転生したら転剣の世界でした 〜Ruby Memoria〜 作:氷月ユキナ
『あー……別れよう、ってなんだ? 俺たちは付き合ってたりはしないぞ』
「付き合う……いや何のこと!? ぼくたちまだ出会って一ヶ月も経ってないよ師匠!」
『ルビーが紛らわしい言い方するからだろうが!』
少しばかり軽口を叩き合って場の雰囲気を緩めたあとに、ぼくは名案とばかりに人差し指を立てる。
「そうじゃないよ。ぼくとフラン、別々に行動しようって意味」
『……ほう? なんでだ?』
「ゴブリン
『……なるほどな。その方が効率もいいし、何より他の誰かが襲われてるとすると助けられる可能性が高くなる。それに別行動した方がゴブリンの巣を見つけられる確率も高まる……ということで合ってるか?』
師匠の理解が早くて助かる。
説明が伝わったことで、ぼくは笑顔を深めた。
「正解正解大せいかーい。花丸あげるよ?」
『おー、やったぜー、ありがとなー』
「わーお、凄い棒読み」
そこで、今まで口を開いていなかったフランが手を挙げた。
「ん、つまり、一人でゴブリンをいっぱい倒せばいい?」
「そういうこと。ついでに、倒したゴブリンの数を競争でもしない?」
「おお、望むところ!」
『……ルビー、ちょっと良いか?』
「何?」
ここで、師匠が何を懸念しているのかはぼくにも分かる。
『こう言っちゃなんだが……ルビーは弱いだろ? 俺みたいなチートじゃない。エクストラスキルとやらも、今は有るだけで何にも使えない。……一人で、大丈夫か?』
「それは……」
師匠の疑問に答えようとしたとき。
「師匠、それは違う」
口を挟んだのは、ぼくではなくフランだった。
『フラン?』
「ルビーはたぶん、強くなりたいだけ。逃げたくないだけ。痛みを知って、戦いに慣れて、経験をつんで。わたしも、ギリギリの戦いが必要だと思ってる。ルビーも、たぶん同じ」
『むぅ……』
フランの言い分を聞いた師匠は、悩ましい声を出して。
そうして、数瞬黙り込んだあと。
『……ああもう、分かったよ! ルビーがそれで良いって言うなら、俺は応援してやる! 今から別行動、それでいいな?』
「うんうん。いやー、ありがとね師匠!」
『師匠と呼ばれてるからには、ルビーも俺の弟子みたいなものだ! 師匠なら、弟子のお願いを聞くもんだろ。……んじゃ、俺たちはゴブが来ている方向に突き進む! また後でな!』
「オーケー。それじゃ、またね!」
「ん!」
言葉を交わし、ぼくはフランとは別方向に駆けだした。
ここで、ぼくはできる限り強くなる。
フランとの旅についていくのなら、強さは必要不可欠……初めから躓く訳には行かない!
◇◆◇
ルビーが駆けていくのを見送ったフランは、反対方向に足を向けた。
『……フラン、ルビーと別れてよかったのか?』
「ん、一人で修業したい。それにたくさん戦いたい。そしてルビーよりたくさんゴブリンを倒す!」
『いや、そうじゃなくてだな……』
「……ルビーなら、大丈夫。必ず帰ってくる」
その、確証も何も無い言葉に。
されど、それはフランのルビーに対する信頼の現れだと師匠は気づいた。
『……そうか。よし! 虎穴に入らずんばなんとやらだ。戦るぞ!』
「ん!」
◇◆◇
いきなりだが、ぼくがフランと別れた理由は、さっき師匠に言ったことだけでは無い。
いや、あれも事実ではあるのだが……この作戦の本命は、称号の"百戦錬磨"だ。
これは1戦で、同格以上の敵を、単騎で100体以上退けた者に与えられる称号。
その効果は、生命+20、腕力+20、そしてスキル・不退転を獲得できる。
この後の
フランは原作はこのタイミングでゴブリンを殺しまくって獲得していた。
けどよく考えてみると、原作の条件で
あ、このままフランと戦ったら獲得できないじゃん、と。
なので、ぼくは単独行動を望んだというわけだ。
後は、ぼくもゴブリンを100体一人で倒すだけ。
……ゴブリンを100体。正直気が思いが、そうでもしないとフランに置いてかれる。
師匠のスキルを奪う能力によるフランの成長速度は異常だ。
その位しないと、あっという間に一人になってしまう。
フランが100体一人で倒していのるだから、最低限同じことをしないと追いつけるわけがない。
そうしてぼくは、気合を入れるように自らの頬を強く叩いた。
そして剣を手に持って、ゴブリンの群れに立ち入った。
「はぁっ!」
「ギャハゲッ!」
「シュギョガー!」
〈ルビーの
「ふっ!」
「ギャギュ……」
〈ルビーの
「スキルじゃなくてただの真似だけど……
「ギョ……」
〈ルビーの
……まだだ。まだ、足りない。
《鑑定》でステータスを確認したが、まだ“百戦錬磨”の称号はない。
もっと戦わないと。もっと強ならないと。
──ヒュヒュヒュヒュヒュン!
