産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
森の入り口付近に集まる男女三人の鬼殺隊士達。そこへ梓が到着し、彼女に気付いた隊士の一人が手を上げて、こちらへ来るよう合図を送った。
「君だよね?今日一緒に任務をする新人の」
「うん。庚・音羽梓」
「庚?癸じゃねぇのかよ」
「先日昇格した」
「チビに甘くなったなぁ、鬼殺隊」
「おいやめろ」
「実力が足りないから、今の階級に止まってんじゃないんですか?」
「あぁ?!どういう意味だよ」
「やめろって!!梓ちゃんもやめなって!これから任務だぞ!!」
「うるせぇよ!こないだ乙に昇格したからって、偉そうにすんな!!」
「よしなさいよ!こんな小さな子に対して」
ひと悶着あった後、彼等は森の中へ入りそこに住み着いている鬼達を次々と討伐していった。その中梓は次々と現れる鬼達目掛けて、毒の苦無を飛ばし動きを封じ頸を斬り落としていった。
「お、おい……このガキってまさか」
「音柱様の継子?」
「え?今頃?組む時に話してたじゃん、鴉」
「……ハッ。尚の事、昇格できるわけだよ。あんなチビで」
「何か庇ったのが、馬鹿々々しい」
全ての鬼を斬り終え、息を切らし地面に座り込む鬼殺隊士達。彼等が座り込む中、梓は辺りを警戒するかのように見回した。
「そ、そんな警戒しなくてもいいよ。報告に上がってた鬼達は、全部退治したんだから」
(……何だろう。空気がおかしい……何か、もっと)
「もう良いなら、帰ろうぜ。早く胡蝶さんの所に」
後ろにグイッと服の襟を引っ張られた男隊員は、地面に倒れその上を何かが突き抜け近くの木の幹に刺さった。木の幹の方に一同が目を向けると、そこには二本の矢だった。
「ほぉー、避けるとはいい筋をしているな?」
二人の隊士が声の方を向くと、そこには目に『下弦 参』と刻まれた鬼が自分達の前に現れた。
「う、嘘……」
「な、何で……何で下弦の鬼が……」
「獲物が四匹か……これはいい」
見えぬ速さで、下弦は矢を放った。四本の矢が一同に向かってきている時、その矢は全て刀で払い避けられた。驚いている彼等の前には、息を吐き鬼を睨みつける梓の姿があった。
「あ、梓ちゃん……」
「逃げて、早く!!!」
「逃げるぞ!!」
彼女の怒号に、乙の隊士は二人を立たせ森の中へと逃げて行った。追いかけようとした鬼の攻撃を、梓は刀で全て払い避け逃げる彼等の前に立った。
「こっから先は行かせない」
「チビ一人で、何ができる?」
「見縊るな、そのチビを」
鋭い眼光で、梓は刀を構え深く息をした。ざわついていた辺りの音が一瞬静かになり、鬼は辺りを見た。
「音の呼吸参ノ型 木の葉の囁き」
突然と木の葉がざわつき舞い上がる葉の中から、梓が姿を現し彼の体に刀の刃を入れた。腕を切り落とされ、驚く鬼は素早く彼女の方を向いた。だが向いたと同時に、彼の目に藤の花の毒が塗られた苦無が突き刺さった。
「音の呼吸壱ノ型 轟」
怯んだ鬼目掛けて、刀を振った。その斬撃から爆発が起き辺りに轟音が響いた。
その音を森を駆けていた乙の隊士は聞きつけ、逃げる二人を背に足を止めた。
「どうしたんだよ!!早く逃げるぞ!!」
「あんな小さな子が戦ってるのに、先輩である俺達が逃げていいのかよ」
「下弦の鬼よ!!無理に決まってるじゃない!!」
「あの子だって無理だろう!!まだ庚だぞ!!」
「それは……」
「けどあいつ、音柱様の継子だろう?だったら」
「継子だろうとなんだろうと、まだ新人だ!!俺はあいつを助けに行く!逃げたきゃお前等は逃げろ!!」
刀を抜いて、乙の隊士は元の場所へ戻った。互いを見合った二人も、最初は躊躇していたが意を決意して刀を抜き突っ込んで行った。
凹んだ地面に立つ梓……息を切らしながら、上へと上がった。
(取り合えず、これで足止めができるはず……天元か柱の誰かに報告しないと……?!!)
