産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
「他の柱と任務?」
部屋で山茶花を撫でていた梓は、帰ってきた宇髄の方を向きながら話を聞いた。
「そうだ。俺はしばらく別任務で家空けるから、その間は他の柱達と任務を熟してくれ」
「天元と一緒の任務がいい」
「お前にはまだ無理だ。遠出するしかなり危険な地区に入る。
お前なんざ連れて行ったら、仕事に集中できねぇよ」
「足手まといになってないもん」
「こないだみたいな輩は、わんさかいる可能性がある。
しばらく他の柱との同行だが、常に警戒しておけ。分かったな」
「はーい」
とある里……
里の者から借りた部屋に集まる隊士達。その中にいる水柱・冨岡義勇が地図をテーブルの上に広げながら、話を始めた。
「ここから、少し行った先に廃屋がある。
そこで、鬼の目撃情報がこの里から出ている」
「子どもが何人も攫われてるって話ですよね」
「里の者の話じゃ、廃屋までは行けるけど中に入ることができないらしい」
「何で?」
「出入り口になってるはずの扉がないんだとさ」
「嘘」
「血鬼術で隠してるの?」
「可能性は高い。
これから森に入るが、十分注意しろ」
「はい」
森へ入り、鬼に警戒しながら隊士達は刀を待ち歩いた。その中、梓は木の枝を移動しながら歩く彼等を見下ろした。
(皆、緊張と不安の空気でいっぱい。
今回は水柱さんと一緒かぁ……あの人の空気、スッゴイどんよりしてて、なんか重いんだよねぇ)
しばらくして、廃屋へと着いた一同。木や茂みに身を隠し、その廃屋を見つめた。
「あれが、例の廃屋です」
「そうか」
「確かに、出入り口となるはずの戸がどこにもありませんね」
「出入りできるのは、窓くらいか」
「窓も高い位置にあるから、普通の人じゃ出入りは不可」
廃屋を見つめる冨岡……その時、羽織が引っ張られそちらを向いた。
「……お前は確か、宇髄の継子」
「音羽梓。水柱さん、こっち」
彼女に引っ張られるがまま、冨岡は歩いた。着いた先、そこは洞窟だった。
「洞窟か?」
「こっから、鬼の空気が流れてる」
「空気?(気配のことか?)」
「鬼、多分こっから出入りしてるんだと思う」
「そうか……なら俺が行こう。
お前はここで待機だ」
そう言って、冨岡は中へ入ろうとするが穴が思った以上に小さく、上半身しか入らず中へ入ることができなかった。
(……入れない)
「水柱さん、入れる?」
「……」
彼の様子を察した梓は、穴を覗き何もいないのを確認すると体を少し屈め中へ入った。
「音羽は…入れるのか」
「入れるよ」
「……」
「(何か、激しく迷ってる空気が凄い……)
水柱さん、私偵察行ってくる」
「しかし、お前は」
「こないだ十二鬼月倒した」
「……」
「じゃ、偵察行ってくる」
奥へと入る梓……中は暗く入り組んでおり、流れる空気を頼りながら奥へと進んだ。しばらくして、穴の出口が見つかり外へと出た。
手入れされた穴の中……正面には梯子があり、辺りを警戒し苦無を口に梓は梯子に足をかけ上へ登った。
ゆっくりと覗く梓……中は暗く、鬼の空気が充満しており刀を抜きながら、場内を巡回した。
(凄い鬼の空気……それだけじゃない……
何だ?この空気、父が亡くなった時と同じ空気だ)
その時、鬼の空気が乱れ梓は咄嗟に振り返り苦無を暗い空間に突き刺した。背後にいたであろう鬼の悲痛な声が聞こえ、同時に建物が揺らいだ。鬼の空気とは別の空気が現れ、梓はその流れを辿った。
辿った先にあったのは、扉だった。梓はその扉を蹴り破ると、外になっており周りは壁に囲まれていた。
(……あ!
この壁が、外で見た外観だったんだ!じゃあ、これ壊せばいいんだ!)
懐から爆薬丸を取り出した梓は、それらを投げ付けた。爆発し壁にヒビが入った箇所を見つけた梓は、刀を握り息を吸った。
「音の呼吸壱ノ型 轟!!」
森中に響く爆音……茂みに待機していた隊士達は、突然の爆発と突風に体を伏せたり飛ばされてしまった。
「な、何だ!?」
「おい見ろよ!
廃屋が崩れて……え?!」
崩れる廃屋……その中から、扉の前に立ち刀を構えた梓と背後に別の建物が現れた。
「あの廃屋で、隠れてたのか……」
「見つからねぇわけだよ」
(あの子、いつあそこに?)
隊士達が目に入った梓は屋敷から出ようとし、隊士達が彼女の元へ行こうとした時だった。
前列を走る二人の隊士から、血が噴き出した……それを見た梓は駆け寄ろうとしたが、その瞬間頸に鬼の爪が軽く刺さった。
「大人しくしてね……君はいい材料だ」
(……後ろ、取られた。空気、見えなかった。
両手は空いてる……刀握ってる……反撃できるけど)
動きが止まる隊士達の前に、冨岡が姿を現し血を流し倒れている二人に息があることを確認すると、他の者に彼等を連れて後ろへ下がるよう指示した。隊士が二人を支え持ち移動するのを背に、冨岡は鬼を見た。
「柱かぁ……どうする?どうする?
