転生したら転剣の世界でした 〜Ruby Memoria〜 作:氷月ユキナ
ガルスさんの店の前に到着したのだが、そこには商人が何人か屯していた。
絡まれるのが嫌だと全会一致したぼくたちは、前に行った裏口から店内に入ることにした。
「こんちゃー」
「こんにちはーっす。今良いですかー?」
「おお、お前らか! っておいおい、何だそりゃあ……お嬢ちゃんたち、ボロボロじゃあないか。たった1日でここまで……お前さん方、いったい何と戦ってきた!?」
「予想通りの反応かなー」
思っていた通りの反応をされて、ぼくの中にはそうだろうなという気持ちでいっぱいだ。
「えっと、ゴブリンと少々……」
「ん、ゴブリン、一、二、たくさん」
「ゴブリン……?」
「はい、ざっと100匹程度と……」
『あー……そのくらい斬ってきた』
「ホブゴブもいました」
「百ぅ!? 無茶しよるわ……」
ですよねー、などという言葉が頭に浮かぶ。
『ガルス爺さん、割と急ぎなんだが防具の
「ん……ああ、それは大丈夫じゃが……」
『すぐに直るか? 明後日にはゴブリン討伐に「
「それは問題ないぜ。直すのはすぐ済むからな」
「いくらかかる?」
「そうだな……1万ゴルドってとこかのぅ」
『思ったより安いな。助かるぜ』
「まあ、魔水晶の代金だからな。使い捨てじゃ」
『魔水晶?』
「魔石と違って、地面から採掘される、水晶の一種だ。魔力を蓄えていて、儀式の触媒に使えるんだ」
『初めて聞いたな』
「直すのは、鍛冶魔術の
『じゃあ、魔術で直すのか?』
「おう。どうせなら見ていくか?」
『いいのか?』
師匠とガルスさんの話が進んでいき、鍛冶魔術の
防具を魔法陣が描かれている台の上に置いた。その四角形の角には、黄色い魔水晶が置かれている。
あとは何故か眼鏡をかけたガルスさんが詠唱し、
「──
と言ったとたん、防具が新品のようになった。
……それだけ? 早すぎないか?
「これでよし……」
「もう直ったの?」
「触媒に魔力を流し込めば、魔力の宿った装備を修復し、元の状態に限りなく近くできる……魔法鍛冶師の
『へぇ……意外にお手軽だな。これで1万ゴルドか』
「ただ同じ防具に施術する度に効果が落ちていくから、触媒の量を増やさなきゃならん。次は3万ゴルドくらいになるな」
『なるほど……効率落ちていくのね』
「……よし、次はルビーお嬢ちゃんの番だな。防具を脱いで渡してくれ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
フランの防具と同じように修理してもらうため、ぼくも防具を脱ぐ。
……こうして客観的に見てみると、ぼくの血やゴブリンの血によっていたる所が真っ赤に染まっており、みすぼらしい。
あの綺麗だった装備をここまで汚してしまったのだと、すこしだけガルスさんに対する罪悪感が芽生える。
「じゃ、お願いします」
「ああ、任せろ」
ガルスさんは新しい魔水晶を使い、ぼくの防具も直してくれた。
これからの戦いでも役に立つはずなので、とても有り難い。
ピカピカになった防具を手にとって見つめながら、ぼくはこの先の事を考え、若干憂鬱になった。
◇◆◇
あの後は、ガルスさんは
『
具体的に言うと、『
古い『
これからぼくたちが攻略していく迷宮で例えると
そんな話を教えてもらったら、師匠やフランにさっさと休めと言わんばかりに宿に直行させられた。
おいそこの黒猫さん、ぼくまでではないけど結構な傷があるのには気づいてるぞ。
「……おふろいく…」
「風呂? そういえば、ここ大浴場あったね」
『おう、行っといで』
そこで、ぼくはふと疑問に思ったことがあった。
この場合、ぼくは男湯と女湯のどっちに入ればいいのかと。
「……ねぇ、師匠」
『なんだ?』
「男湯と女湯、どっち入った方がいいと思う?」
