産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
駆け付けた隠の元へ、梓は歩み寄り隠の服を引っ張った。
「どうかしましたか?梓さん」
「風柱さんは?」
「こちらには来ておりませんが」
「……ねぇ、どこ行けば会えるの?」
「柱は遠出はもちろん、各任務地へ行ってしまわれるので、一般隊士が会うのは少し難しいかと」
「でもしのぶさんにはいつも会ってるよ」
「しのぶ様は柱でありながら、怪我した隊士達の治療に当たっているので、遠出任務はそこまで無いんですよ」
「じゃあ…こっちから会えないの?」
「そうですね……運が良ければ、任務先で会えるかと」
「……ムー」
茶屋で頼んだおはぎを口に頬張る梓。するとそこへ、別の隊士達がやって来て、中へ入り注文すると談笑を始めた。
「今回の任務、キツそうじゃねぇ?」
「あぁ、確かに。風柱様と一緒だからなぁ」
「でも今回は、ラッキーな事に!
あの音柱様の継子も一緒らしいぞ!」
「マジか!」
「よっしゃ!少し楽になる!」
「やっぱそうだよな!
音柱様の地区って、絶対あの継子と一緒になるから本当楽なんだよなぁ」
「口悪いけど、怪我しねぇし死なないし。組んでると、いつの間にか鬼が討伐されてて」
「口悪くなきゃ、可愛いんだけどなぁ。小さくてさぁ。
あと、音柱様だけに見せてるあの屈託のない可愛い笑顔!あれ見るだけで癒されるわぁ」
自分の話で盛り上がっているのを聞いた梓は、最後の一口サイズになったおはぎを口に入れると、お茶を飲み干した。そして席から立つと、店の人にお金を払い挨拶をし店を後にした。
日が暮れる頃、集合場所へ行くと先ほど茶屋で見かけた隊士達と別の隊士達が既に数人おり彼等は談笑していた。
(風柱さんは、まだっぽいなぁ……やっと会えるから、楽しみ!
早く来ないかなぁ)
隊士の一人が梓に気付き、他二人に声を掛け馬鹿にしたかのような表情で、自身を見てきた。その表情に苛ついた彼女は、そこから姿を消し彼等があたふたするのを眺めるかのようにして、近くの木に座った。
数時間後……
やって来た隊士…風柱・不死川実弥は、今回の鬼について説明しそのまま現場へ向かった。その時隊士の一人が梓に関して探さなくていいのかと問いた時、彼女は彼等の前に降り立ち小馬鹿にしたかのような笑みを浮かべると、先歩く不死川の元へ駆け寄った。
「あいつ、どっから?」
「てか、不死川さんに近寄るなんて……」
「何ちゅう、自殺行為を」
(めっちゃ可愛い笑顔、向けられた)
駆け寄った梓は、不死川の服の裾を引っ張った。遠くから見ていた隊士達は、冷や汗をかきながらその様子を伺っていた。自身に寄る彼女を不死川は雑に撫で、撫でられた梓は嬉しそうにしながら、彼の隣を歩いた。
「……何、あれ」
「音柱様の継子だから、甘いんじゃねぇの?」
「あり得るわ。チビだし」
「あー、確かに」
辺りが暗くなり森に静けさが漂った……森の至る所に、隊士達が疎らに歩いていた。その様子を、木の上から不死川と梓は眺めていた。
(……不安と恐怖の空気が漂ってる……)
「何か感じるか?」
「感じる?」
「宇髄から聞いてるぞ。鬼の気配が感じ取れるって」
「けはい?(空気のことかな)
下にいる人達の空気がうるさくて……!」
三人で歩く隊士達の近くに突如として現れた空気……その空気が、鬼の空気だと気づいた梓は木から飛び降り、三人の下へ行き彼等の前に立った。
「?」
「何だ?」
「えっと……」
「……こんばんは、鬼さん」
その言葉に隊士達は驚き振り返った。そこには鋭い爪を構えた鬼が彼等に向かって、攻撃を仕掛けてきていた。彼等の間を通り抜け、梓は苦無で頸を刺した。鬼はすぐに身を引き首に刺さった苦無を抜きながら、その場から逃げ出し梓はすぐに追い掛けた。
(あれが鬼か!!)
