産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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 自身の家に行く前に、宇髄は少女を連れて蝶屋敷に来た。引き戸を開けると、その音で来たのか蝶屋敷を管理する花柱・胡蝶カナエとその妹・しのぶが駆け付けた。


「宇髄さん……と、誰?」

「俺の継子だ。悪いが、少し預かってくれ。お館様と嫁達に報告しに行ってくる。ここで待機してろ」


 それだけを伝えると、宇髄はそこから霧の如く姿を消した。


「あぁ、ちょっと!」

「初めまして、私は胡蝶カナエと言います。あなたお名前は?」


 自身の目線に合わせ屈むカナエに、少女は顔を強張らせながら背中に背負う風呂敷の布を握り後退った。


「あらあら」

「随分と警戒してるわね」

「どこから連れてきた子かしら。随分汚れてるわねぇ。

それに、傷だらけ……しのぶ、すぐお風呂に入れて頂戴」

「はい。さぁ来て、お風呂入るわよ」


 しのぶとカナエを交互に見ながら、警戒しつつ履いていたボロボロの藁沓を脱ぎ先行くしのぶの後ついて行った。一人残ったカナエは、玄関に置かれているボロボロの藁沓と梓の背中を交互に見た。



 洗い終え、新しい着物に身を包んだ少女は、体の至る所に包帯を巻き風呂敷を大事そうに抱え、庭に座り込み傍にあった枝で地面を弄っていた。


「はぁー、お風呂も傷の手当ても手こずったわ」

「仕方ないわよ、色んなことが初めてなんだから。


あ、そうだ!」

「?姉さん?」


 地面を弄る少女の元へカナエが歩み寄った。すると少女は、顔を上げ自分と同じ目線に合わせるようにして膝を付くカナエを、ジッと見つめた。


「そろそろお名前、聞いてもいいかな?」

「……なまえ?」

「そう、あるかしら?呼ばれてた名前」

「……」


 しばらく黙っていると、少女は地面に『梓』の文字を書きカナエを見た。


「梓……って、言う名前かしら?」


 頷く少女…梓は名前を教えると、ファ~と欠伸をし眠そうに、目を擦り始めた。


「あら?眠くなっちゃったみたいね……しのぶ!

部屋に布団敷いてちょうだい!」


 そう言いながら、カナエは梓を抱き上げ屋敷の中へ入った。


郷の中

  数時間後……

 

 報告を終えた宇髄が蝶屋敷へ戻ってきた。迎え出てきたカナエに案内され部屋の奥へ行くと、風呂敷を大事そうに抱え体を丸くして眠る梓が布団の中で、スヤスヤと眠っていた。

 

 

「かなり疲れていたようなので、ここで少し寝かせておきました。

 

お風呂と怪我の手当は済んでいますので、安心して下さい」

 

「悪いな、色々(一晩中走らせたからなぁ……)」

 

「簡単な診察しましたけど、特に異常はないようです。少し栄養失調気味なのと多分寝不足だと思うんですが、見ての通り疲れが溜まっていた様です」

 

「まぁ、色々あったからなぁ」

 

「早く休ませてくださいね。

 

あとこの子の藁沓、もうボロボロで穴だらけだったので、よかったら玄関に草履置いてあるので、それ使ってください」

 

 

 会話中に起きた梓は、目を擦りながら立ち上がり寄ってきた宇髄の服を掴んだ。

 

 

「色々ありがとな。

 

行くぞ」

 

「じゃあね、また会いましょうね」

 

 

 小さく手を振るカナエに、梓は寝惚けながら返し先行く宇髄の後を追って行った。その様子を見て、しのぶは少々驚きながら姉の元に歩み寄った。

 

 

「驚いた、てっきりまだ警戒されているのかと思ってた」 

 

「宇髄さんが来たから、安心だと思ったんじゃない。さぁしのぶ、お仕事するわよ」

 

 

 

 

 

「帰ったぞー」

 

 

 着いた宇髄家の戸を開けると、奥から騒がしい音と共に梓が避ける隙も与えず須磨が彼女に抱き着いてきた。

 

 

「きゃー!可愛い!天元様、この子凄く可愛いです!!

