産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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  父親の手を繋ぎ、楽しそうに歩く子供……

  父親に肩車をしてもらい、嬉しそうにする幼児……

  父親と買い食いをする兄弟……


 任務地先々でその様な光景を見ては、梓は亡くなった父親のことを思い出していた。


  手を繋ぎ、歩いた山道……

  座る父親の背中に飛び付いた日々……

  肩車をしてもらい、木の実を採った日々……


 懐かしくも寂しそうにしながら、梓はその日々を過ごした。


夢の中

 とある任務地……宇髄の元へ来た梓の鎹鴉・山茶花が、先程起きた事を報告した。聞いた彼は立ち上がりそこから、彼女達の元へと急いだ。

 

 

 

 瓦礫の上に座り蹲る梓……彼女の様子を見つつ、煉獄は隠達に指示を出していた。怪我をし歩けていた隊士達は気まずそうに隠に誘導されながらその場を去って行き、担架を持った隠はそそくさと去った。

 

 

 隠から塗り薬を受け取った甘露寺は礼を言って、蹲る彼女の元へ歩み寄り前にしゃがみ頭に手を置いた。それに気付いた梓は顔を上げ、前に座る彼女を見た。

 

 

「梓ちゃん、怪我してるよね?まだ手当の途中だって、隠の人から聞いて!

 

手当てしてあげるから、怪我したところ出して!」

 

 

 優しく言う甘露寺に梓は頷き、怪我した箇所を差し出した。彼女は塗り薬を手で掬うと、それを傷口に優しく塗りながら、話を始めた。

 

 

「私もね、梓ちゃんと同じ継子なんだよ」

 

「え?」

 

「煉獄さんの!私達、継子同士だね!」

 

「……甘露寺さんは、聞いたことないの?

 

『音柱の継子と一緒にいると、楽勝』って」

 

「噂でしか聞いたことないよ。でも私、あんまり信じてなかったから」

 

「……」

 

「それにしても梓ちゃん、凄いね!千寿朗君と歳変わらないのに、もう鬼殺隊員になって鬼をたくさん斬ってるなんて、私尊敬しちゃう!」

 

「いや、別に……(千寿朗って、誰?)」

 

「私も早く強くなって、梓ちゃんが無理して戦わなくていいようにしなくちゃ!」

 

「……何で鬼殺隊入ったの?」

 

「え?!えっと、それは…そのぉ……」

 

 

 そわそわする彼女を見て梓は思わず吹き出し、釣られて甘露寺も思わず笑ってしまった。その様子を遠くから見ていた煉獄は、ホッと息を吐き安堵の表情を浮かべた。

 

 

 

 

  数時間後……

 

 煉獄達の元へと到着する宇髄……彼に気付いた煉獄は、振り向いた。

 

 

「悪かったな煉獄、梓のこと」

 

「気にするな。今は甘露寺が見ている……少しいいか?」

 

「あぁ」

 

 

 甘露寺と楽しそうに話す梓の姿を見た宇髄は、少しホッとし煉獄の元へ行った。

 

 

「噂については、俺の耳にも多少は入っていた。

 

ついこないだも、隊士達を説教したばかりだったが、まさかここまで大きくなっていたとは……」

 

「俺も甲時代、噂で何度か聞いた。『音柱の継子と任務をすると、無傷で生還する』と……

 

まだ幼い故に継子という立場の為に、他の隊士達が彼女を恨めしく思い流したのかもしれない」

 

「……」

 

「問題の隊士達に関しては、俺から注意しておいた。

 

 

宇髄、これは俺の提案だが少し彼女を親の元に帰してはどうだ?」

 

「あ?」

 

「見た所、彼女は俺の弟と然程歳は変わらない。まだ心が幼くも見える……親から引き離したのは」

「あいつに親はいねぇよ」

 

 

 静かに言う宇髄に、煉獄は言葉を詰まらせた。彼は梓の方を眺めながら、言葉を発した。

 

 

「唯一の肉親だった父親は……アイツの目の前で死んだ」

 

「っ……」

 

「俺はたまたまそこに立ち会って、孤児になったアイツを見込んで、継子として引き取ったまでだ。

 

