転生したら転剣の世界でした 〜Ruby Memoria〜 作:氷月ユキナ
「師匠! 師匠はなぜ喋れる?」
「あ、それはぼくも気になってたんだよね。師匠、どうして?」
『えーと、それはだな……俺は元々別世界の人間で、ある日俺は……って、言っておくけど話すと長いぞ』
「じゃあ10文字以下で」
「え、ひど」
『短えなおい!! じゃあ、転生したら剣でした……かな?』
ぼくの場合は、"転生したら転剣の世界でした"だね。
……10文字超えちゃった。
■□■
今僕たちは、ゴブリンを倒しながら森を抜けるために歩いている。
「とー!」
──ザンッ
軽い掛け声とは違い、フランの攻撃は重く、速く、容易くゴブリンを仕留めた。
「フラン強ぉ……っと、ぼくも働かないとね」
背後に近づいてきていたゴブリンの方を向いて、《鑑定》を使う。
名称:ゴブリン
種族:邪人 Lv5
生命:17 魔力:5 腕力:8 敏捷:12
スキル:棍棒術1、穴掘り2
「はぁっ!」
「グギャアッ」
僕が振った鉄の剣が、ゴブリンの首を切り落とす。
それだけで、ゴブリンは絶命していた。
「冒険者登録でドナドロンドさんと戦うまでに、できるだけレベル上げたいな……」
ぼくはクルリと周りを見渡すが、辺りにはもう魔獣は居なかった。
狩り尽くした……か。
『二人ともおつかれさん。そろそろここら辺の魔獣を狩るのは手馴れてきたな』
「ん!」
「まぁねー」
「師匠がすごいおかげ」
『はっはっはー、そうだろうそうだろう』
「……このくらいなら、ぼくでも行けるね」
「ん、ルビーもすごい」
「……ありがと、お世辞でも嬉しいよ」
すると、師匠が死体を《次元収納》でしまっていく。
……便利だなー、あれ。
「師匠! ルビー! ゴブリンの角取っといた! 売ったらきっとお金になる」
『おう!』
「あ、サンキュ」
よーし、この辺の魔獣は倒しきったし、そろそろ進むのがいいかな?
んー、と声を間延びさせて、ぼくは腕を組んで上に伸ばした。
『……今更なんだけど、なんで俺『師匠』なんだ?』
「……駄目?」
うわっ、フランがめっちゃ落ち込んでる!?
しょぼん……っていう効果音すら聞こえてきそうなくらいに!
『いやいやいや、ダメじゃないんだけどもさ』
「……初めて師匠を『装備』したとき、いろんなイメージが流れ込んできて、数々の魔獣を倒してきたすごい剣士だって分かった」
「剣士じゃなくて剣なんだけどね」
「わたしは強い剣士になりたい。だから師匠には弱いわたしを鍛えてもらうって決めた。だから『師匠』!」
『……あ、そうなの』
……ぼく、フランじゃなくて師匠に名付けてもらっておいてよかった。
今のぼくは、心から安心していた。
「……嫌?」
『い、嫌じゃないよ! いやー、スッゴクいい名前ダナー! あっはははははははー……』
いやー、スッゴク棒読みダナー! なんて……はは……。
「……私は、強くなりたい」
「……フラン?」
「強くなって『進化』したい!」
そして、フランは過去のことを話し始めた。
獣人族は強くなると進化すること。
彼女の両親が進化するための冒険に出たこと。
黒猫族は進化できたものがいないこと。
だから、そのまま力尽きてしまった両親と同じものを目指すと決めたこと。
『うわぁあああああああんッ!』
「って、え、何!? そこまで泣く!?」
『そうかそうか! つらかったなあ。よしよし俺に任せとけッ! フラン……お前を立派に進化させてやるからな!』
……進化、か。
原作知識を持っているぼくには、何故、黒猫族が進化できないのかを知っている。
まず、黒猫族には神罰として枷という名の呪いが掛けられている。
この神罰が下った原因は、昔の黒猫族の族長。つまり、当時の獣王家だ。
そいつらが邪神の封印を解いて、その力を一族に取り込もうとしたのだ。
実際、半分は上手く行き、一部の王族は半邪神半獣人とも呼べる存在に進化しかけていたらしい。
そうして、黒猫族の半分くらいは力を増すことに成功していた。
邪人になり果てて暴走した末、同族に滅ぼされた個体も多かったらしいが。
だが、神々は、邪神であろうとも神の力を我欲に利用することを許さない。
そうして結局、王族や邪神の力を得た黒猫族は神によって滅ぼされ、残った者たちにも罰として進化を制限する呪いが掛けられた……というのが、事の顛末だ。
だが、そんなものは今のフランには全く持って関係がない。
それなのに、どうしてフランが苦しめられなくちゃならないのだろう。
フラン本人が大罪を犯したわけではないのに、どうしてフランがここまで傷つかなければならないのだろう。
……神罰だなんて大層な言葉で、何も悪いことなんてしてないフランまで巻き込みやがって。
『付き合うぞぉ! 地獄の底まで付き合うからなぁ!』
フランの話に感激し、もし身体があれば泣いていたと確信できるほどに騒ぎながら《念動》でフランを撫でている師匠を傍目に。
「……チッ」
気がつけば無意識のうちに、神サマの理不尽に対する苛立ちを込めて、舌打ちをしていた。
リメイク前との変更点
ルビーの、黒猫族の呪いに対する怒り