産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
廃寺付近に着くと、そこには怪我を負い動けないでいる隊士達がいた。
「い、岩柱…様」
「皆、無事か?」
「まだ、鬼が……」
その時、爆音が裏の森から聞こえ、悲鳴嶼はそこへ向かった。
ポタポタと腕から流れる血……
手に握られていた刀を梓は落とし、後ろにいる子供を守るようにして立っていた。彼女の前には、再生する体で立つ鬼が現れた。
「とっととその子供を寄越せばいいものを……
そんなガキ、庇うから腕が使い物にならなくなってるじゃねぇか」
「……」
「お、お姉ちゃん……」
「……!」
鬼に背を向け、子共を抱く梓を見て鬼は腕から生えている鎌を振り上げた。その瞬間、鉄球が鬼を吹き飛ばし二人の前に悲鳴嶼が立った。
(見覚えのある空気だけど……あれ?
何か、見たことある大きさ……)
消えていく鬼の空気……悲鳴嶼は、振り返りしゃがんだ。
「無事か」
「……子供は無傷」
「そうか。
久方ぶりだな。確か……」
「音羽梓。
えっと……」
「岩柱・悲鳴嶼行冥だ」
「……あ!
天元が言ってた、悲鳴嶼の旦那!」
「……普通に呼びなさい」
「悲鳴嶼さんがいいの?」
「他の柱達からは、そう呼ばれている」
梓にしがみつく子供を抱き上げ、次に彼女を抱き上げると悲鳴嶼は隊士達がいる所へ向かった。
蝶屋敷……
診察室の片隅で、腕に包帯を巻いた梓は置かれていた本を眺めていた。その時、部屋の戸が開き外からアオイが入ってきた。
「梓さん!こちらにいらしたんですか?!」
「あ!アオイ!
見てみて!デッカイ鳥!」
「それは島梟と言うんです……って、そうじゃなくて!
駄目ですよ!病室を抜け出しちゃ!」
「腕の怪我だけだから、別に平気だよ」
「ちゃんとベッドで大人しくして下さい……
ほら、本を元の場所に戻して、部屋へ戻りますよ」
「……はーい」
本を棚へ戻し梓は、アオイに連れられ診察室を出た。
廊下を歩いていると、治療を終えた隊士達が他愛のない話をしておりその話の内容が耳に入ってきた。
「最近の任務、あの子がいるおかげで凄い楽なんだ」
「あの子って?」
「小さい女の子!
確か音柱様の継子の」
「あー、あの子か!
俺もあの子と組んだことあるけど、結構楽させてもらったなぁ」
「アイツと組んだら、全部任せてもいいんじゃねぇの?
そうすれば、楽に昇格」
突然背後から突き倒される隊士……倒れた隊士を見たもう一人は、攻撃が来た方に目を向けた。
「あ、梓…さん」
「…怠けるなら、鬼殺隊辞めろ」
「な、何だよ!!ガキが、偉そうに!!」
「お子様はお子様らしく、引っ込んでろ!」
「鬼一匹出ただけで、逃げ腰になるの誰だっけ」
「何だと!!」
「何を騒いでいるんですか?」
スッと彼等の前に姿を現したしのぶ……彼女の姿を見た二人の隊士は身を引き、梓はジッと見つめた。
「ここは病院ですよ、お静かにお願いします」
「す、すみません……」
「梓さん、お薬の時間です。お部屋に戻りましょう。
アオイ、お願いしますね」
「あ、はい!」
アオイと共にその場を去ろうとする梓に、隊士の一人がボソリと小声で何かを言った。その言葉を聞いた梓は、瞬時にそこから消え、次に二人の背後に現れ苦無を出そうとした。
「梓さん」
しのぶの声に、梓はその手を止めた。しのぶは彼女の元へ歩み寄り、目を合わせるようにして屈んだ。
「あとでお話しましょうか」
「……ワルクナイモン」
小声で言うと梓は、そこから駆けていった。彼女の後をアオイは追い掛け、そんな二人にしのぶは注意をし、そして二人の隊士の方を向いた。
「私達柱は、あの子を贔屓しているつもりはありません。
あの子の実力は、既に階級が示しています。小さいから、柱の継子だからという理由で、特別扱いはしておりません。そこはご了承下さい」