追い掛けていく梓の姿を見た不死川は、すぐに木の枝を伝い彼女を追った。不死川達の動きに気付いた他の隊士達も、互いを呼びかけ合い二人の後をついて行った。
鬼は森を抜け、見晴らしのいい草原へと出て来た。息を切らす鬼は辺りを見回し、誰もついて来ていないことに安堵していた。その時、吹いていた風が荒々しくなり、草木がざわつき始めた。
「音の呼吸参ノ型 木の葉の囁き」
突然と舞い上がる木の葉の中から、梓が姿を現し鬼の体に刀の刃を入れた。後退る鬼の目に映ったのは、既に刀を構えた不死川だった。振った刀は、鬼の首を切り落としボトッと落ちた頸は、コロコロと転がり遅くに駆け付けた隊士達の足元へと行った。
「え……」
「もう終わったんですか?」
「あぁ?」
「ひぃ~!な、何でもありません!」
不死川が刀を鞘へとしまおうとした時、鬼の気配を感じ取った。同時に茂みに隠れていた梓は、留まっている隊士を押し倒し鬼の攻撃を腕に受けた。
「まだ鬼がいたのか!?」
「気ぃ抜くな!!」
背の高い茂みを睨む不死川……ガサガサと動く草に苛立つ彼の前に立った梓は、爆薬丸を投げ飛ばした。激しい爆風と共に鬼の悲鳴が聞こえ、その音に向かって梓は苦無を投げた。
「(手応えあり!!)音の呼吸伍ノ型 鳴弦奏々」
突き刺さった音の元へ梓は向かい、毒で怯んでいる鬼目掛けて激しい爆発音を立てながら、刀を振り回した。次の瞬間、鬼の頸はゴトンと落ちコロコロと転がった……刀を構え直しながら、梓は辺りを見回した。
(鬼の空気感じない……これで最後かな)
緊張が解けたのか、腕に激痛を覚えた梓は手から刀を落としその場に座り込んだ。しばらくして、隠達が駆け付け現場の処理を始めた。救護班から手当てを受けている梓を見て、他の隊士達はコソコソと何かを話しており、それは彼女の耳に届いていた。
「流石音柱の継子」
「死なずに済んだぜ」
「噂じゃ、あの子一人いるだけで生き延びられるからな」
クスクスと笑う彼等に腹立たしくなり、鋭い眼光で彼等を睨んでいる姿を、隠はオロオロしながら彼女の手当を続けた。その異様な気配に指示を出していた不死川は、すぐに気付くと他の隊士達の元へ行った。
「ガキに命助けられて、良く堂々としていられるなァ?」
「いや…あれは」
「普段きっちり鍛錬してねぇから、いざという時に気が抜けるんだろうが」
「……」
「談笑してる暇があんなら、十二鬼月の一匹でも倒してこい!!」
それだけを言って不死川は手当を受ける梓に向かって、顎で来いと合図を送り歩き出した。それを見た彼女は隠に礼を言って、先に歩く彼の後をついて行った。
(歩くの早い……空気が苛立ってる……
あいつ等が悪いのに……私悪くないもん……
鬼倒したから、褒めてくれると思ったのに……あいつ等のせいで)
彼等から離れ先を歩く不死川は、突然止まり振り返った……止まった彼の背中にぶつかり、梓は頭を振り彼を見た。
(何だろう……急に苛立ちから心配する空気に変わった)
「鬼に付けられた傷、大丈夫か?」
「…うん……平気」
「そうか……このまま藤の花の家紋の家に泊まるぞ」
そう言って不死川は、先を飛んでいる鎹鴉に導かれるまま再び歩き出し、彼の後を梓をついて行った。
しばらくして、藤の花の家紋の家へ着き用意されていた部屋へと案内された。風呂を終えた不死川は同じく風呂から上がり髪を乾かし終えた梓を連れて、食事の支度がされた部屋へ行った。
