産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
(どうなってやがる……鬼が……まだ人間を持っていた?)
「音柱様ぁ!」
後から二人の隊士は、隠を連れて駆け付けた。そんな彼等を警戒しながら、少女は巾着を拾い首にかけるとナタを構え攻撃しようとした。その手を宇髄は握り動きを阻止させ、彼等にそこで止まるよう指示した。
「武器を下ろせ。ここにいる奴等は味方だ」
鋭くギラギラとさせる眼光で、宇髄を見ていた少女は数回瞬きをするとナタを持っていた手の力を緩め下へ降ろした。その様子を見た宇髄は、こちらへ来るよう二人に合図を送った。
隠達が被害状況を確認する作業を、少女は木の上から見下ろしていた。するとそこへ、宇髄が現れ彼女の傍に立つと話した。
「行く所あるのか?お前」
彼の質問に、少女は力なく首を横に振った。首に下げていた巾着をユラユラと揺らしながら、少女はボーっと眺めていた。
(さっきの構え、見込みがあるな……それに、忍の素質もある)
(この人……何で父と同じ空気が流れてるんだろう……
これからどうしよう……)
「音柱様ぁ!」
木の下から声を掛ける隊員に、宇髄は下へと降りた。彼等が何かを話している最中に、少女も下へ降り立った。チラリと彼等を見ると、少女は廃れた自身の家へ入った。
中では隠達が調べをしており、戸が壊され露わになった奥の部屋にも一人の隠がいた。中に入ってきた少女に隠は声を掛けようとしたが、彼女はそんなのお構いなしに奥の部屋の様子を見た。引っ掻き傷が壁や床の板に無数に刻まれ、所々には血が飛び散っていた。
「君……」
隠の声を無視して、少女は部屋に敷かれていた布団の上に座り込んだ。
(……この子、喋れないのかな?
かなり大人しいけど、いくつだ?)
「部屋の様子、どうだ?」
そう言いながら中へ入ってきた宇髄を、少女はジッと目で追った。
「引っ掻き傷はもちろんですが、所々に血の跡が……
ただ、動物の死体がありまして……もしかしたら、動物を食べて飢えを」
「……」
『天元、君に頼みたいことがある』
数ヶ月前……
産屋敷家で、宇髄はお館様からの依頼内容を聞いていた。
『北東の奥地にある山を調べてきてほしいんだ。
そこには、私達鬼殺隊じゃない者が鬼を討伐しているそうなんだ』
『日輪刀を持たずにですか?』
『そのようだよ。
聞くところに寄ると、その山を越えた所にある人里は十年…いや、もっと前から鬼の被害がないと言われている。
もし、私達と同じ者がいるなら……ぜひ、鬼殺隊へ入隊させたいと私は思っている』
思い出す記憶……
宇髄は床に膝を付くと、自身をジッと見てくる少女の頬を撫でた。
(こいつが鬼を狩っていたとは思えねぇ……となると、頸を切ったあの鬼が…)
「……夏」
「?」
「夏終わる頃だった……」
「喋った…」
「シッ!」
「……明け方帰ってきたら、父、大怪我負って家の中で倒れてた……訳が分からなくて、すぐに手当てした……
数日寝込んだ後だった……突然、部屋に籠って太陽の光を嫌うようになった」
(鬼になったのは夏の終わり頃……半年以上、一緒に暮らしていたって事か!?こいつ)
「保存してた食料も食べなくなった……よく作っていたご飯も何も……
食べるのは、狩った動物だけ。定期的に罠仕掛けて、引っ掛かったら先に父に食べさせた。夜の間は一緒にいてくれた……
春になれば、元に戻ると思った……思ってた」
「(獣の血で、誤魔化し生き続けていたのか……人として。けど限界が来たって事か……大した親父さんだ)
獣以外、何か別の狩ってたりしてたか?」
「……分かんない。
ただ…時々、夜や太陽が出てない日、父……外に出てた。
そん時、獣じゃない別の血を口に付けてたから」
「(……共食いか……)
今日からお前は、俺と一緒に来い」
「え?!」
「音柱様!?」
「そ、その子引き取るんですか?!」
「別にいいだろう?継子にすんだから。
ここを離れるが、何か持って行きたい物はあるか?」
そう言われた少女は部屋を出ていき、ちょうど隠が持っていた羽織を手に握り、チラリとこちらを向いた。
「(これ売れば、普通の成りで生活できたはずだ……売らなかったって事は、娘の為にとっておいたのか……)
それだけか?」
その問いに、少女は棚を指さした。宇髄はその棚を見て、何気に一番上の引き戸を開けると、中に本が二冊入っていた。
(かなり古い本だな……)
待っている少女に、宇髄は本二冊を渡した。先に外へ出ると、見回りに行っていた隊士二人が戻り彼に報告した。
「何か他に、変わったことなかったか?」
「いえ特には……」
「山全体を全て見回りましたが、仲間らしき鬼はいませんでした」
「あちこちに動物を狩る為の罠が仕掛けてあること以外は何も」
「一応、罠は全て解除しました」
「そうか…」
「あの子どうするんですか?」
「俺が引き取る」
「え?」
「継子にすんだよ。行くぞぉ」
羽織と二冊のノートを隠に風呂敷で包んでもらい、少女はそれを背負い先に行く宇髄の後を追って行った。キョトンとする二人は先に行く二人の背中を眺め、互いの顔を見合った。
月明かりが照らす外へ出ると、突風が吹きその場にいた者達の着衣している服の裾を揺らした。顔にかかる髪の毛を手で避けながら、少女は閉じていた目を開きその光景を見た。
月明かりを背に立つ、父の姿……彼は静かに頷くと、山の向うを指差し口を動かした。
『行け』と……
驚き手を差し伸ばそうとしたが、瞬きをした途端姿は消えていた。
(……何、今の?)
「スゲェ風だったなぁ……
こっから先は、お前にとって未知の世界だ。初めての事も多い故に、混乱するかもしれない」
「……」
「まぁ、この俺についてくれば何の心配もない。俺は祭りの神だからな」
セリフを決める宇髄に、少女は冷めた目で彼を見つめるとすぐに視線を反らし地面に落ちていた枝で土を弄った。
「おい、少しは反応しろ!!」
「……」
「やっぱガキには、俺様の良さが分からねぇか」
軽く溜息を吐きながらも、宇髄は彼女の頭を手でポンとすると先を駆けて行った。その後を少女はついて行き、チラリと後ろを見た。
ずっと寝起きし生活してきた廃れた家……貧しいながらも、細々と父と仲良く暮らしていた。
寡黙だが優しく、そして必ず自分の傍にいてくれた父……
的に苦無が当たると、頭を撫で褒めてくれた父……
髪を梳かしてくれた父……
狩りをして仕留めた日に焼いた肉を一緒に頬張った……
干し肉を銜えながら山道を散歩した……
もう戻ることはない過去……数々の記憶を胸に、少女はその山から駆け抜け先行く宇髄の後をついて行った。
我等の使命を、全うしてくれ………
頼んだぞ。