産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
予定より早く着いた宇髄は、女中に案内され不死川達がいる部屋の襖を開けた。
「……あ~らら、実弥ちゃ~ん。
随分と懐かれましたなぁ」
部屋の中では不死川の膝に頭を乗せた梓が、気持ち良さそうに眠っていた。
「テメェ……」
「そんな怖い顔しないでぇ。
梓起きたら、怖がられるぞ」
「とっとと引き取れ!テメェのガキだろうが」
「おー怖っ。
しっかし、何でお前さんに懐くんだか」
「知らねぇよ」
「こいつの親父さんに、雰囲気が似てたりして」
「あ?」
「そんな怖い顔すんなって。
ありがとな。だいたいのことは、山茶花から聞いた」
眠る梓を不死川から受け取った宇髄は、彼女を自身の膝に寝かせ頬を撫でた。
「世話のかかるガキだ。
おい宇髄、そいつに『大人しく寝る』って単語の意味、教えとけ」
「いつもは大人しく寝てるんだけどなぁ」
「どこがだよ。甘やかし過ぎだ」
「ヘイヘイ」
提灯が飾られ、賑わう街。
沢山の屋台が並ぶ中、物珍しそうに金魚柄の浴衣に身を包んだ梓は着流しを着た不死川と歩いていた。彼等の傍には、他の鬼殺隊士達と祭りを見下ろすようにして屋根には宇髄が身を隠していた。
遡ること数時間前……
地図を広げた部屋で宇髄と不死川を中心に、隊士達は任務内容を聞いていた。
『別の地区で取り逃した鬼が、この街にいることは間違いない。
けど、そう簡単に姿も現さねぇ。派手に探してぇが今は祭りの最中で外には多くの人で溢れている。
まだ街から行方不明者等の報告は受けてない……けど、飢餓状態が続いている鬼だったら、今晩にでも祭りの人混みを利用して、攫うまたは襲う可用性が高い』
『では、どうやって捜索を?』
『一般市民を巻き込むわけには』
『それにもし変装や、何かしらの血鬼術を使って姿を変えていたら』
『だから、こちらへ誘き出す。
そいつを使ってな』
宇髄の目線の方向に、隊士達は振り向いた。目線の先には、鴉達と戯れる梓がいた。
『だ、大丈夫なんですか?彼女を使って』
『危険なんじゃ……』
『見縊るな。梓も立派な隊士だ。
特別扱いはしねぇ』
『……』
『囮として梓を使う。お前等は一般市民に紛れて警備しろ。
無論俺も加わる。不死川、悪いが梓と一緒に囮頼む』
『一人の方が狙われやすいんじゃねぇのか?俺がいたら、警戒するぞ』
『だからなるべく殺気消して』
笑顔で言う宇髄に、不死川は青筋立て怒鳴ろうとしたが、その瞬間に背後から梓が彼の背中に飛び付いてきた。楽しそうに笑う彼女の声に、一般隊士達はホッコリした。
賑わう街中、不死川と歩いていた梓はイカ焼きを食べながら、辺りに流れる空気を見て鬼を探していた。
「全然鬼いない」
「全くだ。気配一つ感じねぇ」
「……?」
流れる空気の中に、不思議な空気を見た梓は不死川が目を離した隙に、そこから離れその空気を辿った。
大勢の人が行き交う中、梓は周りに漂う不思議な空気を追い掛けた。その時、不思議な空気の中から突如として鬼の空気が出現し、梓はすぐにその方向へ駆けた。
「キャァァアアア!!」
響く悲鳴……それに気付いた不死川は、聞こえた方向に耳を傾けそして自身の近くに梓がいないことに気付き、すぐ現場へと向かった。
腰が抜けたかのように地面に座る女性……彼女の手には怯える子供がおり、その目線の先には自身の腕を噛ませる梓と、彼女の腕を噛む鬼がいた。
「敵襲!!」
一人の隊士の叫び声を合図に、警備していた隊士達が一斉に姿を現し、鬼に攻撃を仕掛けた。鬼は梓の腕から口を外すと、彼女を抱え壁と建物を伝いその場から逃走し、鬼の後を一部の隊士達はすぐに追い掛けた。
「音羽!!」
「隊士が一名、攫われました!!」
「風柱様!刀を!!」
「ここ頼んだ!!」
他の隊士から刀を受け取った不死川は、すぐに鬼を追い掛けていった。
街中を駆ける鬼……街を抜け、先にある森の中へと駆け込み茂みに身を隠すと、抱えていた梓の口を塞ぎながら辺りを警戒した。身を潜め息を殺していると、追い掛けてきた隊士達と不死川が駆け付けた。
「どこ行きやがった、鬼の野郎!!」
辺りをキョロキョロと見回す彼等を、馬鹿にしたような表情で鬼は茂みから見つめていた。
(見つかりはしない。俺は姿を自由自在に景色へ溶け込むことが出来るんだからなぁ……?
何だ?口に違和感が)
空いている手で、鬼は違和感のある自身の口に触れた……だが、そこにあるべき口が無かった。
(ない!?無い!!無い無い無い?!
