産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
梓は辺りを警戒しながら彼等の前を歩いていた。鴉に誘導され辿り着いた宿の戸を、梓は開け怪我人達を中へ先に入れた。
「すみません!すぐに手当てを!」
「は、はい!」
「頑張れ!もう安全だ!」
「梓さんも、早く中へ!」
外を見る梓の目には、鬼の空気が流れており藤の花のせいで、鬼は足止めされているようだった。
(さっきの鬼、まだ探してる。
全員中に入ったし、私一人なら)
「梓さん怪我の……あれ?」
開きっぱなしの玄関……そこにいるはずの梓は、どこにもなかった。
山林を歩く不死川……
その時、鴉の鳴き声が聞こえ空を見上げると、山茶花が舞い降り彼の羽織の袖を引っ張った。
「コッチ!コッチデス!!」
「何だぁ?音羽に何かあったのか?」
「早クゥ!」
引っ張られるがまま、不死川は山茶花について行った。
案内された場所まで行くと、川辺にある小さな滝の傍に梓はおり、山茶花は彼女の元へ飛んでいった。
「あれ?山茶花、どこに……!
実弥さん!」
「テメェ一人か?他の連中は?」
「…他は怪我してもう藤の花の家に。
……多分今頃、治療受けてると思うよ」
「それで、何でテメェは一人でいんだ?」
「…鬼取り逃がして、それ討伐してた」
(……何だ?さっきから、妙に反応が鈍い)
「…それより、早く藤の花に行こう!
実弥さんも行くんでしょ?」
先に行こうとする梓の腕を、不死川は掴み引き止めた。羽織の袖に通してない腕を見ると、そこには鬼にやられたであろう傷があり、さらによく見ると脚や腹部にも隊服の上であるが血が着いていた。
「怪我したのか?」
「……解毒剤、飲んだから平気。止血、終わってるし……」
「音羽、ちょっとこっち向け」
肩を掴み自身の方へ梓を向かせ、不死川は彼女の額を手で触れた。
(やっぱり……反応が妙に鈍いと思ったら)
「実弥さん?」
「この熱、いつから」
「……」
「音羽」
「……討伐中から。
鬼退治したら、藤の花で休もうかなぁって……でも、何か思いのほか時間掛かって」
目を逸らし、誤魔化すかのようにして指を動かしながら、梓は説明した。不死川は青筋を立て、彼女の頭に一発引っ叩くと背負い藤の花へ向かった。
藤の花の家紋の家……
引き戸を開ける音に、部屋にいた隊士が覗くようにして出て来た。入ってきた不死川と彼に背負られた梓を見て、すぐに駆け寄った。
「梓さん!ご無事で」
「他のは?」
「治療を終えて、今眠ってます。
それより、梓さん体調は大丈夫なんですか?!」
「テメェは気付いてたのか?」
「あ、はい(風柱様の事、すっかり忘れてた……)。
帰った方がいいと促したのですが……平気だと」
「こいつの事は俺に任せろ。テメェは引き続き怪我した隊士の傍にいろ」
「は、はい!」
「実弥さん、私このまま寝る」
「その前に、怪我とこの熱の治療だ」
「嫌だ!!こんな怪我、寝てれば治る!」
「熱はそうもいかねぇだろう!!」
診察を終え腕と脚に包帯を巻いた梓は、不死川と共に用意された部屋で、敷かれた布団に座り処方された薬を飲んだ。
「実弥さんって、自分のこと棚に上げて私には治療しろって言うね」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、薬飲んだらとっとと寝ろ!!」
「そんな怒鳴らなくてもいいじゃん……」
「医者から二・三日安静にしてろって、言われただろうが!!」
「ムー……
そういえば、何で同じ部屋?別室でもいいんじゃ」
「病人一人で寝かせられるわけねぇだろう」
「天元が聞いたら、絶対ウケそう」
「言うんじゃねぇぞ……」
「実弥さん、お顔がとても怖い」
「明かり消すぞ」
行灯の火を消し、布団に入る不死川の姿を見て、梓は肩に掛けていた羽織を握り眠りに就いた。
暗闇に染まった草原……刀を握った不死川は、そこに立っていた。
目の前には、鬼化した弟・玄弥が立っていた。斬るかどうかを迷っていた…瞬きした時だった。
頸を斬られ、朽ち果てていく玄弥の体……自身の手には、斬った彼の頭と血に染まった刀が握られていた。
大量の汗をかき、目を覚ます不死川……乱れた呼吸を整えながら、起き上がり額の汗を腕で拭った。
(夢か……?)
隣で眠っていた梓はムクッと起き上がった。目を擦りながら、彼女はフラフラと立ち上がり部屋から出ようとした。
「熱あんのに、どこ行こうとしてんだ!」
「……天元…外」
「宇髄はここにいねぇぞ」
「……」
前にいた不死川に向かって、フッと梓は倒れた。慌てて受け止めた彼は、彼女の額に手を置くと燃えるように熱くなっていた。
(熱上がってんじゃねぇか!!
