産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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  蝶屋敷……

 宇髄の膝に座り彼に体を預け、治療を終え腕に包帯を巻いた梓は寝息を立てていた。


「寝ちまったな」

「まだまだ子供ですね」

「こいつの精神年齢、結構低いんだよなぁ。

ここにいるチビ三人より、低いかも知んねぇぞ」

「育った環境もありますからね……


ところで宇髄さん」

「ん?」

「梓さんの腕の傷、本当に鬼にやられたものですか?」

「……何が言いたい?」

「腕の傷……鬼の爪で斬られたような傷口じゃないんです。

まるで、刀で斬った様な……」

「自分で斬ったのか?コイツが」


 寝言を言いながら、自身の服を握り気持ち良さそうに眠る梓の寝顔を、宇髄はチラッと見て再びしのぶを見た。


「確証はありません。

事故で自身の刀で斬った可能性もありますし……鬼の攻撃で毒を食らっている可能性がありますので、採取した血液の方を少し調べさせてもらいます」

「分かった」


有害な血

  数日後……

 

 任務を終えた梓の元へ、山茶花が舞い降り至急蝶屋敷へ来るよう伝えた。首を傾げながら、彼女はすぐに蝶屋敷へと向かった。

 

 

 

「血液の採取をさせて下さい」

 

 

 診察室へ来た梓に、しのぶは単刀直入に言った。

 

 

「……ヤダ」

 

「お願いします」

 

「何で?」

 

「検査をしたいからです」

 

「痛いから嫌だ…」

 

「梓さん、お願いします」

 

「また今度…」

 

 

 診察室から出ようとした時、廊下には待ち構えていたであろうアオイが立っていた。

 

 

「梓さん、逃げないで下さい」

 

「……しのぶさんの意地悪」

 

「あとで甘い物あげますから」

 

 

 採取を終え半泣きしながら梓はアオイに抱き着き、アオイは自身に抱き着く彼女の頭を撫でた。その間、しのぶは採取した血液を試験管へ保管した。

 

 

「ご協力ありがとうございます」

 

「うぅ……

 

そういえば、何で採取したの?こないだの傷口から鬼の毒でもあったの?」

 

「少し気になることがあったので。毒はありませんでしたよ」

 

「……」

 

「アオイ、ここはもういいので。梓さんに甘い物を用意して下さい」

 

「はい」

 

「梓さん、少しお話よろしいですか?」

 

 

 アオイが出て行った後、梓はしのぶの向かいにある椅子に座り彼女の方を見た。

 

 

「お話って何?」

 

「梓さん、数日前に腕に負った傷は鬼に付けられましたか?」

 

「えっとぉ……」

 

 

 靄がかかる記憶を思い出す梓……共に『斬れ』という声が自身の中で響いてきた。

 

 

「梓さん?」

 

「…!

 

 

えっと、そん時の記憶……凄い曖昧で」

 

「……」

 

「天元に声掛けられて、それで気が付いたら……

 

何か腕斬れてた」

 

「あらら……」

 

 

 その後話を終えた梓は、台所へ向かった。そこへ行くと、丁度アオイがお茶を入れおはぎが二つ用意されたお盆が準備されていた。

 

 

「あ!ぼたん!」

 

「風柱様が差し入れに持ってきて下さったんです」

 

「かぜ…ばしら?

 

天元と同じ柱の人?」

 

「そうですよ。梓さんも何度かお会いしてますよ」

 

「かぜばしら……!

 

それって、カナエさんに会いに来てた男の人?顔に傷がある」

 

「えぇ、そうです」

 

「その人、今いるの?」

 

「いいえ。任務で今はいません」

 

「……何だぁ…会えるかと思った」

 

「一般隊士がしのぶ様以外の柱に会うのは、結構難しいですからね」 

 

「そうなんだ……

 

天元と一緒だから、あんまり実感ないや」

 

「私もですよ。

 

しのぶ様以外の柱に会うのは、怪我で運ばれた時くらいです」

 

「フーン」

 

 

 

 

  とある廃屋……

 

 夜が明け、警備をしていた宇髄は辺りを見回した。

 

 

(鬼は出なかったか……?)

