産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
「下弦の鬼が出たと報告を受けたが、鬼はどうした?」
「そ、それが……」
隠が言い辛そうに、彼から目線を反らしチラリと放心状態になっている二人を見た。不死川は座り込む男隊士の胸倉を掴み、問いかけた。
「鬼はどうした?他の奴等は?」
「ま…まだ、中に……」
「もう無理よ……乙のアイツだって帰ってこないし…庚のあの子だって」
「庚?テメェ等、そいつも置いて来たのか?」
「十二鬼月が現れるなんて、聞いてない!!」
「それにあの子、音柱様の継子何だから十二鬼月の対処くらいお手のもんでしょ?」
「あ?」
突如として森中に響く爆音……不死川は胸倉を掴んでいた男を捨てるように投げ、森の中へと入った。
夜、怖いのが現れても……手を出しちゃ駄目だよ。
怖いのって?夜に現れるあれ?
そうだよ……絶対に……自分の血は使っちゃ駄目だからね。
約束だよ、梓……
斬り落とされた胴体に、苦無を突き刺す梓。髪を結っていた紐が切れた彼女に向かって、消えゆく頸だけになった鬼は叫んだ。
「これで勝てたと思うなよ!!いずれテメェも俺の毒で死ぬ!!
精々もがき苦しめ!!」
高笑いする鬼……やがて鬼は消え、辺りに静けさが漂った。口から血を吐いた梓は、全身から力が抜けその場に倒れかけた。その時、駆け付けた不死川が彼女を支え、仰向けに寝かせた。
「そのまま息してろ、すぐに救護班が来る」
(柱………来て、クレタ)
転がっている乙の隊士の亡骸を見つけた不死川は、彼の生気の喪った半開きになっている目を閉じた。立ち上がり、辺りを見ると彼女の元へと歩み寄った。
(一人で十二鬼月を……大した奴だ。傷は酷いが、五体満足で生還している。
……期待していいみたいだな、こいつは)
遠く離れた土地……
血液が入った試験管を落とす無惨……息を切らし苦しみながら、彼は拳を握った。
(まだ……まだ生存していたのか!?音羽!!)
絶対にこの任務だけは、成功させる。
俺達は俺達のやり方で、これを遂行させる。
失敗した……失敗した……
お前に託す……音羽の最期の……
ボヤける視界……数回瞬きをして、梓は意識を戻した。見えた空気を辿り視界に映る人影に、手を伸ばした。
「あら…目が覚めましたか?」
「……ここ」
「蝶屋敷です。
梓さん、下弦の鬼を討伐してから二週間近く意識が戻らなかったんですよ」
「……」
「とはいえ三日目以降、呼吸は安定して熱も下がっていましたし、毒も完全に消えています。
凄い回復力ですね」
「……ねぇ、天元は?」
「宇髄さんは別の地区で任務中です。
あなたの事は、既に鴉経由で伝えていますので、終わり次第こちらへ来るかと」
眠そうにする梓の頭を、しのぶは微笑を浮かべながら優しく撫でた。
「もう少し寝てて大丈夫ですよ。
まだ、完全に回復したわけじゃないですから」
「……」
「寝るまでここにいますよ」
しのぶの言葉に、梓は彼女の羽織を握っていた手を緩め、重かった瞼を閉じそのまま寝息を立てた。
数日後……
歩けるようになった梓は、裏山に来ていた。茂みの中をガサガサと探り、野草を見つけるとそれを摘み蝶屋敷へ戻った。
庭では、アオイが洗濯物を干しており、干されたシーツを退かし梓は次の洗濯物を干そうとしていた彼女に、手に持っている野草を差し出した。
「アオイ、見て!野草!」
「あ、梓さん!?
また病室から勝手に出たんですか?!」
「だって暇なんだもん」
「まだ安静にしてなきゃ駄目ですよ!」
手に持っていた洗濯物を籠に戻し、アオイは梓の手を引き中へと入った。中へ入った時、怒りの空気を見た梓は思わずアオイの後ろへ隠れた。彼女の行為に疑問を持っていると、奥からしのぶが二人の元へ歩み寄ってきた。
「しのぶ様!」
「梓さん、どこに行っていたんです?」
「……裏山。野草採りに行ってた(滅茶苦茶怖い……)」
「まだ完全に回復したわけじゃないから、絶対安静といいましたよね?」
「だって、暇だったから…歩くくらいなら」
「……」
「……ごめんなしゃい」
「はい、よくできました。
アオイ、梓さんは私が。あなたは早く途中の仕事をやって下さい」
「はい」
去って行くアオイに手を振り、梓はしのぶと共に診察室へ入った。椅子に座った梓は、手に持っていた野草をしのぶに見せた。
「しのぶさん、見て!野草!」
「あら?裏山で採れたんですか?」
「うん、崖下に生えてた」
「けど梓さん、野草を摘む際は注意して下さい。中には、手が荒れてしまったりかぶれたりしてしまいますので」
「そういうのは触らない。
見つけても、場所だけ覚えておいて摘んだりしない」
「あら、それはどうしてです?宇髄さんに言われたからですか?」
「ううん。父に言われた。
見つけても、お前はまだ知識がないから無暗に触るなって」
「そうでしたか」
「ねぇねぇしのぶさん、天元まだ来ないの?」
「もう少しお仕事がかかるそうですよ」
「じゃああの人は?顔に傷ある人」
「不死川さんですか?」
「誰それ?もしかして、風柱?
よくカナエさんとお喋りしてた人」
「不死川さんですね。
あの人も今、任務に出ているのでこちらに来ることはありませんよ」
「何だ……ムー」
拗ねる彼女を見て、しのぶはクスクスと笑った。その時診察室の戸がノックされ、外から怪我をした隊士が二人入ってきた。
「しのぶ様、怪我人です!」
「すぐに診ますのでこちらへ。梓さん、お部屋に戻って大人しくしてて下さい」
「はーい」
昼過ぎ……
「梓ちゃーん!!」
大声と共に激しくドアが開き、外から涙を流した須磨が彼女に飛び付いた。梓は彼女を受け止めると同時に壁に後頭部をぶつけた。彼女の後に続いて、まきを、雛鶴が部屋へと入ってきた。
「須磨、痛い……頭ぶつけた」
「良がっだぁ!!梓ぢゃ~ん!起きなかったら、どうしようかとぉ」
「起きたの、数日前だよ……」
「アンタは一旦離れろ!!」
まきをに首根っこを引っ張られ、須磨は梓から離された。ぶつけた個所を撫でながら、二人を見ていると後から来た雛鶴が彼女の元へと来た。
「体調は大丈夫そうね」
「うん、平気。まだ少し頭痛いだけ」
「それはさっきこの子に倒されたからじゃないの?」
「そ、そんなぁ!私はただ、梓ちゃんが無事だったから抱き着いただけで!!」
「それが余計なんでしょうが!!」
「うわーん!まきをさんがイジメるぅ!!」
「ちょっと二人共、ここ病院よ!少し静かにして!」