 

幼く見えるのは、アイツ俺に引き取られるまでずっと他人との交流が無かったからだ。だから言動や行動が、同年代の奴と比べると幼く見えるんだよ」

 

「……そうだったのか……すまない、余計な事を聞いた」

 

「いや、別にいい……(分かっているとはいえ、やっぱしまだガキだな。まぁ、成長しきれてない部分が、成長し始めてるのかもしれねぇな)」

 

「あと宇髄、これは君にも知っておいてほしいんだが」

 

 

 他の隊士に見せつけた、身体に見合っていない力と危うく隊士を一人殺しかけた事を煉獄は宇髄に隠さず話した。彼は顔色一つ変えず、煉獄の話を聞き終えると梓の元へ行った。

 

 話していた甘露寺は、歩み寄る宇髄を見ると梓に教えた。彼の方を向いた梓だが、すぐに目線を反らした。

 

 

「おい、目を反らすな!」

 

「説教は後でお願い…傷痛い(空気が怒りと心配のごちゃ混ぜになってる……絶対怒鳴る)」

 

「隊律違反しておきながら、何だその態度は!?」

 

「元はと言えば、あのクソみたいな野郎共のせいじゃん!!」

 

「だからって、隊士殺そうとすんじゃねぇ!!」

 

「たかが子供の力なんかに負けてる、あっちが悪いっつうの!!」

 

「馬鹿かお前は!!少しは手加減しろって意味だ!!」

 

「はぁ!?歳上なんだから、歳下の力に負ける方がおかしいんだよ!!」

 

「あ、梓ちゃん、怒ると傷に障るよ!」

 

 

「それだけ元気なのであれば、もう大丈夫だな!」

 

 

 そう言いながら、煉獄は彼等の元に歩み寄った。膝をついていた甘露寺は砂を払いながら立ち上がり、彼の傍へと行った。

 

 

「色々、すみませんでした」

 

「気にするな。

 

色々溜めていたんだろう。溜め込むのはあまり良くない」

 

「……」

 

「先程吐いたから、顔がすっきりしているぞ!」

 

「それあんまり他人に言い触らさないで……嫌だから」

 

「大泣きした事か?」

 

「天元!!!」

 

 

 その後、煉獄から掛けてもらっていた彼の羽織を返し、二人に礼を言った梓は、先に歩いている宇髄の後を追いかけて行った。追い付いた彼女を宇髄は雑に撫で、撫でられた梓は嬉しそうに彼の手を掴み歩いた。

 彼等の様子を甘露寺は微笑ましく見ながら、隣にいる煉獄に話し出した。

 

 

「梓ちゃんと話している時、梓ちゃん音柱様の事凄く楽しそうに話していたんですよ!煉獄さん!」

 

「そうか!甘露寺、俺達も帰ろう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 しばらく宇髄と同じ歩幅で道を歩く梓だったが、彼女の歩く足取りが徐々に彼から遠くなっていた。鉛のように体が重くなってきたのを梓は感じており、息を切らし動かしていた歩みを止めた。

 

 

(あれ?急に……体が)

 

 

 卒倒する梓…その音に気付いた宇髄は、振り向き倒れている彼女の元へ駆け寄り名を呼び叫んだ。次第に声が聞こえなくなっていき、梓はそのまま意識を失った。

 

 

 

 

  早く逃げろ!!

 

  音羽の血を絶やすな!!

 

  生き残る事だけを考えろ!!

 

 

  見知らぬ空間……

 

 梓は目を開けた。そこは見たことのない場所……竹林の石道。警戒する彼女の背後から、只ならぬ異様な空気が流れており恐る恐る振り返った。

 

 

  いくつも転がる、人の死体……

 

  四肢がバラバラに散らばっており、その中心に何かが立っていた。

 

 

  この事を必ず伝えるんだ!!

 

  逃げること事だけを考えろ!!

 

  振り返るな!!

 

  逃げろぉぉおお!!

