産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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  木が生い茂る人里離れた山……冬になろうとする時期。

 鳥が飛び交う空を、少女は見上げた。ボサボサの長い髪を揺らしながら、川で釣った魚を持って茂みを歩いた。山中にポツンと一軒建つ廃れた家の戸を開け、中に入った。


「……日が暮れるよ。早く冬の支度しないと、越せない」


 奥の部屋、戸を挟んで少女は中にいる者に声をかけた。カリカリと戸をひっかく音が聞こえ、それを確認すると少女は壁に釣ってきた魚を吊るし、敷いていた布団に横になり傍にあった羽織を握り横になった。


(少し休憩……)


 吹く風でギシギシと音を鳴らす廃屋……日が沈み辺りが段々と暗くなっていった。それに合わせて、奥の部屋にいた者が目を覚まし完全に日が沈んだと同時に、戸を開け部屋から出てきた。
 床の軋む音に、眠っていた少女は目を覚ました。玄関の戸を開け月明かりに照らされたその者は、そこに立ちチラリと振り返った。目を擦りながら、壁に立て掛けていたナタを手に、少女はその者の傍へ駆け寄った。


「昼間、罠仕掛けた。こっち」


 冷たくなったその者の手を引き、少女は夜の月明かりに照らされた山道を歩いて行った。罠を仕掛けた場所に行くと、見事に熊が掛かっていた。罠を外そうと暴れる熊に攻撃態勢を取る少女だったが、後ろにいた者は彼女を後ろへ行かせそして地面を蹴り飛び上がった。


 獣の咆哮が響き渡った……熊は血だらけになりながらも、抵抗しようとするが後ろへ回った者は、首の骨を折る勢いで再び飛び蹴りを食らわせた。

 倒れる熊の元へ、地面に着地したその者は近寄り熊の喉仏を食い千切り血を啜り肉を食い始めた。その光景を目をパチパチさせながら辺りを見回し、そして咀嚼音を出すその者の傍へ少女は歩み寄った。


「肉少し残しといて、保存食に使うから」


 赤く染まった鬼の目を光らせながら、肉を貪るかつて人だった父……ある日、大怪我をした状態で家の中で倒れていた。すぐに手当をしたが、峠を超えたその日から、突如として太陽の光を嫌い始めた。

 寝室として使っていた奥の部屋の隅に座り、太陽の光から逃げる姿……外と中から窓に雨戸を閉め、一筋の光も入れないようにし部屋に布団を敷いた。父親は日中その布団を被り過ごし、夜になると活動をし始めた。短時間の睡眠を取りながら、少女はずっと父親と一緒に過ごしていた。


 眠い目を擦りながらあくびをすると、父親は口に付いた熊の血を拭き取りながら少女の傍に歩み寄り、頬を撫でた。


「ん?食べ終わった?

肉切り落とすから、待ってて」


 毛皮を剥ぎ見えた皮膚を切り裂き、中に残っているわたを抜き食べられる肉を取った。血の匂いが漂う中、父親は辺りを警戒しつつ彼女の傍を離れようとしなかった。


(春になれば、元に戻る……)


 全てを取り終え、中身がなくなった皮を父親が担ぎ先導を歩いた。麻袋に取った肉を入れると、少女は彼の後を追い掛け後ろを付いて行った。すると突然父親は止まり、少女に向かって手を差し出した。父親とその手を交互に見つつ、彼女は嬉しそうな表情を浮かべて手を握り夜の山道を歩いた。


鬼になった父親

 とある小さな里……そこに、鬼殺隊の制服に身を包んだ二人の隊士が里の者達に聞き込み調査をしていた。全ての聞き込みを終えた二人は、里から離れた小さなごはん処で足を休めた。

 

 

「ふー、疲れたぁ」

 

「全然情報なかったな」

 

「鬼の目撃情報はあるけど、里に被害はないって言うし……何なんだ?今回の任務」

 

 

「山で目撃した獣を狩る鬼…だっけ」

 

 

 突如として聞こえた声に、二人は驚き思わず席を立ち向いた。そこにはいつの間にか、天丼を頬張る音柱・宇髄天元がいた。

 

 

「お、おお、音柱様!?」

 

「い、いつのまに!?」

 

「さっき着いた所だ」

 

(着いてすぐ、天丼って……)

 

「で、情報は何かあるのか?鬼について」

 

「それが全く……」

 

「気になる点と言えば、山に人が住み着いてるって事だけで」

 

「人?」

 

「はい、十年位前から住んでいるみたいで……」

 

「人嫌いって言ってたっけ?」

 

「馬鹿“人嫌い”じゃないくて“人付き合いが苦手”だ」

 

「そいつがどうした?」

 

「山に住み着いてて、聞きたい事があるならその人に聞いた方が早いって、里の人達口を揃えて言ってたんですよ」

 

「ほー」

 

 

「もしかして、山に入るつもりかい?」

 

 

 食べ終え爪楊枝を銜える宇髄に、女将はお茶を出しながら不思議そうに質問した。

 

 

「そのつもりですけど」

 

「だったら、お子さんの様子を見てきていただけませんか?」

 

「子供?」

 

「え?山に住んでる人に子供いるんですか?」

 

「私が数年前、山菜を採りに山へ入った時道に迷った事があったのよ。日が暮れかけていて途方に暮れていたら、あの子が現れてね……一瞬、山に住む妖怪かと思ったわ。

 

