産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
その中で足に硝子が刺さった梓は、座り息を切らしていた……
振り向いた下弦の鬼は、ニタァっと笑うとその手を伸ばしてきた……
蝶屋敷・診察室……
宇髄に体を預けた梓は、静かに眠っており、その隙に目に巻かれていた彼女の目隠しを外した。突然明るくなり梓は眩しそうにしながら薄っすらと目を開け、寝惚ける彼女の頭を宇髄は撫でながらしのぶと話した。
「目に変なものが映るらしくてな……ってコラ!擦るな!!」
「だってぇ」
「梓さん、目を診るので擦るのは一旦止めましょうね」
しのぶに言われ梓は擦るのを止め、同時に宇髄は彼女の手を握り動きを封じた。
「かなり結膜が炎症してますね……擦ったのもありますが、鬼の毒に侵されているのは間違いないかと思います。
変なものが映るというのは、おそらくその毒の影響かと……すぐに解毒剤を調合します。それに……」
目線を合わせようとせず、眠そうにする梓の様子を見てしのぶは彼女の頬を撫でた。
「長期間、飲まず食わずで生きられたのが、とてもじゃありませんが人の領域を遥かに超えています……」
「血鬼術の影響で生きられたってことは」
「可能性はありますが……」
「長期間?三日じゃないの?」
「え?」
「何言ってんだ?お前と連絡取れなくなってしばらくしたら、山茶花が俺の所へ報せに来たんだ」
「……でも、潜入してすぐ……下弦から攻撃食らって……
意識無くて……次に目が覚めたら、天元達の空気見えて……それで」
話をしている最中、梓は力尽きたのか眠ってしまった。眠る彼女を宇髄は付き添いできていた隠に渡し、受け取った隠は診察室を後にした。
「梓さん、ずっとあの調子ですか?」
「城で見つけた時からな。
疲労もあるかと思って、ここに運んでくる間寝かせてたんだが……」
「血鬼術の影響かもしれませんね。
とりあえず、一・二週間は入院させます。長期間、飲まず食わずで過ごしていたのは事実ですから」
「分かった。俺は少し、あの廃城に戻って調査してくる」
「梓さんの目が覚め次第、鴉経由で連絡しますからすぐに戻ってきて下さいね」
「あ?何で?」
「だって宇髄さんには梓さんの目薬、手伝ってもらいますから」
「……不死川じゃ駄目?」
「あの人も呼びますよ?二人がかりでお願いしますね」
お前には、まだ早かったな……
もう少し……もう少し、成長してからだな……
今は、ゆっくりお休み……我等の希望……
寝息を立てる梓……障子から射し込む太陽の光が、寝返りを打った彼女の顔を照らし、眩しそうに目をゆっくりと開けた。
「……天元?」
目を擦りながら、フラフラと立ち上がり梓は障子を開け部屋を出た。縁側に座り目を擦っていると、様子を見に来たしのぶが歩み寄ってきた。
「気分はどうですか?」
「……頭ボーっとする」
「そうですか……目は擦ってはいけませんよ」
「変なの、まだ映る……」
「擦りすぎて、また少し赤くなってますね……宇髄さん達が来ましたら、目薬差しましょうね」
「めぐすり?薬だったら、飲んじゃうよ?」
「目に直接入れる薬ですよ。
飲み薬はまた別でありますから」
「……しのぶさん」
「はい、何ですか?」
「……お腹空いた」
「食堂の方で、アオイに何か準備して貰いましょうか」
「うん」
数時間後……
診察室にて集まる宇髄と不死川、そして宇髄の膝に座る梓。
「何で俺まで呼ばれんだァ?」
「逃げ道を塞ぐためです」
「は?逃げ道?」
「こいつの目に、薬差すんだよ」
「梓さん、目薬差しますから目を開いてください」
「こう?」
「はいそうです。宇髄さん、抑えといてくださいね」
梓の片目に、しのぶは目薬を一滴垂らした……次の瞬間、診察室から凄まじい絶叫が響き渡り、入院していた他の隊士達はもちろんアオイ達の耳に届き、動かしていた手を止めた。
中にいた不死川は逃げ道を防ぐようにしてドアの前に立ち、宇髄は診察室から逃げ出そうとする梓を抑え込んでいた。
「逃げようとすんな!!まだもう片方残ってんだろうが!!!」
「嫌だぁ!!もういい!!」
「よかねぇわ!!!」
「梓さん、もう一滴差しますから反対の目を診せて下さい」
「見えない!!変なのもう見えない!!」
「嘘はいけませんよ」
「不死川、俺身体抑えてるから梓の頭抑えててくれ」
宇髄に全身を抑えられ、身動きが取れない梓の頭を不死川は抑えた。その隙にしのぶは彼女の目を開け、目薬を差した。終えると梓は力が緩んだ宇髄達から離れ、一目散に診察室を飛び出した。
「逃げやがったぞ、アイツ」
「相当沁みたみてぇだな、その薬が」
「だから言いましたでしょ?抑えていてくださいって」
「……」
「俺は仕事に戻るぞ。まだやりかけのがあっから」
「まだ解明されないんですか?梓さんの長期間」
「だから、今その調査中だ。
不死川」
「断る」
「まだ言ってねぇだろ!!」
「どうせ、俺に音羽の面倒押し付ける気だろう?」
「いいじゃねぇか。梓に一番懐かれてんだろ?」
「っ」
「そうですよ、不死川さん。
まだ梓さんが宇髄さんに引き取られた頃、何度かここで預かった時ベッタリだったじゃありませんか」
「……」
「俺もその話、胡蝶の姉貴から聞いたぞ。
別れ際、相当泣か」
「分ーったよ!!!見りゃいいんだろう!!見りゃ!!」
夕暮れ……
梓の寝る部屋の障子を開ける不死川だが、部屋はもぬけの殻だった。
(……あいつ…?)
止まり木に留まる山茶花と自身の鴉である爽籟を目にした不死川は、二匹の元へ行き喉を撫でた。
「音羽の奴、どこにいるか分かるか?」
「コッチデス!」
飛び立つ山茶花に、不死川は爽籟と共について行った。裏山へ入り奥へ行くと、広場へ出てきた。そこでは、鳥に囲まれ体を丸くした梓が静かに眠っていた。
(……ずっとここで寝てたのか?こいつ)
彼女の元へ近付くと、囲んでいた鳥達は一斉に飛び立ち近くの木々に身を隠した。
「……音羽、ここで寝てると風邪引くぞ」
「ん〜……」
「ほれ起きろ」
「……ヤダ、眠い」
「寝るなら布団で寝ろ」
「ヤダァ」
「(……こいつ、また寝ぐずりかァ?)って、目ぇ擦ろうとするな!!」
「だってぇ……
あれ?そういえば天元は?」
「任務に戻った」
「じゃあ私も」
「テメェはまだ、治療中だろうが!!」
「イテ!
怪我人叩いちゃ駄目ってしのぶさんが言ってた!」
「じゃあとっとと薬飲んで、布団入って寝ろ!!」
宇髄が偵察に来る数日前の廃城……
一つの影がその城へ入った。中を見回しながら、影は軋む床を歩きある場所へ着くと、隠されていた地下へ続く戸を開けた。
下へ降り明かりを灯すとそこには、血溜まりが出来ており影はその前にしゃがんだ。
(……これで生きていたのか……逸材か……)