産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
当たる寸前、爆弾は何かに当たり軌道を変え親子から離れた箇所に落ちた。爆発した次の瞬間、親子は誰かに抱えられそこから姿を消していた。
「あ、危なかったぁ!」
「甘露寺さん!親子は無事ですか!?」
「はい!もう大丈夫だよ」
「うん……お姉ちゃん!後ろ!!」
甘露寺の背後に現れる鬼……攻撃される寸前に、駆け付けた梓が鬼の頸を切り落とした。
「あ、梓ちゃん!」
「ここ、引き受ける!すぐ安全な場所へ!!」
「う、うん!」
鎖で繋いだ刀で梓は鬼が投げ付けてくる手榴弾を、ヌンチャクの様に振り回し逃げる人達に当たらぬよう全て弾き返した。
爆発し煙が漂う中、梓は息を切らし立っていた。警戒する彼女の背後から、鬼は爪を立てて攻撃してきたがその攻撃を短い刀で梓は振り向き、受け止めた。
そこへ、刀を持ち構えた隊士達が一斉に鬼に向かって駆け出し、そして刀を振り翳した。すると鬼はそれを待っていましたかのように不敵な笑みを浮かべ、懐から手榴弾を取り出しピンを引き抜きそれを地面に叩きつけた。
(嘘!?)
次の瞬間爆風が起き、駆けていた煉獄はその場で足を止め腕で顔を風から防いだ。
梓、起きなさい……
起きてくれ、子孫よ。
血を絶やしてはならぬ。
奴を葬るまでは……
『起きなさい梓……あなたはあの人に似て、強い子よ』
目を覚ます梓……咳き込みながら、起き上がった。煙が漂う中、異様な空気を感じ取った梓は傍に落ちていた刀を握り立ち上がった。
(……何で助かったんだっけ?……何で……
そうだ……咄嗟に音の呼吸で爆発を防いで…!!)
「アァァアアア!!!!」
悲痛な声が聞こえ、声の方を向くと火傷を負った隊士達が転がっており、その中には腕や足を負傷した者達が気を失っているのか、横たわっていた。
その中、損傷している体を再生しながら鬼が姿を現すと、動けない隊士達の方を向き攻撃を仕掛けようと手を上げた。その手を梓は、苦無を投げ阻止し自身の方に向かせると刀を構えた。
「テメェの相手はこっちだ!!(こちらに気を取らせて、早く手当しないと)」
「小癪なガキが!!」
投げ付けてくる爆弾を音の呼吸で全て防ぎ、爆風が起き上がる煙の中から鬼が姿を現し、爪で彼女を攻撃しそれが額に当たり、梓はすぐに後ろへ下がった。額から垂れ落ちる血は目に入り、腕で拭うがダラダラと流れ出てきた。
(血で目が上手く開けない!!)
攻撃してくる鬼を刀で防ぐが、鬼に攻撃することが出来ずにいた。
(どうしよう…どうしよう……このままじゃ、鬼を斬れない!!)
『空気を察しろ、それだけだ』
(!?)
目を閉じ、意識を集中させ鬼を見る梓……鬼の周りに漂う空気を捕らえると、鬼を攻撃した。鬼は爪で受け止め攻撃を仕掛けるが、彼女はそれが見えているかのように次々と来る鬼の攻撃を刀で防いだ。
(鬼の空気だけを意識する!!鬼の空気だけを!!)
