産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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  パラパラと降る雨……

 その中を梓は歩き、そして立ち止まり前を見た。


 バリバリと何かを食べる咀嚼音……その音はかつて、鬼になった父親が出していた音と酷似していた。


「……父?」


 思わずそこにいる者に、声を掛けた……止まる音。振り返った鬼は、口の周りを血で汚していた。地面には、小さな体が転がっていた。

 それを見た梓は、刀を抜いた……襲いかかろうとしてきた鬼を、彼女は瞬時に刀を振り頸を斬った。灰となり消えていく鬼の前から現れたのは、既に事切れた子供の遺体……半開きになった目を閉じ、梓は冷たくなった遺体の頭を撫でた。


(……天元来なかったから、私もこんな風になってたのかな)


 後に来た隠に片付けを任せ、梓はその場を後にした。


 まだ暗い中、家へ帰ってきた梓は式台に倒れそのまま眠ってしまった。それからしばらくして、宇髄が任務から帰還し静かに玄関の引き戸を開けた。


 式台の上で丸まって眠る梓……その場に座り込んだ宇髄は、眠る彼女の頭を撫でた。ふと目元を見ると、薄っすらと涙が溜まっており頬には涙を流した跡があった。


「(……鬼倒してる最中に、親父さんのこと思い出しちまったか……)

梓、布団行くぞ」


 宇髄の呼び掛けにムクっと起きた梓は、目を擦りながら立ち上がった。眠そうにフラフラする彼女を、宇髄は抱き上げそのまま自身の部屋へと入った。


父親の残像

  翌朝……

 

 起きた宇髄の元へ、虹丸が降り立ちお館様からの言伝を伝えた。それを聞くとすぐに着替え、そのまま家を出て行った。

 

 

「あれ?天元様?」

 

「もう出掛けちゃったの?」

 

「みたいね……あら」

 

 

 敷かれた布団の上で、羽織を握り梓は眠っていた。それに気付いた雛鶴は、彼女の元へ寄った。

 

 

「梓ちゃん、帰ってたんだ!」

 

「部屋にいなかったから、てっきり帰ってないのかと思ってた」

 

「制服のままだから、もしかしたら夜中に帰ってきたのかも知れないわね」

 

 

 スヤスヤと気持ち良さそうに寝る梓を見て、三人はクスクスと笑い合い、雛鶴は足元にあった掛け布団を彼女に掛けた。

 

 

「もう少し、寝かせときましょう」

 

「そうだね」

 

 

 

  森林の奥地にある、岩場……

 

 そこに集まる、数人の隊士達。その中、梓は彼等から少し離れた場所の茂みに上半身を入れ、ゴソゴソしていた。彼女の様子を見ていた村田は、他の隊士達を気にしながら歩み寄った。

 

 

 近付く彼の空気に気付いた梓は、茂みから体を出し着いた落ち葉を落としながら振り返った。

 

 

「一人でいると、鬼に狙われやすいから皆の所に行こう」

 

「……ヤダ」

 

「え…」

 

「あそこ、うるさい」

 

「……」

 

「こっちの方が良い」

 

「そ、そうか(変わった子だなぁ……)」

 

 

 

  夜……

 

 息を切らしながら、岩場を歩く隊士達とは裏腹に、梓は軽々と移動していき、時折振り向いては彼等を待っていた。

 

 

「何であの子、あんなに軽々と移動してんの?」

 

「あの子じゃなかったっけ?」

 

「え?何が?」

 

「ほら、音柱様の継子。

 

最近入隊したって」

 

「あ~……そう言われたら、納得」

 

(俺、そんな子に普通にタメ口で話し掛けちゃった……)

 

 

 歩いていた時、ポロポロと岩屑が落ちてきた……それを見た梓の目に、鬼の空気が映った。回れ右をし、梓は岩場を降りていき降りてきた彼女につられて登っていた隊士達も、次々と降りていった。

 

 

 その直後、岩場が崩れそこから巨体の鬼が現れ近くにいた隊士を食らった。

 

 

「鬼だぁ!!」

 

「何だよ!?あのデカブツ!」

 

「こ、こんなの倒せ」

 

 

 弱腰になっている隊士を横に、梓は前へ出て行き爆薬丸を投げ飛ばした。爆ぜる音に、鬼は彼女の方を向き攻撃を仕掛けてきた。伸ばしてくる鬼の腕を、梓は鞘から抜いた二本の刀で八つ裂きにしていき、鬼の目に向けて苦無を投げ付けた。

 

 

 苦無が刺さった鬼は、目を押さえ雄叫びを上げた。地面へ着地した梓は、数人の隊士達に手で合図し逃がした。

 

 

(いなくなった……よしっ!)