「……」
「現に貴方方と任務に同行して、大怪我を負ったのは梓さんだけ。
貴方方はもう退院なさって、任務に行ってますよね?」
「はい……」
「ちゃんと考えて、言葉を放って下さい。貴方方の方が梓さんより歳上なんですから」
笑顔で言うしのぶに、二人は何も言い返せず一礼しそそくさとその場を去った。
しのぶが梓のいる病室へ入ると、不味そうな表情をしアオイに湯呑みを渡す彼女がベッドに座っていた。
「苦い……変な味する」
「薬ですから。
良薬口に苦しって言いますし」
「お薬、ちゃんと飲んだんですね」
「あ、しのぶ様」
「しのぶさん」
「梓さん、少しお話しましょうか」
「……」
目を逸らし、梓はしのぶに背を向け体育座りをした。その様子を見て、しのぶは困ったような表情をしながら軽く溜め息を吐いた。
「アオイ、梓さんは私が看るから残っている仕事をお願い」
「分かりました」
出ていくアオイ……しのぶと二人っきりになった梓は、チラリと振り向いた。
「梓さん……
流石に仲間の隊士に苦無を向けるのは、良くないですよ」
「……だって」
「苦無を向けていいのは、鬼か悪い人だけです」
「でも……」
「もし隊士の誰かを苦無で怪我をさせてしまっては、宇髄さんにも迷惑がかかります。
ですから、苦無を向けるのは禁止ですよ」
「……はーい」
森林奥地……
緊急連絡が入り、現地へ向かう不死川。彼が駆け付けると、頬を腫らした隊士と、村田に止められ彼から離れた所に移動させられた梓が対立していた。
「何やってんだ、テメェ等」
「あ!風柱様!」
「お前等、柱が来たから辞めろ!」
「柱が来たから、もう喧嘩はおしまいだってさ」
嫌味ったらしく言う隊士に向かって、梓は村田から離れ彼の背後を取ると思いっ切り蹴りを入れようとした。その行動を瞬時に、不死川は受け止めると何か言おうとする彼女の足を掴み動きを封じた。
「……何喧嘩してんだ。隊律違反だろうが」
「そ、それは……」
「実弥さん!!足離して!!そいつ蹴れない!」
「蹴るの禁止だ!!」
「じゃあ殴る!」
「殴るのも禁止だ!!
隊律乱すなら、今ここで柱直々の特別稽古つけてやろうか?」
体をビクラせ喧嘩をしていた隊士は、激しく首を横に振った。騒ぐ梓を担ぎ、不死川は隠に後を任せその場を去っていった。
産屋敷家……
遠征任務から帰還した宇髄は隠から、自身が不在中に持ち込まれた大量の報告書を受け取りパラパラと流し読みした。いくつもの書類に、『甲・音羽梓、他ノ隊士達ト乱闘』と書かれていた。
「……何だ、この報告書」
「テメェが数ヶ月、遠征に行ってた最中に起きた、音羽の問題行動だ」
「……」
「ここ最近、俺はもちろん悲鳴嶼さん達の地区でも、他の隊士との喧嘩が勃発してるらしい。
ほとんど勝ってるけどな」
「流石俺の娘。やるなぁ」
「褒めてる場合か!!てか、いつからテメェの娘になったんだよ!!」
「……不死川」
「あ?」
「お前さんは妹みてぇなもんだもんな!梓」
「うるせぇ!!!
とにかく、音羽の問題行動どうにかしろ!!」
夜……
街には、提灯を片手に夜の巡回をする隊士達が噂話に花を咲かせていた。
「ねぇ、音柱様の継子の事聞いた?」
「え?何?」
「継子と一緒に任務組むと、必ず生還できるんだって!」
「嘘!本当?!」
「本当本当!」
「俺一回組んだことあるけど、マジで楽だった」
「え~私まだ組んだことない」
「組むとラッキーだぜ?何せ、柱直々に稽古つけて貰ってんだからよ」
「でも組む時、覚悟した方がいいよ」
「何で?」
「継子、噂じゃ滅茶苦茶口悪いらしいぜ。あと態度も」
「あ~それ聞いた。
自分がもう甲だからって、偉そうにしてんだろう?」
「年下でチビのくせに、威張らないで欲しいなぁ」
「チビなんだから、愛嬌よくしてほしいよなぁ」