な、何で俺の口が!?再生が遅い?!)
鬼が戸惑っているのを見た梓は、鬼の力が緩んだ手に思いっ切り噛みついた。手の痛みで思わず手を彼女から離し、その隙を狙い梓は鬼から離れ懐に隠していた苦無を構えた。
その時、茂みから宇髄が姿を現し刀を鬼の頸目掛けて振った。鬼は口を抑えながら瞬時に攻撃を避け、その場から逃走した。
「あ!待てぇ!!」
「梓!!待てぇ!!刀忘れてるぞ!
不死川!!こっちだぁ!!」
森を駆ける鬼……その後を梓と、彼等の後を宇髄と不死川は追い掛けていた。森を抜け、広場へと出た鬼は振り返り駆け付けた梓を睨んだ。苦無を構え、鬼に攻撃をしようとした時、突如として彼女の足元に苦無が投げ付けられた。
(苦無?天元が追いつい……!?
違う……この空気、さっき街で見た)
木の上から降りてくる人影……自身の方を見つめるその者の周りには、あの不思議な空気が漂っていた。
その時、鬼が声を上げ彼に襲いかかってきた。梓はすぐに足を動かしその攻撃を防ごうとしたが、次の瞬間鬼の攻撃を彼は刀で防ぎ、反対の手から何かを取り出しそれを刺した。すると鬼は、目を見開き突然もがき苦しみ出し、彼から離れ息を乱した。
(え?何?
何で苦しみだしたの?何で……)
断末魔を上げ、鬼は灰となり消えていった。刀を鞘に戻しながら、彼はこちらを向いた。梓をジッと見つめ、そしてゆっくりと歩み寄り彼女の前に立った。
茂みを駆ける宇髄と不死川……その時、宇髄は何かを感じ急停止し、彼に続いて止まった不死川は話し掛けようとした瞬間、手を前に出した。
「宇髄」
「喋るな。伏せろ」
異様な彼の様子に不死川は、すぐに身を伏せた。宇髄は苦無を手に木の後ろに身を隠し、鬼と梓がいる方向を見た。
(……この気配、忍。
梓を狙ってか。だとしたら、誰だ……首謀者は何者だ)
森に響き渡る鬼の断末魔……不死川は素早く立ち上がり刀の柄を握りながら、木陰に身を隠した。
「不死川、俺が合図送るまでそこで待機してろ」
「あ?どういう」
「梓の前にいる野郎は、忍だ」
「……」
感じた事のない宇髄の殺気に、不死川は何も言えず彼の指示に従った。
目の前に立つ忍……すると忍は、梓の頬に付いていた血を指で拭った。茫然としていた梓だったが、宇髄の空気が見えチラリと後ろを向いた。
(……天元、何か凄い怖い空気になってる……
あれだ……父が時々漂わせてた空気だ……
どうしよう……刀無しに突っ走ったから、怒られる……?)
突然手を掴まれ、その掌に忍は何かを受け渡した。渡された物と自身を交互に見る梓の頭をポンとすると、忍はその場から姿を消した。
「梓!」
駆け寄ってきた宇髄の方を、梓は振り向いた。辺りを見渡し気配を探す宇髄だが、先程の忍の姿は愚か気配は完全消えていた。
(いなくなった……梓が狙いじゃなかったのか)
木陰で待機している不死川に合図を送り、宇髄は梓に目線を合わせるようにして、地面に膝をついた。
「腕噛まれた以外は平気か?」
「平気。
鬼、さっきの人が退治しちゃった」
「は?」
梓の話を聞いた宇髄は、駆け寄り共に聞いていた不死川と顔を合わせた。
「どういう事だ?鬼殺隊以外に、鬼退治してる輩がいるって事か?」
「可能性……あるにはあるか」
「テメェ、適当な事言ってんじゃねぇぞ」
「本当に退治した!!
刀で鬼の攻撃防いで、懐から変なの出してそれを鬼の頸にグサって!
そしたら鬼突然苦しみ出して、断末魔上げた!」
「誰も嘘だなんて言ってねぇだろう!!」
「だって信用してないじゃん!!」
「だから」
「おい音羽、それ何だ?」
「え?」
「手に握ってるそれだ」
丸い黒い物を持っていた梓は、ジッと見ると蓋を開けようとしたがそれを宇髄に止められ、騒ぐ彼女を抑えながら彼は取ったその蓋を開け中を見た。
「……塗り薬?」
「何でこんなもん、こいつに?」
「……」
「何々?何が入ってたの?」
宇髄によじ登り、梓は彼の掌に置かれている物を見た。その物からフワッと漂う匂いに、梓はどこか懐かしさを感じた。
(この匂い……
父が使ってた塗り薬だ……)
「匂いからして、危険な物じゃなさそうだ。
毒ってわけでもねぇしな」
「テメェの言ってた同業者は、何者だったんだ?」
「さぁな。
退治できたし、戻るぞ」
「おう」
「天元、早く寝たい」
「お前は寝る前に、その腕の治療だ」
「えぇ、嫌だぁ」
「嫌じゃねぇよ!」