 

お嬢ちゃん、お名前は!」

 

「須磨!何やってんだ!!」

 

「まきをさん!この子滅茶苦茶可愛いです!ほら!」

 

「騒がしいんだよ!!アンタは!

 

見なさいよ!この子、固まってるじゃない!!」

 

「え?!何で!!大丈夫?!」

 

「一旦離れなさい!」

 

 

 須磨から離れた梓は、驚き思わず傍にいた宇髄の後ろへ隠れ、彼と二人を交互に見た。次に奥から、雛鶴がやって来て彼の元へ行くと話し出した。

 

 

(この三人からも、父と同じ空気が流れてる……)

 

「雛鶴、後任せていいか?次の任務があるから」

 

「お任せ下さい、天元様」

 

「じゃあ任せたぞ。まきを、須磨、お前達も頼んだぞ」

 

「はい!」

「はいぃ!」

 

 

 迎えに来た二人の隊士と共に、宇髄は梓の頭に軽く手をポンとやると、自身から離れさせ家を出て行った。その後を追いかけた梓だが、彼等の姿はもう見えなくなっていた。

 

 

「天元様、任務で数日は帰ってこないわ。

 

その間に、私達が色々教えてあげるから」

 

「心配しなくて大丈夫!」

 

「そうですよ!あ!ご飯、まだでしたよね?すぐ準備します!」

 

 

 騒がしく家の奥へ行く須磨の後を、まきをは追い掛けていった。二人に声を掛けつつ、雛鶴は梓に手を差し伸ばした。彼女と手を交互に見ると、梓はそっぽを向き頬を少し赤くしながら手を握った。それを見た雛鶴は、微笑んで彼女を連れて家の中へと入った。

 

 

 

  数日後……

 

 宇髄家付近にある山中を、梓は歩いていた。茂みの中へ入り、山菜を手に取ると後ろを振り返った。微風が吹き木々がざわついた……一瞬父親の姿を探す梓だが、すぐ亡くなったことを思い出した。目に涙を溜め泣きそうになるが、すぐに拭き山中を歩いた。

 

 

 家へと戻って来た梓は、眠気が襲いファ~っと欠伸をすると、縁側から上がり開けっ放しになっていた障子から部屋へ入ると、そこに置かれていた羽織を握りながら横になり眠った。

 

 

「あれ?梓ちゃん」

 

 

 洗濯物を取り込んでいた須磨は、開けっ放しになっている梓の部屋を覗き込んだ。寝息を立てる梓を見て、須磨は干した宇髄の羽織を掛けた。

 

 

「須磨ぁ、洗濯…あれ?梓、寝てんのか?」

 

「まきをさん。

 

はい、部屋覗いたら……?」

 

 

 梓の手に持っている山菜を、須磨は気付きそれを手に取った。同時に梓は目を覚ましムクッと起き上がり、目を擦った。

 

 

「梓ちゃん、起きた?」

 

「山菜採りに、山行ったのか?」

 

 

 まきをの質問に頷いた梓は、眠そうにな目で座っていた須磨の膝に頭を乗せ再び寝息を立てた。

 

 

「あ、ありゃりゃ」

 

「ま、まきをさん……可愛い過ぎるんですけどぉ!!」

 

「起きるから静かにしろ!」

 

「あれかなぁ?梓ちゃん、ちっちゃい頃こうやってお母さんとかに甘えてたのかな?」

 

「それはどうだろう。

 

天元様の話じゃ、母親は随分前に亡くなったって言うし」

 

「でもでも、その時のクセとかで!」

 

 

 

 

  夕暮れ……

 

 昼寝から目が覚めた梓は、玄関の式台に座っていた。そこへ様子を見に来た雛鶴が、座る彼女を見て歩み寄り傍にしゃがんだ。

 

 

「梓」

 

