産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
藤の花が咲き誇る山へ来た梓。臙脂色の忍服にその上から浅葱色の桜吹雪が描かれた羽織に身を包んだ彼女は、咲き誇る藤に見惚れ、垂れ下がる枝を優しく撫で、花の香りを嗅いだ。
(良い匂い。にしても、ここで七日間鬼を退治して過ごすのか)
忍、呼吸、刀の修行を二年打ち込んだ彼女は、今回の最終選別に挑むこととなった。階段を登りきり、社のある場所へ着くとそこには既に三十人以上の受験者で溢れていた。
『七日間?』
最終選別の前日、梓は宇髄から最終選別について話を聞いていた。
『そうだ。藤ノ山で七日間生き延びれば、お前は晴れて鬼殺隊員だ。鬼を斬らず隠れて七日間過ごしてもいいし、鬼を派手にバッタバッタ斬って七日間過ごしてもいい。
とにかく七日間だ』
(取り合えず、頑張って生き残ろう)
出会した鬼を斬り続ける梓……流れる空気から、鬼の空気を見ると襲われる寸前に刀を振り頸を斬り落としていった。息を切らし樹海を歩く中、何処からともなく、時折他の受験者達の断末魔が響いてきた。
(さっきから悲鳴が凄い……)
背後から襲おうとしてきた鬼を、空気の流れで梓は刀を後ろへ突き刺しそれを勢いよく振った。灰となる鬼を見下ろし、梓は刀を手に森を駆けていった。
何度目か朝日が昇った頃、山を歩いていた梓は辺りの気配を感じながら周りを見回した。
(嘘……人の気配が全然無い……
昨日の夜まで、わんさかあったのに)
坂を滑り降り、梓は近くの洞穴に身を潜めた。腕や足に負った傷に目をやった。
(痛ってぇ……鬼に付けられた傷、めっちゃくちゃ痛い。
……早く帰りたい。雛達のご飯食べたい……)
腰に着けていた巾着に入れていた白菊の耳飾りに触れ深呼吸すると、梓は数日の疲れからか眠気が襲い目を瞑り眠りに着いた。
遠い記憶……
雨の中、山の動物達と共に洞穴で雨宿りを小さい梓は父親と一緒にしていた。雷が鳴りそれにビクついた梓は、籠を直す父の元へ行き彼に飛び付いた。受け止めた父は、彼女を自身の膝に乗せ頭を撫でると、止めていた再び手を動かした。
『雨止まないね』
『……時期に止む。少し寝なさい』
『眠くない』
『いいから』
膝から降りた梓は、父の膝に頭を置き横になった。そんな彼女の傍へ、雨宿りしていた鹿や猪が寄りその場に横になった。撫でられている内に、だんだんと気持ち良くなり次第に瞼が重くなっていき、梓は眠りに着いた。
目を覚ます梓……
外を見ると、既に日が暮れ辺りは暗くなっていた。
(……そんなに寝てたんだ……懐かしい……?)
ふと体を動かすと、鬼に付けられたはずの傷口から痛みを感じなかった。気になり自身の腕を見ると、傷は薄くなり治りかけていた。
(……何で?
あんなにいっぱい、傷あったのに……
駄目だ…こんな事気にしてたら)
鞘にしまっていた刀の柄を掴み、梓は洞穴から出て行き山を駆け巡った。
そして七日目の明け方……
山を駆けていた梓は、いつの間にか会場へと戻ってきた。数多くいた者達は、そこにおらず、現在そこにいるのは自分を含む数人だけだった。
(嘘……あんなにいたのに。
四日目から、悲鳴や気配が少なくなっているのは気付いてたけど……)
朝日が昇った時、二人の少女が出てきて最終選別の終了と自分達の合格を告げ、そして鎹鴉を付けられた。
深く息を吐く梓は、二人の少女にお辞儀をして階段を下った。降りきった瞬間、目眩がした彼女はその場に手をつき膝をついた。
(すっごい頭クラクラする……疲れ?
