産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
眠る彼女を傍らに、彼は蝶屋敷の縁側でボーっとしていた。するとそこへ、任務を終えた宇髄が帰還し、悪戯笑みを浮かべながら彼のもとヘ音を立てずに歩み寄った。
「すっかり兄貴だなぁ、不死川」
「っ!?」
「よっ!」
「テメェ!!」
「デカい声出すな、梓起きるぞ」
羽織を握り丸まって眠る梓の傍に座った宇髄は、一息つきながら頬杖をつきニヤニヤと不死川を見た。
「ニヤついてねぇでとっとと引き取れ」
「おー怖っ。そう怒るなって。
気持ちよさそうに寝てんだから、そのままにしておけよ」
「っ…」
「コイツの容体は?」
「……現状異常無し。
解毒剤が効いて、目は完治。傷も完治して、二日前から機能回復訓練してる」
「凄え治癒力だなぁ」
「そんで、そっちの結果は」
「あの辺り周辺調べたけど、これと言って特になし。
まぁ、気になる点としたら……」
「?」
「あの廃城、地下室があってな。そこを調べたら……
もう乾いてはいたが、血溜まりがあった」
「……」
「これが何を意味しているか、分からねぇ……けど、その血溜まりが梓と関係している……かもな」
突然話すのをやめた宇髄が、指差す方を向くと寝惚け顔で梓が目を覚ましていた。
「起きたか」
「……天元?」
「宇髄ならそこにいるぞ」
ムクッと起き上がった梓は、宇髄を見つけると嬉しそうな声を上げながら、彼に飛び付いた。飛び付いてきた彼女を宇髄は抱き、思いっ切り頭を撫でた。
とある湖畔……
そこへ、復帰した梓と宇髄は鬼の情報を貰い足を運んでいた。
「鬼の目撃情報、この辺りなんだけどなぁ」
辺りを見回す宇髄とは別に、梓は指先で水に触れながら興味津々に覗き込んでいた。
「真っ暗……」
「水辺から離れとけ。鬼の血鬼術で水使う可能性あっから」
「はーい」
立ち上がった時、梓の目に鬼の空気が一瞬映った……宇髄に伝えようとした瞬間、何かに口を塞がれ深い水の中へ引きずり込まれた。
何かが水に落ちる音を耳にした宇髄は、刀の柄を握り振り返った。振り返った先にいたのは、水を操る鬼が一体おり、傍には梓の羽織が落ちていた。
「……テメェ、ここにいたもう一人はどうした」
「さぁな」
不敵に笑う鬼に向かって、宇髄は爆薬丸を投げた。爆ぜる中、煙と火花を水で消し去る鬼だが、操っていた水の中から宇髄が姿を現し、頸目掛けて刀を振ってきた。
薄暗い、水の底……
血鬼術で水に拘束された梓は、ブクブクと泡を吐きながら夢を見ていた。
『父、何で山を降りちゃ駄目なの?』
『危ないからだよ』
『……山降りてみたい』
『そうだね……
もう少し、大きくなったら降りてみようか』
『本当?』
『その時、また色々教えるよ。梓が気になってる疑問や何だろうって思ったこと……
でも、必ず約束して欲しい』
『約束?』
何かを言いかけた父親は、一瞬で鬼の姿へと変貌した……
驚いた梓は思わず身を引いたが、ふと辺りを見るとそこは真っ暗闇の中で、自分以外誰の空気も見えなかった。
『……父?
父……父!父!!』
薄っすらと目を開く梓……ぼやける視界に映る花火の様な灯り。それを見た彼女は、力無く握っていた柄を握り直し、刀を勢いよく振り回した。
鎌鼬のごとく水の拘束は切られ、自由になった梓は鬼の攻撃で出来た傷口を抑えながら、足を動かし水面へと向かった。
「ガハッ!」
水面から顔を出した梓は、泳ぎ陸へ上がった。息を切らしながら意識が朦朧とする中、鬼の空気が目に入った。顔を上げると、宇髄が振る刀が操る水で防がれ、鬼の攻撃が彼に迫っていた。
「天元!!」
斬れ!!腕を!!呪われた血を!!
刀を防がれ、自身の攻撃が迫る宇髄の目にそれは映った……
腕を斬り血を出した梓が飛び上がり、自身の血を鬼へ掛けた……振り返った鬼が操っていた水で攻撃しようとした瞬間、ボトっと腕が落ちた。
「……は?