この子供は人質」
「……」
「俺の頸斬ろうなんざしてみろ。この子の頸から血が噴き出すよ」
冨岡を見つめる梓……その時、梓の目に微かだが彼の足が動いたのが見えた。そして空気の流れが変わり、梓は頸に当たっている鬼の爪を握り、自身の頸筋に軽く突き刺した。
噴き出す血と彼女の行動に鬼は驚愕し、手が緩んだ隙を狙い梓は鬼から離れ息を吸った。同時に冨岡も息を吸い、刀を構えながら鬼に向かって攻撃を放った。
「水の呼吸参ノ型 流流舞」
「音の呼吸弐ノ型 川のせせらぎ」
ボトンと落ちる鬼の頸……塵のように消えて行き、そして建てられていた廃屋は古びた外観へとなった。刀を持ち、梓はその内部を確認すると、連れ去られたであろう子供が数人寝かされており、その中には頸からと胸から血を流した子と骨になった子の遺体があった。
「……」
「音羽」
「?」
歩み寄ってきた冨岡は、中の状況を見ると彼女を自身の後ろへ行かせた。
「水柱さん、子供……」
「全員、運び出す。
お前は救護班が来るまで、待機していろ」
しばらくして、隠が到着し事後処理を行った。子供達は次々と運び出され、その様子を梓は隠から手当てを受けながら見ていた。
「子供、ちゃんと親のもとに帰れるの?」
「大丈夫ですよ、ちゃんと送りますから」
「……」
「音羽、念の為蝶屋敷で傷を診てもらえ」
「……おんぶ」
突然の発言に冨岡は、少し驚愕した。ぎこち無い動きをしながら彼は梓の方に背を向け、彼女は手当てを終えると冨岡の背中に乗った。
「では、後は頼む」
「はい(可愛い……)」
「そういえば水柱さん、名前は?」
「冨岡義勇だ」
(音柱様、今遠征中で会えてないから寂しくなったのかな)
(風柱様も別任務で出てて、不在だもんなぁ)
数カ月後……
遠征任務へ行っていた宇髄は、任務を終え自宅へ帰還した。自室へ入り持ち帰った資料を読み漁ながら、彼は考え込んでいた。
(『音羽』……調べるだけでも、かなり苦労した。情報は集まったが、穴だらけだ。
分かったことといえば、『音羽』は特殊な訓練を受けており、その影響から空気の流れを読むことができる忍。おそらく梓が言っていた空気は、このことだろうな。
だがその一族は既に滅び、忍の世界から消えていた……生き残りがいるとされているが、現在の消息は不明。
噂で音羽は、ある人体実験を行っており、それが成功し異様な治癒力をつけたとされている。おそらくこれが、梓の驚異的な回復力の原因なんだろう。
稀血の事に関しては、全く出て来なかった……とすれば、血の方は人間に害はないってことか。
人里離れたあの辺境の地に住んだのは、おそらく人並み外れたこの治癒力を隠すため。だとしたら、どうしてこのご時世に、自分の娘に忍の心得を教えたんだ?今はもう時代遅れになっているのに……教えた所で何も得なんざ……
何か父親が残したものあればよかったんだが……!)
何かを思い出した宇髄は、梓の部屋へと行き置かれている机に並べられた書物を手に取った。
(梓がこっちに来る際、持ってきた古びた本……
これに何か書いていれば)
翌日……
「へ?父の手記?」
任務から帰ってきた梓は玄関の式台に座り、草履の紐を解きながら宇髄の言葉を繰り返した。
「そうだ。ちょっと読みたいんだが、良いか?」
「別にいいけど……どうしたの?あれかなり古い本だよ」
「少し気になることがあってな」
「別にいいけど……内容が何か分かったら、教えて!」
「お前の理解範囲だったらな」
「いじわる!」
「梓、お風呂入っちゃいな!」
「はーい」
風呂場へと行く梓を見送ると、宇髄は部屋へと行き一番古い書物を手に取り中を見た。中には、難しい言葉はもちろん、黒塗りされている部分が何か所かあった。
(黒塗りが多いな……何かを教えたくなかったのか、はたまた教える必要が無くなったか……?)
飛ばし飛ばしで読んでいった宇髄だが、最後のページの字を見て驚愕した。そこにはただ一行『産屋敷家、抹殺』と書かれていた。
(どういう事だ?!梓の父親は、お館様の命を狙っていたのか?!)
書物を再び読み返すと、そこには鬼殺隊についての詳細が書かれており、水柱、鳴柱、炎柱、岩柱、風柱、そして日の字、さらに鬼を退治する為に使う技や呼吸も全て書かれていた。
(……どうなってんだ……鬼殺隊はもちろん、産屋敷家、呼吸について全て詳細に記載されている。
『音羽』は何をしようとしていたんだ……梓の父親は、娘に何を託そうとしたんだ)