 

 

 飛んでくる虹丸……差し出した宇髄の腕に留まると、言伝をした。

 

 

  同じ頃……

 

 鬼退治を終えた梓は、その先で見つけた小さな花を、山茶花へ渡しお館様の元へ贈った。事後処理を隠に任せると、彼女はそのまま帰路へ着いた。

 

 家へ着くと、引き戸を開けた。まだ眠っている三人を起こさないよう、草履を脱ぎ静かに部屋へ行った。部屋に入り、刀を置き部屋の障子を開けると、縁側に山茶花の他に野生の鳥達が降り立っていた。それを見ると、梓は頬杖をつきながら寝転び、鳥達を眺めている内に眠くなり、ファ〜っと欠伸をすると頭を下ろし眠ってしまった。

 

 

 

 

「……は?今、何て」

 

 

 蝶屋敷へ来た宇髄は、カルテを見ながら言ったしのぶの言葉に思わず聞き直した。

 

 

「どう表現していいか分からないので、言葉を借りますが……

 

梓さん、稀血の持ち主の可能性があります。

 

 

先日、梓さんの傷口から採取した血液を調べていたところ、鬼の毒が検出されました。その毒に効く解毒剤を作ろうと思い、再度血液を確認しましたら……」

 

「したら、何だ?」

 

「……鬼の毒が綺麗に無くなっていたんです」

 

「無くなった?」

 

「気になって、梓さんを呼び再度血液を採取しこちらで保管していた別の鬼から採取した血に、彼女の血を一滴垂らしてみたんです……

 

 

そしたら、鬼の細胞が全て消滅したんです……時間を掛けて」

 

「……」

 

「稀血と呼ばせて貰いましたが、梓さんの血液は恐らく……鬼に有害な血ではないかと」

 

「……あいつにこの事は」

 

「いいえ、何も伝えていません。

 

というより、もしかしたら梓さん……自分の血について何も知らないんではないでしょうか。

 

 

傷を負った日の事を聞きましたけど、あまり覚えていないと。宇髄さんに声を掛けてもらって、気が付いたら」

 

「もう討伐した後……」

 

「疑う訳ではありませんが……宇髄さん、梓さんをどこで拾ってきたんですか?」

 

「人里離れた山中だよ。

 

母親は知らねぇけど、父親は…あいつの目の前で死んだ。そこにたまたま俺が駆けつけたからな(流石にお館様から頼まれたとは言えねぇ……)」

 

「そうですか」

 

(それと、鬼化した親父さんと半年も過ごしてたなんて言えねぇわ)

 

 

 しのぶとの話を終え、宇髄は帰路へ着いた。自宅へ着き玄関の戸を開けると、同時に梓が飛び出し自身に飛び付いてきた。

 

 

「天元帰ってきた!」

 

「何だ?出迎えか?」

 

「うん!空気見えたから!」

 

 

 ふと彼女の腕を見ると、いつの間にか包帯が取れており、その腕に出来た傷は綺麗に治っていた。

 

 

(傷がねぇ……かなり深く斬ってたから、跡が残っても)

 

「あ!天元様!お帰りなさーい!」

 

 

 須磨の声と共に雛鶴とまきをが出迎え、宇髄は梓を抱き上げそのまま中へと入った。

 

 

 

 

  夜明け……

 

 鬼が出現した場所へ、宇髄は向かっていた。辿り着くと、送り込まれた何人もの隊士達のバラバラになった遺体が転がっていた。

 

 

(全滅か……クソ、もう少し早ければ)

 

 

 その時、鬼の断末魔が響いた……その声を聞いた宇髄は、現場へと向かった。駆け付けると、そこには灰となる鬼の体に苦無を刺し、もう片方の手で頸を斬ったであろう刀を握った梓が座っており、彼女の背後には息絶えた隊士に抱えられる泣き声を上げた赤ん坊がいた。

 

 

「……!