攻撃を防ぎ切った梓は、血を拭い一瞬見えた視界で懐から爆薬丸を取り出しそれを爆ぜさせた。そしてその煙の中を走り、鬼の近くまで行った。
「音の呼吸壱ノ型 轟」
響き渡る轟音……轟音で辺りの地面が揺れ、駆けていた煉獄はその揺れを体で感じ先を急いだ。
凹んだ地面に倒れる鬼……息を切らし地面に座り込んだ梓は、口を切ったのか血反吐を吐いた。その時、空気の流れに異変を感じた梓は頭を上げ、警戒した。彼女の前で倒れた鬼は再生しながら、起き上がり立ちあがった。
(十二鬼月の鬼じゃないのに、何こいつ……)
手榴弾を手にする鬼……呼吸が早くなる梓に、鬼はピンを外し投げつけた。投げられる手榴弾に、梓は渾身の力で飛び上がり、地面から離れた。地面に落ちた手榴弾は爆発を起こし、爆風が迫り彼女は腕で顔を護る様にして覆った。
死を覚悟した梓だったが、次の瞬間何かに抱えられ地面に下ろされた。頑なに閉じていた目を、彼女はゆっくりと開け横を見た。
「…れ、煉獄…さん」
「よく耐えたな、音羽!後は俺が引き受ける!」
「十二鬼月じゃないのに、凄い強さです!爆弾に気を付けて下さい!」
「承知!」
刀を構える煉獄の元へ、姿を現す鬼……鬼は彼の姿を見ると、勝ち誇ったかのような表情で手榴弾を投げつけた。身構える梓の前に立つ煉獄は、呼吸を整えると刀を下へと下げた。
「炎の呼吸弐ノ型 昇り炎天」
下から振り上げた刀から燃え盛る炎に寄り、投げられた手榴弾は斬られ不発に終わった。その様子を見ていた梓の目には、煉獄以外の人物が重なって見えていた。
(誰?こいつ……私、煉獄を見たことがあるの?)
乱れる空気に気付いた梓は、ハッと周りを見た。そこには銃を構える鬼達が現れ全員煉獄と自身、さらに動けなくなっている隊士達目掛けて、銃口を向けていた。
(まだいたの!?もう、しつこい!!)
立ち上がった梓は、息を吐くと飛び上がり苦無を投げ全ての鬼の額に突き刺し、そして懐から爆薬を叩き落とし爆発させると周囲から音を消し刀を持ち構えた。深く息を吐くと辺りの音が消え、どこからともなく聴こえてくる、川の流れる音……その音の水面下を歩く激しい音が辺りに響き渡った。
「音の呼吸弐ノ型 川のせせらぎ」
飛び跳ねる水飛沫と共に、刀が全ての鬼の首を付近を斬った。灰なる鬼達を見届けると、爆弾を使う鬼の背後へと周り刀を構えた。
「音の呼吸陸ノ型 花鳥風月」
辺りに響く鳥の鳴き声……風が吹く音…風に揺られる草木がざわつく音を鳴らし、梓は鬼の首に刃を入れた。斬り落とされ、コロコロと転がる首は灰になり消え、煉獄が刺していた体も灰になった。
「お、終わったぁ……」
そう言いながら、梓はその場に座り込んだ。刀を鞘に納めた煉獄は、座り込む彼女の元へ行き額の傷を見た。
「出血は止まっているが、救護班が来たら診てもらうといい」
「はい……」
「梓ちゃーん!煉獄さーん!」
聞き覚えのある声に振り返ると、ボロボロの姿になった甘露寺が手を振りながら、こちらへ駆けて来ていた。二人の元へ行くと、彼女は一目散に梓を抱きしめ無事を喜んだ。
しばらくして、隠達が駆け付け後処理を始めた。負傷した隊士達を、次々と担架に乗せ隠は蝶屋敷へと運んでいった。
「痛った!」
「梓ちゃん、ジッとして!薬塗れないよ!」
「ごめんなさい……」
「ふざけんなよ!!!」
離れた所で治療を受けていた隊士が、突然隠の胸元を掴み怒鳴った。その声に、梓と指示を出していた煉獄、更に怪我を負っていた住人の手当をする甘露寺は何事かと振り向いた。
「音柱の継子が参加するから、この任務引き受けたのに何で怪我負わなきゃいけねぇんだよ!!」
「いや、そんな事言われても」
「あの子も怪我してますし…」
「当たり前だろう!!!その為の継子なんだからよ!!」
「継子のくせして、役に立たねぇな!!」