「?」

 

「天元様、お仕事で今日は帰ってこないわよ」

 

「……」

 

「ここは冷えるわ。台所のお仕事、手伝ってもらっていいかしら」

 

 

 雛鶴の質問にコクリと頷き、梓は玄関を気にしつつ先行く彼女の後をついて行った。

 

 

 日が暮れ、辺りが暗くなった頃……布団へ入る前、梓はまた玄関へ足を運んでいた。しばらく見つめた後、雛鶴達が寝たのを確認し自身の部屋へ戻り、服を着替え庭から山へと行った。

 

 

 山中、梓は一人木の的に苦無を投げ付けていた。真ん中に当たる苦無を見て、嬉しそうに彼女は振り返った……いつもそこにいた父親の姿が一瞬に目に映ったが、すぐに消えた。

 

 

(……父)

 

 

 ポタポタと落ちる涙……声を押し殺して、梓はその場に座り込み流れ出る涙を拭き続けた。

 

 

(もういない……もういない……

 

 

あそこに帰ったって、何もない……何も)

 

 

 しばらく泣き続け、だんだんと落ち着きを戻した梓は立ち上がり鼻を啜りながら、木の的に刺さっていた苦無を抜き下山した。

 

 

 家から聞こえた物音に、眠っていた雛鶴は目を覚ました。起き上がり部屋から縁側へ出て行き、物音がした部屋へ警戒しながら向かった。

 

 

「梓?」

 

 

 山から降りてきた梓が、丁度草履を持って部屋へ戻ろうとしていた所だった。彼女は雛鶴を一瞬見るが、すぐに目を逸らした。

 

 

「こんな夜中に、どこに行ってたの?」

 

「……」

 

「夜の外は危険よ。出ないようにしてちょうだい」

 

「…でも、山にいた頃、普通に」

 

「ここはもう、違う場所よ。

 

すっかり体冷えて……お風呂沸かし直すから、少し待ってて」

 

「……」

 

 

 しばらくして、お風呂から出た梓は雛鶴の部屋に敷かれた布団の上で横になりウトウトしていた。彼女が部屋へと入り灯りを消すと、ファ~っと欠伸をし羽織を握り眠り、そんな梓の頭を雛鶴は撫でた。




  まだ、寝てていいよ。

  すぐに帰って来るから。



「……?」


 目を覚ました梓は、見覚えのある空気が微かに見え起き上がると部屋から、まだ薄暗い玄関へ駆けて行き式台に座った。待ち続けている内に、だんだんと外が明るくなり同時に引き戸の硝子に影が映り、玄関の戸が静かに開いた。


「……お前」


 任務から帰還した宇髄は、式台に座る梓を見て驚いたがすぐに笑みを浮かべ、彼女を抱き上げた。彼に抱かれた梓は、安心したのか重くなった瞼を閉じ眠ってしまった。


 彼が帰ってきたのに、眠っていた雛鶴はいち早く気付き起き上がり宇髄の部屋へ行った。


「天元様、戻られていたんですね」

「寝てていいぞ、まだ。

たまたま早く任務が終わったから、帰ってきたんだ」

「……あら、梓」


 宇髄の膝に座り、彼の胸に体を預けて梓は寝息を立てていた。


「出迎えてくれてな。

抱き上げたらそのまま寝ちまって」

「そうだったんですか……」

「……いない間のこいつの様子はどうだった?」

「ここ数日、夜中は起きているみたいで。

昨晩も起きていて、外へ」

「……」

「先程私の部屋で寝かせたんですが」

「……そうか」

「あの天元様、この子って言葉は?」

「喋れるぞ。

それがどうかしたか?」

「あまり喋らない子なんでしょうか……

意志表示はしてくれるんですけど、自分から話すっていうのは全然なくて」

「……親父さん亡くしたばかりだからなぁ。

まだ慣れてねぇのかも知れねぇ……!


雛鶴、こいつが泣いてる姿見たか?」

「いえ、全く」

「……」
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