 

 

  追い風の様にして、人影がいくつも彼女をすり抜けて行った…

 

  その影達を追うかのようにして、鋭い刃の空気が、鎌鼬のように飛んで行った。

 

 

  騒がしい音が、次第に静かになっていき辺りは静寂に包まれた……

 

  いつの間にか、場所は先程と違い、故郷の山中に梓は立っていた。すると、背後から懐かしい空気を感じ、彼女は振り返った。そこにいたのは父だが、容姿が違っていた……黒い忍装束の父だった。手には、血塗れの刀と苦無が握られており、生気のない表情で彼女を見つめた。

 

 

  梓……任務を遂行してくれ……

 

 

 

 

 どこからともなく、自身を呼ぶ声……その声に導かれるようにして、梓は目を開けた。

 

 

「梓さん、分かりますか?」

 

 

 目の前にいたのは、しのぶとアオイだった……

 

 

「……し…のぶさん?」

 

「目が覚めましたか……(良かった)」

 

「あの……私……」

 

「一週間、昏睡状態だったんです。鬼から受けた攻撃が、後から症状の出る毒だったみたいですね。

 

サンプルが欲しいので、採血します」

 

「……天元は?」

 

「宇髄さんは任務中です。後程お報せしますので」

 

 

 手際よくしのぶは梓から採血し、その間にアオイは投与していた薬のパックを変えた。しのぶが作業を終えた頃には、梓は再び眠りについていた。

 

 

「梓さん、また眠りましたね」

 

「この子は少し特殊な身体の持ち主ですから、細心の注意をしないといけません」

 

 

 先に出ていくしのぶに続いて、アオイも病室を出て行った。




 眠る梓は夢の中で、再び目を覚ました……懐かしい空気を感じた彼女は、振り返った。そこには鬼になる前の父親の姿があり、嬉しそうに梓は抱き着いた。娘を抱き締めた父親は、傷跡が出来ていた頬と額に触れ、褒める様にして頭を撫でた。


 再び目が覚めると、現実で頭を撫でていたのは宇髄だった。


「天元?」

「梓!」

「……」

「三日前に目が覚めたんだってな。そっからまた、眠ってたらしい」

「……」


 横になっていた梓は、宇髄と目を合わせぬよう寝返りを打ちそっぽを向いた。その態度に彼は何も言わず、傍にあった椅子に座り腕を組んだ。


「……人里降りて数年過ごして、生き辛さにかなり痛感してんだろう?」

「……」

「けど、人里で暮らすって事はこういう事だ。

自分の思い通りにいかねぇし、相性が悪い奴もいる。ましてや、お前が恨めしく妬む奴もいる」

「……いきなりは無理だもん。

天元に会うまで、他人と触れ合うなんてなかったし。


山に入ってくる人は、だいたい皆嫌な奴じゃなかった。

山賊もいたけど、そいつ等は全部力で黙らせた。



でもここ違う……力で黙らせようとすると、変な噂が流れる。実績で黙らせても、変な噂が流れる。

音柱の継子……継子…継子ばっか。


でも、だからって天元達が嫌だって訳じゃない。天元達といる時が、父と過ごした時と同じ空気が流れてる……

山に戻りたくない……ここいたい」


 背を向けながら、梓は小さな声でそう言った。そんな彼女の様子を見て、宇髄は鼻で笑いそして大声で笑った。その声に驚いた梓は飛び起き、彼を見た。


「山に帰すわけねぇだろう!

こんな優秀な隊士手放したら、他の柱はもちろんお館様にどやされちまう!」

「……」

「噂流してる奴等は、ほっとけばいい。

お前はもう、階級は一番上の甲だ。甲の次に偉いのは柱。

だから、柱がいない間はお前が隊の中で一番だ。堂々としとけばいいんだよ」

「じゃあムカついたら、殴っていい?」

「それは駄目だ。言葉で注意しろ。やむを得ない時は蹴り飛ばしていい」

「言葉で言っても理解しない奴は?」

「それは柱の俺等が注意する。

まだ傷癒えてないんだ、もう少し寝てろ」


 梓の頭を撫で、宇髄は部屋を出て行った。横になった梓は、しばらくボーっとしていると眠気が襲い、そのまま眠りに着いた。
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