 

 

 腰に付けていた鎖を、二本の刀の柄に着けヌンチャクの様な形にすると、爆薬丸を投げ爆ぜる中を駆け刀を振り回した。

 

 

「音の呼吸伍ノ型 鳴弦奏々!」

 

 

 目を潰され覚束無い鬼の足を、振り回す刀で斬り刻み体勢を崩させた。膝を付き倒れる鬼の背中を踏み台に、飛び上がった梓は息を吸った。

 

 

「音の呼吸壱ノ型 轟!」

 

 

 激しい衝撃と共に、鬼を地面に埋め込める様にして、刀を梓は思いっ切り振り下ろした。ビクビクと体を動かす鬼は立ち上がり逃げようとするが、それを梓は阻止するようにして四肢を斬り落とし、再生する前に頸に刃を入れた。

 

 

(……嘘……斬れない……何で?)

 

 

 その時再生した鬼の腕が、梓を吹き飛ばした。当たる寸前に受け身になっていた彼女は、頭を木にぶつけ血を流しながら鬼の方を見た。

 

 

 再生しゆっくりと立ち上がる鬼……咄嗟に梓は近くに生えている木に飛び乗り、一本の刀から鎖を外すとブーメランのように投げた。刀は見事に頸に刺さり、梓はそこから跳び頸に突き刺さっている刀の柄を蹴り差し込んだ。痛みから鬼は膝を付き、斬り込みが入った瞬間を狙い、梓は残っていた刀を構えた。

 

 

「音の呼吸弐ノ型 川のせせらぎ」

 

 

 川の流れる音と共に、頸は斬られ鬼は討伐された。その光景を遠くから見ていた村田は、すぐに彼女の元へ駆け寄った。

 

 

 しばらくして、隠が駆け付け後処理を行った。救護班に頭を診て貰っていた梓は、つまらさそうに地面を傍にあった石で弄っていた。

 

 

「ウ~ン……出血は止まってるみたいですし、手当は大丈夫かと」

 

「でも頭打ってますし……」

 

「そうですねぇ……」

 

 

 村田と隠が話をしている中、梓は突然立ち上がりどこかへ駆けていった。駆けていく方向を見ると、そこには駆け付けた宇髄がおり自身に寄ってきた梓を抱き上げた。

 

 

「お、おお、音柱様!?」

 

(親子の風景、頂きました!)

 

「この近くで討伐しててな。

 

帰りがけに寄ったんだ」

 

「鬼討伐した!」

 

「おうそうか!流石だな!!」

 

 

 これでもかと言うくらい宇髄に撫でられる梓は、嬉しそうな声で笑った。その声を聞いていた隠はもちろん、隊士達は心を和ませた。

 

 

 

 

  街中に並ぶ焼き鳥屋で、休息する隊士達……

 

 頼んだ焼き鳥を受け取った隊士が、ふと目を向けるとその先に、包みを持った宇髄と彼に肩車をしてもらい、嬉しそうに笑う梓の姿が見えた。

 

 

「なぁ、音柱様の継子って歳いくつだ?」

 

「何だよ、急に」

 

「いやさっき、音柱様達見かけたんだけど……

 

凄い幼く見えるんだよなぁ」

 

「まだ一桁とか?」

 

「それはねぇだろう、流石に」

 

「過酷すぎるよ、いくらなんでも」

 

「もしそれが本当なら、めっちゃ凄い才能の持ち主ってことじゃん!」

 

「だから継子ってか?」

 

「どこで見つけてきたのかしら」

 

「山奥って聞いたぜ。

 

両親亡くして、一人になった所を音柱様に拾われたってさ」

 

 

 楽しく談笑する隊士達……彼等の会話を、建物の影から何者かが立ち聞きしていた。彼は手に持っていた焼き鳥を口に入れ、その場から去って行った。




  産屋敷邸……

 お館様に呼び出された宇髄は、庭先にて膝を付き頭を下げていた。その前にある部屋には、お館様こと産屋敷家当主・産屋敷耀哉が座っていた。


「梓の功績は素晴らしいものだよ、天元。

庚で十二鬼月を討伐してしまうなんて。


よくここまで育ててくれたね」

「お褒めのお言葉、勿体ないです」

「ここまでの実力を見る限り、梓の父上が生前鬼を倒していたというのは事実なのかもしれないね。


天元、実は君に調べてほしい事があるんだよ」

「……それは」

「音羽梓について」

「!?」

「私と同じ様に、天元自身も調べたいんじゃないかい?」

「……現状、彼女の動きを見る限り亡くなった父親は元忍。

自分はまだ里にいた頃、『音羽』という名の者と任務で何度か協働したことがあります……ですが、音羽は私が里に在中の頃離散したと聞いています。

それで音羽について、少し調べようかと思っておりました」

「そうだね、調べて来るといいよ。

その間、梓は他の柱達の援護に回ってもらうから」

「しかし、まだ」

「大丈夫だよ、天元。


梓の実力はもう、十二鬼月を一人で倒している時点で、柱と同格と言っていいレベルだよ。

他の柱達にも、この事はもう伝わっている。だから安心して、こちらは皆に任してね」
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