でも私を見るなり、一礼して麓まで案内してくれたの。その後すぐにお礼を言おうと振り返ったら、親らしき人が遠くにいてね。その人も一礼して駆け寄ってきた子供と一緒に、山の奥へ消えちゃったの」

 

「何か、山神様って感じですね」

 

「だとしたら、山には最低でも三人住んでるってことになるな。

 

他に人は?」

 

「さぁ……見かけたことないわ」

 

 

 

 

  晴れていた空に薄い雲が覆い始めた……

 

 その空を少女は見上げた。吐く白い息を見つつ、薪を担ぎ直し帰路を急いだ。ボロボロの藁沓で、霜を踏みながら家へ着くと拾ってきた薪を収納した。

 

 

「……雪降るかも。日が出てないから、外に出られる」

 

「ぁ……ああぁ…」

 

 

 苦しむ声が聞こえてきた……心配になった少女は、戸の前に立ち触れながら震える声で話しかけた。

 

 

「大丈夫?どっか痛い?」

 

「あ……あああ……」

 

「開けて良い?」

 

「だ……メ…だ!!!!」

 

 

 息を切らし何かを堪えるかの様な声で、父親はそう少女に叫んだ。尋常じゃないその声に、息を乱しながら少女は怖くなりナタを手に外へ飛び出した。

 

 

 

 

(……俺の頸を斬って……殺してくれ……

 

 

 

……食い殺す前に)

 

 

 

 

 店から山へと来た宇髄達……先に宇髄が山へと入り、その次に二人の隊士がついて行った。彼等の気配を、一早く少女は感じ取った。

 

 

(誰か山に入った……里の人じゃない……?)

 

 

 探る宇髄達がどんどん山の奥へ入ると、とある広場へ出た。そこには岩や木の幹、木の枝に木で出来た的が吊るされており、的には刺し傷が残っていた。

 

 

「これって……」

 

「山に住み着いてる、人達の?」

 

「何やってんだ、こんな所で」

 

 

 二人が話す中、宇髄は的の傷に触れながら渋い顔をした。刺し傷からして、自身が使う苦無の傷と同じだった。

 

 

(まさか、ここに住んでいる奴は忍?となると、少し厄介だ)

 

 

 茂みの奥……身を潜め息を殺しながら、少女は彼等を見ていた。身を屈めながらその場を駆け出し、家へと戻った。息を切らし、貯水壺にから水を飲むとどっと疲れが出たのか、その場に横になり瞼を閉じ眠りに入った。

 

 

 

 

  『…テ』

 

   え?

 

  『…ゲテ』

 

   誰?

 

  『逃げて…早く』

 

 

 

 

 目を開ける少女……彼女の上に乗り、首に噛み付こうとする父親の姿。瞬時に状況を把握した少女は、父親の顔面に鉄拳を食らわせ退かすとナタを手に取り外へ飛び出した。小雪が降る夜の中を、出て来た少女は振り返りナタを構えた。すると、家屋から苦しく息をする父親がフラフラと出て来た。

 

 

「……大丈夫?」

 

「あ…あアア……」

 

「……父?」

 

 

 目に涙を溜めながら、震える声で少女は呼んだ……頭を抱えていた父親は、苦しく息をしながら顔を上げ彼女を見つめた。彼の中で思い出す記憶……生まれたばかりの少女、立ち始めた少女、苦無を的に当て喜ぶ少女、川で水遊びをする少女、眠る少女の寝顔……その一つ一つの記憶が、シャボン玉の様にパチンと次々と消えていった。

 

 

 

『この子をお願い』

 

 

 

 死相を浮かべた女性……彼の膝に座り指を加える幼い少女に、手を伸ばし頬を撫でた。その記憶も、パチンと消えた……

 

 

「グアアアアッ!!」

 

 

 響き渡る猛者の雄叫び……山全体に響き渡り、別の所にいた宇髄はそれをいち早く感知し刀を抜き先に駆け出し、彼に続き二人の隊士も走った。

 

 

 

 

 白い息を吐きながら、父親だった者を見つめる少女。思い出す過去を振り払い、ナタを構え息を整えた。

 

 

『頸を狙え。そうすれば、相手は苦しまずあの世へ行ける』

 

 

 思い出す人間だった頃の父親の言葉……目から大量の涙を流しながら、少女は向かってくる父親に対してナタを振り上げ、頸目掛けて振った。

 

 

 次の瞬間、暴風が吹きナタを振り上げた彼女の目の前に、宇髄が降り立ち父親の頸を切り落とした。コロコロと転がり、自身の足元に着く父親の頭……ペタンと座り込んだ少女は、その頭と宇髄を交互に見た。

 

 

(……誰?

 

父と似た空気が流れてる……)

 

「それはお前さんの親か?」

 

「……」

 

 

 質問する宇髄の背後を、少女は指さした。振り返ると胴体がまだ動いており、彼の隙を付くと独りでに動き出し少女の元へ駆け出した。

 

 

(油断した!!)

 

 

 とどめを刺そうとする宇髄だったが、その光景を見て手が止まり目を見開いて驚いた。




 座り込む少女に抱き着く、鬼の体……鋭い爪で、傷付けないよう手を回していた。少女は父親だったその鬼を抱きしめ返すようにして、震える手を回した。




『生……キ……ろ』




 少女の耳に懐かしい声が、そう囁いた……父親だった鬼は、灰となり頭を撫でていた手が消え、涙を流していた頭も消えた。ボトンと地面に落ちる小さな赤い巾着だけが、ただそこに残った。
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