『ぶふぅーーーー!』
剣のはずなのに、どうやったのか器用に吹いた師匠は動揺したような声で返答してくる。
『そ、そりゃ女湯だろ!』
「いや、けどさ。師匠知ってるでしょ? ぼくの前世の性別がどっちだったか。正直、女湯に入るのは拒否感あるんだよねぇ……」
『それは……いや仕方ないだろ! 絶対にお前が男湯に入った方が問題だわ!』
「分かってるんだけどさぁ。さすがに女湯は……こう、両性湯とか無いのかな」
『どんな湯だよ!』
師匠がツッコミをするが、こういうジェンダー的なやつは最近大切になってきているのだ。
……ここは異世界なのだが。
「この世界でもジェンダーがどうのこうのとか、そういう問題起こってるのかな」
『さあな……それと話題逸れてるが、ルビーは女湯に入れよ』
「嫌だ」
『大丈夫だ。お前は立派な女の子なんだ!』
「なんか複雑! ……それにさ? 女湯に入るってことはフランの裸も……」
『……仕方のない事さ。そうだろ? そもそもルビーはどうしてそんな嫌がってるんだ?』
「ど、どうしてって……」
そもそも、ぼくの前世は男なのだ。
だから、もし女湯に入ってしまったら問題で……あれ、今のぼくは女の子、なんだよね。
ん? なら問題ない……のか?
うん、仕方がないしね。別に、入りたくて入るわけじゃないし? むしろ、これは人々への配慮などを考えた結果なわけで、別に入りたいわけじゃ──」
『すげぇ葛藤してるな……素直になれよ』
「他人事だと思いやがって……!」
師匠に怒りが沸いてくるが、大浴場に一刻も早く入りたくてうずうずしているフランが隣にいる。
その目はぼくが嫌がることなんて欠片も思っていないかのようにキラキラ輝いていて。
「……もういいや。ぼくは無心で女湯入ってくる。ほら、フランも行くよー」
『おう、俺はここで待ってるからな!』
ぼくは、覚悟を決めた。
今日この日、この場所で。ぼくは、女湯に入る──!
無駄に心の中で盛り上がっていると、フランは師匠をじっと見つめて。
「……師匠もいく」
という爆弾発言をした。
『……は!?』
「おふろ、一緒に行こ。血でたくさん汚れたから、洗ってあげたい」
『い、いやぁ俺はいいよ。さっきのゴブ戦で吸収したスキルの検証とかしたいし……』
矢先がぼくから自分に向かい、焦り始めた師匠を見て、ぼくの中のイタズラ心が顔を出してきた。
ならばどうするか──フランの援助一択!
「まあまあ待ちなって師匠。スキルの検証なんて、そんなのいつでもできることでしょ? なら、後ででもいいよね。それなのに、フランの血で汚れてしまった師匠をお風呂でゴシゴシと洗って綺麗にしてあげたいっていう純粋な思いを、師匠は断って無駄にしちゃうの? ぼく、それはどうかと思うんだけどな……?」
『うっ……いや、だがな! 俺にだって超えてはならないラインがあることぐらいわかるんだよ!』
「そんなの知らないよ。だいたい、勝手にラインとやらを作り上げて、そんな押し付けがましい言い分で他人の思いやりを踏みにじろうとするなんて、それこそが本当に超えちゃいけないラインってやつなんじゃないの? それにさ。ぶっちゃけると、ぼくだけ女湯に行って苦しむのは滅茶苦茶イラつくんだよ。っつーコトでテメェも来い。なあ、師匠?」
『お前キャラ変わってないか!?』
師匠を無視して柄をがっしり掴む。
彼は今から、女湯に強制連行されることが決定された。
「フラン、師匠も喜んで風呂に行くって」
「ん、楽しみ。ルビーありがと」
「あはは、そんな大したことしてないって。……さ、行くよ? ししょーくん」
『って、おーーい! ルビーさぁーーん!? ちょ、やめ……キャーーーーッッ!!』
その日、宿ではぼくとフランにしか聞こえない師匠の《念話》の叫び声が、盛大に響き渡った。