そこには別の任務を行っていた隊士達がおり、彼等は不死川を見た途端慌て出し、崩していた足を整え正座した。
「か、風柱様!?」
「お、お仕事お疲れ様です!」
「おう。楽にしてていいぞ」
「いや、しかし……?」
不死川の後に続いて梓が入ってくると、物珍しそうに隊士達は彼女を見つめた。
「なぁ、音柱様の継子か?あの子って」
「だろう?けど、何で風柱様と?」
「さぁ」
「にしても……(可愛い)」
(可愛い)
(可愛い)
不死川の隣に用意されていた席に座った梓は、彼に続いてご飯を食べ始めた。他の隊士達も、食べ掛けていたご飯を再び食べ始めた。
寝静まる場内で、不死川は欠伸をしながら厠で用を足し部屋へ戻ろうとしていた時だった。後ろから裾を引っ張られる感覚があり、振り返ると羽織を握り目を擦る梓が眠そうな表情を浮かべて立っていた。
「(こいつ……)厠行ったなら、早く部屋戻って寝ろ」
「……ヤダ」
裾を強く握り、服に顔をグリグリと押し付ける梓を見て、不死川は軽く溜め息を吐くと彼女を抱き上げた。
「部屋連れて行ってやっから」
「……ヤダ……寝たくない」
「眠い顔して何言ってんだよ」
「…ヤダァ……」
腕を回し泣きぐずる梓を見て、不死川はヤレヤレと言わんばかりに頭を掻きながら、彼女を持ち直しそのまま自身の部屋へ戻った。
部屋へ戻る頃には、梓は不死川の肩に頭を置き眠っていた。敷かれていた布団に彼女を寝かせると、押入から別の布団一式を敷きそこへ横になった。
(宇髄の野郎、相当甘やかしてるな……親離れ出来ねぇガキに育てやがって)
寝息を立てる梓に、不死川は足元にあった掛け布団を掛けた。寝返りを打ち、握っていた羽織を顔に近付けさせる彼女の姿が、一瞬亡くなった幼い兄弟達の寝顔と重なって見えた。
(……生きてりゃ、こいつと同じくらいか)
薄っすらと目を開ける梓……寝惚けていた彼女の目には父親の姿が映り、父親と不死川を勘違いし彼の浴衣の裾を握った。
「父……」
「……」
浴衣の裾を握ったまま、梓はまた寝息を立てそれを見た不死川は、溜息を吐きながら彼女の頭を撫でた。
(あん時の迷子ガキが、こんなに成長するとはなぁ。
入隊してまだ日が浅ぇのに、もう己か……大したガキだ)
翌朝……
目を覚ました不死川は、大欠伸をしながら廊下を歩いていた。その時、後ろから何かが当たり振り返ると、眠い目を擦る梓が自身の服を掴んでいた。
「ん〜……天元、眠い〜」
「(こいつ、寝惚けてるな)俺は宇髄じゃねぇよ」
「……あれ?風柱さんだ。何で?」
「昨日藤の花の家紋の家に泊まっただろう」
「……あー、そうだった」
「とっとと起きろ!」
「イテっ!」
「あと俺は、不死川実弥だ。名前覚えとけ」
「し?」
「不死川だ」
「……!
実弥さん!」
「っ(呼び捨てよりはいいか)」
朝食を食べ終え身支度を整えると、梓は不死川の所へ行き任務へ向かおうとした彼の服の裾を引っ張り引き止めた。ちょうどそこへ、支度を終えた隊士達が歩いており彼等は二人を見て、挨拶しようとした時だった。
「実弥さんって、何でいつも怖い顔してるの?」
「っ!」
(それ、聞いちゃいけないやつ!!)
(音柱の継子、怒られるぞ……)
「あの時みたいな、優しい笑顔だったら皆怖がらないよ」
「……」
(え?優しい笑顔?)
(どういう事?)
「実弥さん?」
何も答えない不死川は、彼女の頭を鷲掴み乱暴に撫でると、そのまま去ってしまった。頭にハテナを浮かべながら、梓は首を傾げて去って行く彼の背中を見つめた。