薬!……は、さっき飲んでたし……)
抱き上げた梓を布団に戻した不死川は、部屋を静かに出ていった。
水を入れた桶から浸した布を取り、それを絞ると仰向けに寝かせた梓の額に乗せた。
(クソ、こういう時胡蝶がいてくれたらいいんだけどなぁ。
今現在、ここに滞在してる柱は俺だけ……確か、五日後に宇髄がこっちに来てこいつと合同任務……
それまでに治ってくれればいいんだが)
薄っすらと目を開ける梓……傍にいる不死川の姿が一瞬、父親の姿と重なって見えた。
「……チ…チ」
「?」
そう呟きながら、梓は不死川の浴衣の裾を握った。熱で魘される彼女の姿が、一瞬弟妹達の姿と重なって見えた。
自身の掛け布団を引っ張り、不死川は梓の横に添い寝するようにして横になり、苦しそうに寝息を立てる彼女の優しく撫でてやった。再び開ける梓の目に映ったのは、優しい顔を浮かべた不死川だった。
(……あ…また、あの優しい顔だ……)
意識朦朧としていた梓は、彼の表情を見て安心し深く息をするとそのまま眠りに就いた。眠る彼女の表情を見て、安堵した不死川は仰向けになり、天井を見つめながら目を閉じ眠った。
微かに聞こえる声……意識を戻した梓は、薄っすらと目を開け声の方を向いた。襖の前で何かを話す不死川と隠、そして一部の隊士の姿が見えた。
(……何話してんだろう……
任務内容かな?だったら…私も)
寝返りを打ち起き上がろうとした時、話し声は消え同時に自身の頭を撫でる感触を感じ、そのままゆっくりと寝かされ再び意識を無くした。
次に意識を戻し目を覚ますと、傍には隠が一人おり目を開けた自身と目が合った。
「梓さん!目が覚めましたか?」
「……実弥さんは?」
「緊急の任務で出ております。
あぁ、まだ起き上がらない方が」
起き上がる彼女の背中を、隠は支えた。フラフラと体を動かしながら、開いている窓の外を見ると少し夕陽が照らされながら暗くなり初めていた。
「任務行った方が良いの?」
「いえ、そこまで難しい任務ではありません。
それよりも体調を良くさせないと」
「……」
「ほら、もう一度横になって」
「眠くないからいい」
「え」
「もう治った」
「じゃ、じゃあ熱測りましょう!熱!」
水銀の体温計を取り出し、隠はそれを梓に渡した。受け取った彼女はそれを脇に挟み、掛け布団に掛かっている羽織を握った。
「……微熱ですが、高熱ってわけでもないので今晩しっかり休めば明日には下がっていると思います」
「動いちゃだめなの?」
「大人しく寝て下さい!!
これで体調また崩したら、風柱様もあとから来る音柱様も心配します!」
「……ハーイ」
(年齢に合わず、子供っぽい所あるんだよなぁ……梓ちゃん。
まぁ、小さいからいいんだけど……それに、またそこが可愛いんだよなぁ……
あ、そうだご飯……?)
欠伸をし眠そうにする梓を見た隠は、彼女の横にさせた。横になるとすぐに寝息を立て、眠りについた梓の寝顔を隠はホッコリしながら眺めた。
「まだ微熱ですが、辛くはなさそうです。
ご飯の方は、食べる前に寝てしまったのでまだ食べていません」
隠の声に梓は再び目覚め、目を擦りながら起き上がった。部屋には、丁度任務から帰還した不死川がおり自身の傍に腰を下ろしながら、隠の話を聞いていた。
「梓さん!まだ寝ていた方が」
「もう起きる」
起きた梓の額に、不死川は手を置き自身の額の熱と比べた。
「もう熱はねぇみてぇだな」
「今日の任務、参加していい?」
「テメェは大人しく寝るっていう言葉を覚えろ!」
「イテッ!
病人叩いちゃだめだって、しのぶさんが言ってた!」
「大人しくしねぇからだろうが!!」
「風柱様!あまり怒鳴りますと、傷に触りますよ!」
とある任務地……深い森に集まる隊士達。
「何でテメェが参加してんだよ!!
大人しく寝てろって言っただろうが!!」
「もう平気だから参加したの!!自分の体は自分が分かってる!!」
「分かってるじゃねぇ!!悪化したらどうすんだ!!」
「悪化しないもん!!」
言い合う不死川と梓の声が、待機している隊士達の耳に響いていた。
(柱に対抗する梓さんって……)
(やっぱ、継子だと対応違うのかな)
(てか、誰か止めねぇと任務始まらねぇぞ)
(誰か止めてくれ〜)