産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
「梓!お前の刀、届いたぞ!」
出されたお茶を飲む鍛冶屋……持ってきた箱を開けると、中には二本の刀が入っていた。
「わぁ!天元様と同じ、二本ですよ!二本!」
「宇髄様の継子と聞いていましたので、刀を二本打たせていただきました」
「持ってみろ。色が変わるはずだ」
宇髄に言われ、梓は二本の刀を握り持つと刀は忽ち色を変え、無色から黄色系の色、金糸雀色に染まった。
「すっごぉ……天元様と同じ色!」
「というより、ちょっと薄いって感じ?」
「失礼します」
風呂敷を片手に、眼鏡をかけた隠が一人襖を開けて部屋に入ってきた。風呂敷を置き開くと中には鬼殺隊の制服、黒い少し大きめの詰襟と短い洋袴が入っていた。だが洋袴を見た瞬間、梓は傍にいたまきをにしがみ付き警戒心丸出しになった。
「これは……」
「完全に警戒してますよ、天元様」
「これ何……変な服が混じってる」
「これは洋袴っていう洋服だよ!」
「穿くだけ穿いてみな」
まきをの言葉に梓は激しく首を横に振った。須磨が洋袴を持って近付こうとしたが、彼女は素早くまきをから離れ、雛鶴の元へ行った。
「あとで変えるよう連絡するから、寸法だけあってるかみてぇから着ろ」
「嫌だ!!!」
「梓!!」
「ごめん下さーい」
聞き覚えのある声と共に玄関の引戸が開く音がした。まきをは返事をし、中へ入るよう促した。入ってきたのは、袋を持ったしのぶだった。
「胡蝶、珍しいな俺の家に来るなんて」
「梓さんの薬、持ってきたんですよ。宇髄さん、全然取りに来ませんから……あら?その制服」
「梓の制服だ」
「洋袴何ですけど、梓ちゃんすっかり警戒しちゃって」
「……それ貸していただけませんか?」
制服を一式貰ったしのぶは、それを庭に置き懐から油とマッチを取り出すと制服に油を撒き、そして火を点けた。その行為に、一同が驚き固まってしまった。
「天元、何か燃えちゃったけど……」
「……」
「前田さん、彼女には宇髄さんと同類のものをお願いしますね」
「畜生ぉォォ」
音の親子
月明かりが照らす、夜の森……襲ってくる鬼の頸を、次々と斬り落としていく音と共に木が揺れた。
「ふぅー、いっちょ上がり」
木の上から、頸を斬られ灰になっていく鬼を梓は見下ろしていた。両腰に挿している鞘に刀を納め、森を後にした。
入り込んでくる大量の鬼狩り任務、それを次々と梓は討伐していった。彼女の実力は忽ち、鬼殺隊の中で噂となりその噂は柱一同にまで届いていた。
山に集まる隊士達……
その中にいた梓は、彼等の中をすり抜け前に立ち他の隊士達と話す宇髄の元へ駆け寄り服の裾を引っ張った。それに気付いた彼は、話を止めず彼女の頭を雑に撫で、向こうへ行ってろと仕草をした。それを見た梓は頬を膨らませながら、彼から少し離れた所に生えている木に飛び乗った。
(あれが噂の)
(音柱様の継子……)
(滅茶苦茶可愛いんですけど)
(何、あの構ってもらえなくて拗ねる仕草)
(小さいなぁ……いくつだ?)
