有できないのが残念だ』
もうぼくは要らないんじゃないかというネガティブ思考を頭を振り払ったぼくは、とあるスキルを使う準備をする。
よし、このまま立ってるだけなのは嫌なので、残りの七匹全てを殺そう。鏖殺だ。
「下がってて、フラン。あとはぼくがやる」
「ん、任せた」
「──《反逆の魂》」
このスキルは天職である反逆者の固有スキルであり、効果は以下の通りだ。
反逆の魂:使用者は一定の間、指定したスキルの存在を昇華する。効果時間は指定スキルのレベル、レア度による。最大で1分間。再使用は指定スキルのレベル、レア度による。
これで《剣術》を超強化し、《剣聖術》並みまで高めたぼくは剣を構えた。
「新しいスキルの試運転に丁度いいね」
ぼくは一気に駆け出して、剣を横一閃する。
「グギャァッ!」
「はい、次」
斬撃の渦がゴブリンを襲い、2匹目、3匹目とゴブリンを葬り去っていく。
「な、なんだあの娘は……とんでもなく強いぞ!」
近づいてくるゴブリンを問答無用で八つ裂きにし、身体を切断する。
「グキャァァアア──ッ!?」
ゴブリンの絶叫がずっと木霊していたが、少し経てばそれすらも無くなった。
「──はい、終わり」
周りの人が気がつけば、そこにはゴブリンの姿は見当たらなくなり。
代わりに、大量の屍と灰が地面に落ちていた。
「もうちょっと場数が欲しいなぁ……」
ふと思ったことを口に出せば、助けた冒険者にドン引きしたような顔をされた。
失礼な。
リメイク前との変更点
固有スキル《反逆の魂》の追加