 

梓!」

 

 

 彼の呼び声に梓は振り返り姿を見ると、赤ん坊の方を指差した。

 

 

「天元、子供」

 

「鬼に攫われた子か?」

 

「多分……山茶花から連絡貰って駆け付けたら、そいつが大事に」

 

 

 泣き喚く赤ん坊を抱き上げた宇髄に、梓は刀をしまいながら駆け寄った。

 

 

「沢山泣くね」

 

「赤ん坊だからな」

 

「赤ん坊ってこんなに泣くの?」

 

「泣くのが仕事だからな」

 

「赤ん坊なのに、仕事するの?」

 

「そうだよ。

 

お前も赤ん坊の頃、こうやってギャンギャン泣いて成長したんだ」

 

「……全然覚えてない」

 

「赤ん坊の時なんざ、覚えてる奴はそうそういねぇよ」

 

「……」

 

 

 ジッと赤ん坊を見つめる梓は、人差し指を赤ん坊に差し出しだ。泣いていた赤ん坊は、彼女の指を見ると掴み泣き止んだ。

 

 

「ありゃ、泣き止んだ」

 

「指掴まれた」

 

「何かしら気に入ったんだろうな。

 

このまま近くの人里行って、こいつの親探すぞ」

 

「お仕事いいの?」

 

「もう夜が明ける。次の場所行くがてら、探すさ」

 

 

 立ち上がる宇髄だが、梓の指から離れた赤ん坊はまた泣き喚き出した。それに驚いた梓は彼の背中に飛び乗ると、再び指を差し出した。赤ん坊は指を見つけると、キャッキャッ笑いながら彼女の指を掴んだ。

 

 

「よっぽど気に入ったんだな」

 

「掴んでる間、こいつの空気凄い安定してる」

 

「そっか。なら、親が見つかるまで頼むぞ」

 

「……天元」

 

「?」

 

「私も抱っこ」

 

 

 事後処理を隠に任せた宇髄は、赤ん坊を抱っこした梓を片手に近くの村へ向かった。村に着くと、別の部隊の隊士達がおり彼等は、泣き崩れる家の者を前に困り果てていた。

 

 

(あの家の子か?)

 

「天元、あの家。

 

こいつと同じ空気、流れてる」

 

 

 梓の言葉にその家へ行くと、泣き崩れていた母親は声を上げる赤ん坊に気づき一目散に駆け寄り、宇髄から降りた梓の手から赤ん坊を泣きながら受け取った。父親は彼等に頭を深々と下げながら礼を言い、宇髄は他の隊士に後を任せ梓と共にその地を後にした。




 畦道を歩く宇髄……途中まで彼の後を歩いていた梓だが、任務後の疲れが出てしまいウトウトしていた。それを見た宇髄は彼女を抱っこし、抱き上げられた梓は彼の服の裾を掴みそのまま寝息を立て眠った。



『凄いね、さっきの母』

『ん?何が?』

『赤ん坊の声聞いただけで、すぐに自分の子だって分かったから』

『そうだな……

なぁ梓、お前さんの母親はどんな人だったんだ?』

『母?……知らない』

『知らねぇって……』

『母、物心つく前に亡くなったから……知らない』

『そうか……(だから、母親の話が全くなかったのか)』

『でも父曰く、私の容姿は母似だって言ってた』

『そんじゃ、顔立ちは父親似ってか?』

『……そうかな』


 彼女の答えに宇髄は笑い、彼に釣られて梓は照れ臭そうに笑った。


 眠る彼女の頬を撫でながら、宇髄はその事を思い出し鼻で笑い持ち直すと、そのまま帰路についた。
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