まさか、貴様」
急に怯え出した鬼は、攻撃の手を止め再生した手で攻撃をしようと腕を上げた。その上に、梓は着地し鬼の目で鬼を見下ろした。
「……」
「散れ」
二本の刃が、鬼の頸を裂いた……水の中へ落ちる頸と共に、バシャンと水が落ちた。そしてその水に紛れて、体と水に浮かんでいた頸は灰となり消えた。
鬼の体と共に水の中へ落ちた梓は、疲れ切った表情を浮かべながら上半身を陸に上がらせた。そんな彼女の元へ、宇髄は駆け寄り水から掬い出し、水辺から離れた所へ寝かせた。
薄っすらと目を開けた梓は、力を振り絞るようにして手を上げた。その手を宇髄は握り、彼女の頭に手を置いた。
「少し休んだら、家紋の家行くからな」
「……天元」
「傷口痛むか?」
「……違う……
ゴメン……ごめん……」
「謝る必要ねぇよ。
こっちこそ、悪かったな。俺が警戒怠ったせいだ」
大粒の涙を流しながら、梓は小さな子供のように泣きじゃくった。そんな彼女を宇髄は抱き上げ自身の膝に乗せ、優しく抱き締めた。
「泣く必要ねぇだろう」
「だって……だって」
しゃくり声を上げて泣く梓の頭を、宥めるようにして撫でながら先程の戦いを思い出した。
自身が振った刀と梓が振った刀の刃が、鬼の頸を斬り落とした。その瞬間、宇髄の目に映った……一瞬だけ彼女の右目が鬼と同様の目になっていた。そしてその目は、あの廃城で見た目と同じものだった。
(……音羽の人体実験って、まさか……)
しばらく休んだ後、宇髄は眠った梓を抱き鴉達に案内されながら家紋の家へと向かった。
藤の花の家紋の家……
案内された部屋に敷かれた布団の上で、手当てを受け浴衣に着替えた梓は、羽織を握り丸まって寝息を立てていた。彼女の寝顔を見て安堵の息を吐く宇髄は仰向けになり、自身も眠りについた。
『俺達は里を持たない、野良のような忍の一族だ。
一族は各地に散らばってる。
俺達は、彼等の様子を見ながら放浪しているようなもんさ。
それが、長一族に課せられた使命だからね』
スッと目を開ける宇髄……ふと隣で寝ている梓の方を向くと、自身の浴衣の袖を握りスヤスヤと眠っていた。寝返りを打ち、彼女の方へ向いた彼は、頬を優しく撫でた。
(……あれがあったから梓を人前に出さなかったのかもな……
俺達の中に入れば、普通に見えていても……外から見りゃ)
寝惚けた顔で、梓は薄っすらと目を開いた。ぼやける視界に、微かに父親と似た空気が見え起き上がろうとしたが、それを隣にいた宇髄が止め頭を撫でながら再び横にさせた。
「俺はここにいっから、探さなくていいぞ」
静かに優しく言う彼の言葉に、梓はあくびを一つすると握っていた袖を握り直し、再び眠りについた。
翌朝……
「天元!起きて!天元!」
響く梓の声に、宇髄は目を覚ました。眠そうにする彼の膝に手を乗せた梓は、もう片方の手で頬に触れた。
「眠そうだね」
「寝起きだからな。
体調は大丈夫か」
「平気。一晩寝たら良くなった」
「みてぇだな(顔色が良くなってる)」
「天元」
「ん?」
「さっき悲鳴嶼さんが来て、次の任務の事で少し話したいから隣の部屋に来てくれって」
「お前!!それを先に言え!!」
夕暮れの橋から、川を眺める一人の青年……
そこへ、一つの影が歩み寄り手すりに寄りかかるようにして立った。
「逸材は生きていたのか」
「えぇ……まさか、鬼狩りにいたとは思いもしませんでしたけど」
「長は何と?」
「そのままだそうです。
少ししたら、こちらから様子を見に来ると」
「そうかい……
あの子はお前さん方を覚えているのか?」
「ないと思いますよ。
最後に会ったのは、あの子が物心つく前でしたから」
自身の腕に留まる梟の喉を撫でながら、青年はどこか寂しそうに言った。しばらく話した後、二人は互いに軽く挨拶をしその橋から去って行った。