とにかく、立ち上がって……)
息を乱しながら、梓は何とか立ち上がり一呼吸するとその場から駆け出した。
数日後の夕暮れ……
宇髄家では須磨が大泣きしながら騒いでいた。
「うわーん!!梓ちゃんが帰ってこなーい!!死んじゃったぁ!!」
「須磨!!縁起でもないこと言うな!!」
「だってだってまきをさん!!全然帰ってくる気配ないんですよ!!嫌だ嫌だ!!梓ちゃーん帰ってきてぇ!!」
「アンタ、これ以上縁起でもねぇこと言うならぶん殴るよ!!」
「二人共落ち着いて!ちゃんと帰ってくるわよ!!」
騒ぐ彼女達とは裏腹に、宇髄は自宅屋根の上から外を眺めていた。彼の肩に留まる虹丸を撫でながら、沈む太陽を見つめた。
(……突破出来なかった…のか。
見込みはあった……)
蘇る記憶……屈託のない笑顔を見せる梓。嫁達に甘え、自身に甘え……数々の記憶が、彼の中を過った。
宇髄家の半分まで来た梓……息を切らした彼女は、道の外れの木の下に座り休んでいた。
(疲れたぁ……歩きたくなーい)
その時、木に留まっていた鴉が自身の肩へと飛び移り鳴き声を放った。そんな鴉を自身の手の上に乗せ、頭を撫でた。
「……お前は喋らないの?」
「カァー!喋レマス!」
「凄ぉ……虹丸と一緒だ!」
「カァー!
早ク帰リマショウ!」
飛び立つ鴉に連れられ、梓は立ち上がり誘導する鴉の後をついて行った。
夜が更けた頃……
息を切らし、宇髄家付近に着いた時だった。見覚えのある空気が流れ、その空気を追うとそこには宇髄が立っていた。
「天元!!」
彼の姿を見た梓は、一目散に駆け出し宇髄に飛び付いた。飛び付く彼女を受け止めた宇髄は、抱き上げ思いっ切り頭を撫でた。嬉しそうに笑顔を見せた梓だったが、疲れと緊張が切れたのか一気に眠気が襲い彼の肩に頭を乗せ、眠ってしまった。
寝息を立てる彼女に、宇髄は鼻で笑うと寝顔を見ながら頬を撫でてやった。
(大した奴だ……平気な顔して)
眠る梓を抱え、宇髄は自宅へ戻った。戻った彼と腕に抱かれている梓を見て、須磨は大泣きしながら駆け寄り彼女に続いて、まきを、雛鶴も二人の元へ駆け寄った。
『梓』
懐かしい声……父……
目を覚ます梓……
目覚め立っていた場所は、故郷の山中だった。辺りを見回しながら歩き出すと、廃れた家に着いた。それを見た瞬間、胸が高鳴り中へ入ると土間に座り煙管を吹かす、生前の父の姿。梓は嬉しさから目に涙を溜めて、こちらを向き立ち上がった父の胸に飛び込んだ。受け止めた父は、彼女を抱き締め優しく頭を撫でた。
『強くなったな……さぁ、もう行きなさい』
父は?
『俺は傍にいる。大丈夫、お前ならやれるさ……』
?
自身の額を合わせる父……
そして自分から離すと、梓を外へ行くよう玄関を指した。父から離れた彼女は、彼と玄関を交互に見ながら、後ろ髪を引っ張られるような気持で玄関へと行きふと振り返った。優しく微笑む父……頷いた彼を見ると、梓は玄関から外へと出て行った。
目を開ける梓……目を擦りながら、起き上がった。
「天元?」
すると襖が開き、桶を持ったまきをが中へと入ってきた。起き上がっている彼女を見て、まきをは桶を床に置き一目散に寄った。
「目が覚めたか!良かったぁ」
「……天元は?」
「天元様はお仕事!
梓、最終選別から帰ってきてから三日間、ずっと寝てたんだぞ」
「そんなに……何か天元見て、飛び付いた記憶あるけど」
「そのまま寝ちゃったんだよ。
熱は下がったみたいだな……?」
欠伸をしながら眠い目を擦る梓を見て、まきをはクスッと笑いながら彼女の頭に手を置いた。
「まだ治ってないんだから、眠ってな」
「うん……」
まきをに言われ、梓は横になり一つ欠伸をするとそのままを閉じ眠り着いた。
数日後……
縁側に座り、梓は鈴を鳴らしながらボーっとしていた。するとそこへ、鎹鴉が入り込み梓の隣に降り、自身の傍で羽繕いする鴉を頭を撫でてやった。
「名前、ある?」
「山茶花ト申シマス!」
「へー、花の名前なんだ。
鴉だから当たり前だけど、真っ黒だね」
「鴉デスカラ」
「天元の鴉は、何か派手な飾りいっぱい着けてたけど……!」
何か思いついた梓は、手首に付けていた組紐を解き、それを山茶花の首に巻いた。
「これで山茶花って分かるね」
「カァー!」
鳴き声を放ちながら、山茶花は嬉しそうに梓の周りを飛んだ。