「!」
ステータスを確認していたぼくに襲い掛かったのは、礫だった。そこには石だけではなく、木片なども混じっている。
いつの間にか周囲に潜んでいたゴブリンたちが、一斉に投擲したらしい。四方八方から襲い来る礫は、普通は到底躱すことなんてできはしない。
だが、それは普通の人の話だ。
「ほいっと」
最大限強化された《剣術》スキルによって、その全てが斬られるか弾かれることによりぼくの身体には一かすりもしなかった。
……嘘です、見栄張りました。頬に少しだけかすりました。
「よーし、いいね。どのくらい強化されてるかも確認できてきたかも」
◇◆◇
〈フランの
『ミドル・ヒール!』
「はっ、はっ……たすかった」
『フランは着実に成長してるが、流石に数が多いな。こりゃ大繁殖してるのは確実だ。今は一人だし、無茶はするなよ』
「…………」
『……?』
「ギャハ!」
何かを考えているのか、沈黙していたフラン。
そんな彼女に、石飛礫が投擲される。
「っ、師匠!」
『石飛礫か! 任せろ! 《火魔術》ファイア・ウォール!』
炎のドームがフランの体を覆い隠し、礫から身を守る。
『く、ゴブリンも学習して連携するようになってきたな。壁が消える……来るぞ!』
「ん! はぁぁ……」
「ゴルラァ!」
「ギョギョガ!」
「ギャルー!」
10匹のゴブリンがフランに襲い掛かるが、2匹はファイア・ウォールに激突し焼死する。
「
壁が消えた途端に飛び出したフランは《剣技》によって5匹を葬る。
そこに、残っていた3匹が襲い掛かった。
「はぁ、はぁ……!」
「ギャハッ!」
「くぅ……」
「ギシハァ!」
「っあぁ!」
フランはゴブリンたちの武器を捌ききれずに、肩に剣を、背中に槍の攻撃を喰らってしまう。
身体が重く、上手く動かせない。
『フラン! ……くそ! 《剣技》
師匠の見えない刃が、残りのゴブリンたちを倒しつくす。
……それでも、ゴブリンの数はまだまだ減らない。
『大丈夫か! 傷を見せろ、今、回復してやる!』
「く……ぅ」
『ミドル・ヒール!』
「はぁ、はぁ……ん……まだ……いける」
『……いや、危険だ。撤退しよう。ゴブとはいえ流石にこの数はフランにはキツ過ぎる。もっと効率のいい成長の仕方があるさ。遠距離から魔法ブチ込むとか。デカイ魔獣をオレの最大火力で仕留めるとかさ。他にもルビーと協力すれば──』
「駄目……今の私はまだ弱い……ルビーと違って……師匠からの……借り物、の力を……単純にぶつけてるだけ……師匠に借りた力……ちゃんと……使いこなせるようになりたい……! それに……逃げない、って……言ったはず……!」
『……!』
もしもルビーがここに居れば、そんなに無理をしなくていい、逃げてもいいんだと善意で言うだろうが、生憎そのルビーはここには居ない。
「そのために……私自身も、場数ふんで……ちゃんと強くなる…! ここは、ちょうどいい戦場……ルビーに頼らないで……一人で、戦いたい……だから……お願…い、師匠……ッ!」
『……分かった、回復と背中はまかせろ! お前は前から来る奴ら全部……責任持ってキッチリブッタ切れ!!』
「ん……! いく! 《剣技》
フランは剣を構え、再びゴブリンの群れに突っ込んだ。
その心には、ルビーの姿を映して。
フランはルビーを、ルビーはフランを。
お互いがお互いのことを憧憬の対象として定めて、別の場所で、同じように立ち向かった。