空気の流れが変わったのに気付いた梓は、瞬時に攻撃が来ることを察知し、その攻撃が当たる前に転がり避け向いた。
先程弱らせたはずの鬼が立ち上がり、腕を再生させながら登ってきた。
「侮ってしまったな……チビの鬼殺隊士でも、警戒しなければな」
(どうしよう……柱が来るまで、こいつを足止めしないと……)
次の攻撃が来るのを察知した梓は、刀を構えそれを受け止めようとした。だがその次の瞬間、その攻撃は彼女ではなく駆け付けた乙の隊士の体を切り裂いた。噴き出した血は、彼女の顔に掛かり斬られた隊士は、仰向けになって倒れ事切れた。
「逃げた奴が戻ってたのか。可愛そうに……逃げていれば、もう少し生き延びられたものを」
「……」
初めて体験する仲間の死……梓の中で眠っていた何かが沸々と込み上がってくる感覚が、体中に巡った。早くなる鼓動と溢れ出る様な感情から、彼女は息を吐きながら刀を握り直し獣の様な目を光らせ殺意を纏った。
(こいつ、先程と何が違う!?)
「音の呼吸肆ノ型 響斬無間」
梓の攻撃と鬼の攻撃が同時に起き、激しい爆発と斬撃の音が森中に響いた。その音を、後から追い掛けていた二人の隊士の耳に入り、ここから先は自分達は入ってはいけないと直感が働き足を止めた。
(何なんだこのガキ!!なぜ俺の攻撃を食らっても尚、立っていられる!?)
動き続ける梓の体には、鬼が放った攻撃により傷だらけになっていた。それでも尚動きを止めない彼女は、呼吸を整えるようにして攻撃を弾き返し、距離を取り刀を構えた。
「大したガキだ。この俺に対抗できるとは」
「……」
「だがもう、体が悲鳴を上げている。とっとと楽になるといい」
「何でお前に、私の死に場所を決められなきゃいけねぇんだよ。鬼はとっとと地獄に堕ちろ!!」
刀を構える梓は、深く息を吐いた。するとまたしても辺りの音が消え、鬼は無くなったことに混乱し辺りを警戒した。どこからともなく聴こえてくる、川の流れる音……その音の水面下を歩く激しい音がこちらへと近付いてきた。
「音の呼吸弐ノ型 川のせせらぎ」
飛び跳ねる水飛沫と共に、刀が鬼の首付近を斬った。頸は胴体からギリギリ離れず、首を押さえながら鬼は彼女から距離を置いた。その場に降り立つ切られた体中から血を流す彼女の姿を見た鬼は、一瞬記憶が蘇った。
自身の前に立ち、刀を握り苦無を口に咥え鋭い眼光でこちらを見つめる者……
(何だ!?この記憶……俺のじゃ……!?
まさか、無惨…様?)
立つ彼女の姿が、彼の記憶の中にある者と重なって見えた。
息をする梓……次の瞬間、体に限界が来たのか頭がぐらつき地面に膝をついた。
「ようやく毒が効いてきたか……」
「毒?」
血を使え……血を……
腕を斬れ……足を斬れ……首を斬れ
脳内に響く声……梓は刀で自身の腕を切り血を出した。流れ出る血を満面無く掌に塗った彼女は、一瞬で鬼の前から姿を消した。消えた彼女を探す鬼だが、何かに気付きハッと上を向いた時、目に映った梓は鬼の肩に降り立つと血で濡れた手で鬼の顔に触れ、素早く鬼から離れた。
熱しられた様に、顔が熱くなる……鬼が戸惑っていると、梓は、懐から爆薬を出し爆ぜさせ再び視界から姿を消した。消えてしばらくすると、辺りに響く鳥の鳴き声……風が吹く音…風に揺られる草木がざわつく音……
(何だ?何だ?この音……)
「音の呼吸陸ノ型 花鳥風月」
月をバック姿を現す、梓。二本の刀を構えた彼女の姿を目にした鬼は自身の武器を構え攻撃を仕掛けた。
「調子に乗るな!!クソガキが!!!!」
放たれる攻撃を受け全身から血を流す梓だが、彼女は鬼の前に降り立つと動きが止まっている鬼の頸に双方から刀を振り斬り落とした。落とされた瞬間に、鬼は最期の力を振り絞り彼女の胸に一文字の傷を負わせた。
「小癪なガキが!!貴様を道連れにしてやろう!!!」