話し終え、集められた隊士達に指示を出した宇髄は、拗ねている彼女の元へ行くと、軽く頭を叩き指示を出し任務へと参加した。
山中を歩く隊士達……その時、茂みの中から鬼が姿を現し隊士を攻撃した。それを合図に潜んでいた鬼達が、一斉に彼等目掛けて襲い掛かってきた。視界が暗く鬼が見えない隊士達は戸惑い、刀を抜くがオロオロとしており次々と鬼の攻撃を喰らう仲間の叫び声に身を竦んでいた。
「音の呼吸壱ノ型 轟」
爆音と共に鬼が退治され、そこには刀を構えた宇髄が立っていた。
「警戒を怠るな、まだ鬼はいるぞ」
「は、はい!」
鬼を警戒し歩く隊士……その時、突如として後ろに引っ張られる感覚がありその勢いのまま地面に尻を着いた。次の瞬間、鬼が目の前に現れ攻撃しようと爪を振り上げたが、隊士の足元に鬼の首が落ちた。
何が起きたのか理解が追い付かない隊士の前に、梓が立ち刀に付いた血を振り落とした。キョトンとしている彼をチラッと見た彼女は、刀を手にそのまま残りの鬼を討伐していった。
夜明け前……鬼を討伐し終えた隊士達は、数人の怪我人を抱えて広い場所へ出た。駆け付けた隠達が、怪我人の手当をする中遅れて着いた宇髄は抱えていた二人の隊士を降ろし、隠に指示を出していた。
「怪我人の手当を頼む」
「はい」
「これで全員か?」
「それが、まだ数人戻ってきていないようで……あ!」
隠が指差す方を向くと、足に怪我を負った仲間を支える隊士と、彼等の前を歩く腕を負傷し額から血を流す梓が現れた。隠達が負傷した二人の隊士の元へ行く中、梓は宇髄の元へと駆け寄った。
「額の傷、見せてみろ」
「枝で切っただけ」
「みてぇだな。腕は?」
「……」
咄嗟に腕を隠し、そっぽを向く梓……それを見た宇髄は、無理矢理彼女の腕を掴み、その傷を見た。腕には、鬼の攻撃でできたであろう傷が二つあり、そこから血が滲み出ていた。
「……蝶屋敷行きだな」
「いい、別に。
唾つけとけば治る」
「駄目に決まってんだろう!」
「嫌だぁ!あの変な液体付けると痛い!」
「消毒液なんだから、痛いに決まってんだろう。
後任せたぞ」
「はい」
座り込み行かないと駄々をこねる梓を、宇髄は溜め息を吐くとしゃがみ彼女を抱っこした。抱き上げられた梓は嬉しそうに、彼に引っ付きその様子を隊士達及び隠達は眺めた。
(え、何、あの可愛い笑顔)
(構ってもらえなかったの、まだ拗ねてたんだ)
(あ~、俺今日の仕事頑張れるわ)
(梓ちゃんと音柱様、毎日眺めていたい)
ある日……任務先の森の中へ入った梓。その時、彼女の目の前に懐かしい人物が現れた。
「……父?」
そう思った瞬間、空気の流れの中に鬼の空気の流れを見つけた梓は、刀を抜き構えた。すると父は、懐から苦無を取り出し自身に攻撃してきた。
驚愕し攻撃を喰らった梓は、間合いを取り父を見つめた。
(…攻撃された……違う、あれは父じゃない。
違う!!)
頭を振り刀を向ける梓だが、父の顔を見る度にその勢いが弱まり、攻撃ができなくなってしまった。
「どうした、梓。俺を…父を攻撃できないのか?」
「違う!!!お前は父じゃない!!」
「ならなぜ、攻撃しない?すればいいだけじゃないか」
よく見ると、父の背後には無数の事が切れた隊士達の遺体が転がっていた。次の瞬間、父の攻撃が梓の体を八つ裂きにした。傷ができた彼女は、すぐに攻撃をしようと刀を構えるが、目の前に立つ父を見て攻撃ができずにいた。
「所詮、子供だな。まだ親を恋しがっているとは」
「……別に恋しがってないし……父が亡くなって、もう数年経ってるし」
「なら攻撃すればいいだけだろう……この首を斬れば、すぐに退治できるぞ?」
父の周りに流れる空気は、鬼の空気……それを分かっている梓だったが、懐かしき父の姿を見て生前の父を思い出していた。乱れる呼吸を整えようと、梓は深く息をした。
段々と落ち着きを戻した彼女は、刀を構えると姿を消した。すると辺りの音が、突然消え代わりに川の流れる音が響いた。
「音の呼吸弐ノ型 川のせせらぎ」
首を斬られた瞬間、父の顔をしていた頭は鬼へと豹変した。鬼は何が起きたか分からず、背を向けている彼女を睨んだ。
(な、なぜだ!?こいつの……このガキが一番会いたがっている人物になったというのに!!