「ただでさえ特別扱い受けてるんだから、少しは役に立てよな!!」
飛び交う悪罵……沸々と込み上げてくる感情に、梓は彼等の元へ行った。悪罵する彼の前に立つと思いっ切り足払いし、彼を倒すと首を力任せに絞め隠し持っていた苦無を目に刺すスレスレで止めた。
「音柱の継子は、身代わり地蔵なのか?おい」
「が…(い、息が……)」
「怪我するに決まってんだろう……鬼と対決してんだから」
「け…けど」
「特別扱いって何?何も特別な扱い、受けてねぇけど?」
「だ、だか……(どこにこんな力が……)」
「指摘してやろうか?今日何で、お前等が全員怪我したかを……
お前等全員、油断してたからだよ。柱がいるから、身代わり地蔵の音柱の継子がいるから平気だって調子こいた結果が、これだ!!!」
ギラギラと光る眼光の奥に潜む殺意に、隊士は恐怖を覚えバタバタとさせていた足が次第に弱くなっていき、それを見ていた他の隊士と隠が慌てて止めに入ろうとするも、睨み付けてくる眼光に思わず身が竦み動けないでいた。
(息…が)
「テメェ等の身代わり地蔵になってやってんだから、供物の一つでも捧げろ!!!」
そう叫び苦無を持った手を振り上げ、勢いよく振り下ろした。刺さる寸前に自身の腕を何者かに捕まれ阻止され、力を弱めることなく梓は横を向いた。そこには自身の手を掴む煉獄が、彼女を一心に見つめていた。
「音羽、彼の首を絞めているその手を今すぐに放せ」
「……」
「(何という力だ……掴み止めているのがやっとだ)音羽!!俺の聞こえているのなら、今すぐその手を放すんだ!!」
荒く息を吸う梓は、一心に彼を見つめた……次第に呼吸が安定していき、首を絞めていた手がゆっくりと緩んでいった。緩んだ隙を狙い、煉獄は彼女を抱き上げ彼から引き離し、咽て咳き込む彼を隠達は慌ててそこから離れさせた。
「(今はここにいない方がいい、少し離すか)甘露寺!ここを任せる!」
「あ、はい!(梓ちゃん、大丈夫かな)」
隊士達から離れた梓は、手に持っていた苦無をしまいながら煉獄に背を向けて口を開いた。
「怒りたきゃ怒れば……隊律違反したから」
「……怒る気持ちも分からなくはない。だが、さっきのはやり過ぎだ」
「やり過ぎ?何が?」
「死に掛けていたぞ」
「だから何……」
「?」
震える声……異変に気付いた煉獄は彼女に声を掛けようとしたが、その瞬間梓は声を荒げた。
「継子継子って、うるさい!!!」
「!」
「継子だから何なの!!」
振り返った彼女の目には、涙が溜まっておりさらにその目は怒りと悲しみで満ちていた。
「音羽……」
「継子だからって、無傷で任務が遂行できるわけないじゃん!!何で継子がいるだけで、生存できると思うの!!
守れなかったら守れなかったで、文句言って!!お前等だって隊士じゃん!!!
継子だからって、特別な訓練なんて受けてない!!!ボロボロになって戦っても当たり前だとか言ってるけど、じゃあお前等は何なの!!
お前等だって、育手の元で修行して鬼殺隊に入ってんだろう!!育手と柱の何が違うの!!!」
「音羽…」
「家族殺されたんじゃないの!!!帰る場所があるなら、とっとと鬼殺隊辞めて帰れよ!!」
「……」
「好きで鬼殺隊入ったわけじゃ……好きで天元の継子になったわけじゃ……」
ポタポタと流れ落ちる涙……唇を噛み締め、泣くのを必死に堪えているが流れ出る涙を拭う梓の姿が、一瞬煉獄の目には弟・千寿朗の姿が重なって見えた。
「こんな思いするなら……人里に何か降りなきゃよかった……
山で一人で過ごしてればよかった……
山に帰りたい……父に会いたい…父に……うわぁぁぁぁぁ!!!」
声を上げ泣き出した梓を、煉獄は静かに何も言わず抱き締めた。彼にしがみ付き、慟哭する彼女の声はしばらくその場に響き渡った。