他の隊士共は、これにかかって全員殺せた!!それなのに、なぜこいつは!!)
塵となり消える鬼……息を切らしながら、梓はその場に座り込んだ。思い出す、生前の父……微笑を浮かべながら、幼い自分の頭を撫でてくれた。
(……今更、会いたいって泣いたって……会えるわけないじゃん)
『梓』
響く父の声……その声を掻き消すようにして、持っていた苦無を、梓は自身の腕に突き刺した。流れ出る血……それと共に、ポタポタと涙が出た。
その後、隠に傷の手当をしてもらった梓は処理を任せ、鼻を啜りながら山茶花に案内され、藤の花の家紋の家へ着いた。玄関に並べられた草履の中に、見覚えのある草履を見つけた梓は、パァッと明るくなり履いていた草履を脱ぐと、一目散に駆け出した。
「天元!」
名を呼びながら襖を勢いよく開けると、中では他の隊士達と酒を飲む宇髄がいた。梓は嬉しそうに彼に飛び付き、その光景を見て酒を飲んでいた隊士達はホッコリした。
(可愛い〜音柱様の継子)
(何か、大型動物に甘える小動物みたい)
食事を終え、風呂から出た宇髄が用意された部屋へ戻ると、既に敷かれた布団の上で梓は静かに眠っていた。その寝顔に微笑みながら、足元に置かれていた掛け布団を梓に掛け彼女の頭を撫でた。
(ガキにはまだ、夜の仕事はキツイもんなぁ……)
部屋の灯りを消した宇髄は、隣に横になりしばらく彼女を撫でた後眠りに付いた。
部屋に響く音……
その音で目を覚ました宇髄は、隣で眠る梓の方を見た。鼻を啜る音と、声を殺して泣く音が彼女の方から聞こえてきた。起き上がり梓の布団へ行き添い寝するようにして横になると、彼女の頭を撫でた。
(親父さん恋しくなっちまったか……)
泣きながら羽織を握り締める梓は、撫でられていく内に落ち着きを戻していき、次第に泣き止み寝息を立て始めた。
(……こいつの親父さん、本当に鬼を討伐していたのか……
あの後、何度か山周辺を調べたが、梓達以外に住んでる奴はいなかった……
山付近にある里の連中は、山に人が住んでいたことは把握していた。だが、誰一人娘の梓の存在を把握してなかった……親父さんだけは時折里に降りてきては物を買っていたから、彼の存在は把握していた……)
梓の頭を撫でていた時、宇髄はふと思い出した……鬼になり頸を斬られてもなお、父親は彼女を抱き締めていた。
(……娘を大事にしてたのは、間違いねぇか)
一瞬過った記憶……鬼になった父親を、手に持っていたナタで頸を切ろうとした梓。自分が駆け付けた事もあり、彼女の手で親を殺さずに済んだ。
(……あの時、既にこいつは鬼の弱点を分かっていた。
……いや、鬼の弱点じゃなく人の弱点……)
薄っすらと目を開ける梓……寝惚けていた彼女は寝返り、鼻を啜りながら宇髄の方を向いた。そんな彼女を見て、宇髄は撫でながら微笑んだ。
「まだ起きる時間じゃねぇよ、寝てろ」
その言葉に梓は、宇髄の浴衣の袖を握り締め眠りに付いた。眠った彼女の頭を撫で、彼も再び眠りに付いた。
翌朝……
起床した隊士は、まだ起きてこない宇髄達を起こしに部屋の前へ来た。何度か呼び掛けたが応答がなく、共に来ていた仲間達と顔を見合わせ、襖をゆっくり開けた。
「音柱様、そろそろ……」
開けた部屋を見た隊士は、言葉を発する事なく固まった。その様子に、他の隊士は疑問に思い中を覗いた。
宇髄の腕を枕に丸まって眠る梓と、彼女を抱き枕のようにして抱き眠る宇髄が布団の上で眠っていた。
(めっちゃ親子……)
(俺今日、仕事頑張れる)
(鬼殺隊、入ってよかった)